傷だらけのペリドット
昭和22年4月、宮城県富米市津山町を通る県道東浜街道45号線の舗装道路工事が完成して、その記念を祝しての行事を兼ねて、県は5Kmのマラソン大会と称した競技を催そうとしていた。当日朝、まだ真新しいその道を二人の女子中学生が歩いていた。二人は、同じ横山に住む民家の隣同士の娘達だった。「でも、本当に賞金で20万円なんてもらえるのがな?」ちょっと背伸びをしながら、菅原妙子は隣の小泉安代に言った。「俺は、ちゃんと橋本先生に聞いただよ!」空を見ながら安代は答えた。二人はまるで,姉妹のように育った。大体、、横山と言う名の通りに二人の住む家のまわりはどちらをみても山しかなくてその山の盆地に田と畑を耕す、民家が3件あるだけであった。その家で生まれた二人は生まれた時からどちらの父でも母https://syosetu.com/でもなく、同じように育てられてきた。いつも一緒であった。二人は互いに陸上部という名目もあったがそれよりも賞金という魅力が参加しようという理由にはあった。やっちゃん、ここらで準備すっかねや?」妙子は道脇にある柳の木の横にある、腰掛のような岩に座りながら言った「んだな。」安代もまたその岩の横にある岩に腰かけて返事を返した。二人は陸上部で着ている、短パンと横山中とかかれた半そでシャツはすでに着ていた、今日の催し行事は、陸上部の顧問の橋本からの通告話を聞いてのことであったが、参加者は以外にも多く県の全中、全高、または、一般からの応募もありということでかなりの規模での参加者が噂としてはあるようだった。 安代は腰かけて右の親指をしばらく眺め親指を持った手でそのo親指を軽く引っ張った、すると、親指はすうっと前に伸びてカチッと音がして止まった。まるで、ボールペンの芯を指で押して、カチッと止まるような音に、似ていた?だがそれは確かに少女の足の指であった。第一母子関節の指である。指は長さにして大体1cmぐらいだるうか?、 確かに伸びていた。その足にさっと靴下をはかして、シューズにその足をすうっと入れる、さりげなく無操作な、澄んだ瞳の少女の横顔であった。だがその伸びた指のせいか安代の靴は妙子の靴よりもあきらかにサイズが、大きかった。妙子は安代のそんな動作を 何気なく見ながら、自分の靴の紐を丁寧にきっちりと閉めていた。「よおーし、さあいぐか~。」妙子は勢いよく,桃上げをぱあっと、地面を蹴りつながら誰にでもなく、大きな声でいった。安代も笑いながら妙子をみながらうなずいた。当時 、安代を腹から取り上げた 村でただ一人の産婆は、まず最初に手と足の指の本数を数えた後に 右と左の親指がみえないことに一瞬青ざめた。が、無いのではなく、ただ 異常に短いだけであった。周りにいた家族達も産婆の顔色を見てみんなも同じ顔色になった。赤子をそおっと,寝かして、今度は その小さな親指をそおっと慎重につまんだ。次の瞬間、それをグッと引くとカチッと柔らかい骨が鳴るような音がして、その小さな親指がはすうっと伸びた。「こりゃあ、指の骨が伸びるだな?」
産婆は周りを見ながら、にやりと笑った。普通、人間の骨が伸びるなどということはない。仮にあったとしてもそれは異常である。当時は安代のようにみんなの家で産婆と呼ばれる助産婦に生まれてくる子供は大体がゆだねられていて、それに、合わせた処置というか、その後の看護も家族の了解という範囲の中でならば、大抵のことは任せていたという、今の時代では、とても曖昧で とってもいい加減な、出来事がまかり通っていて出産はそれで終わっていたというしかない。しかし人の骨が伸びるということはない。安代の母はその後、あらゆる医者に聞いてもらい診察もしてもらったりはしてみた。そんな結果ある外科医が言うところには、親指の骨に細い太いがあってそれがかさなりあっていて、太いパイプのような骨の溝に細いパイプがうまり、奥歯を噛みながら親指に振動をあたえると細いパイプのような骨が飛び出して溝が埋まるところまで伸びたところで骨がこすれて、カチッと音がするところまで伸びると指がとまる。こんなわけのわからない理屈話を真剣に話した。、パイプに例えられると、水回りの仕事をしていた配管工のいとこには、話は通じた。しかし、奥歯を噛んで、足を地面に蹴りつけると、指がのびるという所はよくわからなかったが、要は、勢いで伸びるん?じゃあないか?1000人に一人の割合で?そうやって医者に言われ時から母は黙った。安代が11か月になった頃、急にいなくなった事件があった。みんなというか、それこそ、近所中,総出で探しまわったことがあった。家のまわりときたら、田んぼ、畑と、山へと続く、一本道しかなかったが、もしかして山へと続いて居る方だとしたらと、みんなは青ざめた。普通11か月足らずで歩行する、子供は数少ない。安代はしかし、この頃には、すでに走ることをしていた。周囲は、出生から、指が伸びる子供だと知っていたので、ああ?やっぱり、な、というような目でこっそりと眺めてはいた。が、その時のように、山にまで探しにいくことにみんなはうたがいながらも半信半疑でいた。が母親はいってくるといいはった。もうすぐ、夜がせまっている。母親と一緒に父と妙子の父も連れ立った。揃えられる道具を持ち山へと向かった、さすがに目の前の山のことは男たちはわかっていたが、まだ11か月しかない子供へのことを考えると息が苦しくなる程の緊張をもって急ぎ足ででかけた。ここからやまの頂上まではゆうに1000メートルぐらいはあるであろう、しかも暗闇である。野生のキツネとかたぬき、猪とかは入るであろう?山道からは崖下に落ちそうな細い道もあるし、通るのにやっとの細い橋もある。危険で夜などはとても行く人はいない。男二人が山に入っていく後ろ姿を見送るそこに残った母、妙子たちは恐怖を抱えながら立ち尽くしていた。そして泣きつかれた顔をした安代を抱えた安代の父親も、涙顔でそれから、2時間ぐらい後に帰ってきた。頂上近くの所でうずくまって泣いていたのであった。その事件から安代の噂は町をかけめぐった。まだ11か月の子供が山の上まで登っていった、と?。町に一つしかない幼稚園でも小学校でも、神足の安代という噂は流れるようになり、妙子は、妹として、常にその噂の隣におかれた。しかし、安代の足は噂どころではなく本当に稲妻のように速かった。幼稚園の運動会には、みんなと一緒にスタートをして安代 だけはグラウンドを一周してゴールをするなどあきらかに同じ人よりもスピードが違って、圧倒的に差をつけてゴールをするのでみんなとの競争には見えない。安代が奥歯を噛みカチッと音がして親指がすうっと伸びると伸びた分だけ地上を蹴りつける部分は増える、足底筋がバネのように地面を飛んで、安代の足は地面を跳ねるように前へと進む、すると、走る速度が急に増して、まるで一瞬にして前へと浮いたように加速する。当時アニメでサイボーグというヒーロー物のマンガが世間の中では、はやっていたが、妙子はそれを見て、安代の奥歯は加速装置のスイッチだと持て囃しながら笑って、おどけた。本人もよく自分の体のことは生まれた時からそうだったのでよくは理解ができていなかったので妙子にそうやって囃子たてられながら、半信半疑な思いで笑えた。確かに奥歯をかんでから、走ると速くなる左側にかんしてもそうであり3歳似なる頃には、加速装置を使いながら走るということを自分のものとして、走ることができるようになった。「やっちゃん、右が1で左が2だからね、」妙子はまるで自分のことのように、安代に自慢げに言った。「う、うん、」不安気に安代は答えた。マラソン競技会のスタート地点の近くには大きなドライブインの駐車場があり参加者らしい人達の群れが見える。「けっこうたくさんの人が、いるよ、」妙子は言った。「本当だね、」不安気に安代は答えた。競技参加者のようなスタイルの人の群れで駐車場はざわついていた。高校生、社会人の人たちが大分ふたりよりも年上に見えて、みんな速そうで、自身ありそうで、f小さなふたりの体は不安がいっぱいで顔がこわばっていた。そんな時、「おはよう、お嬢様たち!」。明るくて、妙にはしゃいだ声がきこえた。陸上部顧問の橋本であった。もとよりこの場所に今二人がいるのは彼の言葉をきいたからである。橋本は35歳ということで、独身であり、学校の保護者、職員達の間では、はやく彼にふさわしい嫁をと、いらぬお節介話が飛び交っていて、本人はたまにそのことのぐちを言ったりもしていた。
見た目はそれなりの年齢には見えるし、特にイケメンでもなくぶさいくとかではない、身長も175センチと言っていて、スマートな体型である。二人は唯一橋本とふざけあえる友達みたいな生徒と教師の関係であった。橋本は自称、裕福な家の生まれで
