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24話 いつも空は晴れている

『どうだ?楽しいか?』


『うん!楽しいの!』


『お前さんは常に笑っている方が良いな。周りの大人みたいにコロコロ態度を変えるなよ』


『うん!』


『お前さんが笑顔な限り、空はいつも晴れている。例え雨でもお前さんの笑顔でいつか晴れてくる。笑顔を忘れるな』


『分かった!絶対守るね!』


『よし!じゃあ今日は服を買いに行くぞ!高いのは勘弁してくれ』


『えぇ〜…』










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 水道橋博士は懐からパイプを飛び出し、魔法で火を点けた。

 魔法の便利な使い方だな。

 しばらくすると、そのまま近くの瓦礫に座り込んだ。


「お前さんのロボット見事なもんだな。嫉妬したくなるよ」


「私としては同じロボット研究者の水道橋博士にお会いできて光栄です」


「うるさい。お世辞は聞き飽きた。この世界じゃ聞く事はないと思っておったのに…」


 随分と若々しい喋り方だ。

 今までの年寄りっぽい喋り方は演技だったのか。

 それよりもなんでこんな事を…


「ーーーワシがべーちゃんを捨てたのか気になるか?」


 べーちゃん?

 何そのマスコットキャラクターみたいな名前は。


「おっと…すまんすまん。ベートルの名前は堅いからべーちゃんと呼んでおったんだ。懐かしいな」


 随分と若々しいご老人だ事。


「べーちゃんはワシが人生を賭けて作り上げたロボットじゃ。完成した時は子供が出来たかのように喜んだ。そして毎日遊んでいた…」


「しかし…学会の連中が来てからその生活は不可能になった。やつらはべーちゃんを見るなり世紀の発見だと騒ぎ、学会への発表を勧めてきた。その目は金に目が眩んだ大人の目だった」


「それでどうしたかは分かるとは思うが、学会にワシはポンコツロボットを提出してやった。やつらの慌てた顔は面白かった。だが、それが学会を追放される原因となった」


 気持ちは分からないでもない。

 もしノリコがポンコツロボットでなければ同じ事をしていたかもしれない。

 まぁこいつがポンコツロボットじゃなければ調子が狂うがな。


「そしてワシは食べる当てがなくなった。べーちゃんは光でエネルギーを補給するエコロボットだから何とか生きていけるが、ワシが限界だった。その時、突然ボタンが目の前に現れた」


「!!」


 ボタンだと!?

 まったく同じ状況だ!


「そのボタンは見た事のないボタンだったのでは?」


「その通り。死にかけのワシは一か八かこのボタンを押してみる事にした。ワシが死んでもべーちゃんは生きてくれると信じていたからだ」


「そして気付けばこの世界に辿り着いていたという訳だ」


 結局ボタンの正体は分からないままだが、そのボタンが全ての元凶である事が判明した。


「しかし、それだけではベートルを引き離した原因には…」


「“コウテイウィルス”…研究者なら聞いた事はあるはずだな」


 “コウテイウィルス”

