39話 坊ちゃん
「そこをどいてくださいベーちゃん」
「せや!べーやんそこどいて!」
ノリコの前に立つベーちゃん。
というかべーやんが気になって頭から離れない。
どこぞの女の子達が食いつきそうな名前はやめてくれ。
「坊ちゃんは悪い人じゃない!殺さないで!」
「残念やけどべーやん…そいつはウチの仲間を洗脳したんや。許されへんねん」
アレーラの言う事はごもっともだ。
もし、このまま闇の一族の洗脳が広がれば、何が起こるかわからない。
最悪の事態だけは避けねざならん。
「坊ちゃんは…坊ちゃんは優しくしてくれたもん!!」
「や…やめて…それ言わな…」
なんだか言ってほしくなさそうな仕草を見せるボッチャー。
何が何だか分からんが、ベーちゃんの話を聞いておこう。
「坊ちゃんは魔王のために信者を増やそうとしただけなの!誰も人を殺してないし、洗脳した後に洗脳を解除してるんだよ!」
え?
今…何て…?
「マルちゃんだって!一回洗脳を解除した後にしっかり話をして、それで闇の一族の人になったんだから!他のみんなもそう!話を聞いても無理な人は出会った記憶を消して逃がしてあげてるんでしょ?」
待て待て待て待て。
マ…マルちゃんというのはアレーラの仲間のマルチネスの事か…?
確かに変な雰囲気は感じなかったが…
いやいや…思ってた展開と違うぞ…
「ベーちゃん…そこから先は言わないで…それ言われるくらいなら死んだ方がマシだから…ね?」
「ウソだ!!だって私があの部屋に閉じ込められた時、一緒に影踏みしたじゃん!!」
「はいそれ言っちゃダメなやつー!」
どういう事だ?
あの信教部屋で遊んでた?
じゃあぐったりしてたのは遊び疲れてただけ?
「それに信者のために毎日お金や食材集めてくれてるんだよね?マルちゃんから聞いたよ!」
「それにそれに!信者になろうとしてた私達に手紙も…」
「あぁぁぁぁぁいッ!!!そこまでェーーーー!!!」
ボッチャーは凄まじい勢いで復活した。
弱々しかった影は大きな黒い影となり、集落全体を暗くした。
つまり、ボッチャーは私達が思った悪いやつと言うよりは、悪いやつになりきって魔王様に気に入ってもらおうとしてた良いやつって事?
そうだとしたらすごい申し訳ないことを…
「僕はぁ!!次期魔王幹部候補筆頭のボッチャー様だ!!そんな優しい奴などではなぁい!!」
「ボッチャー様は悪い奴だー!」
「ボッチャー様を舐めるなー!」
闇の一族達がブーイングを出してくる。
だが、そのブーイングはかえってボッチャーへの信頼度だと思える。
慕われてるんだなボッチャー…
「お前らぁ!!何も言わないでぇ!!この人達の目が可哀想なやつを見る目になってるからぁ!!」
ボッチャーは顔は見えないが、恐らく泣きかけている。
このままでは私達が悪者みたいだ。
今回はどっちもどっちだし、ボッチャーを助けてやろう。
「おいボッチャー…話を聞け。このノリコはただのポンコツじゃないんだ」
「なんだと…?」
「この方は最近魔王軍幹部になられたデュラハン様である。お前の活躍を見届けるためにわざわざ伺いに来てやったのだ」
「なにィィィィィィッ!?」
「え!?そうやったん!?」
「わぉ!?マキマキ!?」
この2人には後でしっかりと事情を説明しよう。
とにかくこの場を収めるには、ボッチャーの顔も立ててやらないといけない。
ノリコがデュラハン(仮)である事を伝え、ボッチャーの活動を見に来た設定にすれば何とかなるんじゃないかなー…なんて考えてみたが果たしてどうなる事やら……
ボッチャーはその言葉を聞いてしばらく固まり、私の顔を見てコクリと頷いた。
「よ、ようこそおいでくださいましたデュラハン様ァァァァァァ!!!」
ボッチャーの声は裏返り、闇の一族の集落に響き渡った。