東京の国立大学を出てしかたなく数学の教師になったが、思いとはうらはらに、こんな東北の田舎教師として、赴任されて来てしまったと、ふたりにはたまにこっそりとなげいていたりもしいていた。しかも、親が、作った野菜と米を親に差し入れをたのまれてわざわざやってきてやっってきたというとき時なのに失礼にも酔って平気で愚痴を言ったのである。二人はこんなふざけた教師を半ばバカにはしていたが、どこか許せるかわいい男として、ふたりの目には写っていた。しかし、そんな橋本でも大学時代にはオリンピック5000メートルの代表選手に もうあと30秒速ければ、選ばれていたという以外にも名誉な過去を持っていた。まさにその頃の橋本はっ絶頂とも云う時だったのか、本人はそこにさえ出て居ればとか、よく悔し紛れな自慢話にして、無理やり陸上競技というもののすばらしさとか、厳しさなどを織り交ぜた講釈を二人の前ではよくそんなはなしをしていた。二人はその話が始まるとまた始まったと思い、しかたなく、適当なあいずちをうっていたが怒っていてもその話をさせておくと機嫌がよくなるから、黙って聞いていた。「やっちゃん、俺が先頭集団はかためておくから、こうやってブイサインを出したら一気にゴールしてな!」妙子は小声でそう言いながら、安代の肩をポンっとたたきながら、ブイサインのポーズを安代にみえるように前にかがんで、あどけなく、笑った。「わかった。」安代もニコッと微笑んで、うなずいた。
やがてスタート係みたいな男がふたりぞろぞろと動き出した選手たちの前を、道路に書かれた白いテープではったようなラインの前に並ぶようにテープにそいながら両手を伸ばしながら、カニ歩きをして小声でぼそぼそと並ぶようにと言いながら歩きだした。選手たちはぞろぞろとテープ前に並びだした。ラインの内側に
利き足をそろえながら、かがむようにひざをみんなが突きだしながら、ラインの前にかが
むようにスターティングポーズを横に流れるように自みんなは構えだした!。一人の係員らしき男が、火薬を打つ用なピストルをもって つかつかと道路の端に立った。そうして今度は空に向かってそれを静かに持ち上げた。「位置について~。」と、大きな声を張り上げた。。次にはバーンというけたたましい号砲が山あいのそこにこだました。次にドドット鳴り響く足音が鳴り出したが そんな中を 一番速く抜け出て走り出した体の小さな一人の少女がいた。妙子であった。その後ろを続いて100人ぐらいであろうか?大中小の選手集団がぞろぞろといっせいに駆け出した。そうなった後から順番に、選手達の群れは先頭に吸い込まれるように前へと流れていく。安代と橋本もその流れに足と体が隣のひとにあたらないように、歩幅と距離を調整しながらゆっくりと走り出した。後方の20人ぐらいであろうか?集団の中からゆっくりと駆け始めた。ふっと、一人の男が橋本の肩に軽くぶつかってきた。男の背丈も橋本ぐらいで、「生きてたか?。」笑いながら叫ぶような声で言い放ってきた。「倉木。?」橋本も驚きながら、大きな声をおもわずだした。安代はわけもわからないような、顔できょとんとしてそれを見ていた。「こんなような所だ、空気はうまいだろう?」橋本は笑顔で
倉木なる男に向かって言った。
「おい、終わったら、学校の裏にあるけど、ボロ屋で、やろうな。」これも嬉しそうに橋本は言いながら、右手で杯を口にぐいっと飲むようなポーズをとりながら、目尻を下げながら、豪快に笑った。そうして、急にスピードを上げて、走りだした。安代と倉木もそれを見て橋本に続いた。話はしていたが競技会は始まっていたので集団はもうなくなり3人だけが、そこに残されていたので、倉木と安代もあわてて走りだした。安代はいく人かをおいこしていくと、10人ぐらいの集団に行き当たった。倉木は橋本が、大学時代の友人であり、5000メートル競技のライバルでもあった。彼も選考にはもれて断念した仲間でもあった。苦労やくやしさwを互いにあじわった経験は持っていた。現在は小会社の陸上の監督という職業をしていると橋本は聞いてはいたが、以前、才能がすごい少女がいると、倉木にしゃべったことがあった事を想い出した。まさか、安代の走りを見に来たのかな?有望な選手を探しているとは聞いてはいたが、まさかこんな、田舎にまで見にきたわけではあるまいなあ?橋本は倉木ののめりこみやすくて夢中になりやすい性格はよく知ってはいるだけに、何か不安な気持ちに動揺をかんじながらもなるべくは考えまいと思いながら走っていた。しばらく走っていると道路の端に1000メートルと書いた紙を持った男が立っていた。橋本はそれをチラッと横見すると前を見て少しスピードをあげて走りだした。先頭らしい集団は見えない、ふっと後ろを見ると安代がこちらを見て走っている、その後ろの選手は、倉木のように見えた。安代の一歩は速い。橋本がはじめて安代の走る姿を見た時には驚いた。獣でいえばチーターのようにまるで空中を浮いているかのように一歩二歩が瞬間的に流れる。走るというか体が移動しているかのようにみえて地に足がついてないように見えるのだ、体は走っているかのようでポーズのまま瞬間移動をししているかのような表現についなってしまう。まるで、アニメーションをみているかのように見えてしまうのだから、だれもが不思議な気持ちになってしまうし、それでも、本当に彼女はいつも一番でそんな感じで走って来るので、文句を言う所も人もいない。
倉木が先頭集団を見つけて、追いつこうとした時がちょうど4000メートルの紙を持った青年が立っていた所を通り越した頃であった。先頭には小さい体の少女がはしっていた。妙子は以外に、みんなが遅いことに喜びと安心な気持ちで余裕を感じていた。そろそろ、安代が追い付いてくるかな?、後ろをふりむくと、倉木がいたので、驚いた。まあ、でも、そのうちくるかな?と思った所に安代が見えた。妙子はニコッと笑いながら右手でブイサインをした、手のひらを大きく左右にふった。っ安代はそれを見てにっこりと笑った。右の奥歯をぐっとかんだ。カチッと小さな音が鳴り、安代の体はすうっと前に走りだした。一気に集団の横を通り過ぎるとそのままスピードがどんどん上がり、一瞬のうちに先頭を突き進んでいった。倉木はその加速とスピードに悪寒を感じるような衝撃をうけたように、目を丸くして、あっけにとられて足がすくんだ。というよりも、足が止まっていた。その横を橋本が通りすぎようとして「おい、っ。」と、声をかけた。はっっと、した倉木は今度はびくっとして、橋本の顔を逆ににらんだ。なんだこいつは?正直に頭の中で驚いていた。少し前に凄い少女がいると、橋本がいっていたことがあった、その意味が倉木にはその時にはなんのことかよくはわからなかった。ひょっとしてこのことか?倉木は今トップにおどりでて、前を走っていてもう背中がどんどん小さくなってそのうちに見えなくなりそうな勢いで進んでいる少女のことのように思えた.たぶんこの少女にまず間違えはないと、確信していた。妙子はいつものようにすさまじい速さで追い越していく安代を見て誰かに自慢でもするかのように、得意げに笑った。が、その安代の後ろにさっと同じようにスピードを合わせてついていく少女がいた。妙子は、どきっとして、思わず自分のスピードも弱めてついその光景に見とれた。「だれだべか?でも、どうせやっちゃんには、ついてはいけねえ」安代の出生からすべてを知り尽くしている妙子には、こちらの方が自慢できると誇らしげな顔をした。倉木はそれを後ろから見ていて、たぶん高校の記録を持っている、高松由紀であろうと、思った。しかし、安代はまだ中学2年生だと、橋本からは聞いていたから、逆におもしろいと心の中で微笑んだ。そんなことを思っていると倉木の前の先頭集団の選手達が、スピードを上げて走りだした。妙子も、橋本も、倉木も、あせってゴールに向かった。橋本がゴールした時にはどうやら安代が優勝したらしくつましいながらの表彰台の所に係員らしき男のそばで笑って腰を下ろしている安代がいたので、まだ,息が落ち着かずはあはあ、いいながら、そろそろと近づいていった。[勝ったか?」笑いながら、安代に話しかけた。「楽勝、」そう言って、安代はブイサインを橋本に向かって笑いながらみせた。横にいた、高松由紀は二人の会話を聞くと、ふっと眉をきっと、曲げた。橋本はチラッとそれを見て、急に怒ったような顔をして、「おい、記録は?」と安代の横にいた係の男を見つめた。[あっ、これです。」そう言ってあわてて,ストッツプウォッチっをさっとっ橋本に差し出した。橋本は、それを一瞬のぞき込む様に、体をかがませて,ちらっとそれを見て、「あっつ、」とうめくと、時計をもう一度手元にひきよせた。「本当に,スタートからの記録?。」橋本の疑ったようなたいどにさすがに係の男も不愉快そうに「僕が,計りました。」ときっぱりと言った。「ちょっと、借りていいtっ?。」っ橋本は
そういうと時計を丁寧にうけとると、すぐそばでさっきから、ふうたりのやりとりを見ていた倉木の方に近寄って行ってどうだとでもいうようにウォッチの表を倉木の目の前までもっていき見せた。「えっ?。」今度は倉木がうっと、唸った。そうして次には目を大きな見開くと、おどけたような笑顔で橋本の顔をじっと見つめた。時計の針は14分43秒の所で止まっていた。それは、どう考えても信じられないくらいに速い。実際に5000メートルの競技の記録だとしたら、その記録はとてつもなく速い。大体にしても15分を切っていること事態がふたりの昔のことを思い出したら、本当に苦しんで、苦しんでも、15分という壁が高くて、大きくて、重かった時代の頃から考えてみるとあまりにもそれは苦くてせつない記憶のように胸には、よみがえってくる。そうして今はまだ若い女子中学生が、その記録をいとも簡単に走って来てしまったというのだからどうにもふたりの心にはそのあっけない現実を受けとめることへの嫉妬なり、くやしさなりが、ふたりの動揺となり、心に残った。橋本は、オリンピックの最終予選の大会で15分20秒で、あえなく参加資格を失くした。本当に、死に物狂いで、走ったし、まちがいなく、全力は尽くした、記憶はある。涙が流れて、まさかsi死ぬんじゃあないか?と思いながら、ゴールに飛び込んだような記憶が脳裏に残っている、そのままゴールに飛び込んだ後はピクリとも動けなかったような記憶が深い所にある。どうして?どうやって?この先まで行く?。何度も、自問を重ねて手を伸ばしながら前を目指した。が、それでも、叶わなかった。そんなに努力を果たしつくしても、かなわなかった夢の世界。その夢の世界にあっけなくまさに、わけもなくと
