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異世界偉人フェスティバル  作者: 遠野空
第一章 幻想世界の秋葉原
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手をつなぐ

 当時、小学校四年生だった優は、その歳の女子にしては身長が高く、既に150センチちょうどあったものだが。


 あいにく今の貴時は170センチを越えたので、20センチも差があることになる。

 当時は大人びた同級生に見えたユウも、今や普通に可愛い小さな女の子に見えてしまう。


「ど、どうして」

「なぜ、タカくんがこんな」


 見つめ合った挙げ句、二人同時に声が出た。


「先週来た人って、もしかしてユウちゃんのことかな?」

「う、うん……タカくんは?」

「俺は、実はたった今。ちなみに、町を出たのはつい昨日で――ええと、ユウちゃんが消えてから五年経ってる」


 貴時が指折り数えて教えると、優は胸に手を当てた。


「もう……そんなに」


 神秘的な黒い瞳に、困惑した貴時の顔が映っている。


「ええと、まあ同じ場所からココへ迷い込んでも、あいにく霧の中を通る時に時間がズレちゃうみたいでぇー」


 チェシャ猫が女子高生みたいな口調で、横から説明しくれた。


「さっきも言った通り、不可抗力ですね。元々、同時刻に行方不明になってここへ来た人が、同じ時刻に到着することだって、珍しいですしー」

「それにしても、ズレすぎじゃない? 五年前に別れた友達が、先週ここへ来たばかりて」

「別れたって、お客さん達は付き合ってましたかぁ?」


 底抜けに明るい声で言われ、貴時と優は一瞬、顔を見合わせ、それから同時にさっと目を逸らして俯いた。

 多分、ユウと同じく、自分の顔も真っ赤だったことだろう。


 貴時は内心で大汗をかいていた。


 






 チェシャ猫との会合は、幼馴染みの優――ではなく、ユウの登場でなし崩し的に打ち切られてしまった。

 というのも、住む場所についてはユウが貴時の服の裾を引っ張り、「タカくん、ユウがいま住んでいるビル、お隣が空いてるのよ」とそっと教えてくれたのである。


 ついでに「ユウ、同じ部屋でもいいけど」と言われたが、それはさすがに辞退した。


 もう小学生じゃないので、いろいろとまずい……とにかく、まずいのだ。

 もちろん、隣に住む分には全然問題はないし、貴時としても望むところである。

 貴時とユウの双方の意見がまとまったところで、チェシャ猫が軽く「じゃあ、住処はそういうことで~」とあっさり言って、一枚のカードを渡してくれた。


 トランプくらいの大きさで、住所と名前、それに迷い込んだ日付を書く欄がある。


「空欄はちゃんと記入しといてくださいね~。あと、申請しときますから、1日にはこのカード持って並んでくださいね~」

「並ぶって、なんの列に?」


 食料配給とかかとぎょっとしたが、貴時の想像するようなことではなく、「この地区は保護区なので、べーしっくインカム制というか、日本政府から保護費が下ります。要は、生活費の支給ですね~」と説明された。

 貴時としては保護地区というのが気になったが……まあ、それも後でユウに訊けばいいだろうと思い直した。





 そんなわけで貴時とユウは、中央通りから二つほど通りを離れた裏道を歩き、ユウの住んでいるビルに向かいつつある。


 歩き出してすぐにわかったが、やはりここは貴時の知る秋葉原のように見えて、そうではない。全然違う。建物がかなり古びたものばかりというのもあるが、そもそも貴時の知る秋葉原には、ロボットにしか見えないメカが闊歩したりしていなかったし、着流し風の侍が二本差しで歩いていたりもしない。

 それに、本来の秋葉原とは、路上を歩く人の数が違う。ここは本当に、ど田舎レベルで人が少ない。

 それともう一つ――この町には、銃刀法的なものはないらしいっ。

 なぜなら、普通にガンマンみたいなヤツまで悠然と歩いているのを見たからだ。


「け、警察とかないのかっ」


 思わず口走ると、ユウが哀愁漂う笑みで見上げた。


「自警団というのがあるけど……この地区はその自警団も少しまずいことになってるみたい」

「自警団っ!?」


 貴時はなんとなく、田舎の消防団みたいな組織を思い浮かべたが、多分、違うだろう。

 あと、今すれ違った人、全身バトルスーツみたいなの着込んでて、とてもじゃないけどリアルワールドの人に見えなかったっ。

 振り向くと、生尻かと思うようなぴっちりスーツのお尻が見えて、相手が女性だっただけに脳が沸騰しそうになった。

 驚くというより、驚愕のレベルである。


 貴時が一人でいちいち動揺していると、ふいに手を握られた。

 危うく声が洩れそうになって横を見ると、ユウが当然のような顔で手を繋いでくれていた。

 貴時と目が合うと、「ねえ、なつかしいね?」と言わんばかりに微笑む。


 記憶に残る、そのままの笑顔で。


 そういえば当時二人で遊んでいた頃は、駄菓子屋に行く時など、よく手を繋いで歩いていた。幸い、近所に二人をからかうような悪ガキもいなくて、微笑ましい関係はユウが消えるまで続いたように思う。


 ただ、あいにく貴時は「十五歳になった今では、手を繋ぐごときは余裕」とは思えなかった。むしろ、異性と手を繋いだ経験なんぞ、まさにユウと一緒の時が最後だった。

 そのせいか、めちゃくちゃドキドキしてくる始末である。


 自分の掌が汗ばんでないか、気になってきたほどだ。




「……タカくん、ユウを探しに来てくれたの?」


 無口なユウがふと尋ね、貴時の意識はようやく浮上した。


「いや……ユウちゃんがここに来てるって知っていれば、探そうとしかもだけど、そんなヒントはなくて」


 貴時はここへ来た事情をざっと説明し、最後に付け加えておいた。


「ただ俺は、ここへ来る前に、ユウちゃんがいる世界へ行きたいとは願ったよ」


 これだけは主張しておきたくて、貴時は恥ずかしくてもそこはきちんと主張した。

 主張して正解だったらしい。 ユウは手を放したかとと思うと、今度は両手で貴時の手を抱え込むように持ち替え、「……嬉しい」と小さい声で呟いたからだ。


「いや……それはまあ、当たり前でっ」


 しどろもどろになった貴時の背後から、声がかかった。


「ようよう、にーちゃん! 昼間から見せつけるねえっ」


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