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魔眼の王~思考読解の邪視~  作者: くろふゆ
  第三章 誰も俺を救ってくれない lost all
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027話 九条透VS藤堂アリサ

 ――チェス。このゲームの勝利条件は相手のキングを追い詰めることだ。

 まずは先手である俺から。序盤にやることはある程度決まっている。


 それは中央支配だ。中央を支配することはチェスというゲームの要であると言える。自分の駒が中央を陣取ることによって、こちらの駒は移動の選択肢が多くなり、相手の駒は移動の選択肢が少なくなるからだ。

 そうして俺はアリサとチェスを打ち始めた。


「そういえば、お前たちに九条邸を襲われる前、半年くらい交流のあった『トードー』という人物からコンタクトがあったんだが、あいつもお前たちの仲間だろ? ここに拉致されてから見かけてないんだが」

「んー? 見かけてないってことはないでしょうに。もう会っているじゃない」


 アリサは駒を動かしながら適当な調子で答える。


「やっぱりお前たちの仲間なのか。――ってもう会っている? 俺がここで会ったのはお前と綴、朱里。いや、女ばかりじゃないか。あいつは男だ。ということは九条宗司、あいつなのか? 待てよ、そもそも『トードー』が嘘をついている可能性もある……」

「何を勘違いしているのか知らないが『トードー』は私だよ」

「…………は?」


 意味がわからず、つい間抜けな声が出た。


「だ~か~ら~、私のフルネームは藤堂亜莉沙とうどうありさだ。ついでに言うと、この金髪は地毛で、私は日本人とロシア人のハーフでもあ~る」


 アリサは片手で髪を弄びながら滔々と告げた。


「……え? じゃあお前、やっぱり嘘をついていたのか? だって軽い天然パーマで、外出とかはほとんどしないから色白で、ちょっと肉がついているって言っていたじゃないか。おまけに背は170センチあるって。そこから考えたら、どうしてもオタクっぽい太めの男性という結論に至るのだが……」

「あれ? これ軽い天然パーマって言わないのかな? よく考えたらウェーブか。でも実際、研究とかであまり外には出ないし、ハーフだから元から色白だし。肉がついているっていうのは肉付きがいいって意味だったのだけど。あ、背はちゃんと172センチあるぞ」


 そう言って頭を掻くアリサは軽くウェーブのかかった美しい金髪で、色白で美しく整った顔立ちをしており、なおかつ出るところは出て、ひっこむところはひっこんだ、ナイスバディの高身長ハイパー美女だった。


「……これは詐欺だろ」


 俺は自分の手番を進めながら思わず愚痴った。

 よく考えたら、この『ウロボロス』では綴とアリサという、俺よりも背の高い女が二人もいることになる。朱里が俺より小さくてよかったよ。

 そんなくだらないやりとりをしている間に、ゲームは中盤にさしかかる。


「では、次は私がこの組織のメンバーについて説明してやろう」


 アリサが黒い駒を動かしながら口を開く。


「現在、この組織には私も含めて四十四人の構成員がいる。キミも入れると四十五人だ」


 ……多いな。とてもじゃないが、俺だけで相手にできる規模じゃない。


「もう理解していると思うが、この組織を統率しているボスはこの私、藤堂アリサだ。そして、その下に戦闘員幹部が三人いる。一人は綴伊澄。もう一人は熊谷朱里」

「――ってあいつ幹部だったのか!?」


 あいつというのは、もちろん朱里のことだ。


「待てよ。三人ということはもう一人……」

「残念ながら、今は留守にしている」


 なんだ、いないのかよ。だが、これはチャンスだ。

 いつか裏切るときのために『ウロボロス』の戦力が少ないに越したことはない。


「さらに、私の元には戦闘員が三十人と、研究者が十人いる。ちなみに研究者たちは日夜私と超能力及びその他の研究をしている。その腕輪を作ったのも私と研究者たちだ」


 アリサが俺の左手首に嵌められた黒い腕輪を指しながら続ける。


「そして戦闘員幹部である、伊澄と朱里と留守にしているもう一人には、私の所有する戦闘員を三名ずつ貸しているから、現在私が所有している戦闘員は二十一人だ。戦闘員幹部たちに貸した戦闘員は、各自自由に使って構わないと言ってある。伊澄は自身の欲望の捌け口として『キラーガールズ』を結成し、朱里はサポート要員として使っている」

「なるほどな。それで、今の俺の立場はどうなる?」

「キミは平の戦闘員だ。まぁ、キミは私のお気に入りでありペットだから、他の戦闘員とは多少異なった使い方をするけどね。キミもちゃんと私の言うことを聞いて頑張れば、戦闘員幹部にしてやるぞ。そうしたら、好きな戦闘員を三人抱えることができる。伊澄のように女の子ばかりのハーレムチームを作ることも夢じゃないってわけだ」


 アリサがニヤニヤと意地悪く笑う。悪いがそんなに長くこの組織にいるつもりはない。

 俺はなんとかしてこの腕輪を破壊し、ここから逃亡するつもりだ。


 だから、アリサが本当に約束を守るとは信じていないが、まずはこのゲームに勝つ。

 そう思って、駒を動かした俺の手が止まった。ゲームはすでに終盤に入っている。

 アリサと話をしながらも、今まで俺は最善手を打ってきたつもりだった。


 だが、これは……互角? いや、俺が押されている。どこかで間違えたか?

