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魔眼の王~思考読解の邪視~  作者: くろふゆ
  第二章 終焉の鐘が鳴る rule uselessness kills each other
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019話 九条透VS熊谷朱里&???

 混濁した意識が、過去の記憶を強引に呼び覚ます。


 初めて他人の思考が頭に流れ込んできたとき恐怖を覚えたこと。両親に捨てられて孤児院で過ごしたこと。周りに誰も理解者がいなくて一人で孤独と戦い続けたこと。アーシャに出会って運命を変えられたこと。九条邸に戻ってからも心身ともに辛い日々を送ったこと。中学一年生のとき、後に無二の親友となる詩乃が転校してきたこと。京香という俺を支えてくれる大切な人に出会えたこと。そして、そして、そして――


 真っ白い空間の中で、黒い正方形が回転しており、そこに小さな亀裂が生じていた。

 ――これが走馬灯ってやつか。


 まだ、俺の人生はこれからなのに。まだ、果たさなくてはならないことがあったのに。まだ、恩を返さなきゃいけない人がいるのに。まだ、やり残したことがあったのに……


「………………嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。こんなところで死にたくないッ!」


 死への恐怖が『狂気』を加速させる――生死の狭間で血が滾る――


「思い出せ、過去の傷を! 痛みを! 怒りを! 苦しみを! 憎しみを!!」


 今はもう、膝を抱えて泣いていたあのころとは違う。

 俺は力を手に入れた! この世界を変える力を!


 この世界に生きた証を残すまでは――――――死ねない!


「オオオオオオオォァアアアアアアアアアアアアァァァッッ!!」


 獣のような叫び声によって、脳のリミッターを強引に外し、脳内物質を意図的に大量分泌させる。飽くなき醜い欲望と、強烈な破壊衝動が湧き上がってきた。

 頭には血が上り、流れる血液は沸騰しそうなほどに熱い。全身が燃えているようだ。


「――弱いやつに何が守れる? 弱いやつに何が救える? 弱いやつに何が変えられる?」


 弱者は強者に喰われ、自らの大切なものを失うだけだ。だが――


「ヒヒヒヒ、ひはっはははは、ハハハハハッ! ァアァアアァぁギィィ!」


 奈落の底から響いてくるような、憎しみに満ちた不気味な声が鳴り渡った。


「――俺は強い! 今度は――――俺が奪う側だッ!!」


 強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強強狂狂狂狂。


 狂気を纏った、強烈な自己暗示が全身を蝕み、ヒトの限界を超える力を生み出す。


「なっ、なんですか!? これは……。急に豹変した。まさか、解離性同一性障害かいりせいどういつしょうがい!?」


 命を削るような俺の唸り声に、朱里の目が怯える。

 すべての負の感情を呼び覚ませ! 湧き上がる黒い衝動を力に変えろ!

 ――命を燃やせ。魂に火をつけろ。孤独を強さに――


「ザコがァアアア! この俺に勝てると思うなよォ!!」


 抑えきれない『狂気』が殺意となって滲み出る。視界が真っ赤に染まっていく。

 脳のリミッターが外れた俺は、全身の筋肉が悲鳴を上げるのを無視して、強引に朱里の体を引き剥がそうとした。


 しかし、朱里は驚愕の表情を浮かべながらも、必死に俺の体を締めつけて離さない。俺の体を解放した瞬間、それが己の死に直結していることを理解しているからだ。


 だが、俺は朱里の拘束が少し緩んだ隙に、隠しておいた切り札を取り出した。

 俺の手に握られているのは――もう一挺の拳銃。


「なっ……!?」


 朱里の目が、これ以上はないほどに見開かれる。


「フハハハハ、言っただろ。奥の手というのは最後までとっておくものだと」


 俺は狂気じみた笑みを浮かべ、銃口を朱里の頭部に定めた。

 今はもう、こいつを殺すこと以外、何も考えられない。


「これで――チェックメイトだ!」


 朱里に仰向けで床に抑えつけられたまま、俺は躊躇いなく引き金をひいた。

 乾いた銃声が鳴り、銃口から放たれた銃弾が朱里の頭を撃ち抜く――はずだった。

 なのに、銃弾は朱里の頭部をそれた頭上に飛び、朱里に外傷は見当たらない。


「……あァ?」


 拳銃を握る右手を見ると、銃口は上を向いており、俺の右手首には鉄色の鎖が巻き付いていた。先端には爪形の青い宝石飾りが付いている。


「残念、余計な会話をしている間に、引き金をひくべきだったな」


 俺の濁った黒い瞳が、鎖の持ち主をたどる。

 すると、パーティー会場入り口付近に、新たな敵が鎖を左腕に携えて立っていた。


 そいつは朱里と似た構造をした黒い服の両腕に鎖を巻き付けており、両手首には太い腕輪が嵌められている。そして腰には左右に小刀を差しており、両肩には奇妙な形をした金属の肩当てが付いていた。


