4話 魔王様よこんにちわ
門をくぐり、ラストという町の中に入ったが、中の雰囲気は薄気味悪く、全体的に暗かった。そして出会う人々はなぜか私達を睨んでるかのように鋭い目つきでこちらを見ている。
1番気になったのは空だ。
さっきまで門の外は晴れ晴れとしていたのに対し、門の中は黒い曇り空が空一面に広がっている。
まるで門の外と中で仕切りが立てられてるようだった。
「気になりますかこの町が」
フールは私達がキョロキョロしているのを察して声をかけてくれた。
案外良い人なのか?しかし、先程から“魔王様”と呼んでいるという事は悪い人なのか?まったく予想ができない。
「この町を囲っている大きな壁は外の世界との結界になっているのです。この曇り空がその証拠です。勝手に勇者が入って来たりしないように出入り口は正門しか用意されていません」
結界…すごくファンタジーっぽい言葉だ。
つまり空からの侵入は不可能、出入りするためには門番がいるあの門からでしか出たり入ったりできないわけだ。
「ですが、出入り口は実はもう一つあるんです」
「もう一つ?」
「デュラハン様には存在だけは伝えておきますが、どこにあるかまではお答えする事はできません。その場所を知っているのは魔王様と私しか知りませんから」
それじゃあなぜ教えたのか気になるが、ここはあえてスルーしておこう。
それよりそろそろ隣のデュラハン様が震えなくなってきた。
おそらくサブオイルが少なくなってきたから省エネモードに入ったのだろう。
早めに補充しておかないと動けなくなり、そこでバレてしまうかもしれない…オイルの場所を先に聞いておいた方がいいな。
適当な言い訳を作って何とか聞き出そう。
「ちなみにフール様。この辺でオイルなど売っていませんか?」
「オイル?そんな物何に使うのですか?」
「料理に使うそうです」
「料理?」
「あ!」
しまった!!適当すぎた!!
デュラハン様という設定を忘れてポンコツロボットの言い訳を考えてしまった!
「…………」
沈黙が訪れてしまった…バレたかもしれない。
「確かデュラハン様は料理が得意でしたね。どうぞオイルです」
た…助かったー!
そもそもなぜオイルを持っているんだ!?というかデュラハンって料理が得意だったのか!?
変な所で意外な事実が発覚した。
フールにバレないようにノリコの背後に回り、後ろから背中のふたを開けた。
中にはオイルの空き瓶が2つと小さな容器が1つあった。
結構ギリギリだった事を確認し、空き瓶とオイルの入った容器を入れ替える。
するとノリコの体が小刻みに震え始めた。何とか間に合ったようだ。
『グッドジョブ博士!やればできるじゃーん!』
後ろの小さなモニターにそう表示されたが、見なかった事にして蓋を閉じた。
そんなこんなしているうちに魔王様がいるであろう城の前にたどり着いた。
「スカル。城の扉を開けてくれ」
「はい!今すぐに!!」
スカルの声が聞こえると、城の扉が開いていく。
この中に魔王様がいるのか。
夢の中だから夢から覚めたら忘れるんだろうが、緊張してきた。
「デュラハン様とその部下の者。この先に魔王様がお待ちかねです。私はここでお待ちしていますので…」
フールはお辞儀をすると、またしても穏やかな笑みを浮かべた。
この先に魔王様が…一体どんな姿をしているんだろう。長い廊下を歩き続けるとそこには………
「よく来たなデュラハン」
重みのある低い声が城内に響き渡った。
目の前にいたのは黒い髭を蓄え、角を生やし、玉座に深々と座った、まさに魔王と呼ばれるに相応しい姿がそこにはあった。
その姿に私は驚き、床に手と尻餅をついてしまった。夢にしてはリアルすぎじゃないか?
隣のデュラハンはその姿には伝えず、堂々と立っている。
だが実際は顔がないため目視確認が出来ないだけだ。
「隣の者は何者だ?」
「わ…私はデュラハン様の部下でございます。デュラハン様は長旅でお疲れのようで私が代わりにデュラハン様の通訳をさせていただいております」
「そうか…ご苦労」
何とかごまかせた。
役者でもやっていけそうな演技だったんじゃないか?
「グラビットでの活躍、我の耳にも入っておる。よくやってくれた」
魔王様からのお褒めの言葉を授かりました。勘違いですけどね!
本物のデュラハンが活躍してた時、私達何もしてないですから!
「それでだな、こうして初めて会って早々だが、今宵より貴様は我の幹部に任命しようと思う」
………へ?幹部?このポンコツロボットが幹部に?頭の回転が遅いのにロボットのこいつが?
「これからよろしく頼むぞデュラハン」
あー…分かったぞ。
これ夢じゃないわ。
なぜなら私の胃がキリキリ痛みを発してるからこれは夢じゃないんだね!
あーあ。現実逃避って実際はできないもんなんだなー!
フハハハハハハハハハハハハ
「フハハハハハハハハハハハハ」
私の心の中の悲しい笑いと魔王様の笑いが共鳴した。