、言ってもいいくらいにそこに到達した少女。今、妙子とふざけあいながら笑っている橋本からみたら、あどけない子供なのである。その横顔は、まぶしいほどに美しいが、苦労したというあとかけらもみえない
平成14年、2月。 夜中からふりだした雨がしとしとふっている朝であった。外は暗く冷たくどんよりと
しずかである。小泉研は布団の中から窓の外の景色を想像しながら足に当たっている湯たんぽのその暖かさに毎日のように なにかしらの恩恵を受けているかのようなありがたさを十分に感じるている気持ちに酔っていた。雨の降っている朝は好きだ。だから、ふとんの中の心地良い暖かさも顔だけが、冷たくても、それがまた、心地良い空気を感じて気分はとてもよい。機嫌が良いと思える目覚め方である日である。そうして、いつこのふとんからでようか?などと贅沢なことをかんがえていた、しかし、いつもなら、だれかの声とか何かの音が階下とか、窓の外から聞こえてくる、いつもの朝はというより、毎日の朝は、そんな日常の何気ない音とか声とかに、反応して目が覚めている。まあほとんどは子供たちと、妻とのどうでもいいような口論とか、子供が妻に甘えるような愚づつきとか、やききわけのない、言葉とか、妻の叱りつける高音などがほとんどである。が、今朝は階下にいる人の中に自分の母親がいたのでさすがに耳が反応したのか?「桐・?ごはんは食べるの?」というような声から目が開いた。いつもながらの母の甘重いような声だった。「ママは~・??」。桐香のいつもの母に甘える言い方だった。少し微笑みながら、じっと天井を見つめていた体勢がら体を横に動かした。ちょっとさむそうだ、な?そうおもいながら、ふっと、勢いをつけながら かけぶとんをめくりながら上半身を起こした。が、寒い・と一気に体をまたふとんに潜り込ませた。こんな動作も毎日のことであった。研は今日は仕事が休みで、実家から、母の安代が1泊した後の翌朝であった。
小泉安代は今年で70歳になる。14歳だった頃に5000メートルを走ってだした記録の14分43秒の記禄は、間違いなく世界新記録なんだと、当時の橋本先生はむきになって言っていたが、そんな日からの年月はすでに
56年という時と月日がながれていた。安代は、中学を卒業して、仙台の公立の高校に進学して、静岡県の国立大学へと進んだ。もちろんいろいろな時間を考え悩み経験を経てからの人生の流れではあったが。安代はいつからか、将来は、教育者になろうと静岡大学の教育学部に進み、キャリアには十分な過程を卒業して中学の教師となった。科目は国語であったが、偶然のなりゆきみたいに決めた。やがて、瞳が青色に見える美しい娘となり、大学でしりあった、割と裕福な家庭の男と結婚をして、1女、1男、をもうけた。が、夫は、悲しきかな、子供がまだ小学生の頃、癌の病で他界した。それから、安代はシングルマザーとなったが、苦労
をのりこえてひとりでふたりの子どもを育て上げた。研の母 安代への信頼は厚く、たったひとりで、姉と自分を育ててくれたという、恩恵の念は強い。つねに母は強く、たくましい。愛情も深い。いつしかそんな気持ちが頭の中には常にあった。わざとらしくもなく、ごく自然な風景のように家族の中には安代の愛とか苦労とかが、優しい時間という形みたいに心に沁みこんでいる。研にとっての母を慕う気持ちも当然に深い、久しぶりに母のみそ汁を飲みながら、休日の朝を迎える。妻のしず子はまだ横で寝ているが、なぜか今朝は気分が良い朝をかんじてか、思いきって冷たい空気の中、布団を跳ね上げて体を起こした。半ば目は開いていたかのようなしず子は、「早いね?」と、笑いながら研を見て言った。[先にメシ,食うわ。」研はマザコンだと、自分でも言ってもいるが、しず子もそうだと思っている。嬉しそうに笑った研に「どうぞ。」とそっけなくしず子は言って、また布団にもぐりこんだ。そそくさとふとんをかぶりながら、今日着ていく洋服をなるべく外気にふれないように、慎重に次々と着ていく。靴下までをはくと勢いよく、ふとんから、飛び出して階下まで走りどどっと降りて行った。「きりちや~ん。」ふざけてじゃれついたよーな声をだしながら階下を下っていく研の声が聞こえた。研は娘の桐香を溺愛していた。生まれた時からである。息子の研太もかわいがったが、あきらかに桐香の方をえこひいきしてかわいがってたように自分でも,なんとなくそう思える。瞳が少し青くて、大きい目がかわいさをかもしだすような桐香を抱きしめて抱き上げた研は、「おっかさん、俺もメシ。」そんな言い方で、はしゃぎながら母に言った。すると、2階から、どどっと、音がしてしず子が起きてきた。「お母さん、おはようございます。」、笑いながら桐香に軽く手を振った。
そんなこんな時間で、研と桐香は玄関で安代としず子の前に立った。「1時ぐらいには帰ってくるから、。」ぼそっと言うと車の鍵をとってげんかんの扉を開けた思ったよりも、雨粒は大きくて、一瞬、傘を選んで桐香を抱えたまま外に出た。「じゃあ、行こうか?」。そう言って研は傘を桐香にかけて手をさしだすと、優しく桐香の手のひらを握りしめた。長靴をはいた桐香の右腕をさっともちあげて、玄関の階段をトコトコと歩き出した。雨粒が冷たくほほにあたる。手をつないだまま傘の下のふたりはゆっくりと,研の車まで、1歩2歩を慎重に歩いて行った。
やがて車の助手席側のドアを研はゆっくりとあけて、桐香を座らせるように握った手を席に誘導した。チョコンといつものように桐香は、さっとこしかけた。慣れていた。研は傘を閉じながら雨粒をばさっと振り払いながら静かに傘を閉じた。そのまま後ろのスペースに放り投げた。助手席のドアをゆっくりととじた。今度は傘をさしながら自分の席のドアを開けると、傘を閉じながら座り込んだ。右腕で大きく雨を振り払うように傘を上下に振り払うと、またその傘も後ろに放り投げた。そしてすぐにドアをがチャッと閉め。すかさず、エンジンをかける。桐香の好きなディスクを取り出してそれを差し込む、研はもうその行動に離れていてそこまでの一連の動きは早い。15秒ぐらいで、音楽がながれだした。桐香もにっこりと微笑んだ。今度は慎重にシートベルトをひきだすと桐香の胸元にそおっと装着した。この動作も早く慣れている。ワイパーも動かして前をみる、弱い雨粒がワイパーに振り払われる。エンジンを少し鳴らすと、ゆっくりと車を家の駐車場から動かした。車の中のモニター画面に桐香が今好きなアイドルが歌いながら踊っている,画面を夢中になって桐香は見ていた。そのアイドルのグッズを見ながらショッピングをしようとこれから街に出かけようとしていた。道路に叩きつくように、雨粒が跳ね上がっているなかをゆっくりとしたスピードで車は走りだした。研は、どっちからいこうか・?、迷いながら、アクセルペダルを静かに踏み出した。自宅からの交通量は比較的に走りやすく、一本道路なので好きな方向を選ぶだけだが、もうきめていた。いつものようである。今日はすいていた。いつもの交差点の所で右折をしようとウインカーを右に作動させる。ワイパーは中速で動いていた。そこの交差点はいつも交通量は少なく研は今日の行き先を考えれば、当たり前に右折をする交差点として選ぶ場所であった。無表情で桐香のようにビデオを見ながら静かに音楽を聞いていた。と、突然、鋭い車の爆走して来る、音が耳に突き刺さるように、頭に響く程に聞こえてきた。と、とたんに一台の車が目の前に突き刺さってくるように見えた。その一瞬に目をつぶったか、どうかは覚えてないが、とにかくすさまじい程のブレーキ音と、車が左側の方にぶつかってきた、衝撃をうけた。体が、一っ気に、後ろにふきとばされたように空中をとんだように感じた。ぶつかってきた?あっっつ、声がでたかの記憶もない。とにかく驚きと、体が、シートに飛ばされ貼り付いたように感じた。特に痛むという箇所も感じれない。ふっと左側を見た「わああっ、、。」叫び声だった、体が震えている。桐香の顔を助手席の窓ガラスが覆っていた。、ではなく、刺さっているように見えた。血が、ふきでている。ドアがつぶれて桐香の左側の半身に当たっている。そうして助手席が桐香と一緒に押しつぶされているように見えた。もう一度叫んだ。
やがて、研が、震えがとまり頭の中で事故だと、感じれるようになった頃、沢山の人のざわめきとパトカー?救急車のサイレンの音が、耳につんざくように聞こえてきた。心臓の音はドクドクと高鳴っている.
