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魔眼の王~思考読解の邪視~  作者: くろふゆ
  第一章 九条透 daily life and old days
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011話 九条透と姫宮詩乃Ⅱ

 午前の授業が終わり、昼休みとなった。クラスメイトたちはそれぞれ散らばり、仲の良い生徒、もしくはこれから仲を深めたいと思っている生徒を食事に誘っている。


 白麗院の生徒は基本的に食堂で昼食を取ることが多い。

 食堂は馬鹿みたいに広く、一定レベルのメニューを無料で頼むことが可能だからだ。


 俺のもとにも、田丸を含めて何人もの生徒が昼食に誘ってきた。しかし、


「ねぇ、透」


 詩乃が意味ありげな笑みを浮かべて、俺のほうを見つめてくる。

 俺は昼食に誘ってくれたクラスメイトたちに、申し訳ないという顔を作ると、


「すまない。今日は詩乃と先に約束をしていたんだ。また今度誘ってくれ」


 その言葉で、俺を昼食に誘ってきた生徒たちは一歩引いてくれた。


「姫宮との約束ならしょうがないな」

「相変わらず、二人は仲がいいわねぇ」


 去年からこういうことは多々あるので、それを知っている田丸が気を利かせてくれた。


 俺は詩乃と共に多少の好奇の目に晒されながら教室を出た。

 詩乃は何やら右手にケースを持っている。


 詩乃と一緒に、俺たちのクラスがあった二階から三階に上がり、その足でさらに階段を上って屋上へ出た。屋上は元々閉鎖されていたこともあって人がいない。

 ちなみに閉鎖していた鍵は、詩乃がどうしても屋上に出たいということで、去年の春に俺が強引に破壊した。というか、詩乃に無理やりさせられた。


 学校側には悪いと思っているが、この白麗院には真面目な生徒が多いので、本来閉鎖されているということを知っている生徒たちがここに来ることは、あまりないだろう。

 屋上にある柵の手前の段差に、二人で腰をかける。


「さてと、今日はお弁当を作ってきたのです! 二年生になってからは初めてだねっ」


 食堂に行けばタダで飯が食えるというのに、詩乃はこうしてたまに弁当を作ってきては、俺に食べさせたがる。味は良いから嫌じゃないんだけどな。


「じゃーん! 今日のお弁当はこれ!」


 テンションの高い詩乃が、持ってきたケースから弁当箱を出し、その蓋を開いた。


「おおー!」


 目に映るのは、光り輝く白米に色とりどりのおかず。鶏肉を使ったパリパリの唐揚げにふっくらした鮭の塩焼き、ほどよく焦げ色の付いた卵焼きに、いい匂いのする野菜炒め。


「いつもながら凄いな、これは」

「でしょう。愛がこもっているってわけよ☆」

「手間がかかるだろ? 悪いな」

「別に。私が好きでやっているわけだし」


 なんでもないようなことを言いながらも、詩乃はどこか嬉しそうな表情で、俺に渡した弁当箱よりも一回り小さい弁当箱を開ける。その中には、見た目が崩れているわけではないが、俺の弁当に入っているおかずよりも少しだけ不揃いなものが入っていた。

