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血姫盛んに  作者: 出家大
2/5

冷静に、落ち着いて

必殺の武器が登場します

第二話「冷静に、落ち着いて」


 仕掛けたのは鞠沙からだ。戦闘可能時間のことを考えればそれは必然であった。

 弾丸のような速さで相手との距離を一気に詰め、踏み込みの勢いのまま突きを繰り出すが、首を振って軽々と避けられる。

 次の瞬間、鞠沙のあばらに重いひじてつが繰り出される。突きの勢いをカウンターとして返される結果となった。


 「ごはっ!!」


 吹き飛びこそしなかったが、一瞬息が出来なくなる。

 ジワリと嫌な汗が滲む。今ので2,3本は折れたであろう。たまらず胸を押さえ息を整えようとする。


 「いい、いい、ぐああああ」


 叫びながらも、挙動は訓練を受けた、冷静な兵士のそのものである。

 燃血隊として培ってきた技術と、異常の身体能力。

 片方だけでも厄介なものが、足されて二で割られていない状況である。理性は失われているが、本能で動くほうが動きを読むということが難しいためメリットとなっていない。


 「ぐおっ!」


 すかさず、うつむいた鞠沙に一撃が加えられる。それを鞠沙は刀を両手に持ち替え、受け止める。ズシンと鈍い衝撃が手、腕、肩の順に響いていく。


 「っく…!」


 あばらは痛むが攻撃を受け止めるだけなら、食らいついていくことができる。しかし、先ほどの鋭い反撃を恐れ、不用意に攻撃に移ることはできない。

 隊員の連撃は続く。その様子はまさに鬼神、あるいはそれ以上の何か。その連撃を、押され気味ではあるが、なんとか捌く鞠沙だったが…


 「ぐががあ!!」


 瞬間、かばい続けていた胸を狙った問答無用の蹴りが襲い来る。


 「しまっ…」


 思ってもみなかったタイミングで蹴りを出され、すかさず腕で防御をするがあっさりと吹き飛ばされて地面に転がる。


 「こんなんじゃ殺してやるなんて言えないな…くそっ」


 そう吐き捨てた後、腰元の通信機からノイズ交じりの声が聞こえてきた。


 『…りさ…鞠沙!!聞こえているか!?」


 「ああ、聞こえている」


 通信が入ってきた。隊員との戦闘に入る前にあらかじめかけておいたのが今つながったのだ。


 『鞠沙、紅仕掛けの使用許可は出してある。存分にやってやれ』


 こちらが用件を言う前に本題の、しかも答えを言われた。おそらく戦闘開始時間と戦闘可能時間、出撃ごとの紅仕掛け使用許可願いを出すタイミングをデータ化し、先読みしていたのだろう。それは非常にありがたい誤算であった。


 「あれが使えるなら百人力だよ」


 『健闘を祈る。じゃあな』


 切れる通信。現在抜いている刀をしまう。

 そして、二本目の刀に手を伸ばし、掴む。すると刀からシステムのものと思しき声が流れ出す。

 【指紋認証…完了、静脈認証…完了、ユーザ名:天本鞠沙…本人確認を完了しました。紅仕掛け「葬り」の使用許可…提出済み。ロックを解除しました。】

 音声を聞き終え、カチリと解除されるロック。鞠沙は徐々に引き抜く。

 見え始めた刀身は、薄い灰色の色素で構成され、まるで雨の日の雲を連想させる。雨雲と少し違うのは、それがガラスめいて透き通っていることだ。

 それは、人を殺すためのものではなく美術品だと言われても、ほとんどの人間は納得すると思われるような美しさを持っていた。


 「うう、うああああああ!!!」


 狂気に取りつかれた隊員は抜き終わるのを待たずに鞠沙に襲い掛かる。速さは先ほどの鞠沙の踏み込みの比ではない。


 「やっぱり、お前速いな」


 が、一瞬早く鞠沙の刃が隊員の肩を斬りつけていた。


 「でも『葬り』を持った私のほうが速い」


 そして、なにが起きたか理解していない隊員が振り上げた刀を落とす。傷は神経をスパっと切断しており、隊員は腕をだらりと落とす。


 「今のはちょっとずるかったかな。なし…と言っても右腕は戻らないし、左腕でもやる気があれば付き合う。戦意をなくしたのなら死んではくれまいか?」


 その言葉を理解したかのように、隊員は落とした刀を左手で拾って構えた。心なしか唸り声はなりを潜め、冷静になったかのように見受けられる。おおかた、本能が危険を察知したのであろう。異常も狂いっぱなしではないということだ。


