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魔眼の王~思考読解の邪視~  作者: くろふゆ
  第二章 終焉の鐘が鳴る rule uselessness kills each other
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015話 戦闘開始

 九条邸の三階には、使用人の簡素な個室を除いて、そのフロアの大半の面積を占めるパーティー会場が存在している。大きなパーティーを、ビル群にそびえ立つ『九条ビル』で開催するのに対し、そこは身近な親しい企業の役人や社長をもてなすのに使われている。


 要は簡易のパーティー会場だ。それでも十分にデカいとは思うが。


 そして、そのパーティー会場には俺と父さんしか知らない、屋敷の外へと繋がる非常脱出口がある。そこまでたどり着ければ、隙を見てこの屋敷から離脱することが可能だ。


 俺は階段を上って三階フロアに到着した。辺りを見回すが、異常は見当たらない。


「父さんは、もう逃げたのだろうか?」


 思わず父さんの安否を気にしたが、あの人は俺のことなど気にも留めていないはずだ。

 それとも、俺の『力』を失うことくらいは損害だと思っているのだろうか?


 足音を殺してスムーズに廊下を進み、パーティー会場の扉の前までたどり着く。

 あとはこの扉を開いて中に入り、先着している野々村とこの屋敷から脱出するだけだ。


 俺は思い切って扉を開き、一歩足を踏み入れた。

 照明が落ちていて中は暗く、よく見えない。自然と緊張感が高まる。


「……おかしい。野々村はまだ着いていないのか?」


 そのとき、九条邸に鳴り響いていた警鐘が途絶えた。


「ん? 襲撃者を制圧したのか?」

「たぶん、その逆だと思いますよ」


 不意にかけられた声に、俺の警戒心は急激に高まった。


「――――誰だ?」


 俺の質問に対し、パーティー会場のシャンデリアが複数灯る。

 急に強い光を浴びせられ、軽く目が眩んだ。


「私ですか? 私の名前は熊谷朱里くまがいしゅりといいます」


 そう名乗った少女は、毛先が外向きに跳ねた、燃えるような赤毛のショートヘアだ。

 ときどき口元から覗く八重歯が可愛らしい。


 背は俺より十センチほど低く童顔だが、黒い戦闘服に包まれた胸は詩乃より大きい。下は短いスカートだ。両拳には金属でできたオープンフィンガーグローブを嵌めていた。


「こいつが『トードー』の仲間か? それとも、また別の勢力か……」


 少女の右手は、男が着ているスーツの襟を掴んで引きずっていた。

 その男――野々村の姿はボロ雑巾のようにくたびれている。


「……ッ! 野々村!」


 なるほど、野々村はこいつにやられたというわけか。


「も、もう……し……わけありま……。とお……るさ――」


 野々村の言葉の途中で、少女が野々村の首元に手刀を打ち込み黙らせる。


「まだ生きていたのですか? 悪の手先の分際で……」


 そして少女は、その小柄な体に似つかわしくない異常な怪力で、野々村の体を部屋の隅に投げ捨てた。地に捨てられた野々村の体は、ぴくりとも動かない。


「お前……!」

「なんですか? 悪党のくせに、仲間がやられたと憤るつもりですか?」


 とりあえず、今はあいつの関心を野々村から遠ざけなければならない。


「そいつは己の務めを果たせなかったただの役立たずだ。どうなろうが俺には関係ない」

「さすがは悪党です。実に非情で冷淡ですね。裁きがいがあります」

「ははっ、裁く? 何様のつもりだ? それに俺が悪党? それはどういう意味だ?」


 思わず漏れる失笑。俺はけして自分が善人だとは思っていない。

 しかし、見知らぬ少女に悪党と呼ばれる謂れもなかった。


「わからないんですか? あなたは少し目立ち過ぎた」


 少女がこちらに一歩近づく。


「私は『超能力犯罪者暗殺部隊』所属の熊谷朱里。上の命令で、あなたを殺しにきました」

「……『超能力犯罪者暗殺部隊』? なんだ、そのいかにもあれな組織名は? そんなものが実在するというのか? だとしたらネーミングセンスを疑うな」


 しかし、超能力ということは、俺の力のことは把握済みということになる。

 俺の頭には数々の疑問が渦巻いていた。


「混乱しているみたいですね。ですが、これ以上あなたに説明するつもりも義理もありません。あなたを始末すれば、私の任務はそれで終わりですから」