[桐香、すぐ、病院でなおるからね?ちょっと、がまんしてね。」震え声で、っやっと、一言を口にだした。気がつくと病院の白い天丼の壁を見て、目が覚めた。横で安代としず子の声がきこえた。何か白い服の男としゃべっている声だった。研は気がついて、「先生?桐香の具合はどうですか?」そばの3人は驚いたように、いっせいに研を覗き込んだようだった。医師の牧野は落ち着いた口調で言った、「桐香ちゃんの縫合手術は成功しました。左側に受けた傷と打撲も大したことは無さそうです。そう言われた研は逆にゆっくりと笑った。「お父さん、どこか、痛むところはありますか?」牧野は真顔できいてきたが、「い、いえ。」僕は全然平気です。」そう答えながら,ほっと胸をなでおろしている、自分を研は感じた。と、そこへ今度は警官の服の男が、「すみません、目覚めたところ、恐縮ですが、事故が起こった時のことは覚えて
いますか?」本当に割り込んできたというように、質問を浴びせられた、研は少し驚きながら「覚えています。」静かに天井を見つめながら、はっきりと言った。「交差点の中で右折しようと、止まっていたら、左側の方に真っ直ぐに突っ込んできたように思います。研はこれも天井を見つめながらゆっくりと言った。すぐに
「おい?桐香の所へ連れていってくれよ。」今度は、慌てるように研はしず子に向かって言った。
「いや、まだ安静になった所なのでもう少し後にしましょう・」牧野が、なだめるような、口調で言い放った。警官に報告事を大分話したと思ったころ、3人で桐香のいる部屋まででかけていった。病院は、市で一番部屋数が多い建物が大きい医療センターだったので、ちょっと迷路のような通路をあるいてやっと、たどり着いたが、部屋に入ると顔を包帯でぐるぐる巻きにされた
ミイラのような桐香がベッドで起き上がっている姿を最初研は見つけ、おもわずこみ上げてくる涙を必死にこらえた。それを見つけたのか、「パパ大丈夫?」そう言いながら思い切りな笑顔をみせながら、言ってきた。研は涙を手で拭いながら、「今晩だけ、泊まって、明日帰ろう。」そう言いながら研は桐香の手をぎゅっと握った。握りしめた桐香の手は暖かく小さくあどけない。心の痛みが胸に重苦しく、響いてくるようであった。やがて、そういえばぶつかってきた奴らは?と、ふっと、思い浮かんで、しず子に聞くとこの病院にはいるけど、もう会ったと聞いた。50歳台の男性らしく警官と一緒に誤りに来たとしず子は無表情で
研の顔を見ながら言ったので、とりあえず怒りは抑えられて研はふん、と横を向いた。今更何をどう、何を言ったらいいのかが、思いつかなかった。まずは桐香の顔の傷のことで、考えが、定まらなかった。この先顔の傷が、どうなっていくのかが、すべてのような感じがした。平成14年・3月。桐香の顔の傷は、21針縫った跡が残ることになった。縫った糸の抜糸後、傷は左の目の上から鼻
の上を通って唇の右側を通っていて、本当に刀でばっさりと顔の目の上から唇にぬけるように斜めに切られたような直線的な傷となって残った。醜くくて、痛々しいように見える。違う言葉でいうとするならば、怖くなるといったぐらいに、凝視、しずらい。できるなら、めをさけたくもなった。本人は以外と気にするようでもなく、よく笑った。だが、その真意なることを研もしず子も桐香には、訪ねてはいない。時の流れが、顔の傷をどうしたらいいのかという問題を、口にはださないままに、x時間のせいにして、互いを励まし合いながら、でも逃げていたのかもしれない。研はそれを感じてはいたのでそんな自分を嫌い、自分がいたたまれないのか、あまり酒を飲まない性格とポリシーを、あっさりと捨てて、家でも、けっこう酔うようになった。桐香が、涙を流したとか、あった日などは、夜遅くまで飲んで自分も泣いていたりもした。桐香はまだ小学2年生であったし、学校では交通事故のせいで顔が傷ついてしまった、という理由を話して、それでもなんとか普通にに生活と時間は穏やかにながれていた。両親の心配は特に重くなるということもなかった。しかし、一部の男子からはキズかとか、モンスターとかといわれて、泣かされたことはあった。が、一度研がその話を兄の研太に聞いて、学校に怒鳴りこんでからは、そんな噂は聞かなくなった。それよりも
桐香の足が異常に速いという噂の方がもっとすごく近所周りにはひろまっていて、研は顔の短所に反して、足が速いと言う長所にとまどったりもしていた。ただ一つ戸惑うのは、運動会にしても、競技大会にしても、一番で走ってくるのもいいがその度に顔の傷がより、多くの人の目にさらされるような気がしてあからさまには喜びが素直にならないもどかしいような思いがなぜか心に暗さを放った。昭和26年安代の才能を生かせないまま、橋本はその後間もなく東北を離れ東京に戻り、倉木の後釜として当時マラソン競技で優秀を作ったS&B食品の監督に就任した。結婚後2人の子供をもうけ、長女の橋本あずさが、そのあとを引継ぎ、監督となった。桐香は短距離もはやいが、長距離の心肺能力も、異常なほどの強さが目立ち、いつしか、高校総体5000メートルで世界の記録へあと30秒とせまり、S&B食品寄りのスカウトを受けて、まさにオリンピックを目指す日本の代表選手へと上り詰めていた。っ橋本あずさが、初めて桐香を見たのは高校総体の5000メートルの試合であった。叔父の誠はこの子の叔母を昔から知っていると言って、この試合を熱心に見ていて、この桐香をずいぶんと興味を持ったように、この子の将来を予測でもするように未来の金メダリスト、だと、つぶやいたりした。桐香がちょうど、sb食品に入社した時に、倉木の長男の倉木翔太も一緒に入社していたので二人は初めて競技グラウンドで面会した橋本あずさにしても、初対面であった。この時に初めて翔太は練習で、桐香と3000メートルの記録を計る競争を兼ねて走りあった。翔太が桐香をすごいとおもったことはいくつかはあるが特には、ラストからのスピードの速さであった。桐香の顔の傷は、確かにあまり見つめたりはしなかったが、瞳の青さが、きれいだと
素直に思った。桐香は顔の傷のことをあまりきにしてもどうにもならないと思う癖がついていたので、男子の前でもいつも正面で向かい合った。たいがいの男子は視線を右側に移しながら桐香と向き合う。桐香は鏡の前で自身と向き合う時にはいつもニコッと笑って魅せる癖がついていた。それを悲しい癖とか思ったりもするときはあったが、いつからか、それも心の中にとじこめた。幼い時から、何事にたいしてもポジティブであり男勝りな性格だと、妻のしず子は研によくそう言い放つ。逆にネガティブな研の方が桐香にはよく励まされる。監督のあずさは翔太の才能をあまり評価はしてはいなかったが、ルックスの割には、男 っぽい性格がかわいくて、あつかいやすい男子ぐらいに、おもっていたが、自分に好意があることはかんじていた。しかし、なにより、監督と選手という一線はあると思っていた。あずさは美しく、美人であったが、父親の誠が、なぜかうるさく、言い寄ってくる男たちを次々とさけてきた。キャラ的にはキャリアウーマンてきな冷たさが、近寄ってくる男たちの気持ちを萎えさせた。「監督~といつも、すり寄ってくる翔太のふざけを桐香は横目で観ながら笑っていたが、時おり、傷の奥から覗くように見る桐香の青い瞳は綺麗で翔太はいつもそんな桐香にゾクッとする魅力を感じて
少し、心が惹かれていた。が、直接的な好意というものを桐香に示すということもなかったし、あずさの指導を受けている立場でもあることから、練習中に同じ選手同士で恋愛感情などを告知するなどといった余裕も、機会も時間も態度もかんがえられなかった。翔太にしてみると、美人監督とかわいい女子選手に囲まれてこの3人との時間は練習以外を除けば喜びの時間といえば本当にその通りな羨ましい男子の一人であると他の男子は思うであろう。あずさは、同じ女子として、桐香にはいくら顔にハンデがあるとはいえ、その事に関しての差別とか哀れみとかいった気持ちなどは一斉持たないといったくらいに、妥協とか、優しさとかを持ちいれない、徹底した鬼のような指導と練習を二人には、強要させた。その為の言葉のなじりあいは烈しく、汚く、たまにみにくる、関係者たちは目を開いて、その練習風景に驚き、半ば呆れる人ばかりで、あずさも、S&B陸上取材人達からちょっと行き過ぎではないか、などの言葉をよく言われるようになった。特に桐香への暴言とか、厳しい叱咤は、知らない人が聞けば驚くような、言動が飛び交って、心を揺さぶられる。「こらっ!化け物!」とか、「そんな、顔で、かてるのかあ~!っ。」とかは、いつもの、叫び声としては、日常茶飯事で、翔太も一度つられて、桐香に向かって「化け物ガンバ!。」といったことがあったが、この時は桐香に背中を思いっきり蹴り飛ばされたことがあったので、「聞きながしてないじゃん。」とつぶやきながらよろよろと、立ち上がった日もあった。そんな、チームワークで、3人はそこそこの時間を練習に費やしていた。翔太は長距離競技でのオリンピックを目指してS&Bでの陸上部にスカウトされてから現在に至った。
