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魔眼の王~思考読解の邪視~  作者: くろふゆ
  第四章 君が代わりに泣いてくれたから true memory
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032話 偽りの学園生活

 教室に入ると、田丸篤を含む、多くのクラスメイトに声をかけられた。


「よう、九条。久しぶりだな」

「よかった、九条君。二日で治ったんだね」

「風邪ひいたって聞いたから心配したよ」

「……ああ、心配してくれてありがとう」


 どうやら、俺が学校を休んだ理由は風邪になっているらしい。たぶん詩乃の仕業だ。

 余計な気遣いしやがって。さっきの俺の態度がもっとクズに見えるだろうが。


「九条、お前なんか雰囲気変わったか?」

「そうかな? 気のせいじゃないか」


 田丸の問いに、俺は左目を覆う黒い眼帯を長い前髪で隠しながら、作り笑いを浮かべて誤魔化した。教室内を見回しても、詩乃の姿は確認できない。


「なぁ、詩乃がどこにいるか知っているか?」


 近くにいた詩乃の友達である女子生徒に尋ねると、


「そういえば、今日は詩乃ちゃんと一緒じゃないんだね。詩乃ちゃんなら、私が学校に着いたとき、校門の前で電話がかかってきたみたいで、もと来た道を引き返していたけど」

「……電話? そうか、ありがとう」


 俺は礼を言って自分の席へと向かう。そこには、なぜか窓際の一番後ろにあった俺の席の後ろと斜め後ろに、新たに二つの席が増えていた。

 そうこうしているうちに、眼鏡をかけた担任教師が気怠げに教室へと入ってくる。


「はい、静かに。今日はこのクラスに二人の転校生が入ってくる。お前たち、面倒ごとは起こさずに仲良くするんだぞ」

「この時期に転校生? しかも二人。……ああ、なるほど。そういうことか」


 案の定、扉を開いて教室に入ってきたのは、綴伊澄と熊谷朱里。

 見た目だけは可憐な美少女である二人に、教室にいる生徒は歓喜に沸く。


「騒ぐのは私がいなくなった休憩時間にしてくれ。では、二人は自己紹介を」


 面倒臭そうに言う担任教師に、二人は教壇に立って黒板に自分の名前を書いた。


「綴伊澄です。親の仕事の都合でこちらに引っ越してきました。仲良くしてもらえると嬉しいです。――特に可愛い女の子たちに。男はいらん」


 凛と教壇に立つ綴は最期に余計なことを付け足す。しかし、背が高くスタイルのいい中性的な顔立ちの綴は、女子からの好意を簡単に集めていた。高身長ってしゅごい。


「熊谷朱里です。同じく仕事の都合で転校してきました! あ、仕事っていうのはもちろん親の仕事であって私の仕事じゃないですよ。はい。好きなことは運動と、美味しいご飯を食べることです。よろしくですっ!」


 いつものごとく朱里は元気よく溌剌と喋る。背が低く庇護欲をそそる朱里は、その魅力的な笑顔で多くの男子生徒を虜にしていた。しかし、初っ端から余計なことを漏らしそうになったことに、隣にいる綴が横目で睨んでいることに気付き、畏縮している。

 漫画によくある展開である、転校してきた先にもとからいる知り合いである俺への反応は一切なく、二人は沸き立つクラスメイトをよそに、悠々と与えられた自分の席へと向かう。すなわち俺の後ろへと。