「ま、待て!」


 ここで会話を切らせてはいけない。この少女からなるべく情報を引き出さねば、いつまでも見えないフィールドで戦うことになる。なんでもいい、何か会話を続けるんだ。


「お前、なんで俺に敬語を使うんだ? 俺はお前が憎むべき悪なんだろう?」


 咄嗟に口をついて出たのは、もの凄くどうでもいい疑問だった。

 だが、少女は律儀に俺の質問に答える。


「透さん。それはあなたが悪であると同時に、一人の武術家だからですよ」

「……武術家? それが何か関係あるのか?」

「私は幼い頃から、父の道場で鍛錬を積んできました。だから、私は武人には敬意を持って接しているのですよ。それが、たとえ透さんのような悪人であっても」

「そうか。それにしても、いきなり人を名前呼びとは、随分と馴れ馴れしいな」


 俺はわざと横柄な態度をとって少女を挑発する。


「気に障りましたか? 私のことも朱里と呼んでくださって結構ですよ」


 まさか、向こうがこんなに親しげな態度を取ってくるとは思わなかった。

 俺のことを敵視しているんじゃないのか? これなら対話で和解も――

 足の爪先から全身に浸透していく、殺気にも似た熊谷朱里の闘気。


「どうせ透さんはここで死ぬので、今後私の名前を呼ぶことは一切ないと思いますが」


 少女――朱里は一気に俺との距離を埋め、左上段、右中段と二連突きを打ち込み、続けざまに右回し蹴りを俺の頭部目がけて放ってきた。


「――クソッ! そう甘くはいかないか!」


 俺は上段突きを首の動きだけで躱し、中段突きをバックステップで回避する。そして右回し蹴りを屈んでやり過ごした。


「おそろしく速い蹴り。俺でなきゃ見逃しちゃうね」

「……死んでくださいっ!」


 俺の軽口を無視して、朱里が続けて左追い突きを俺の顔面に放ってくる。


「――とか言っている場合じゃねぇか、せいっ!」


 俺はそれを反転して避け、そのまま朱里の左手を掴んで背負い投げた。

 しかし、朱里は投げ技の途中で体をねじって抜け出し、その勢いを生かして宙高く舞う。


 そのまま一回転した朱里は、鉄槌の如き踵落としを放ってきた。それを俺は両手をクロスして受け止めようとしたが、その猛撃に本能的な危険を感じ、咄嗟に後退する。


 俺の鼻先を掠めるように朱里の踵落としは床に衝撃を与え、そのまま床を陥没させた。

 床の破片が飛び散り、俺の額を強く打ちつける。


「――なんだ、この威力は!?」


 朱里の攻撃に恐怖を覚えた俺は、額から垂れた血を舐め取り距離を取る。

 しかし、朱里は一足飛びで俺との距離をゼロにした。


「なっ……!?」


 俺と同等以上の『縮地しゅくち』。ゼロ距離から凄まじい威力の飛び膝蹴りが腹に突き刺さり、俺は体をくの字に曲げながら十メートルほど吹っ飛ばされる。


「……っ……うっ、ごぼっ、うぇ、おぉおごっ!」


 激しい痛みでまともに声が出せず、無様に床を這いつくばる。


「ゴホッ、ご、おっほ……あぇ……あ……」


 骨の軋む音が鳴り、肺が空気を必死に求めた。


「なんだ、こんなものですか。期待して損しましたよ」


 ぷらぷらと拳を振りながら朱里は嘆息し、見下すような流し目を俺に向けた。

 俺は今まで自分よりも背が高く、体も一回り大きい相手と戦い、この身を鍛えてきた。

 だが、こんなの……まともな人間の力じゃない。


「超常の力――お前、能力者か?」


 かろうじて絞り出した俺の掠れ声に、


「当然です。さっき言ったでしょう。私は『超能力犯罪者暗殺部隊』に所属しているのですよ。超能力者を仕留めるのは、同じ超能力者がふさわしい」

「予想はしていた。俺以外にも超能力者がいるということを」


 昔、俺は様々な情報網を用いて超能力者を探したが、結局、俺以外の超能力者を見つけることはできなかった。


 しかし、俺は幼い頃、アーシャという少女に出会っている。彼女のような特殊な存在がいる時点で、俺の他にも超能力者がどこかに存在している可能性は高いと思っていた。


「自分以外の超能力者を見るのは、初めてですか?」

「ああ。初めて出会った相手が敵で残念だよ」


 まだ体がふらつくが、いつまでも床に寝ているわけにはいかない。

 下半身に力を入れて立ち上がる。膝の震えを抑える時間を稼がなくては……


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