桐香も来年に行われる名古屋での、国際マラソンでの、オリンピック出場をかけての選考に受かるという大きな目標があった。その為のあずさの厳しい練習であった。だから、3人にとってはこれから冬を越し、新年を迎えてからの日々の後からは、今のような笑顔が出ているかはとても不安であり、以外に心の中では怯えていた。だから、3人はたまに酒をくみかわしてはストレスを癒し合うことが、ちょくちょく会った。きっかけはたわいもない監督の機嫌が良い、悪い時に誰かが弾みで誘いあう。「キズ、行くか?」けっこう熱く怒鳴った時などには、あずさが誘う。「監督~、僕も~」と、翔太も混じったりして、まあいいコンビであった。しかし、桐香には少し翔太の心が、気になってきたりしていた。やはり女が2人いると、翔太とあずさの心の関係が気にかかっていた、それはまたあずさも同じことを感じることがあった。そこにははやはり翔太には、気がつかない微妙な女同士の微妙な気になるといったような興味
であった。でも基本的にあずさにしても桐香にしても翔太を恋人と思う理由とか、互いに遠慮するといったような接近感がなかった。仲間ぐらいの気持ち以上には発展しない関係であった。だから仲良く酔っていれたのかもしれない。大体 翔太がどちらかに偏れば、きっと3人の仲はおかしくなるであろう、それをたがいには、わかっていたからこその仲間でもあった。3人には余裕はなかったし、まずは桐香の調整は時がせまってきていて、あずさと桐香はとしをこえてからは、いよいよ精神的な調整にもさしかかっていた。雪が降る朝,偶然に安代が家に泊まりに来ていた朝、「キリちゃん、これ御守りがわりでいいから、靴にでも、つけて走って。」そう言ってペリドットという誕生石がうめこまれたペンダントのような物をわたされた。
丁度足首に巻きつけれる長さのベルトの真ん中に美しい緑色の宝石のように輝く透明な石がうめこまれた、伸縮する止金のついたアクセサリーのようだった。「ばあば、綺麗♯。」そう言って安代の手から右手で受け取った。傷の奥から覗く青色の目をいっぱいにまあるく開いて桐香は嬉しそうに微笑んだ。そうして右足のくるぶしの上にそのベルトをつけてみた。丁度いいサイズでぴったりと足首に巻きついた。心の中で綺麗、とつぶやいた。ペリドットはエメラルドのような耀きで、宝石のように美しく光った。「ばあばこれどうしたの?。」「ばあば、が、中学生の時に、もらったんだよ。」そう言いながら、安代は照れ隠しのように微笑んだ。実はあずさの父親の誠にひっそりともらったものである。監督と生徒という間柄の2人ではあったが、真実には密かな愛がこめられていた。2人はそれを言葉にはださずに生徒と監督という間柄を貫いていた。ただ安代はそれを身につけていつも競技に出場していた。安代のそれは、静かな誠への愛に対する答えだったのかもしれない。今にして、そんなように温かく思える。その朝には、研も しず子もまだ寝ていて、このやりとりの事は、研に「これどうしたの?」と聞かれて初めて「ばあば、にもらったの。」と言った。2018年はやがて、わけもなく訪れて、3月11日に、スタートラインの名古屋ドームに桐香はそのアクセサリーをつけてたっていた。フルマラソン出場選手は200名で、国内で169名、海外の招待選手が11名で、オリンピックの選考を兼ねての決戦には、激しい、メンバーがそろっていた。優勝候補に、エチオピアのディババ、日本記録保持者に、ワコールから田中ゆかり、桐香は5000メートルからの初マラソンだが、注目の一人として、マスコミには、優勝候補の一人として、話題にされていた。が、本人は至ってやるだけの気持ちだけだった。放送はNHKが主催となり実況アナウンサーは高橋幸一、解説は、元日本大学陸上部マラソン監督最高顧問の橋本誠「梓の父親」であった。テレビの画面を研は、昔よく通っていた名古屋市の女子大小路と呼ばれる夜には一大飲食街となる一角の小さな居酒屋のカウンター席からそのテレビ画面を睨むように、みつめていた。
ゴールとなる瑞穂陸上競技場には家族席としてのVIP席がちゃんと用意されていたのだが、なぜか、一人の応援をえらんでいた。そこには、安代と研太tの友人4名たちがいた。「さあ、間もなくスタートするもようです]軽快なアナウンサーの高橋の声がテレビから聞こえた とおもうと、急に大きな号砲が鳴り響いたとともに、どどっと選手達の群れがテレビ画面の真中に走りでてきた。「傷、20キロメートルまでは先頭集団にいて、30キロをすぎてから、ゆっくりとスパートして、後半1000メートルで、一気にいくのよ、!。」梓の作戦のつもりなのか、そんなことを、桐香にひそひそばなしのように、梓は簡単に話したが、実際にそんなことがその通りに、走れる選手がいたら、苦労などはしないが、監督という梓は、そんな奴だということは桐香も翔太でさえも呆れる程に能天気な女だということは知っていたので、まあ彼女のいう事ならそんなものか?ぐらいに適当に聞いたふりをして、返事をしていた。最初にとびでてきたのは、橋本誠の大学の選手ばかりで、先頭集団は走りやすく、需要メンバー達も体慣らしぐらいのつもりのメンバー達で、構成されていた。桐香は無事にスタートできた今、そういえば気になっていた安代の言葉を思い出していた。「キリ、もしも、足の裏側が、痛くなったら
奥歯を2回続けて噛むのよ!。痛みが収まるから?。」謎めいた言葉だったが、気になっていたことがなぜか、今ふっと頭にうかんできた。空気と風が冷たく道路の向こう側からは、結構騒がしい応援の声がこだましていた。桐香は、テレビカメラの中継車を見つけてゾクッとたじろいだ。ひょっとして、写っているのかな?s&b食品のユニフォームを着た すらっとした、桐香の足と走る横顔が画面に映っている。研は、ししゃもをかじって、ジョッキのゆずチューハイを一息で グッと一気に飲みながら、それを見ていた。 丁度、妙音通り交差点を大きく右側に曲がるカーブを一つの集団が一緒に並んで曲がっていた。「先生、この集団が第一のかたまりで続いて行くんでしょうか?。」キャスターの高橋は、無言でいる、橋本誠に静かに尋ねた。「そうですねぇ~、ここから20キロ地点までに、抜け出た選手に、誰かが、ついていくでしょうね。」あいまいだが、解説者らしく、コメントを言った.桐香と田中ゆかりが、、アップで、画面に映しだされた。「大将!、おかわり!。」そう言って研は、ジョッキを大きく右手で上にかざして見せた。「あっあ~、ここで、田中ゆかりが前にでてきた。」急に驚いたように、声を高めに高橋が叫ぶように声をだした。「そうですね、少しスピードを上げてきましたね~?。」橋本が続いて言った。2人が言うように田中が5メートルぐらいであろうか?先頭に立って駆けだしてきた。桐香の傷がアップに映る、近年のデジタル画像は、肌の色、質までもが?リアルに見えるので、桐香のような顔の映像ははっきりと見えすぎて、それを嫌だと思う人の心のことなどは考えていない。、早い話が、マラソン中継の映像にどうのこうのと注文をすることはあっても、カメラマンに文句はいえないし、文句を言える道理もない。しかし、その傷が、研にあたえる苦悶はいつもと同じで自身への罪の意識を搔き立てる。酔いが、ひと時の苦痛を紛らわせてくれる。それにすがり、耐えようとする。心に浮かんでくる桐香への想いと愛、が、余計に苦しさをあおって、心に刺さってくる。起きてしまったことに対して、どうしようもない後悔をしても、仕方がない。そこから、初まるものといったことは、何もない。ただ、悔やむことだけである。それをわかるだけに辛い。田中ゆかりから、少し距離がついたように見える。その後ろを桐香が追っている。桐香の傷ついた顔の汗が、画面に映っていた。っ研は、ししゃもをかじってから、ジョッキのチューハイをグーっとのどにおくりながら、画面を見ていた。田中ゆかりに今度は桐香が並んだ。「先生、この2人の一気打ちの勝負でしょうか、ね~?。」高橋は声を落としながら、そう尋ねた。「いや~、小泉選手にも作戦は持っているとは思いますから、どこから勝負をかけるかは、監督の指示しだいでしょうね~?。」娘が監督だということを分かっているからのように無難な答えを静かに橋本は話した。それからはふたりが画面の真ん中に映りだした。その後ろ側には、他にディババとアメリカのメラニアが見える。画面に見えるのは4人と数人だけだ。居酒屋のテーブル席に、ちょうど5人の若者が入ってきて大将が応対している様子を横目に研は、テレビ画面を見ていた。ジョッキを飲み干した。自分がいら立っても、ぜんぜん余計なお世話事なのだが、そのことは自分でも重々に わかってはいる。だが、むしろそれを気取っ
