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血姫盛んに  作者: 出家大
1/5

斬り捨てごめん

初投稿です。

今までチラ裏に妄想を書いていたダメ人間です。

一話「斬り捨てごめん」


 叫びは村のなかを反響し、それと重なりあう金属音は熾烈な戦闘を物語っていた。

 十数名の隊員を取り囲む村人どもは暴れ狂っている。彼らは名状しがたい「何か」と化しており、隊員らに敵意をむき出し、唸り声をあげ襲い掛かる。

 あるモノは殴りつけ、蹴りつけ、噛みつく。

 知性の残っているモノは農具のスキやクワをとてつもない腕力で振るう。

 隊員はそれらの攻撃を受け止め、ボロボロになりながらもかろうじて死者は出さず、異常の数を次々と減らしていく。

 生憎の曇り空から始まった異常掃討作戦は佳境を迎えている。



 燃血隊の戦闘可能時間は残り15分程度。



 戦闘可能時間


 聞きなれない単語ではあるが、燃血隊にはそれが存在する。

 隊員は、心臓に埋め込んだ「血液燃焼型エネルギー生成機間」によって心臓を通る血液のほんの少しを燃やし、異常に対抗するための力の糧とする。

 しかし、燃やす血液がほんの少しとはいえど、なんの手立てもない稼働は失血による気絶を引き起こしかねない。最悪の場合は死に至るだろう。

 ゆえに輸血をしながらの闘いとなるのだが、輸血装置はかさばるうえに持つことのできる血液の量も多くはない。ゆえに30分が限度となる。

 輸血が切れてしまった場合、血液燃焼型エネルギー生成機関の稼働は自動で止まるのだが、それは異常に対抗する身体能力を失うことであり、再び輸血液を補てんするまで実質戦闘不能状態である。





 刺し、引き抜く。

 斬るという大げさな動作を使わず、的確に急所を貫き、異常の命を散らす若き乙女がいる。

 重なった死体を蹴って散らし、大袈裟に舌打ちをした後、眼前に迫ってきた異常の命を突く。行為は華麗にして流麗であり、熟練した技工をイメージさせる。


 「ペッペッ…くそ、口の中に入りやがった」


 ぱさぱさの髪は乾いた返り血によっていつも以上に硬くなり、縛った髪をほどくのに大変な手間がかかるだろう。顔にも飛び散った血は鞠沙の青白い顔と切れ目を妙に引き立たせ、意外にもそこには一種の艶めかしささえ感じられる。

 返り血を浴びた隊服に春先の冷たい風が打ちつける。薄い隊服は寒風を凌ぐには心細い。異常の膂力は生半可な重装では堪えきれず簡単に吹き飛ばされる。そのため燃血隊の隊服は、異常の攻撃を耐えるためではなく、避けるために軽く薄く作られている。

 ほうっておくと体調を崩しそうな状況だが、どうせこの任務を終えると否応なしに怠さで2,3日は寝込むことになるのだ。衣服を変えるなどという考えは愚の極み、変えられる状況でもない。

 隊の周囲を「異常」化し、頭部が何とも言えない形に膨張し暴れる村人に囲まれた現状において本来は、体調を崩して寝込むだろうという無駄なことを考えている暇はない。

 そんな暇はないはずだが、戦闘に思考を傾けすぎると鞠沙の動きは鈍る。普通の人間とは違い、余計な雑念が鞠沙の戦闘思考における潤滑油となるのだ。肝心の刀さばきは今回の任務においてもかなりの技量で冴えわたっている。

 淡々と一突きで頭を吹き飛ばし、襲い掛かってきた異常の背後からの一撃を返す刀でいなす。

 (これぐらい、これぐらいの雑念があったほうがいい)

 そうして村人を次々と切り捨てる鞠沙の背後で戦場に似つかわしくない、やけに明るい声が響く。


 「お、たいちょすごーい!今度その動き方教えてよー」


 辺蓮がそんな茶々をいれる。他の隊員はしゃべる余裕すら無いというのにも関わらず、この余裕っぷりは流石副隊長というべきである。

 くるくると舞うような彼女の刀さばきは奔放な性格の表れだろう。金色の髪を振り乱し、幼子の様に無邪気だ。小柄な体格ではあるが、それを生かして懐に潜り込み、足を斬り裂いて動けなくさせる闘い方を得意としている。


