030話 九条透VS藤堂アリサ(淫)
温かい。なんだろう、この温もりは。柔らかい。なんだろう、この感触は。
ほんのりと甘い香りがする。いい匂いだ。なんだかとても幸せな気持ちになる。
もっと近くで触れ合いたい。ずっと抱きしめていたい。このまま離れたくない。
……ん? 抱きしめて……いたい? こんなところに抱き枕なんてあったか?
そもそも俺は抱き枕を使ったことなんて、人生で一度もないんだが――
「おはよう、透君」
目を開けると、目と鼻の先にアリサの美しい顔があった。
――んん!? ッッんっなぁ!
俺は動揺しすぎて声を出すことはおろか、身動き一つできなかった。
全身が金縛りにあったように動かない。
狭いベッドの中に、俺とアリサが互いの躰を密着して収まっている。
「そうか、キミはこういうのが好きだったのか」
アリサが口を開くたびに、俺の頭にアリサの甘い吐息がかかる。
目の前には、アリサの豊かな胸の谷間があった。京香よりも大きいかもしれない。
そして、なぜか俺はアリサの背中に腕を回し、彼女に抱きつくような格好で寝ていた。
というか、なんでこいつが俺のベッドにいるんだ!?
「そういえば、キミの専属メイドも年上だったな。九条家の力を使えばいくらでも可愛い女子中学生をはべらせることもできたはずだ。キミは年上の女性が好きなのかな?」
……こいつ、京香のことも調べているのか。
「幼少の頃に親からの愛情を受けられなかった人間は、成長してからも愛に飢え続けているというが……なるほど、そうかそうか、私が癒してやろう」
アリサが俺の背中に腕を回し、ぎゅっと抱きしめてくる。
俺の顔面はアリサの大きすぎる胸に押し付けられた。
女性特有の甘い香りが強くなる。あと凄く柔らかい。
「うっ……ぁ……ちょ、な、何をするんだ!」
俺は軽く暴れるが、アリサの腕は俺の躰を離さなかった。
それどころか、俺が逃げないように、さっきよりももっと強く抱きしめてくる。
「声をかけても起きない、キミが悪いんだぞ」
アリサが俺の耳元で甘く囁く。軽く息を吹きかけられた。
「ひっ……! あんっ……あっ、ぁ……」
さらにアリサは俺の耳たぶを甘噛みし、ぺろぺろと長い舌で舐めてくる。
「透君の耳たぶ、ぷにぷにしていて可愛いね。もっといじめたくなっちゃう。ちゅっ♪」
「ひゃん! ……ぁん……あ」
躰の力が抜けて、思うように抵抗できない。
「この可愛い耳に噛み跡をつけてあげよう」
「うくぅっ! ……んぁああっ! んっ……」
アリサに髪を手で優しく撫でられ指で梳かれる。
「首筋にもキスマークをつけてあげるよ」
「……え? や、やめっ――」
「キミは私の所有物だからね。ちゅぅぅ……っ♪」
俺の静止の声を無視し、アリサが俺の首筋を軽く噛みながら唇を密着させて強く吸う。
「……んっ! んんっ……ダメ……本当にダメっ……ん~っ!」
同時に背筋をアリサの滑らかな手で撫でられると、躰がビクッと反応してしまう。
「ふふっ、そうやって歯を食いしばって抵抗されると、意地でも喘がせたくなるな」
「……あっ……んんぅ……んっ……ひ……い、いいから離れろっ!」
「そうは言うが、キミだって私の背中を掴んだままじゃないか」
「えっ?」
アリサの背中に回した俺の腕は、無意識に力なくアリサの服を掴んでいた。
「いや……あの、これは――」
「本当は物足りないんだろう? 顔にそう書いてある。別にいいんだよ。私に甘えても。ふふ、それに今、キミの性感帯を見つけた。耳と背中だ」
何か言い訳をしようとした俺の頭を、アリサが後ろから抱えるように撫でて髪を梳く。
「……あ、ぁぁ……ぁんっ」
俺の喉から掠れた声が漏れた。脳が痺れて頭が真っ白になる。
弱点がバレた。丁寧に細い指でなぞるようにアリサが俺の背中を愛撫する。
「あっ、んんっ、ダメダメ……もうダメ……ぁぁあああっ!」
頭の中まで蕩けてしまう。これ以上こいつの側にいると、元の俺に戻れなくなる。
「もうダメ……許して……頭くらくらする……はぁーっ、はぁーっ……ぁ」
「それとも、やっぱり離れたほうがいいかな?」
俺の耳を撫でながら、アリサが優しい笑みを浮かべて尋ねる。
「…………っ……あ、あと一分だけっ……抱きしめるだけ……触るのは禁止……」
「この甘えん坊め」
アリサが俺の躰を優しく包み込む。妖艶な色気をまとった彼女に、俺は不思議と性的な興奮はしなかった。ただその温もりに触れていたい。そんなことを考えていた。
アリサの許可を得て眼帯を外してから顔を洗った俺は、先程の自らの選択を大いに後悔していた。疲れ果て、泥のように眠ったあとの寝起きだったから、完全に油断していた。自分でも心に隙ができていたと思う。そしてその隙間をまんまとアリサに埋められてしまった。恥ずかしくてまともにアリサの顔を見ることができない。……クソ、くそぅ。
そして現在、自らの愚かさを責める俺を、アリサはその隣で楽しそうに眺めている。
「さっきの透君、可愛かったなぁ。私に依存させて、私がいないと生きていけない躰にするというのもありかもしれない……うん、ありだな。躾けてやろう。調教の時間だ」
「頼むから、さっきのことは忘れてくれ。ただの気の迷いだ。このことは絶対誰にも話すなよ。特に朱里には知られたくない」
あいつにこのことを知られれば、何を言われるか分かったものじゃない。
「はいはい、わかっているよ」
ニタニタと笑いながら、アリサが俺の肩を抱き、豊満な躰を押し付けてくる。
「お前……絶対わかってないだろ」
「心外だな、ちゃんと理解しているさ。ただ、キミがまた私に甘えたくなったら、いつでも言うといい。キミが求めるなら、たっぷりと時間をかけて相手をしてあげるよ」
「……っ、そ、そんなこと、もう二度とないからなっ!」
「うーん、ではこのことは二人だけの秘密ということだね。ふふっ、秘密を共有することで、より深い絆で結ばれた、親密感のある関係に近づけるというものだ」
アリサが妖しく笑う。
「だが、私を裏切った場合、このことはあの子たちに言いふらすからな」
……なにそれ。俺が意を決してこの組織に反逆したとき、そんな恥ずかしいことを暴露されるの? 嫌すぎる。まぁ、しばらくはアリサたちに反旗を翻すつもりはないけど。
「それはそうと、ほらっ、早くこれに着替えたまえ」
アリサがテーブルの下から、あるものを取り出す。
「……え?」
それは、俺が通っている高校、白麗院学院の黒い学生服だった。
四章開幕