 チェスは【二人零和有限完全確定情報ゲーム】だ。

 その戦いに偶然が入りこむ余地などない。


「あと、もう一つ大切なことを教えておいてやろう」


 俺の思考を遮るように、アリサはそのセリフを口にした。


「九条グループは解散したよ」

「なっ……!?」


 驚愕の事実をこの局面で、アリサは狙いすましたように告げた。


「なぁに、解散といっても人員を少し入れ替えただけだ。これから九条グループは日本政府が管理することになる。九条宗司やキミの息がかかった連中は炙り出されてクビになるだろうがね。つまり、これでキミは社会的立場、資金、人員、権力を失ったわけだ」


 その事実は強靭な精神力を誇る俺の思考すらも揺さぶった。

 頭が重くなる。そうだ。日本という国家が敵に回った時点で、こういう事態は想定しておくべきだった。思考に靄がかかり判断力が鈍る。


 そして、俺は気づかないうちにミスを犯していた。

 拮抗していたチェスボード上の戦いは、今や明らかにアリサの優勢へと傾いている。


「うーん。これはもう決まっちゃったかな」


 アリサが退屈そうな顔で駒を動かす。俺は無表情を装いながら、機械的に駒を動かしていく。すでに俺の頭の中ではこの戦いに決着がついていた。

 負けることが分かっている状態で駒を動かす屈辱感。そして、


「チェックメイト、だね」


 勝負はついた。もちろん勝者がアリサで、敗者が俺だ。

 結局、アリサは一つのミスも犯さなかった。

 俺としたことが、精神を乱されて隙を見せるとは。だが、もう一度やれば――


「ん? その顔はもう一回やったら、勝てるって思っている?」


 アリサはまるで、俺の思考を覗き見ているように言った。


「水を差すようで悪いけど、このゲーム、最初からキミに勝ち目はなかったんだよ」

「どういうことだ?」

「私はキミが勝ったら腕輪を外してやると言った。だが、引き分けの場合については言及していない。そして勝負は一ゲームだ。チェスの場合、引き分けでも一ゲームと数えられる。私は最低でも、キミから引き分けを取れればよかったんだよ」


 その言葉が意味することは――


「お前……まさか、常に最善手を打ち続けることができるのか?」


 十の百二十乗。それを目の前にいるアリサは読み切った。

 なんという思考速度。いや、真に驚嘆すべきは、その記憶力か。


「お前も超能力者なのか?」

「いやいや、私は別にキミたちのような、特殊な力を持っているわけじゃないよ」


 チェスボードを片付けながらアリサは続ける。


「まぁ、上の人たちは私のことを『天才ジーニアス』と呼ぶがね。なぁに、ただの『完全記憶能力』さ。いや、能力とは言ったが、これは厳密には体質かな。私は一度見聞きし、学んで『覚えた』ことは、絶対に忘れないのだよ」

「それはもう、一種の超能力なんじゃないか?」

「かもしれないね。それに加えて、私には自分で物事を深く考えるだけの知能がある。だから上からも特別扱いを受けているし、私のわがままは大抵なんでも通る。私がいないと超能力者の研究も進まないからね」

「……なるほどな」

「しかし、この体質もメリットばかりではないのだけどね。なにせ、恐怖、後悔、嫌悪、恥、嫉妬、罪悪感、恨み、苦しみ、悲しみ、怒り、絶望、憎悪。あらゆる負の感情を、たとえ忘れたくても、絶対に忘れることはないのだから」


 語る内容に反して、アリサはそれをなんでもないことのように続ける。


「人はよく、悲しみを乗り越えるなどと言うが、それはただ忘れていっているだけだ。簡単に乗り越えられる悲しみなど、本当の悲しみには含まれないってことさ。キミにならそれがよくわかるだろう?」


 アリサは椅子から立ち上がって、黙りこくっている俺を見下ろした。


「さて、勝負は私の勝ちだ。よって、キミの腕輪が外れることはない。これでキミは私一人相手に、戦闘力、知能、思考力、判断力、記憶力で負け、さらに九条グループも失ったことで、資金力、権力、組織力もなくなった。もう諦めたらどうだ? キミはすべてを失った。キミが私に勝っているものなど何一つない。キミは死ぬまで私の言うことを聞く従順なペットになるんだよ。大丈夫、興味が失せるまでは可愛がってあげるから」


 アリサの言葉が、俺の身体を呪いのように侵蝕していく。

 俺がゼロから築き上げてきたものは、すべて崩れ去った。もう何もかも失ったんだ。


「く……ふっ、フフフフフ、クククク……」

「どうした? ショックで頭がいかれたか?」

「……いや、違うよ」


 確かに、俺はまた大切なものをなくし、一人になった。

 だが、それがなんだ。俺はもとから一人でここまで生き抜いてきたんだよ。


「いくら生殺与奪権を握られているといっても、俺は自分より劣る人間の下につくつもりはなかった。しかし、それがお前なら仕方ない。いいだろう、認めてやるよ。お前が俺の主だ。しばらくは裏切りもしない。そうだな、当座の目標は戦闘員幹部になることか」

「ほう……しばらくは、ね」


 アリサの俺を見る目が変わる。

 自分より遥かに劣る敗者を見下す目から、もう一度、同じ土俵で戦う敵対者として。


「さて、俺はお前のことを主として認めたわけだが、これからお前のことはなんて呼べばいい? やはり、ここはご主人様とでも呼ぼうか?」

「うーん、それはとても魅力的な提案だが、アリサで構わないよ。フレンドリーにいこうじゃないか。私とキミは主とペットの関係である前に、これから仲間になるんだからね」

「仲間……か」

「ふふん、いいぞー。私は相手の攻略難度が高ければ高いほど、萌えるタイプだ」


 そういえば、俺はネットでこいつとオタク談義をしていたんだよな。


「では手始めに、互いの好感度を高めるための夕食会といこうじゃないか」


 俺は大人しくアリサと部屋を出た。外は長い一本道の廊下だ。


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