 詩乃はこうやって、いつも俺に上手くできたほうを渡すのだ。


 ……こういうところは女の子らしいんだよな。

 ならば、今はその好意に甘えさせてもらおう。


「じゃあ、いただきます」


 まずは皮がパリパリの唐揚げを頬張った。

 詩乃がそわそわしながらこちらを注視している。


「うん、美味しいよ」


 別にお世辞で言ったわけではない。おそらく、冷めることを計算に入れて作ったのだろう。味付けもいい感じに調整されていて、後味もさっぱりしている。


「俺が好きな味だな」

「透の好みは把握しているから。これでもう、透の胃袋は私が掴んだも同然だね」


 普段から九条邸のシェフに無理やりいいものを食べさせられ、舌が肥えている俺を満足させる腕前は素直に認めよう。京香の手料理も美味しいけどな。


「どう? 料理上手の奥さん欲しいでしょう? 私たち、このまま結婚しちゃう?」

「するとしても、それは高校を卒業してからだな。俺の歳だとまだ無理だ。それにしても、朝早くから大変だっただろ? 別に無理して作ってこなくてもいいんだぞ」

「無理なんかしてないし。なぁに? 本当は私が作った料理は食べたくないわけ?」


 さっきまで笑顔だった詩乃の機嫌が、途端に悪くなるのを肌で感じる。

 ……やってしまった。詩乃が相手だとつい気を抜いてしまう。悪い癖だ。


「いや、別にそういうわけじゃないんだ。詩乃が作る弁当は本当に美味しいよ。でも、それが詩乃の負担になっているんじゃないかなって」

「いいの。私、一人暮らしだし。時間はいくらでも作れるから」


 一人暮らしだと余計大変なんじゃないか? と思うが、わざわざそれを口にはしない。

 そう、彼女には――詩乃には、家族がいないのだ。

 詩乃の両親は、詩乃が俺に会う前に、不慮の事故ですでになくなっていた。


「それなら、いつも俺が作ってもらってばかりじゃ悪いし、次は俺がお前に弁当を作ってきてやるよ」

「……え? 透って料理できたの? てっきり使用人に任せっきりなのかと思っていた」


 俺は昔、孤児院で育っている。今はすることが多くて使用人――主に京香だけに任せているが、基本的な生活スキルはすべて持ち合わせているつもりだ。


 詩乃は俺が九条グループの次期当主であり、俺が過去に他人の思考を勝手に読み取る力で苦しんでいたことは知っているが、俺が小学生の間、つまりおよそ六年間、九条邸から孤児院に追放されていたことまでは知らない。そんなことは知らなくてもいいことだ。


「まぁな。俺にできないことはない」


 そう不遜に言い放つ俺に対して詩乃は、


「確かに、透って割と万能だよね。あとは、自信過剰なところと思い込みが激しいこと、人間不信に根暗、オタク趣味、音痴、いまだに虫とオバケが怖いこと、巨乳好き、足が短い、女顔に低身長、脱ぐと筋肉がキモい、目が死んでいることを除いたら完璧だね」

「よくもそんなにすらすらと欠点ばかり挙げられるな。お前、実は俺のこと嫌いだろ」

「そんなことないよ。それだけ私が透のことを見て、透のことを理解しているってこと」


 詩乃は、しれっとそう言うと、すました顔で自分の弁当をぱくぱくと食べ始める。

 そんな詩乃に倣って、俺は少し照れながら黙っておかずを口に運んだ。


 弁当を食べ終えた俺は、屋上の床が綺麗なのをいいことに寝そべって空を見上げる。

 視界いっぱいに広がる蒼穹。今日も天候に恵まれた暖かい日だ。さんさんと降り注ぐ陽が眩しい。初春の若干残る肌寒さを打ち消してくれる。


「ほらっ、いくら床が綺麗でも、少しは汚れるよ。こっちにおいで」


 詩乃が俺の頭を抱え起こす。そして、上体を半分起こした俺の頭の上に【右手】を置いた。その手が優しく俺の髪を撫でる。


 詩乃はこうして一週間か二週間に一回必ず弁当を作ってきては、俺の頭を撫でたがる。

 理由を訊けば、「透の髪はサラサラしていて気持ちいいから」だそうだ。


 普段は弁当を作ってもらった恩義から、大人しく頭を撫でられている俺だが、今日はその行為が気恥ずかしくなって、詩乃の【右手】を瞬時に振り払った。

 昨日、京香に膝枕をされて、頭を撫でられた光景が脳裏に浮かんだのだ。


「もうっ! 何するのよ!」


 いつもと違い、頭を撫でるという行為を拒んだ俺を、詩乃が心なしか語気を強めて咎めてくる。……なんだ? 珍しく本気で怒っているな。


「悪いな。今日はちょっとすることがあるんだった。先に教室へ戻るよ」

「もう! 別にあと少しくらい、大人しく撫でられていてもいいじゃない!」


 やはり、なぜか今日の詩乃は、俺の頭を撫でることに固執している。

 たまにあるんだよな。こういうことが。


「どうした? そんなに俺の頭を撫でたいのか? お前らしくもない。何かわけでもあるのなら聞くけど?」

「べ、別にそういうわけじゃないんだけど……」

「まぁいい。俺は行くぞ。弁当ごちそうさま。美味しかったよ。ありがとう」


 そう言って屋上をあとにする俺に、


「って、ちょっと待ってよぉ~」


 詩乃も慌ててついてきた。取り繕った笑顔を浮かべながら。


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