31話 だめだこりゃあ
走って走って走りまくった。
どれくらい走っただろうか。
ノリコやべーちゃん、それにアレーラ達は逃げ切ったのだろうか。
頼むから生き残っていてくれ。
「おい」
後ろから声をかけられた。
周りには木がたくさん生えていて見通しが悪い。
もし敵ならば戦うしかない。
私は意を決して振り向くと…
「敵だと思った?ねえねえ?敵だと思った?残念アレーラちゃんでしたー!」
こいつマジでムカつくー。
とりあえず頭を無言で殴った。
「な、なんで叩くんや!感動の仲間との再会やで!?」
「誰もあなたを仲間とは認めてませーん」
「冷た!?アンタそれでも人間なんか?引くわー。マジ引くわー」
この人とは絶対性格が合わない。
イライラがピークを迎える前に何としても他の仲間と合流して、このイライラを鎮めよう。
「ーーー今気づいたんやけど、さっきの集団って何か様子がおかしくなかった?」
確かに違和感は感じた。
ノリコは大量の人の気配を感じたと言っていたが、べーちゃんからの連絡はなかった。
つまり、それまでは壁の向こう側に大量の人は見えていなかったという事になる。
しかし、実際に壁を壊してみるとその先には大量の敵が待ち構えていた。
いったいあいつらはどこから姿を現したのだろうか。
「もしかしたらあの敵は特殊な何かを持っているのかもしれない」
「どういう意味や?」
「敵の集団は確かべーちゃん情報では家の中に集まっていたはずだ。しかし、実際には私達の目の前に現れた。もしかしたらワープやそれ以外の移動手段を持っている可能性がある」
「もしワープを使う敵なら相当レベルが高いはずや。せやけどここ周辺の適当レベルは25。そんな強い敵は現れへんはずなんやけど…」
「だとすればやつらは何かトリックを使っているかもしれないな」
「トリック?」
手品のタネの中には“錯覚”や“誤認識”を使ったマジックがある。
例えば実際はそこにはない物をあるように見せるマジックが存在する。
やつらは本当はまだ家の中にいて、何かのトリックで私達の目の前に現れたのかもしれない。
「とにかく仲間を見つけよう。タネを見つけるのはその後だ」
「よっしゃ!ならウチに任せとき!」
任せられないんだが。
「ウチには秘策があるんや。ほら見てみ。さっきの爆弾の煙が見えるやろ?ウチの仲間にはアレを目印に集合するよう言うてある。もしウチの仲間とアンタの仲間が合流していれば確実に再会できるっちゅうわけや」
確かにそれならば可能性は高いな。
だが、実際に成功するビジョンが見えない。
なぜだろう。
この子がアホだからなのか。
私達はとりあえず爆弾の煙を目印に進んでいく。
行く道中にこれからの予定を話し合った。
もし、敵が待ち構えていた場合はアレーラが何とかすると言っていたが…不安だ。
今の私はノリコとべーちゃんがいないため攻撃する手段がない。
頼りないがここはアレーラを頼るしかなかった。
「ええか?もし敵がいたらバッと襲ってズドーンと攻撃をかましてパパーっと解決や」
「1つ聞きたいんだが、なんでそんなに関西弁が上手いんだよ」
「え?あ、あー…それはそのー…マルチネスを救出できたら教えたるわ」
こいつも現世からやってきた可能性がある。
しかし、情報を得るためにはマルチネスを救出せねばならない。
確実にアレーラは何かを隠しているからだ。
「ちなみに…その爆弾ってまだある?」
「アンタ…爆弾はこの世界では希少な物なんやで?あるはずないやん!」
さすがに無理か…
「せやけど…そのパチモンやったらあげるわ」
アレーラは私に小さい爆弾をくれた。
普通の爆弾と比べるかなり小さい。
攻撃能力はほぼないだろう。
「小さいから攻撃には使えんけど使ったら火花が出て周囲が明るくなるわ。目くらまし程度には使えるはずやで」
アメ玉感覚で小さい爆弾を何個かもらった。
まぁ役に立たない事はない。
いつか役に立つ時が来るだろう。
「もうそろそろやで!」
爆弾をかました地点にまもなく到着する。
アレーラは背中に背負った大きな剣を片手で軽々と持ち、警戒しながら進んでいく。
こんな女の子にそんな力があるのか。
段々と木が少なくなってきた。
この木を越えればそこには…
「魔王様万歳…」
「魔王様万歳…」
「魔王様万歳ー!」
「…………」
そこには完全に洗脳されたアレーラの仲間と、敵に洗脳されたフリをしている私の仲間達がいた。
だめだこりゃあ。