6話 生首と友達になろう!
今夜はこの町でゆっくりくつろぐ事になった。
明日は朝早くにこの町を出発し、魔王軍の悪名を広げる旅に出なければならない。
こうして宿屋で寝転びながら今後について考えてみたが、分かるはずもなかった。
まさかあのスイッチを押した事によって異世界に飛ばされるとは思いもしなかった。
隣でこれからデュラハンとして生きていくポンコツロボットが震えていた。
そろそろマナーモードを解除しよう。
「もう喋っていいぞ」
「…………」
「どうした?喋っていいぞ」
「…………」
ついに故障したか?
一応確認のために体を叩いてみるか。
「変なところ触らないでください。セクハラで訴えますよ」
ポンコツロボットの中ではロボットの体に触れるとセクハラになるらしい。
喋れるということは拗ねてただけか。
「いつになったら私の頭を取り返しに来てくれるのですか?」
ノリコの頭はあの大きな鳥がくわえてもっていってしまった。
取り返すにしても情報を集めない事には不可能に近い。
「そこから何か見えないか?手がかりがあればありがたいが?」
「そーですね…周りには道具が色々と並べられています。薄暗い部屋にいるようです」
道具があって薄暗い場所か…もしかしたらあの鳥はこの町に入って来たのかもしれない。
「もう少し手がかりはないか?」
「うーん…あ!女の人が入って来ました!そして私の頭を持っています」
え?それってマズくないか?
声は向こうには聞こえていないが、生首が置いてあったら気持ち悪いに決まっている。
もし、これで捨てられたら大変な事になる。
「どうやら話しかけてるみたいです。盗聴モードに切り替えますか?」
なぜそんな機能をつけてしまったのか思い出せないが、取り敢えず盗聴モードにしてみよう。
「盗聴モードにしてくれ」
「かしこまりました」
最初は雑音しか聞こえなかったが、段々と声が聞こえるようになってきた。
微かではあるが女性の声だ。
何か話しかけてるいるようだが…やがてはっきりと聞こえるようになってきた。
『……友達になりませんか?』
背筋が凍りついた。
友達?
き…気のせいだよね?
『生首さん。私と友達になりませんか?』
ヤバイ人だこれ。
いや、会ってもない人にこんなこと言うのは失礼だが。
なんで話しかけてきてるの?存在バレてるの?
そんなはずはない。
見た目は女の生首だもの。
「どうしますか?返事をしますか?」
「いやいや。どう考えたって生首が喋ったらマズイだろ」
「ですが、もしかしたら場所がわかるかも知れませんよ?」
ノリコの言うことは確かに間違っちゃあいない。
だが、やっぱり生首が喋るのは…
『もしもし。そこのお方。ここはどこでございますか?』
あれれ?
なぜ喋っているのかなポンコツロボットは?
なんで許可出してないのに喋っちゃうのかなーーー!!!!!
『やはり喋りましたね!あなたはやはりデュラハン様なのですね!!その生気のない頭はきっと生首に魂を宿したのですね!』
半分ハズレで半分正解だ。
デュラハンではないが、どうやらノリコの頭部をデュラハン様と思ったようだ。
ここで正直にロボットでしたと言って信じるバカはこのポンコツロボットぐらいだろう。
デュラハンで通すしか選択肢が残されていない。
「私の言う通りに喋ってくれノリコ」
「かしこまりました」
こうなったらノリコの目の前にいる女の人に頭部の居場所を聞き出してやる。
そうしないとムシャクシャするし。
『私はデュラハン。ここはどこか答えろ』
『デュラハン様。ここはアイザークの村でございます。ラストの町から西へ数キロの地点にございます』
親切にもラストの町からの距離まで教えてくれた。
何て優しい女の人なんだろう。
この人ならきっと信頼できるはずだ。
というかそもそもなぜ私を“デュラハン様”と呼ぶのだろうか。
デュラハンというのは恐れられるやつじゃないのか。
そこら辺聞いてみよう。
『なぜ私を恐れぬのだ小娘』
『だってデュラハン様は私が騎士団の人達に囲まれていた所を助けてくれたではありませんか!もしかして…覚えてらっしゃらないのですか?』
ここに来てデュラハン良い人説が浮上して来た。
凄い良い人なのデュラハンって!
そんな人を私達は泣かしてしまったのか!?
罪悪感がにじみ出て来たぞ…
『す…すまない……あまり覚えていない』
『いいえ。それでも私は忘れませんわ。ここでデュラハン様の頭を守っています。たとえ命が尽きようと、生まれ変わって守り続けてみせます』
そこまでして守らなくていい。
そんな神聖な物では無い。
『では、明日そちらへ向かう。それまで守っていてくれ。名は何と言う?』
『はい!!リリースって言います!今度こそ名前を覚えてください』
『ああ』
私はそこで向こうとの通信を切った。
これ以上話してもボロが出るかもしれない。
無闇な詮索はやめて、寝るのが吉とみた。
「博士のすけべ心レーダーが上昇。警戒モード突入します」
「そんな機能をつけた覚えはないから今夜は寝ようねノリコちゃん」
ノリコを無理やり就寝モードにした私は夜風に当たりながらレーダーの上昇を抑えていた。