て逆にそれを酒を飲む口実にしている気がする。弱い自分がいることは自覚はしている。田中ゆかりはまだ20歳である。去年オーストラリアでのマラソン競技ですい星のごとく登場して1位になった。今回の桐香にしても似たような新人ではあるが田中ゆかりの顔に傷はない。「おい?この子なんだよ、この顔の傷?。」さっききた、若者の中の誰かが大きな声で叫んだ。その言葉に研はどきっと、心臓が震えたような驚きを感じた。「なんだ~・?。」馬鹿者め、心の中で叫んだ。こういうことを言われたくなくて酒を煽っているかのように気持ちは悪い。テレビ画面に桐香の顔がアップになった。「小泉選手が今、田中選手を追い抜いて先頭に立ちました。」アナウンサーの高橋の声が、興奮気味に高い声に変わった。
小泉選手は競技場に入る前に1位で入る作戦かも知れませんね~、まだ、ディババとメラニアが後ろについてますから、ここで一気に独走の体制に持って行こうとするかもしれません。」橋本誠が、ゆっくりと話した。そういうとたんに、桐香は一気ににスピードを上げて先頭に立った。余裕を抱えたように桐香の足は速く、軽快で、自身があるような確実なスピードに見えた。その少しには田中がぴったりとついて、メラニア、ディババと続いている。しばらくその中継画面が続いた。「しかし、この子、まじ、やばいよな?。」「おい?でもこの子優勝候補だぞ?。」この会話は研にははっきりと聞こえてきた。が、思いとは別にジョッキのグラスをグーっと口に運んで飲み干した。大将、おかわり。」少し声を大きくして言った。心の中では、こいつらあんまり桐香のことを馬鹿にしたら、喧嘩にもってく。」ぐっと心の中で叫んだ。実際に酔いも回ってきていて、なぜか興奮気味な自分が、わかってきたので、おい、もう黙っていてくれよと そっと呟く自分もいた。「小泉選手がここでスピードをあげてきました。」高橋の声のトーンが一気に高くなり、若干興奮気味に叫んだように聞こえる。と、テレビ画面にひかれるようにみんなの視線が向いたように研には感じた。実際に走っている桐香はここから前にでていこうという気持ちになっていて速度を上げようと思っていた。だが、作戦を出す梓の姿が以前から少しも見えないことに桐香は正直に先ほどのカーブ地点の所から不安に駆られていた。「沿道の方は常にみていてよね。」「あたしがサインをちゃんとだすからね。」その言葉を信じていた。梓のことを信用してないわけではないが、
自分のことを平気で、化け物呼ばわりする、女であり、ちょっとクレイジーな個性をまとう女なので、ひょっとしたら忘れてたりしそうで桐香も少しの不安がないわけではない。梓の父親は名高くもマラソンでは、名門大学と呼ばれる大学の最高顧問の肩書を持つ、監督である。不思議なのが、なぜかばーば、「安代」のことをよく知っていて、現在のS&B食品にスカウトの後押しをしてくれたのはなぜか梓の父親であることを、母しず子から聞いていた。桐香には、今余裕のあるここの地点から独走していいものかどうなのかに迷っていた。後方からの、靴音が、聞こえてくるだけに、焦る気持ちが、心をあおるのだ。と、右側の方向から、真っ赤なトレーニングコートを着た梓とその横にまるでそのお共のような青色のS&B食品のジャケットを着た翔太が見えた。若宮通りと呼ばれる大きな交差点の沿道から、二人共 身をのりだして、大きく手を振りながら何かを叫んでいるような姿が一目で見えた。とにかくそっちの方に走りだした。ここを右側に回って行くと、その先は中日新聞新聞社のまえになり、やがては競技場となり、最終に向かって行くことは、コース確認練習で走っている。いよいよだという、緊張感に襲われてきたが、そんな中、
「キズ、ゴー、だよ!」「ゴー!。」
目をを吊り上げながら、悲鳴のような梓の叫び声が聞こえてきた。桐香のことを梓はキズ、と呼ぶ。もうそう呼ばれることにもいつしか慣れた桐香は、ピースサインを出しながら、沿道のふたりに見えるように、にっこりと笑いながら通り越して走っていった。沿道から見る実際に走っている選手のスピードというものはすさまじいというほどに、迫力と気迫?があり、速い。まるで疾風のように一瞬の
風のごとく通りすぎていく。桐香もそんなように交差点の右側へと曲がっていくコース印のあるアスファルトの道路を駆け抜けて行った。そこから先の直線道路ずたいが中日新聞社前の4車線の広い道路である。その後から、陸上競技場へと続いて行き、フィニッシュとなる。30キロ地点を越えて行く所である。
研は、居酒屋のカウンターから、そのテレビ中継画面を睨むように見ていた。「小泉選手が、独走で、このまま入るのでしょうか?。」高橋の声が、いっそうに甲高く聞こえてきた。入るというのは、競技場だと言わんとばかりに競技場へと続く道路もテレビ画面にアップに映った。
桐香は独走体制になっていた。オリンピックの出場資格は順位でいうと3位以内に入り、タイムは2時間35分を切った選手に与えられる、といった、規定が定められていた。今現在争っている人の中では3位以内でゴールに飛び込めばいいとされる可能性がある。桐香はまずは順位での勝負のなかでは、1位なので
このまま進んでいくことが希望になる。しかし、タイムの方でも、相当高い記録を進んでいる
かのようなはものは感じる。
もうすぐスタジアムが見えてきた。と、「うあっつ?。」右足の足裏に激痛が走った。と、片足をあげて、身体をゆらしながら、止まって、よろよろと、右足を引きずりながら、地面に倒れかかるように体を縮めながら腰を落とした。いっせいに悲鳴と駆け寄ってくる人々の姿が揺れるように見えたが、それは自分が道路に転びながらたおれたことを、激痛の足と体が倒れたせいだと分かった。足も痛かったが、コンクリートに打ちつけたからだも痛かった。足裏の激痛に反応して倒れこんだせいだとは思ったが、頭の中でもパニック状態に陥ったので一瞬、時間はスローモーション
のように揺れて動いた。ただ、今ここはレースの途中であり、今は、まだ、走っている、最中であることに間違いはない。それは、思っていた。「痛い。」心の中でおもわずに叫んだ。叫びながらも、しかし、どうしたのかがよくわからなかった。傍に梓と翔太といつもの仲間たちが駆け寄って来るのが分かった。地面が、異常に冷たいことを感じた。「キズ、どうした?」質問だとはおもうが、叫んでいるので、よくはわからずにとりあえず、「は、はい、大丈夫だけど、右足の裏が痛い?」しどろもどろにそう言った。マラソンの規定では誰かの補助を受けて走ることはできない、走りを中断したら、その時点で棄権とみなされ、失格の判定をくだされる。オリンピックの出場資格も当然なくしてしまう。倒れた桐香をかこんで、人々の輪ができた。テレビ中継のカメラが、それをつぶさに撮っている。桐香は地面にうつぶせのままで倒れていた。額に汗がういている。居酒屋のテレビ画面に桐香の顔の傷が、苦しそうにもがいているように、写っている。研は、ジョッキを一気に飲み干していた。「大将、おかわり。」大きな声でさけんでいた。
「小泉選手、どうしたんでしょうねえ~・。」高橋も焦りながら、横の橋本に尋ねるようにそう言った。
「多分、足底筋が、裂傷したのかもしれませんね~?、わかりませんが、長距離を走って筋肉が捻挫したのかもしれませんね・?、捻挫は裂傷と同じ症状で、足底筋にかかる負担が一気にかかりすぎるとたまにおこす
