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魔眼の王~思考読解の邪視~  作者: くろふゆ
  第三章 誰も俺を救ってくれない lost all
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028話 これが組織の夕食会

 俺は大人しくアリサと部屋を出た。外は長い一本道の廊下だ。


「なぁ、一応聞いておくけど、この基地は一体どこにあるんだ?」

「さぁね、キミはどこにあると思う?」

「おそらくどこかの地下だろうな」

「なぜそう思う?」

「俺がここに拉致されてから一度も窓を見ていないからだ。それに室温も一定に保たれている。そしてなにより秘密組織の基地といえば地下以外にないだろう?」


 俺は両手を広げておどけてみせる。


「ははっ、まぁ、確かにここは、ある施設の地下に存在しているのだけどね」

「ある施設?」

「そうさ、ここは中央病院の地下にある」

「……えっ。病院の地下って霊安室とかあるんじゃないのか?」


 なんだか急に寒気が増した気がする。

 いや、別に幽霊の存在とか信じてないし、全然怖くなんてないけどさ。本当に。


「それは病院によるだろう。病院の地下には他にも放射線科やMR室があったり、物品搬入の窓口になっていたり、ボイラー室や配管が張り巡らされている。私たちが今いるこの基地は、そのさらに地下深くに存在しているというわけだ」

「へぇー、なるほどな」


 そんなどうでもいい話をしている間に長い廊下を渡り、また別の空間に出た。

 どうやらこの地下施設は、かなり広い造りになっているようだ。


「さっき今から夕食会って言っていたけど、誰と一緒に食べるんだ?」


 アリサは俺とのチェスの前、夕食に遅れることを気にしていた。アリサの性格からして、もし彼女が一人で夕食を食べるのなら、時間を気にしたりしないだろう。ということは、アリサは誰かと一緒に夕食を食べる約束をしていることになる。


「そりゃあもちろん、いすみんとしゅりりんだよ。私は毎日彼女たちと一緒に夕食を取っているからねぇ。コミュニケーションは大切ってことさ」

「じゃあ、変な名前で呼んでやるなよ」


 おそらく、『いすみん』は綴伊澄、『しゅりりん』は熊谷朱里のことだろう。


「これからキミには彼女たち戦闘員幹部と行動をともにしてもらう。お仕事の前にせいぜい互いの好感度を上げて信頼を築いておくがいいさ」

「やはり、俺の扱いは特別になるということか。それにしても、互いに殺し合いをした相手と行動をともにしなくてはならないとは、嫌だな。というか俺、今からそいつらと同じ食卓を囲まなきゃいけないじゃないか!?」

「仕方ないな~、なら少しだけ先に彼女たちのことを教えてやろう。くくっ、優しいご主人様に感謝するんだぞ☆」


 表情を曇らせる俺に対し、アリサが救いの手を差し伸べる。救いの手といっても、元々すべての原因はこいつのせいなのだけど。本当に苛立たしい。


「二人の簡単な人物紹介をしてやろう。二人とも攻略難度は高いぞ。まずは綴伊澄。長い緑髪が美しいキミと同じ高校二年生。しかし、実家はヤクザで彼女はその家の長女だ」

「げっ、マジかよ」

「本名は大門寺伊澄だいもんじいすみだが、伊澄は大門寺という名字はダサいから嫌だという理由で、母方の姓である綴を名乗っている。一見クールに見えるが、伊澄は可愛いものが好きだ。そして実家が男ばかりだったせいか、あいつには百合っ気がある。というかレズだ」

「……ああ、そう。綴だけはまともなやつだと思っていたのに」

「次に熊谷朱里。まぁ、その、あの子はあれだ。見ていたらすぐにわかるだろう。歳はキミの一つ下。高校一年生だ」

「あいつ、何が『武術家には敬意を持って接している』だ。普通に年下じゃないか!」

「朱里は小学生のとき、強盗に母親を殺されている。だから犯罪者や悪人には人が変わったようにきつく当たるが、普段は温厚で考えや行動が子供っぽく、その思考回路は単純にできている」

