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魔眼の王~思考読解の邪視~  作者: くろふゆ
  第二章 終焉の鐘が鳴る rule uselessness kills each other
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018話 九条透VS熊谷朱里Ⅲ

 鋭い反動が腕を跳ね上げ、銃弾が発射される。

 乾いた音が鳴り、黄金色に輝く空薬莢が宙を舞い地に落ちた。


 今にも俺に攻撃を加えようとしていた朱里の胸元に、銃弾が神速で吸い込まれる。

 冷たい目をした俺の耳に、銃声は遅れて聞こえた。


「……え……っ……!?」


 朱里の目が驚愕で見開かれる中、俺は酷薄な笑みを浮かべながら低く呟く。


「ククククク、奥の手というのは、最後までとっておくものだ」


 突進の勢いをなくした朱里の体が、俺の体にもたれかかるように力なく崩れ落ちる。

 俺はそれを受け止めたあと、朱里の胴体に膝蹴りを入れて突き放す。


「……っぉ……………………かはッ、うっ、ごぉお!」


 その場で朱里が喀血し、床が血で染まる。彼女は喘ぐように酸素を求めていた。


「なんだ、まだ生きているのか」


 俺はうつ伏せに倒れている朱里の背中を、再び拳銃で容赦なく撃ち抜く。

 朱里の体はしばらくピクピクと痙攣していたが……やがて動かなくなった。

 その惨たらしい死に様に目を当てられなくなり、俺は朱里に背を向ける。


「ははっ、人を……殺した……」


 人をこの手で直接手にかけたのは、これが初めてだった。

 それなのに、自分でも驚くほど今の俺は冷静だ。


 こうも簡単に、実に呆気なく、人の命というものは失われるものなのか。

 自らの手で人を殺したというのに、その手には手応えというものがなく、命を奪ったという実感がまるで湧かない。しかし、拳銃を握るその手は確かに震えていた。


 ふと、その手から視線を下ろすと、頭に一つの疑問が生じる。

 朱里を抱き留めたはずの俺の制服には、血がついていなかった。

 多少はその制服を赤に染めていたが、それはおそらく自身のものだろう。


「……おかしい。朱里の胸元からは俺が銃弾を撃った結果、大量の血が出ているはずだ」


 思い返せば、念のため朱里を背中から撃ったときも、俺は背中からの出血を明確には見ていない。初めて人を殺した衝撃から来る動揺と、朱里の口から出た血で誤魔化され、正確な死を確かめていなかった。


「――まさか……まさかっ!」


 俺は勢いよく首を回して背後を振り返る。しかし、そこに朱里の死体はなかった。


「私はまだ、生きていますっ!」


 真下から朱里の声が聞こえたことを認識した直後、朱里の地を這うような足払いによって、俺は体勢を崩された。マズイと思ったがもう遅い。


「チッ、しつこいやつ!」


 続けざまに朱里の鋭い右回し蹴りを右腕にもらい、右手に握っていた拳銃を吹き飛ばされてしまう。地を滑るように拳銃は俺から遠ざかっていった。


「……なるほどな。それ、防弾仕様だったのか」


 撃たれたはずの胸元から血が出ていない朱里を、俺は鋭く睨み付ける。


「いくら防弾仕様とはいえ、銃弾の衝撃は死ぬほど痛かったですよ。それに、その痛みを必死に隠すのも大変でした」


 朱里も負けじと、俺のことを睨み返してきた。

 拳銃は……俺の後方に転がっている。

 俺の視線が後方の拳銃に逸れた一瞬の隙を見て、朱里は俺との距離を詰めてきた。


 俺は左、右と連続で牽制の正拳突きを朱里に放つ。

 しかし、朱里は俺の左正拳突きを屈んで躱し、右の正拳突きも外側に回って避けた。


 そのまま朱里は、俺の右腕を取って自身の左足を俺の首に巻き付け、右足もそれに沿うようにして、空中で俺の首と垂直に交わるように体勢を横にする。


「秘儀――『竜巻固め』!!(たつまきがため)」


 朱里は自身の足を俺の頭部に引っかけ、そのまま宙で竜巻のように回転することで得た勢いを利用し、俺の体を一回転させて背中から地面に叩き付けた。


「がッ――はっ……!」


 肺からすべての空気が抜けた。両足から地面に落ちて衝撃を和らげたが、腕ごと首周りを朱里の両足で固定されているせいで上手く受け身が取れず、背中に猛烈な衝撃を受ける。

 左目に集中させていた意識が途切れ、『洞視眼』も強制的に解除されてしまう。


 なんとかして朱里の絞め技から抜け出そうと試みるが、朱里の両足が俺の腕を巻き込んで首回りをがっしり固めているので、身動きがまったく取れない。

 力で劣る俺が朱里に抑え込まれると、そこから抜け出すことは不可能だった。



「さぁ、そろそろ本気で諦めてくださいっ!」

 朱里がギリギリと俺の首を両足で締めてくる。

 酸素を求める行為すらも塞がれ、意識が遠のいていく。


 ……俺は、ここで終わるのか? 何も……わからないまま……


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