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41話 番外編 氷の上に立つように歩きたい

 我はさまよう鎧。

 前職はデュラハンである。

 訳ありで名義変更の手続きをしたが、気にしないでいただきたい。


 現在我はググルの町でサイと共に城の建設を手伝っている。

 とりあえずググルの町で滞在し、展開を待とうと思う。


「おいさまよう鎧よ。城の建設の進み具合はどうだ?」


「フン…まだ1割にも満たない進み具合だな。今から我が喝を入れてこようと思っていたところだ」


「やめておけ。お前の喝で何十人か死ぬかもしれんぞ」


「そうだな」


 さてと…真面目な会話はここまでにしておこう。


「ねえねえサイ。ここら辺のクエストとかで悪名広げられるやつないー?」


「そうね〜…最近は勇者が近寄ってこないから倒すこともできないし〜…あ。あれがあったわね」


「あれ?」


 サイは胸の谷間から果実を取り出した。

 その果実は赤く、とても美味しそうな物だった。


「この果実は禁断の果実No.8…“アダムリング”と呼ばれているの。これが最近勇者達のクエストとして広まっていてなくなってきてるのよ」


 アダムリングと言えば悪魔界では悪魔界三大珍味として有名な果実だ。

 アダムリングを採取するには悪魔議会で許可を取らないといけないくらい希少な食べ物だ。

 しかし、その果実が勇者に勝手に取られているのであれば、これほどムカつく事はない。


「そのクエスト…引き受けるわ」


「さすがデュラちゃ〜ん。話が分かるゥ〜」


「場所は?」


「北に進んだ所にある断崖絶壁の崖の上よ。見たら分かると思うからお願いね」


 我はクエストの準備をするために装備を整えた。

 サイが装着の手伝いをしてくれているのだが、この光景は懐かしさがある。

 かつて、我がデュラハンとして名乗りを上げた初戦でもこうしてサイが装着の手伝いをしてくれた。

 初心に帰るとはこの事だな。


「いってらっしゃいデュラちゃん。帰り待ってるね」


「はいはーい」


「あと、最近ここら辺の気候が暑くなってきてるから気を付けてね。あ、でも、鎧を着てるデュラちゃんには気候は関係なかったわね」


「熱や冷気のダメージは我に効かないっつーの!」


 我はワープで北の方へ移動した。


 断崖絶壁の崖の上の近くまで到着した。

 しかし、勇者はいない。

 木には赤く熟れた果実が生えている。

 これを求め勇者が現れるのも納得である。


 そうこうしていると早速第1勇者発見だ。

 勇者はいかにもルーキーのような挙動で木に近づく。

 勇者の仲間は遠くで敵が来ないか警戒している。

 まぁ悪くない作戦だ。

 しかし、我の前では無力だ。

 実際に出向かうまでもない。


「ヘルウィンド」


 ヘルウィンドは相手を遠くへ吹き飛ばす“シャドウ系”の技だ。

 これは遠距離で相手にかける事が可能なので気付かずに攻撃を仕掛けられる。


「うわぁぁぁっ…」


 遠くに飛んでいく勇者くん。

 そして遅れて飛んでいく勇者の仲間達。

 シャドウ耐性がないのか過去最大規模のぶっ飛び具合だ。

 なんか弱すぎて拍子抜けしてしまった。

 もう少し待ってみよう。


 しばらくすると第2勇者が現れた。

 今度の勇者はさっきの勇者よりも強そうだ。

 しかも仲間はパワー系の格闘家、遠隔攻撃の魔法使い、防御系の騎士で固めている。

 そこそこレベルは上のようだ。

 この勇者達なら少しぐらいは悪名が広がるであろう。


 鎧を動かし、勇者に近づく。

 あと少しの所で勇者達は我に気付き、構えてきた。


「さまよう鎧…ここで会うのは珍しいな…」


「勇者よ…すまないがここで死んでもらうぞ」


「お前ごときの敵に負けるほどレベルは…」


「デスバウンド」


 デスバウンドは相手のレベルを一時的に下げる魔法だ。

 この勇者の場合、レベルがそこそこ上だったのがレベル1まで戻り、装着していた装備が着れなくなったようだ。


「な…なんでさまよう鎧が最強魔法のデスバウンド覚えてるんだよォ!!」


「ただのさまよう鎧ではないからな…」


 我は元デュラハンだ。

 そんじゃそこらにいるさまよう鎧などと並べるな。

 勇者の仲間達はすぐさま逃げていき、後に続くように勇者も装備を抱えて逃げ出した。


 そこそこレベルが高くても相手にならないようだ。

 ここまでやれば悪名は広がったであろう。

 今日はここで…


「ねえねえ。この果実ってアダムリングですか?」


 そこにいたのは小さな女の子だった。


「そうだが?」


「やっぱり…」


 我にかかれば相手の考えてる事ぐらいシャドウブレインというテレパシーで読み取る事ができる。

 この女の子はおばあちゃんが病気にかかり、その病気に良く効くアダムリングを取りに来たようだ。

 普通ならばクエストとして勇者達に頼むのだが、女の子にそんなお金はあるはずがない。

 仕方なく1人でおばあちゃんのために危険を冒してまで来たようだ。


「どうしよう…木が高い…」


 我はその場から立ち去る。

 勇者は倒すが、女の子を倒した所で悪名は広がらない。

 そしてアダムリングを取ってあげる義理もない。

 我はさまよう鎧…悪名を広げるために暗躍する悪魔なのだ。


 しかし、今日は暑い。

 ここら辺の気候は少し肌寒いと聞いていたが…


「ヘルウィンド…」


 我は小さく呪文を唱えた。

 これで涼しい風が吹く。

 するとその風はアダムリングが生えている木にまで到達してしまい、アダムリングが木から落ち、女の子の目の前に転がってきた。

 女の子はこちらを向き、泣きながら頭を何度も下げ、感謝していたようだが、我には何の事だかさっぱり分からん。

 我はただ暑かったから風を吹かしたまでだ。

 渡した訳ではない。

 悪名を広げるためなら命を捧げるのがデュラハンのやり方だ。

 勘違いをするなよ諸君。

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