「邪魔だァ! どけェェッ!」


 俺は拘束の緩んだ朱里の体を、力まかせに弾き飛ばした。

 鎖を携えた敵を強く睨み付ける。殺害対象が変わった。まずは弱りきった朱里よりも、新たな敵である鎖野郎をぶっ殺す。もう殺意を抑えることができない。


「不快だ、不快だ! 不快なんだよッ!!」


 俺は自身の右腕を巻き付いている鎖ごと引いて、力技で鎖野郎を引き寄せる。

 そして、その体に銃口を向け、再び引き金をひいた。

 だが、銃弾が鎖野郎の体を撃ち抜く前に、そいつは右手で腰の右側に差している小刀を抜き、そのまま下からすくい上げるように小刀を振った。


「あァ?」


 一向に銃弾が、鎖野郎を撃ち抜く様子がない。

 まさか、銃弾を小刀で切った? 普通に考えて、そんなことは不可能だ。


「……チッ、こいつも能力者か!」


 いつの間にか俺の眼前に鎖野郎が迫っており、そいつは振り上げた右腕を俺の体に振り下ろした。右手に握った小刀が俺の体を切り裂き、辺りに赤い鮮血が飛び散る。


「グッ……が、うっ、あぁァあああ!」


 近接戦闘はダメだ。一度距離を置いて中距離から撃ち殺す。

 そう算段をつけ、俺はリミッターの外れた体で思いっきりバックステップしたが、右腕に巻き付いている鎖のせいで、鎖野郎から一定以上の距離は離れられない。


 十メートルほど距離を置いて鎖野郎のほうを半眼で見ると、やつが太股から、クナイのようなものを二本抜き、こちらに投擲してくるのが映った。

 俺は体をひねってなんとか一本躱したが、もう一本のクナイが右肩に深く突き刺さる。


「ぐぁああああああぁァ! あっああぁア!」


 身を貫くような激痛に、思わず右手で握っていた拳銃を落としてしまう。


「……クソ、麻痺系の神経毒か」


 目が霞み、耳がおかしくなる。

 その間に、鎖野郎は左手で握っていた俺を拘束している鎖を左手首の腕輪に固定した。


 さらに、右手に持っていた小刀を床に落とし、両手を自由にする。続けて、両腕に巻き付いている鎖を解き、左右の手にそれぞれ握り――天井のシャンデリアに巻き付けた。

 そのまま鎖をクロスさせ、自身の体を勢いよく回転させて反動をつける。そして轟音をまき散らしてシャンデリアを天井から引きちぎり、俺の頭上に落下させる。


「アアアアアアアアアアアがぁああああああああああッッ!」


 俺は唸り声を上げて全力で回避する。だが、右腕に絡みつく鎖がそれを邪魔した。

 全身の筋肉が軋むのを無視して鎖を引きちぎり、横っ飛びに体を投げ出す。俺がいた場所に、少し遅れてシャンデリアが落下した。床は抉れ、シャンデリアの破片が辺りに飛び散る。俺は体を起こし、殺意をこめて鎖野郎を睨み付けた。


「忌々しい! 忌々しいッ!! あいつ、つ、ころ、コロ、殺し、て、やる」


 黒い感情が脳内を侵蝕し、上手く言語化できなくなる。


「まったく、無茶をする。筋組織の崩壊が始まっていることに気付いていないのか?」


 鎖野郎が呆れた様子で嘆息し、頭上を指でさした。

 それに釣られて上を見ると、小さな筒のようなものが宙に浮いていた。


「――手榴弾!」


 そう思った瞬間。筒状のそれは、眩い閃光と爆音を周囲に放つ。


「いや、スタングレネードか!?」


 そして、それは俺の視覚と聴覚を一時的に破壊した。

 何も見えない。何も聞こえない。何も考えられない。


 自分という存在を、真っ白な世界に包まれる。その中で、荒ぶっていた感情が徐々に落ち着きを取り戻していき、体の奥に眠る『狂気』が鎮まる。


 殺人衝動に飲まれ、我を忘れて怒り狂っていた俺は――自我を呼び覚ました。


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