 「こんな大雑把な動きはお前には似合わない。今の闘い方が似合ってるぞ」


 「えへへ、照れるな~たいちょ」


 実際、こんな明るさに救われる隊員も多い。しかし、おちゃらけた言動をよく思わない隊員も中にはいる。


 「緊張感を持ってください」


 辺蓮の目の前をナイフが通り抜け異常を刺す。それは鼻先をかすめており、あわや鼻の穴がもう一つ増えてしまうのではという芸当だった。

 ナイフを投げた当人は傾いた眼鏡を直しながら異常との戦闘に戻っている。


 「もっと違うやり方があるんじゃないかな?ね、ありちゃん?」


 「合理的に判断した結果です」


 見向きもせずに言い放つ言葉は否定は始めから想定していなかったかのような印象を受ける。

 いい気になっていた辺蓮のテンションをどん底にまで下げた有佐。声に抑揚はなく、感情は見えないが考えていることはわかる。眼鏡をくいっと上げる癖を見せるとき、有佐はいつもこう考えている。

 調子のんな、黙って前を見ろ

 有佐は冷静に徹しようとする子であり、こういう子が必要であることも重々承知だ。だが、自分をコントロールしようとするあまりに真面目で、感情の開放がへたくそである。それは危うい。


 ――戦闘可能時間残り8分


 肉を斬り、骨を砕き、首を断つ。

 任務を遂行できる隊員の数は減ったが、それよりも異常の数の減りのほうが速い。

 任務の終わりが徐々に見えてきた。しかし、詰めを誤ると全てが水の泡となる。鞠沙は周囲の状況を把握しながらも、慎重に闘う。


 戦場に渦巻く狂気、いつ死ぬかという恐怖、血まみれの混沌。

 それに気を張りながらの戦闘は重い、重いのだが隊の信条を守るためである。


 鞠沙の隊の信条は「帰還」

 文字通り必ず帰ること。生死は二の次、けが人も死人も全員帰す。


 鞠沙の行為はできうる限りこの信条のための努力だ。

 けが人を早急に発見し応急手当するための、死者の遺体が損壊しないように別の場所へ移すためのだ。

 しかし、その努力も無駄になってしまう場合がある。


 それがただ一つのタブー、異常と化してしまった場合だ。異常化した隊員は自我があるうちは自殺、狂気に取りつかれた場合は処刑、その後に焼却と決められた。


 即ち連れ帰ることはできない


 鞠沙が周囲の状況を逐一確認するのは、ケガをした隊員や、異常に押され気味の隊員を見つけて加勢するためもあるが、第一は狂気に飲まれて異常化してしまいそうな隊員を見つけるためだ。それは信条を守るため、それと自殺に踏み切れない隊員を素早く処刑してやるための鞠沙なりの優しさであった。


 「げほげほっ、たい、ちょう…?」


 「介錯はいるか?」


 一人見つけた。腹に大穴が空いており、このままだと苦しみながら死ぬことになるだろう。

 彼女の名前を鞠沙は知らない。今回の任務からの出撃だったのだろうか。だが、隊長である自分が楽に死なせてやるべきだと考え介錯を持ちかけた。彼女はコクンと頷き、息も絶え絶えで最後の言葉を言い放つ。


 「う、え、おっ弟をお願います」


 返事を聞き、心臓に得物を突き刺す。絶命したことを確認し、手を合わせ簡単なお祈りを済ませ、周囲を確認しようとしたその瞬間。


 「おげああああああああ!!!!」


 叫びを聞き振り返ると、振り下ろされる刀。かろうじて鞠沙は刀で受け止める。

 突撃の勢いでバランスを崩し、背後の荷台に勢いよく突っ込んだ。むこうもバランスを崩して吹き飛んだことが不幸中の幸いだった。


 「くっ…頭やられたか」


 もしもの場合は殺してやると決めていてもイライラはする。

 自身の無力感ともう少し早く気づいていればという後悔にだ。

 歯ぎしりをしながら崩れた態勢を立て直すと、先ほどの叫びを聞いた辺蓮がこちらに気付いた。


 「たいちょ、こっちは任せて殺してあげて」


 「その言葉に甘えるぞ辺蓮」


 残りの異常は辺蓮らにまかせて、鞠沙は異常化途中の隊員に向き直る。同時にむこうもよろめきながら立ち上がる。

 頭部の変形は見られないが、膨張し破裂しそうな節々の血管は変異の兆候を示している。顔を見ると、最近注目され始めた若手の有望株であったと気づいた。こういう思い出し方しかできない自分がなんとなく嫌になった。


 「ごめんな」


 なんとなく謝り、冷静になろうと努める。

 異常は動きが単調になる前のなりかけの状態が一番危ない。ましてや、異常殺しのエリートである燃血隊隊員である。だから、異常化してしまったのちに倒すほうが楽なのだが…


 「まだ人間である内に殺してやる」


 これも鞠沙なりの優しさだ。

 そうして、思考を自身の「処刑人」に切り替える。これから相手にするのは「人間」だからだ。こんな時ぐらいは鞠沙も普段の雑念を捨てて集中してしまう。


 「じゃあな」


 そう言い放ち駆け出した、頬には水滴


 風ばかりか雨も降ってきたらしい

 伝ってくる水滴には涙も混ざっている





書いてみて思ったこと


楽しい

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