慟哭
――・・・・・ごめんね。私、ここまでみたいだ。
今にもかすれてしまいそうな、少女のか弱い声が聞こえた気がした。
俺の心を雁字搦めに縛り付ける、呪いにも似た枷。
愛する人を救うことが出来なかった自分に対する、永遠に消えない後悔が生み出したものだ。
「・・・・・どうして俺は生きてるんだろうな」
アイツのいない空は本当に退屈で――まるで、虚空と呼ぶのが正しいと思えるほどくだらないものに成り果ててしまう。
「なんで、俺だけ生き残って・・・・・お前だけが死んだんだよ・・・・・」
今日の空はとても青かった。雲一つない、真っ青な快晴。
しかしそんな空は、無力な自分を馬鹿なやつだと嘲笑うかのように見えて。
それら全てが、憎らしい復讐対象のように思えてしまう。
「頼むから、もう一度だけでいいから・・・・・笑顔見せてくれよ・・・・・」
そんな憎き空に――憎き世界に叫んだ。
「――ミーシェっ!!!!」
それは、慟哭にも似た嘆きだった。
ただ、自身の気持ちの行き場をなくした獣が何かに当たるような。そんな、一人の男の――悲哀や憎悪、様々な思いが入り交じったものだった。
――???side
人間には、誰しも譲れないものというものがある。
富や名声、地位やプライド。
人によって思い浮かべるものは様々だろう。
だが、それらには必ず共通する点がある。
――それは、他者により奪われるということだ。
例えば、富は企業の場合だと株や事業などで買収されたら、買収した方に主権を握られる。個人の場合は、詐欺や強盗などの被害にあった時点で富を奪われる。
名声においても、その定義通り。他者が様々な噂――決して本人がしていないことでも、噂を流されてしまえば、その時点で必死に積み上げてきた名声は奪われる。いや、砕けてなくなる。
今回はこんな例を挙げたが、これがほかのどのようなことに置き換えたとしても、人間が抱くものである限り他者から奪われるという事実は変わらない。
他者の不幸を甘い蜜とし、それを狂ったように啜る。人間とはそういう生物だ。
まあ、譲れないものが形を持たない精神的なもの、またはなくなっても自身だけが悲しむのならまだいいのだろう。
他者に迷惑をかけないということを守りさえすれば、自身が濡れ衣をかぶったり、ただ単に傷つくだけで済むのだから。
例えば、自分の譲れないものが愛する人の幸せだったとしよう。
過程としては、なんらおかしくないものだ。
自分の愛した女性の幸せを願うことは、何も不思議なことではない。そしてそれが、自身の望みだったとしても、おかしいとは言いがたいものだ。
しかし、それが他者によって奪われたとしたらどうだろう。
愛する人が、他者に寝盗られたら。愛する人が、他者によって殺されたら。
この場合、傷つく人間は確実に一人には収まらない。
被害に遭った本人は勿論のこと、愛する女性やその家族、果てはその近辺の人間も不幸にする。
自身の定めた譲れないものによっては、こういった被害も出てくる訳だ。
最も、悪いのは被害に遭った方ではなく、そんな目に遭わせた方なのだけれど。
・・・・・ああ、言葉が過ぎたね。
何も、これ自体を否定している訳では無いんだ。
実際に、これを愉悦として見るような輩もいる。
西暦二〇一四年位には、寝取られ――通称NTRは日本において一つの文化として根付いたのだから、それを否定した時点でそれを好きな人間達を否定することになる。
何も、私はこのような文化自体を否定したいわけではないんだ。最も、胸糞悪いので見たくはないけど。
結局、何が言いたいかと言うと、人間は生きる限り不幸と切っても切れない関係性になっているということなんだ。
人間は希望と共に絶望を抱く。
そんな矛盾を孕んでいるからこそ、人間は美しく醜い。
正直、こんなくだらない話をしてなんになるとは思うところではあるけど、我慢して聞いてくれて本当にありがとう。
この話をしたのは、私が力を与えた人間の話をするために必要なものだからなんだ。
これから紡がれる物語は、まさにこの定義が起こした悲劇なのだから。
先程、人間である限り不幸は必ず訪れると言ったね。
それは、全体的に見てということ。
つまり、少しの間だけなら、誰にも奪われない幸せを噛み締めることが出来るんだ。
だけど、それを知った人間が、他者によってそれを奪われたらどう思うだろうか。しかも、とても酷いやり方で。
自分が味わった幸せの程度にもよるだろうけど、私なら人間として壊れると思う。
案外、壊れやすいからね。人間という生き物は。
私が力を与えとき、その人間は既に壊れていたんだ。
どんなコトが起きて壊れたかはこれからの物語でわかるだろうけど、これだけは言える。
あの人間は、復讐を行うに値すると、ね。
もったいぶるような形になってしまったけど、今はこれで許してほしい。
これからの物語を楽しむためのスパイス、とでも思ってくれれば本望さ。
っと、長々と話しすぎてしまったね。
こんな退屈なお話はここで終わりにしよう。
それじゃあ、ここからは物語を紡ぐとしよう。
退屈なお話もここで終わり。ここからは面白い・・・・・と言っては悪いけど、面白い話が始まるよ。
私は、もしかしたら度々出てくるかもね。
だって、私は神様だし。――はい、そこ。痛い人を見るような目で見ないこと。不幸のどん底に叩き落とすからね。尊厳を全て奪った上で資産や大切なものを踏みにじって、後悔しながら死んでもらうからね。
・・・・・ごほん。少し大人げなかったね。
それじゃあ、今度こそ本当にお別れだ。
これから紡がれる物語は、辛く儚い少年の復讐劇。
少年は涙し、愛する人を求めるも――その人はもうこの世界にはいない。
そんな苦しみを、是非味わって、共感してほしい。
それでは、サヨウナラだ。
くれぐれも、楽しんでいってくれ。神様との約束だ。
・・・・・最も、本当につまらなかったら読むのをやめても構わない。それが、意思というものなのだから。
そんな、神様らしいことを言いながら消えていく私なのでした。
キャラ崩壊とか気にしないでねっ!日常茶飯事だからっ!