「これから私たちはお前のクラスメイトになるわけだが――」

「――よろしく頼みますよ、透さん」


 そして二人は俺にしか聞こえない小さな声で囁いた。


 ホームルームの後、綴と朱里がクラスメイトに囲まれている隙に、俺は屋上へ向かう。

 結局、詩乃はホームルームが終わったあとも教室に現れなかった。

 ということは、詩乃はあの屋上にいるに違いない。

 そう思って、足早に階段を上り屋上の扉を開いたのだが、


「…………詩、乃……」


 誰もいない。閑散とした屋上には、冷たい春の風が吹いているだけだった。


「何が詩乃はあの屋上にいるに違いないだ。一体あいつの何をわかった気になっていたんだ。そうだよ、俺たちの心はすれ違ったままじゃないか」


 ……ザッ……ザ……ザザッ…………


 脳裏に黒い靄がかかり、思考が混雑した。唐突に頭が痛み、忘れていた何かを刺激される。しばらく棒立ちのままうつむくと、俺は屋上の扉を閉めて階段を駆け下りた。

 次の行き先は保健室だ。今度こそと思ってノックをしてから保健室の扉を開く。


「失礼します。……すみません、誰かいますか?」

「うーん、何かようかな?」


 部屋の奥から若い女の声が聞こえた。どこかで聞き覚えのある声だ。

 そういえば、保健室の先生はこの春から新しい人に変わったと田丸が言っていたな。


「ピンクのリボンで、栗色の髪をツーサイドアップにした女子生徒は来ていませんか?」

「こんな朝っぱらから保健室に来るのはキミくらいだよ」


 部屋の奥に進むと、純白の白衣に身を包んだ、青縁の眼鏡をかけた金髪の美人がいた。


「なっ……お前! どうしてここにいるんだ!?」


 新たな保険医がグラマラスとは聞いていたが、まさかその正体があの藤堂アリサであるとは思っていなかった。というよりも、あのときの俺には知る由もなかった。


「なぜって……キミ、始業式の前日にあった離任・就任式をサボっただろう?」

「うっ、うるさいな。あの日はちょっと用があったんだよ」

「キミを地下基地で軟禁している間も私はちゃんと保健室で務めを果たしていたんだぞ」

「そいつはどうもご苦労様」


 適当に言い放ち、俺は保健室を見回す。どうやら本当に誰も来ていないらしい。


「それで、どうしてお前がここにいて、俺をもう一度学校なんかに通わしているんだ?」

「キミはバカだなぁ。それは言えないって今日言ったばかりじゃないか。そんなことも理解できないほど思考力が落ちているのかい?」


 アリサの人をバカにしたような態度にイラついたが、左腕に嵌められた黒い腕輪の存在を思い出し、気持ちを落ち着ける。


「そもそも、キミのことを狙っていたのは、私の『ウロボロス』だけではない」

「なん……だと……」

「超能力の存在を知る犯罪組織も、キミが『洞視眼』と呼んでいる、『思考読解』の力を欲している。それはもう喉から手が出るくらいにね。だが、あくまでも欲しいのはキミの左眼に宿る『思考読解』の力であって、キミ自身ではないのだよ」

「俺の能力を犯罪に利用するのが狙いか?」

「そうだ。だからキミを生きて捕獲することができれば、彼等にとってキミの体が五体満足である必要などない。むしろ、目と脳と思考を伝達する術さえ残っていれば、他のパーツは邪魔なくらいだろう。そして彼等は最悪の場合、キミが他の組織の手に渡るぐらいなら殺すことも辞さないつもりだったんだ。私はそんなキミを救ってあげたんだよ。感謝こそすれども、恨まれる筋合いはないと思うんだがねぇ」

「……感謝? 冗談を言うな。お前だって最初は俺を殺そうとしただろうが」

「ふっ、伊澄と朱里は、この学校内でのキミの監視役であり、ボディーガードだよ」

「俺を自由にするつもりはないってことか」

「何を言う。私のペットになる前から、キミはずっと監視されていたじゃないか」

「……は?」


 何を言っているんだ、この女は。


「私の『ウロボロス』は日本政府が運営する秘密組織だと前に言ったな? その派生形である組織に『超能力者監視課』というものがある。その『超能力者監視課』は、超能力者と特定することのできた人物が何か悪事をやらかさないか監視することが主な仕事だ。最低限の戦闘力は有しているが、それよりも彼等は隠密性に優れている。そして、そのメンバーの誰かがキミのことも常に監視していたはずだ。私がネットを通してキミに接触したのが半年前。ということは、『超能力者監視課』はそれよりも遥かに前からキミのことを超能力者だと見抜いていたということになる」

「確かに、俺は中学に上がってからは極力この能力を隠してきたが、それより以前はそんなことを気にしていなかった。情報が漏れている可能性はある、か」

「そして私の見立てでは、九条邸で常にキミの側にいた専属メイド『黛京香』と、学校でいつも一緒にいる『姫宮詩乃』。彼女たち二人が怪しいと考えているのだが、どうかな?」

「――ッざけんな!! あの二人は俺の……!」


 ニヤニヤと意地悪く笑うアリサに俺は叫んだ。だが、肝心の続きの言葉が出てこない。


「俺の……なんだ? 言ってみたまえ」

「………………ッ!」

「キミが何も言わないのなら、私からもう一つ言わせてもらおうか。キミの信頼する専属メイドである『黛京香』。彼女は今、何をしている? 一体どこにいる? キミがこんな状況に置かれているというのに、一向に助けが来ないじゃないか? そういえば、彼女は私が九条邸に襲撃する当日に九条邸を出て行ったそうだな。もしかして、事前に私たちの襲撃を知っていたんじゃないのかい?」


 アリサの言葉が、俺の思考を浸蝕する。

 まさか、そんなことはない……はずだ。あの京香が『超能力者監視課』の一員? たまに用事で出かけるのはそのため? 嘘だ。京香は俺を支えてくれるって……それが嘘? 裏切らないって言ったのに。……え? いや、そんなことはありえない。そうだろ?