「……なるほど。ここにいる以上、それぞれいろいろ事情があるってことか」

「そういうことだ。ほらっ、着いたぞ」


 アリサが開いた扉の先には西洋風の豪奢な空間が広がっていた。

 天井には九条邸と同じようなシャンデリアがあり、縦長のテーブルには白いクロスが敷いてある。調理服を着た男女がせわしなく動き、夕食の準備をしていた。


「あれは?」

「いいだろう? 専属シェフだ」


 ドヤ顔でいうアリサに、俺はこの空間を見渡しながら毒づく。


「どうやら日本政府は無駄なところに金を使っているようだな」


 そのとき、俺とアリサの背後から朱里と綴が入ってきた。


「おお、やっと来たか。今日は私が先に来て待っていてやったぞ」

「俺たちも今来たばかりだろうが」


 恩着せがましく言うアリサに俺は突っ込む。


「悪いな、アリサ。朱里のせいで少し遅れた」

「ええー、なんで透さんまでいるんですかー?」


 綴は淡々とアリサの発言を流し、朱里は俺がこの場にいることに対して不平を言う。


「うるさいな。俺だって好きでここにいるわけじゃない」

「だったら帰ればいいじゃないですか。ほらっ、シッシッ!」


 朱里はまるで動物を追い払うように手でどっかに行けというジェスチャーをしてきた。


「このガキ……」

「誰がガキですか! ここでは私のほうが偉いんですから、あなたも私に敬語ぐらい使ったらどうですか!」

「アリサに聞いたぞ。お前、本当は俺より一つ年下なんだろ? そして、その単純な思考回路。どう考えてもお前のほうが俺より子供だな」

「ぐぬぬぬ……!」

「フッ、どうした? 言い返す言葉もないのか? 脳筋女が」


 俺が朱里を嘲笑うように言い放つと、朱里は、


「……このチビが」


 敬語をやめて、吐き捨てるように呟いた。


「……ッ! 誰がチビだ! だいたい、お前にだけは言われたくないんだよ!」


 俺はこの場で唯一、自分より背が低い朱里を見下ろす。


「ほらほら、そんなくだらないことでヒートアップしなさんな。私から見れば、キミも朱里もまだまだお子様だよ」


 俺と朱里の頭に手を置き、上から目線で俺たちをたしなめるアリサに、朱里と俺は、


「アリサさんは黙っていてください!」

「ババアは黙ってろ!」


 すると、俺の言葉にアリサが青筋を立てて、


「誰が……ババアだ!!」


 俺のわき腹に強烈なミドルキック放ってきた。


「おぶっ……!」


 咄嗟にガードをすることができず、俺はその場でうずくまる。


「おい、大丈夫か?」

「ぷっ、くくくくく、思いっきりくらってやんのー。ざまぁみろです」


 心配してくれる綴とは裏腹に、朱里は舌を出して憎たらしい笑みを浮かべていた。

 熊谷朱里、こいつ……いつか絶対殺す。


「あー、めんごめんご。つい足が出ちゃった。でも、私はまだ十九歳だから。そこのところよろしく。というか、避けることはできなくても、ガードぐらいは間に合うと思ったんだけどなぁ……」


 アリサは自分の読みが外れたことに、不思議そうな顔をしていた。

 確かに普段の俺なら反応できたかもしれない。


 しかし、先程のミドルキックは左側からの一撃。

 左目を覆っている眼帯のせいで視界が狭くなり、反応が少し遅れた。

 俺の想定以上に片目を覆われているということは、戦闘上でのハンデになるかもしれない。これからは視界の外にも気を張っていなくてはならないな……


「――というかお前、まだ十九歳だったのかよ!?」


 その雰囲気や体付きも相まって、俺はアリサのことを二十歳前半かと思っていた。別に歳を食っているように見えるわけではない。ただ、十代にしては妖艶すぎるだけだ。


「さてと、そうこうしているうちに夕食の支度もできたようだし、さっそく晩餐会といこうじゃないか」


 気が付くと、テーブルの上は綺麗に飾り付けられており、色とりどりの豪華な食べ物が並んでいた。いつの間にか調理服を着た男女もいなくなっている。

 そして、俺たちは席につき、夕食を食べ始めたわけだが……


「……おい、なんでこいつが俺の隣なんだよ」

「それは私のセリフです。アリサさん、一体どういうつもりですか?」


 現在、縦に長いテーブルの右端に俺、そのすぐ隣に朱里、そして反対側俺の正面にアリサが、アリサの横には綴が座っていた。せっかくテーブルが大きいというのにかなり密集して座らされている。残り半分のテーブル上には食べ物すら置かれていない。


「いやー、せっかくだから仲良くなってもらおうと思ってね」


 大きな肉を頬張りながら、アリサがちっとも悪びれずに答えた。

 その横では綴が、元々甘い菓子パンにさらに砂糖を振りかけている。その砂糖が入った砂糖ケースには『綴』と書かれている。なにそれ? もしかしてマイ砂糖なの?