 「異常もそんな顔できるんだな…次はきちんと首を狙うよ」


 そして両者の間に復活する緊張。しかし、隊員の右腕を使えなくしたからといってはた目から見ると、この勝負の鞠沙の不利は変わらない。

 鞠沙の、紅仕掛け『葬り』を使っての圧倒的な剣速の斬撃も、体に蓄積したダメージのことを考えれば、あと一度振るうのが限界だろう。

 対して、隊員は左手のみしか使えない状況ではあるが、人の枷から解放された体力は底知れず、まだまだ十二分に有り余っているように思える。


 「がああ…ぐああ…」


 有利であるということも冷静になった隊員は理解している。つまり、余力の少ない鞠沙は次の一撃にすべてを賭け、しかも自ら打って出なくてはならないことを。そして、隊員はそれを躱す、あるいは右腕を犠牲にしてでも止めるだけということもだ。

 無論、簡単なことだとは思ってはいないだろうが、できないことではないことは理解している。肩の傷によって理性をわずかでも取り戻させてしまったっことは、一撃で仕留められなかった鞠沙の致命的なミスといえるだろう。


 「お前、次は躱せると思っただろう?」


 鞠沙はそう問う。自らが置かれた危機的状況に気付いていないのではないかと思われるような大口はなんとなく気味が悪い。

 そして、鞠沙は走り出した。はじめの弾丸のようなスピードはなく、格段に遅い。

 隊員は待ち構える。自らの反射神経に全幅の信頼を寄せ、冷静に鞠沙の動きを目で追う。

 刀を下段に構える鞠沙、左手に刀を持つ隊員。


 両者は交差し

 

 片方は勝利を確信し、叫んだ


 

 そして、叫んだ口を開いたまま首はポトリと地面に落ちた


 

 「初めから見えないものが躱せるわけないだろう」


 鞠沙は地面に転がった首に言い放つ。

 地面の首は何も言わず、何も思わず、真っ赤な血を地面に垂らすだけ。



 ――紅仕掛け『葬り』は不可避の死神の刃


 軽く、薄く、切れ味鋭く造られた刃は斬られたことを感じさせないための仕掛けであり、光学効果により一定の距離内では視認することが出来ない刀身は斬られることを感じさせないための仕掛けである。

 それは死神の慈悲でもあり、避けることのできない絶望的な死を見せつける残酷さでもある。



 決着をつけた鞠沙の頭に浮かんだのは、安堵の感情ではなく、ほかの隊員の安否であった。

 歩き出そうと思った瞬間、システムの音声が耳に入った。

 【血液の残量が0になりました。エネルギー生成機関の稼働を中止します】

 「ちっ、燃料切れか」

 体が鉄塊のように重くなり、どう動こうかと思案しようとすると…


 「たいちょ!!大変!!」


 いつになく真剣な辺蓮の声が遠くから聞こえてきた。折れたあばらに響くが、出せないこともない大声で返答する。


 「どうした!何があった?」


 息を切らしながらも、精一杯走り、鞠沙のもとへ近づいてくる。呼吸を乱しているということは辺蓮も燃料切れなのだろうか?

 目の前に来た辺蓮は荒い呼吸のまま口を開く。


 「異常は…すべて…掃討したけど。けど…生存者が」


 「生存者がどうした?もうちょっと落ち着いてしゃべれ」


 息の切らし方が尋常ではない。鞠沙は辺蓮の呼吸を整えさせ、もう一度問う。


 「生存者が、どうしたんだ?」


 辺蓮の口から飛び出したのは、隊員の全滅や、大型異常の発見なんかよりも奇妙奇怪であり、


 「…異常に変異したと思ったら、人間のままだった!!」

 

 ひとまず落ち着いて欲しかった。

 



テスト週間中に合間を縫いつつ書いたので疲れますた

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