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血姫盛んに  作者: 出家大
4/5

やられた

今回も短めです

 四話「やられた」

 

 まずは私自身の紹介を。

 私の名前は三紗登。苗字は凪です。

 私は所謂、没落貴族。そこに生を受けた次女です。


 あれは、税金の徴収を受ける前日で、お金を作るために家にある金品を売りに町に出向いたときだと思います。

 没落貴族というものはお金はないのですが、家柄だけは無駄に高く、税金もそれに比例して高いのです。見栄も無駄に張ってしまうものですから滞納なんて許されませんし、表面上だけでも贅沢な生活を装っていました。

 …ああ、すみません。腕の話ですよね、わかっていますよ。


 その日は、馴染みの古物商が暇をとっていまして、仕方がなく他をあたろうとしましたが、町中の骨董品店が口裏を示したかのように店を閉じていました。

 私は必死で探しましたとも、ええ、ええ。お父様からの折檻が恐ろしいものですから。

 暫く歩き回った後に一人の露天商を見つけました。乞食と見間違うほどのみすぼらしい男でしたが、羽振りは良かったです。いくつかの品を私の予想の桁二つ多く買い取ってもらえました。

 

 そして、その帰り道です。その場所から家に帰るには裏路地を通るのが最も早いので、日も暮れかけで多少の戸惑いはありましたが、その道を通ることにしました。

 それがだめでしたね。少しすると足音が聞こえてきました。歩くたびに足音はどんどん近くなってきました。


 もう堪えきれない。そう思って振り返りました。


 しかし、人影はありませんでした。不安に思いましたが、帰ろうと向き直った途端。

 腹部に強い衝撃を受けました。見覚えのない傷跡があったので、おそらく刃物でしょう。同時に口を塞がれ、叫ぶこともままならならずに気を失いました。


 

 目を覚ますと、診療台の上に載せられていました。

 そばにあった点滴台を杖にあたりを彷徨い、出口を探しました。


 その途中で腕に気付きました。このおぞましい腕に。

 はじめは現実がとてもじゃないけど受け入れられなくて、そばにあったメスで切り落とそうとしたり、柱にぶつけてぐしゃぐしゃにしようとしました。

 

 え?馬鹿らしいですって?じゃあ、あなたもこんな薄汚い手をお付けになっては?


 さっきから口が悪いのは別にいいです。私もこんな手に嫌悪感を抱かないほうがおかしいと思いますから。

 ともかく、私はひとしきり暴れたあと観念して出口を探しました。腕はできるだけ見ないで済むように布で巻きました。人にこんな姿見せられないですし。

 幸いにも出口はすぐに見つかりました。出口からの光には目をつぶされそうになってぎょっとしましたけどね。

 出口から外に出たのはいいですが、そこで力尽きました。もう駄目だと思ったその時に、さっきの監視していた少年に保護されたというわけです。




 「ふむ…」


 「気に入りませんか?」


 隊長は話を聞き終わってからも腰の刀に手を掛けたままだった。一片の容赦がうかがえず、次の瞬間に私の首が落ちていても全く違和感はないと思った。


 「覚えすぎなんだよ。台本通りって感じが拭えない。その記憶力を腕についての情報にもっと注いでほしかったね」


 そう悪びれもなく言い放つ。なんだか腹が立つ。確かに腕が気色悪く、私が何をしでかすかわからないのは理解できる。しかし、私は被害者なのだ。もう少し信じてもらってもよいのではないかと思う。


 「さっきはきちんと話を聞くって…私を認めるって言いましたよね?」


 思わず口に出す。この発言によって自分の立場が危うくなろうが構わない。もう我慢の限界は近かった。続けざまに言い放つ。


 「わ、私は被害者なんですよ!」


 一番言いたいことだった。涙があふれそうで、声も震えた。なぜ理解してくれないんだ。そんな気持ちで胸の中はいっぱいだった。


 「人間であることは認めたが、人間であってもアイツらの味方をしてる奴らはざらにいる」


 「でも!…」


 反論しようとしたとき、それまで冷静な口調の隊長は勢いよく立ち上がり声を荒げた。


 「人間に殺された隊員が大勢いるんだよ!!お前は今殺すか、後で殺すかだ。私の考えは間違っているか?!」

 

 何も言えずに黙っていると、隊長の後ろからドタドタとけたたましい足音が聞こえた。


 「もうやめてたいちょ!むっくんに呼ばれてきたから何事かと思えば!」


 金髪の少女が隊長に怒鳴った。隊長はといえば、なぜかニヤニヤしていた。


 「いっつもそうやってビビらせるんだから!」


 「ふふふ…怖がらせるのは得意だからな」


 「今殺すか、あとで殺すかなんて論理おかしいでしょ!」


 ついていけない私は堪えきれずに恐る恐る聞いた。


 「どういうことですか?」


 隊長の代わりに金髪の少女が私の質問に答えてくれた。


 「隊長は捕まえた人間を死ぬほどビビらせるんだよ」




 「人は臆病な時に一番本性がでるからな。そういう意味ではお前は典型的な何も知らない奴だったよ」


 ほっとしたのとイライラが同時に来るが、先にまだ残っている疑問を聞いた。


 「どう思いながら聞いていたんですか?」


 聞かれてピクッとする。聞かれてやましいことがあったのだろうか?


 「いつ本性を見せるのかなあ…って」


 「ビビらせるって後付けですか?」


 どうやら私を殺そうとしていたのは本当のことだったようだ。うすうす予想していた事実だったが、知らされると冷や汗が溢れる。

 

 

 

まだまだ続くのじゃよ

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