「……ん? なんだ? お前もかけるか?」


 俺が綴の砂糖ケースを凝視していると、綴が砂糖ケースを差し出してきた。


「いや、遠慮しておく」

「……そうか」


 残念そうに綴は砂糖ケースを引っ込めた。俺のことを甘党仲間だと思ったのかもしれない。それにしても変なやつだ。改めて見ても、手入れの行き届いた緑髪は美しく、背筋が伸びた綺麗な姿勢で席に座り、音を立てず静かに食事をしている姿は様になっている。だがその手には砂糖ケースが握られており、平然といろんな食べ物に甘みを追加していた。


「隣に座っている人は気に食わないですけど、料理は今日もおいしいです!」


 俺の横では、綴とは正反対にガチャガチャと音を立てながら、いろんな食事に手を伸ばす朱里が口元にご飯粒をつけていた。俺の左隣り。左目を眼帯で遮られた俺の視界に入るか入らないかの位置で騒々しく動くから、気になって仕方がない。


「あれ? もう、唐揚げがありません……あっ! それもらいです」

「お前、もう少し静かに飯を食えないのか? ――って、それ俺の!」


 俺の言葉の途中で、朱里が俺の小皿から唐揚げを奪い去った。

 こいつ、食い意地まではっているのか。


「ぷくく、働かざる者食うべからず、です。文句は戦果を上げてから言ってください」

「ふん。そうは言っても、食わないことには働けないな。腹が減っては戦ができぬ、だ」

「……ぐぬぬ、悪党の分際で減らず口を」


 簡単に言い負かされて歯ぎしりする朱里に、俺は問う。


「なら一つ訊いておくが、お前にとって、正義とはなんだ? この組織にいるということは、お前だって人を殺しているはずだ」


 俺は朱里の身体を動かす動機に迫る。


「更生の余地のない罪人を……裁く人間が必要なんですよ。私は悪を許さない。正義に反する人間を、私は人だと思っていませんから」


 朱里は自身の考えを構成している核心を、俺に告げることはなかった。


「なるほど。正義の基準はお前の考え次第で変わるということか。随分と曖昧な正義だな。それに正義の反対が必ずしも悪であるとは限らないぞ。正義の反対は、また別の正義だ。俺には俺の正義がある」


 近距離で睨み合う俺と朱里に、アリサが横槍を入れてくる。


「まぁまぁ、仲良くしなさいな。これから一緒に行動することになるんだからさ」

「それなんですけど、どうして幹部である私と伊澄さんが、アリサさんのペットの透さんなんかと同じ任務をこなさなければならないんですか?」

「そりゃあ、この子は私の特別だからね。朱里と伊澄にはこの子の監視と教育を頼むよ」


 アリサの隣に座る綴は菓子パンを食べながら黙ってうなずく。だが朱里は、


「ええー、嫌だなぁー」

「何か……私の言うことに文句でもあるのか?」


 アリサに軽く威圧されるだけで、朱里は肩をすくめて目をそらした。


「い、いや、別に……ない、ですけど」


 相変わらず、戦闘員幹部だというのに、朱里の立場は弱いな。

 この中での立場的強さは、上から順にアリサ、綴、朱里といったところか。

 そして俺は、その朱里よりもさらに下ということになる。はぁ、肩身が狭いな。


「そういえば、この『ウロボロス』は超能力を悪用している犯罪者を秘密裏に殺害する、というのが主な仕事なんだよな?」

「そうなるねぇ」


 俺の質問に、アリサが頬杖を突きながら適当に答える。


「なら、その超能力者というのはどうやって見つけ出すんだ? おおっぴらに町を破壊したり、誰かに危害を加えていればすぐにわかるが、俺みたいに裏で慎重に動くタイプは、そう簡単に見つけられないだろう?」