起きることがあります。小泉選手にも大分の負担に耐えきれなくなった可能性がありますネ?。あのような倒れ方にはそれのようにみrましたけどね~、でも 棄権をせずに、走りきれることを、ねがいたいですね~。まあ、マラソン競技というものは過酷なものですよ。」
何か優しいコメントのようで、どこか厳しくも、切なさがにじむように、橋本は、桐香に応援しながら、切ない気持ちで言い放った。「さあ、小泉選手、どうでしょうか?、ゴールをあと少しで、大変なことが起こりました。」高橋は、実況アナウンスもしっかりと報道しなくてはいけない指名もあるので、しっかりと、放送することに、動揺をふまえても、とりあえず天下のÑℍ・Kという手前でのアナウンス力というものがためされるというプレッシャーにも
負けないようにかなりの動揺は隠しながらも、心臓はもはや、どくどくと、高鳴っていた。「とんでもないことになりました。」まさに自分の心がそうなったかのようについ口をついてその言葉がでてしまっていた。「でも、多分、小泉選手側としては失格だけはのがれたいでしょうから、走らせますかね~?」橋本が、高橋の慌てぶりを感じたのか、絶妙なホローで話した。
心の中で高橋は「先生、ありがとう・。」おもわずにそうぶやいていた。「倒れてまだうごかない小泉選手のそばには、ドクターでしょうか?後、監督?スタッフが、今、囲んでいます。」「そうですねぇ、もうすぐ判断するでしょうね?」高橋と橋本が順番に解説した。居酒屋のテレビ画面をそこで見ていたお客達はそんなドタバタとした模様と中継映像に夢中になって視線を止めていた。研は、グーっとジョッキを喉に運びながらドキドキとする心臓をそれで癒していた。
おい―。化け物?、走れ!。」と、梓が急にそんな言葉の声を桐香に浴びせかけるように大声で怒鳴っていた。、梓の 顔は切れたような顔で目を吊り上げて怒りの表情そのものだった。
翔太も切れた時の梓の人格は、重々
には、わかってはいたので、これといったこともないように聞いていた。
が、さすがに、時と場所を考えた手前
その言葉は、やばいよ と、心の中で叫びながらも慌てていた。「お化けじゃあ、ないもん・。」なぜか、幼児言葉のような、すねた子供のように、口の中で、もごもごと言いながら 桐香の顔はゆがんで 痛みをこらえるかのように険しさを増している。苦痛で歯を食いしばるような顔に 少し傷もゆがんでいるかのように見える。今度は残っている力を何とか絞りだすかのように両腕を地面について体を持ち上げようと必死に足を引きずり上げようとしている。そのうちに震えている足はゆっくりとじわじわと動きだした。青色の瞳は前を睨むようにじっと、一直線を見ている。なんとか上半身は起き上がり始めるてきて、よろよろと動きはだしている。こんな時のように看護師のドクターと呼ばれている、林は 桐香の足を倒れた時から触ってはいたが、「まだ、足底筋の表は、やぶれてないけど、中の皮膚が、切れている可能性はあるな?」「痛みが、我慢できるところまでは走れるかな?」林は、静かにも落ち着いて絞るような声で、梓の方を見ながら呟いた。まあ、そう言われてみれば確かに痛みが我慢できるのなら走れるはずではある。理論的にはそうであろう。が、痛みが、我慢できないからこそ倒れた。ようは、痛みを我慢すれば走れるよと、説得力などない、やる気次第だということとかわりのない診断の答えのように聞こえる。だが、梓にしても、予想もしなかった出来事にただ、眉をひそめ、考えをめぐらすしかない時間との戦いの中で、林の言葉に、判断を下さなければいけない立場上、的のある意見としては、うなずけた。体が、だんだんと上がってくるにつれて桐香はいっそうに前を睨みながらも、中腰になってはしる体制に構えだしてきた。
桐香はいっそうに前を睨むように見据えた。右足をふみだすとそれでも体はゆれた。競技場の中へと続く、トンネルのような暗い通路の途中の道路である。そのコースをよろよろとした足取りのまま桐香は一歩、二歩と動きだした。あまりにもそれは痛々しい姿に見えて、そこにいるみんなの空気はおもわずにかたまったかのように、静まり返った。「キズ~、あと少しだぞ、走れ!。」梓の狂気的な叫び声が、静まり返っていた通路の暗闇の中で、こだました。
「もうちょいだ、キズ!、がんばれー。」翔太も一緒になって叫んだ。桐香は,はっと?して、奥歯を2回カチカチっとかんだ。目が、パッと開いた。痛くない?不思議な気持ちだが、またよろよろと走り出したが
痛みは消えた。それが何故か?とかは考えもしなかったが、とにかく走り出した。すると田中ゆかりが、いきなりだが やってきて桐香を追い抜いて通りすぎていく。かなり速いスピードである。中継車がそれに続いた。桐香は、田中ゆかりに追い抜かれると、あわてて、気が付いたように追いかけだした。まだ、しかしよろよろと体は揺れている。だが、さっきのような痛みはもうない。気持ちはもう安心した。「ばーば」の言ったことは本当だ?。ありがとう、そっと心の中で叫んだ。前を見ると暗い今の道路の先に明るい陽射しが見えてきた。競技場へと入っていく先だとはおもうが、現在は2番目におちてしまい、先頭に立つには田中ゆかりに追い付いて なお追い抜かなければならない。、心がひんやりとするような焦る気持ちがいっぱいに湧いてきた。痛みが、消えるとまた急に戦闘能力がわいてきて、レースの続きに心は戻ってきた。そうなって、ふと、父の研がよく桐香に言ってきた言葉を思い出した。踏み出した1歩の後の、またその先の1歩を超えた先に勝喜がある。
何かの格言とか名言だとはおもうが、家の桐香の部屋に研が自ら書いた縦型のちょうど文字に合わせた用紙のサイズで、
桐香がとった優勝の賞状の額の中にきちんとその紙が入っていた。毎日何かしらその言葉の文字をみていたのでいつしかそんな格言?どうしてこんな時に頭の中にうかんでくるのか、と不思議ではありながらも
浮かんできた。まさに、しかし、その言葉はこんな時にはあっている場面の、教訓のようにも感じた。居酒屋のテレビ画面は真っ先に入ってきた、田中ゆかりの姿を映しながら、どよめいていた。「あっあ~っと、オーストラリアマラソンの優勝者の田中ゆかりがここで1位で入ってきました。小泉選手は競技場前で、アクシデントで倒れてからここに来てませんので、心配でしたがどうやら棄権になりましたかね~?。」高橋は
残念そうに、声を上げていた。研は、うなだれながらそれを見ながらジョッキを飲み干した。すると、競技場から、もの凄い、悲鳴のような歓声が、テレビ画面を通じてか、聞こえてきた。居酒屋にいてそれを見ていた客のほとんどが一斉に府振り向くと、なんと、 よろよろとまさになんとかだが、走っているだけのようなようなスピードで桐香の姿が映っている。おもわず研の口から「桐香・・!っ!。」とうめくような声がもれていた。画面に傷が大きく映り苦しそうな表情もアップになっていた。「おい?傷の子だぜ・・!。」若者の驚嘆の大きな声が店中に響いた。「いや~、小泉選手が入ってきました。!。」高橋もまさにその若者の驚嘆の声のように興奮しきったような勢いで叫びにちかいようなト~ンそのもので、言っていた、先生、これはすごいことですね~?。」おもわずに高橋に言葉を投げていた。「いや~、小泉選手は無理を承知でもレースを続ける決断がでたようですね?。いや~、立派ですね。続けば凄いことですが?。」高橋も思わぬ展開に翻弄はしながらも素直な気持ちをじっくりと語るように言った。桐香はよろよろと、ふらつきながらも何とか走っているようには見えた。一直線に前を睨むように、進んでいた。競技場に入ってトラックを1周半、つまり600メートルであるが、そこでゴールとなり、レースは終わりを告げる。42.195キロメートルである。しかしトラックに入るのは順位の整理ということで体外は、ここで競い合うというようなことはめったにあることではなくて 大体が競技場に飛び込んだ順番が順位につながる。が、今日のこのレースは違っている。よろけながら、ふらふらの選手が飛び込んで来たからだ。
桐香は走ってはいるがほとんどよろけていてもはや選手の走り