「……違う、あいつらは俺が信じた大切な人だ。絶対に裏切らない」

「ふーん、常に疑心暗鬼で、他人を信じないキミにそこまで言わせるとは、その二人に少しばかり興味が湧いてきたよ」

「あっ、あの二人には手を出すな! 手を出せば、俺はお前を許さないぞ!」

「そいつは怖いねぇ。まあ、私はキミが彼女たちに裏切られないことを祈っているよ」

「……チッ、心にもないことを」


 軽く舌打ちをしたあと、落ち着け、クールになれと自分に言い聞かせる。ここ数日でかなり『狂気』に精神を侵され気味だが、本来俺は頭脳派だ。物事を論理的に組み立てて行動に移すタイプ。けしてその場の衝動に身を任せて暴れるような男ではなかったはずだ。

 気分を害された俺は保健室から踵を返す。


 しかし、視界からアリサが消えた今でも、彼女の言葉が俺の脳裏を犯していた。

 京香、もしくは詩乃が『超能力者監視課』の一員? 俺のことをずっと監視していた?


「違う! いちいち動揺するな。自分の大切な人を信じろ。二人を想う自分の気持ちを信じるんだ。違う、違う、違う、違う、絶対に違う。だって、二人は俺の大事な人なんだ」


 自分に言い聞かせるように、俺はアリサの呪いを自らの言葉で上書きする。

 教室に戻ると、ちょうど一限目が始まるところだった。

 いつの間にか、詩乃は自分の席についている。彼女はこちらをチラッと見ただけですぐに顔をそらした。すると、今度は綴が板チョコを頬張りながらこちらを見つめてくる。


「おかえり、九条。どこに行っていたんだ?」

「保健室だ。アリサに会ったよ」

「へぇー、驚いたか?」

「…………………………」

「おい、無視するなよ」


 綴がわざとらしくベタベタと引っ付いてきてウザい。おかげでクラスメイトの視線を集めてしまっている。というか朝から教室で板チョコなんて食べるな。甘い匂いがする。


「透さん、アリサさんに会ったのなら聞いたと思いますけど、私たちはあなたの監視役なんですから、あんまり好き勝手にうろちょろしないでくださいよ」


 後ろの席から朱里が面倒臭そうに冷たく言い放つ。


「……お前、よく考えたら俺より一つ年下だろうが、なんで二年にいるんだよ」

「ちょ、周りに聞こえたらどうするんですか!? いいから内緒にしておいてください」


 冷めた態度から一転、朱里は俺の側に駆け寄り耳元で囁く。

 その様子を、詩乃が遠巻きに軽蔑の眼差しで眺めていた。

 眉を寄せて、口をへの字に曲げ、ジトッとした半目でこちらをチラチラと見てくる。

 あの目は「私のことはお節介扱いして邪険にしたくせに、転校してきたばかりの女の子とは親しげにするんだ。ふーん、そうなんだ、へぇー、そう……」という目だ。


 そこは断固として弁解したいところだが、そうするには俺と綴と朱里の関係を詩乃に説明しなくてはならない。それは無理だ。なんとかして詩乃の機嫌を直そうと考えている途中で、詩乃はこちらを一睨みするとそっぽを向いた。


「あーあ、嫌われちゃったね。あの可愛い子が姫宮詩乃だろう?」

「なぜお前が知っている?」

「アリサにもらった資料に書いてあったからね」


 綴が板チョコを食みながら妖艶に微笑む。

 俺は横目で朱里のほうを窺うが、どうやら彼女も詩乃のことを知っているようだ。


「あいつには手を出すなよ」

「それはどういう意味かな?」


 そういやこいつ、百合属性だったな。


「二重の意味で、だ」

「ちぇっ、九条のことを餌にすれば、彼女を軽く籠絡することができるのになぁー」


 と残念そうに綴が呟くと同時に、一限目の授業が始まった。


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