「もちろん、派手に動いているやつとそうでないやつとの対処方法は違うが、その点は問題ない。私たちは自然と巡り合うのさ」

「なんだそりゃ。超能力者は超能力者に引かれあう、っていう設定でもあるのか?」

「……設定って言うなよ。そうじゃない。その理由は――」

「政府が超能力者を炙り出す装置でも持っているのか? いや――違うな」


 俺はアリサの反応を見ながら、一つの仮説を組み立てた。


「超能力者を感知することが可能な超能力者がいる。といったところか?」

「おお! ご明察。とは言っても、その能力者はあまり多くはいないし、感知できる範囲もまちまちだから、結局途中までは自力で見つけなきゃいけないのだけどね」


 アリサがパチパチと拍手しながら気怠げに言った。


「なるほどな。他には、一体どんな能力者がいるんだ?」

「うーん、私もすべての能力を把握しているわけじゃないけれど、大抵は自己の肉体の機能や性能を強化、もしくは変化させるものが多いかな。創作上の魔法のように、無から有を生み出すような能力者はかなりレアだよ。正直、そんな相手を殺すのは至難の技だ」


 珍しくはあるが、いるということか。そんな魔法使いのようなやつが。

 

「もう一つ、超能力者について、残念な情報を教えておいてやろう」

「残念な情報?」

「ああ、超能力者の寿命は五十年もない。少なくとも、我々は五十歳を超える超能力者に出会ったことがない。それは、ごく平和に過ごしていたとしても、だ。詳しい理由まではわからないが、私は一般人よりもテロメアが短いせいだと考えている」

「となると、俺の残りの寿命は三十年といったところか」


 先のことなので、お前はあと三十年後には死ぬと言われても実感が湧かないし、あまりショックでもない。

 なにせ俺はこんなやつらに拉致されて、明日どうなるかもわからない身なのだから。


「キミはあと三十年ぐらい生きられると考えたかもしれないが、そうもいかないんだ」


 アリサは俺に憐れむような目を向ける。


「超能力者はその能力を使えば使うほど、身体に負担がかかる。そしてキミの能力はその効果により、精神を激しく摩耗させるものだ。さらにキミは九条家を繁栄させるために、肉体にもかなりの負担をかけて生きてきたため……私の見立てでは、四十歳まで持てばかなりいいほう。悪ければ、三十歳手前で死に至る可能性もある」

「……そうか」


 その言葉は、さすがの俺にも重くのしかかった。俺は日々寿命を削って戦っている。

 だが、今はそれを悲観している場合じゃない。

 不確定な未来のことよりも、今を精一杯生きなければならない。

 なぜなら今を生き抜いたその先に未来があるのだから。


「とは言っても、キミもこの組織の一員になったわけだ。あまり先のことを気にしていても仕方がない。キミは明日死ぬかもしれないんだからね。元気出していかないと」


 アリサは軽く笑いながら席を立つ。


「ああそうだ。この世界には超能力者だけでなく、人間と似て非なる伝説の生物――『亜人』がいる。例えばそうだな……『狼男』、『雪女』、『吸血鬼』、『鬼』、『人魚』、『妖狐』、『天狗』、『エルフ』『魔人』……まぁ、他にもたくさんいるが、キミは何か心当たりはないかな? といっても『亜人』は希少で、超能力者よりも遥かにその数は少ないのだが」


 俺は『吸血鬼』という単語を耳にしたとき、意図せず眉がぴくりと動いた。


「――『亜人』ね。……いや、特に心当たりはないよ」


 そう言って、俺はアリサとの会話をさりげなく切る。

 視線をテーブルに戻すと、いつの間にか卓上の料理は綺麗に平らげられていた。


「…………え?」

「ふうー、満腹、満腹。ごちそうさまでした」


 そして、俺の小皿によそっておいた料理までもが、すべて朱里に食われていた。

 俺の横で、朱里が満足そうにお腹をさする。

 その姿に俺は殺意を通り越して、もはや諦めの感情を抱いていた。


「超能力者はカロリーの消費が激しいせいか、大食漢や偏食家が多いのだが、どうやら透君の能力は肉体よりも精神を酷使するようだな。となると、あとでケアが必要か」


 そんな俺を尻目に、アリサが周りを気にすることなく、ぶつぶつと何事か呟いていた。


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