には見えない。しかし、競技は続いている。だが、トラックに入り走り出した。もうほとんどあきらめの気持ちでいっぱいになっていた。よろよろと、トラックに入り先の田中ゆかりの背中を追いかけようとスピードを挙げた。と前に進み出した とたん、痛みが足をもつらせて転んでしまった。が、また、ゆっくりと痛みをこらえながら、起き上がる。「おっと~!小泉選手選手またも転倒しました。」高橋は遠慮もなく、叫ぶような声を張り上げた。観戦者のどよめきが一体にこだました。安代としず子はVIP席から、それを座って見ていた。もう声は出ない、安代の目に涙が浮かんでいた。「桐香頑張って!。」心の中で叫んだ。桐香~、。しず子の声は引き連れた泣き声になっていた。「桐香の前を行く田中選手との距離は、大体100メートルぐらい
はあるでしょうか?しかし小泉選手、おいかけます。足の具合が心配され
ますが、スピードを上げています。」高橋は夢中で叫んでいた。桐香は、必死に追いかけていた。左右の奥歯をカチッとかんでいた。物凄いスピードがでていた。テレビ画面を見ている者たちは、思わずに息を吞んだ。田中ゆかりとの差が一気に詰まって行く速さが、尋常ではない。もう15メートルぐらいであろうか?『す、すごい!。」橋本も、もう夢中になって唸っていた。桐香の顔がゆがんで、食いしばるような顔でアップに映しだされている。桐香は考えていた。なぜ、今 走っているのか?どうしてこんなに辛くて苦しい思いまでして走らなければいけないのかそして、誰のために、なんのために?小学2年の時に車に乗っていて、事故にあい 顔が傷ついてしまった。父の運転する車に乗っていたが、父のせいではない。自分の買って欲しいものを買いに行く途中での出来事であり、確かに衝突してきた車
の運転手のせいではあるが、なぜか恨みを持つまでの心にはならなかった。そこは確かに人がよすぎるといえばそういうことにはなる。が、包帯をほどいて自分の顔を初めて見た時には誰かを恨むとかそんなことを思う余裕などが存在はしなかった。どこか違う世界に来てしまったような気がしていた。ショックが大きすぎていた。それよりもこの顔はこれからどうなるのとか?なぜか他人の顔のように見えた、ようは、自分のことではないように自分に言いきかしていたのもしれない。心が逃避してしまっていたのかもしれない。人は時に 自分の都合のいいように自分を別人のように見せたりすることがあったりするのだろうか?。とにかくずるい解釈を勝手に作ってしまったのかもしれない。まるで他人事のように。そうして自分を安心させたかったのか?。
病院を退院して初めて学校に行く朝に、桐香は泣いて行くのを拒んだ。初めて桐香がそんなに泣き叫ぶ姿を研は、見ていた。心が潰れそうであった。だが、研が、抱いて無理矢理 車に乗せて出かけた。しず子も一緒
に乗った。起きた事件の大きさを家族が分かったような朝だった。その日、桐香
はみんなに もの凄い 同情と憐れみをもらった。「でも、そんなにたいした傷じゃあ、ないわ!。」そう言って慰めてくれた子もいた。「ああっ!。」今田中選手をぬきました!。」高橋は叫んだ。田中ゆかりの形相も、必死に歪んではいたが、抜かれる時には、まさかとでもいうような驚きの表情が浮かんでいた。しかし、今度はディババが、もの凄い形相とスピードで、二人の後ろから表れてきた。この、出来事に桐香は焦って、もう息が、できなくなるほどの、恐怖を感じた。まっ!まさか?ま、まさか?。」慌てふためいたが、カチッと噛んで、とりあえず全力疾走になっていた。「す凄い!、すでにもう40キロメートルは走ってきているのに、ラストランはもう、短距離走決戦です!!~。」高橋はもう自分が興奮状態で叫んでいるかのようにまくし立てた。本当にテレビ画面の中の競争は、そう見えて、誰もが言葉を無くして睨むように見ていた。最後ゴール50メートルは桐香とディババは一瞬並び、いく秒かの差で 桐香が,勝ったようには見えたが、それも、写真判定による僅差
であった。マラソンの最後が、こんな戦いになることを誰も想像してなかったようで、桐香がゴールに飛び込んだ時にはもの凄い音の歓声が、どよめいていた。「ただ今、写真判定の結果により、小泉選手、がどうやら優勝ということに決定いたしました!。」「記録の方は2時間28分15秒の今世紀では、世界最高記録になりました。いや~、高橋さん凄いラストでしでしたね~?。」高橋はまだ興奮気味でそう言っていた。「小泉選手は、それにしても素晴らしいの一言につきますね!あのディババ選手によく最後まで競り
勝ちましたね!いや~、立派な選手ですねぇ。」橋本も、やや興奮気味に、本当に納得したかのように語った。
ゴールに飛び込んだところを梓と翔太は泣きながら、t両腕をひらきながらタオルで受け止めていた。
さすがに桐香はゴールに飛び込む前には、もう足の痛みとかのことは、考えられずにただ無我夢中という一言しか考えられずにいた。だが結局は勝ったような気がしたので、それでもう何もかもが報われたような気がしたので嬉しさに包まれた心がいっぱいで、終わったことに本当にほっとしていた。梓と翔太の涙に、もらい泣きの涙をかくせなかった。救急車に乗せられて病院へと向かいながら、また考えていた。小学3年生の時に運動会のリレーのアンカーに自分から希望して結局 最後のバトンタッチの時にバトンを落としてしまい 結果、桐香のせいで失格となり、そのためにクラスは最下位になった。そうして教室に帰ってから林君に、「だからバケモノなんかをアンカーにしなけりゃあよかったのに!。」と、そう みんなの前で、罵倒されて、「化け物じゃあ、ない!。」と言って泣いて林君につかみかかりながら、思い切り顔や体に叩きかかって少しの傷をつけたことがあった。なぜだろうか?その時の情景などを思い出していた。それから一週間ぐらいであろうか、クラスのみんなから、無視され、避けられ続けられた。結局、最後に,桐香は林君の前で、頭を深く下げて謝ることになり ることになその後からは無視されなくなった。そんなことが、ぼんやりと頭の中にうかんできた。その日は学校の帰りから家に帰ってからも泣いていた。それを見た研が、すぐさま 桐香を無理矢理 車に乗せると学校に行って、職員室にどなりこんでいったことを見ていた。その時の息ができなくなりそうだった情景が暗い夕暮れ時だったことが頭の中には焼き付いている。桐香が苦しかったものとはいったい、なんであったのか?。でも今は嬉しさにあの頃のことも今日からは苦かった過去の経験とかになって、すべてはむくわれるのだろうか?そのために私は今さっきまで、死に物狂いとなって走ってきたのだろうか?。神様が与えてくれた桐香という女の生
の物語の中のこれは旅の途中の一場面の通過を今まさにしているところなのだろうか?。しかし、それならそれでも自分は、後悔はなく、これからもこの運命をいきていってもいいと、思えている。それほどの価値感は今あるように思える。顔の
傷を初めて見た時の絶望感から、ここまで生きてこれたのもやはり「ばーば。」。から遺伝された親指が伸びるという体を持ち、それに苦しむとういうこともなく今とても満足して喜んでいる事実を勝ち取った。まだ、この先の一歩はあるだろう。救急車から、降りて病院に運ばれるという時になぜか解説者の橋本誠が、叔母の安代と一緒に桐香を築かってくれたのか、並んで見に来てくれた「お疲れ様です、早く傷を直して、また、戻って来てくださいね!。」橋本は、にっこりと笑いながら本当に静かにゆっくりと優しく言った。「ありがとうございます。」桐香も微笑んで、ゆっくりと答えた。「えっ?これは?。」急にその時、橋本は、桐香の足についていた、美しいアクセサリーを、指差しながらはっと?驚いたような表情をうかべた。「ばーば、にもらったの、。」そう言いながら橋本と安代の顔を見詰めながら、小声で言い放った。安代の顔が一瞬だが、女の顔色にかわったように、桐香にはかんじてならなかった。緑色に輝いている緑色の宝石は、それにしても桐香が何度も倒れてついたのか、いくつかの、傷がついていた。橋本は、その時、安代の顔をのぞくようにながめると、急に涙をこらえるかのように空の方に顔を上げた。だが、頬には一筋の涙が流れたような跡が見えた。桐香は動揺しながらも橋本を見ている安代の顔を見ながら、満面の微笑みをうかべていた。「ばーば。」が昔、橋本から貰った、贈り物だったというものだったのか?と想像したが、間違いはないな!。と思っていた。安代と桐香は同じ誕生石だった。傷だらけになったペリドットは それでも美しく輝いていた。