 数年前に広まった機械風邪の1つだ。

 最初は機械の調子が悪くなり、内部から次第に全身に侵食していくこのウィルスは最終的に人間にまで感染すると言われていた。

 症状としては調子不良や黒い斑点が出てくる。

 しかし、実際には人間には感染せず、意外にも侵食している部品を捨てれば対処できる事が発覚し、すぐに鎮火した。


「その当時はまだ対処法が見つかっておらず、べーちゃんの手の黒い斑点に慌てふためいた。このままではワシにも感染する…そう思ったワシはーーー」


「捨てたのですか。ロボットを」


 ここでノリコが発言する。

 ノリコはいつもより冷たい表情で水道橋博士を睨んでいた。

 同じロボットとして捨てられるのが許せないのだろう。


「死ぬのが怖かったワシはべーちゃんを捨てた。そして今に至る…後からコウテイウィルスになった機械を解体して気付いたんだ。どうだ?救いようがないダメ博士だろ?」


「それじゃあ今もベートルの中にはウィルスが…?」


「ーーーあぁ」


「早く助けてあげないと!」


「ワシに今さらべーちゃんに会う資格なんてない」


「会う資格はあるに決まってます。べーちゃんを作ったのは水道橋博士、あなたでしょう」


 どうしたノリコ。

 良い事言うなんてお前らしくないじゃないか。


「ロボットは作ってくれた博士の忠実なロボットなのです。博士に捨てられるなんてこの世で最も最悪な事です」


「しかし、まだあなたにはチャンスが残っています。そこに捨てたロボットがいるのなら謝りに行ってください。それがあなたの罪滅ぼしです」


「おそらくべーちゃんはあなたを探すためだけに悪魔を倒し続けていたはずです。同じロボットなので何となく分かります」


 ノリコの名言に心打たれた私。

 今まで捨てようと思った事結構あったけどごめんなノリコ。

 捨てなくて良かったよ…博士感激!


「会いに行けないのなら連れて来ます」


「お、おい!」


「あ。博士だ!お久しぶり!」


「…………」


 一瞬でノリコがべーちゃんを持って来た。

 もう少しで壊れそうな体だが、まだ喋れるようだ。

 水道橋博士は壊れかけのベートルを見つめている。

 何も言い出せないのかずっと黙り込んでいた。

 ここで部外者の私達が話しかけるのは無粋だな。


「博士どこ行ってたの?ずっと探してたのに。でもね!悪い悪魔をいっぱい倒して来たよ!」


「…………」


「でもね。博士がいないと何も面白くないの。何だか騎士団の人達に言われるがままで面白くないの。博士がいないと面白くないの」


「ねえねえ。もうべーちゃんは悪い子にしないからまた遊んでよ。ねえねえ。博士。」


「ーーーダメだ。お前さんは悪い子だ。だから………ダメなんだ」


「そうだよね!べーちゃんは悪い子だからダメだよね!知ってた!」


 ついに水道橋博士が口を開いた。

 私はノリコを連れて騎士団の集団のど真ん中を進んで行く。

 私達が進むと騎士団の集団は私達を避けていく。

 あのマルコが悔しそうな顔をしている…清々しい気分だ。


「ノリコ。今日から1週間の天気予報を計測してくれ」


「了解。雲の動きを読みます…しばしお時間を…」


 さてと…ノリコの整備をしてやらないとな。


「ねえ博士。べーちゃんはね。博士との約束守れないみたい」


「ーーーどうしてだ…?」


「悲しいの。笑顔でいれなくなるの。でも嬉しいの。どうしてだろう。悲しい感情と嬉しい感情がぶつかって頭がおかしくなりそうなの」


「ーーーそ、そうか…」


「ごめんなさい博士。べーちゃんは悪い子です。博士との約束を守れない悪い子です。早い内に破壊してください。また悪さしちゃいますよ」


「あぁ。そうだな。破壊しないとな」


「博士になら壊されてもいいよ。またロボット作る時はべーちゃんより良い子良い子してあげてね!」


「ーーーわ、悪いがそれはできない」


「なんでなの?べーちゃんが悪い子だから?」


「ち、違う…違う違う違うッ!!」


「ワシが悪いんだ…お前さんを引き離したワシが悪かったんだ…お前さんを見放したワシが悪い…!」


「怖かったんだ…ワシがお前さんの中にいるウィルスを取り除くのが怖かったんだ…死を恐れた…だが、今となってはそれは逃げただけだった」


「マキ君やノリコ君がいなければ…ワシはお前さんと会えていない。彼らに会わなければずっと逃げていた」


「だが!もう逃げない!お前さんを作った博士としてウィルスを退治してやる!そしてお前さんを直してやる!」


「でも…笑顔になれないべーちゃんは悪い子なんだよ…?空も曇ってる…べーちゃんはーーー」


「今は曇り空でもなぁ…!いつかは晴れるんだ…!たとえ雨でも…!雷雨でも…!台風でも……!いつかは晴れるんだ…!」


「お前さんが笑顔であり続ける限り!晴れは必ずやってくる!だからぁッ!だからお前さんは笑顔のままでいろォ!!」


「ーーーふふふ!博士泣いてるー。いつも笑顔にしてろって言ってたくせにー!」


「うるさい!!お前さんはいつもそうやってワシをからかっていたな!!まったくかわっとらんじゃないか!!」


「はははっ!やっぱり博士といるのが楽しいなー!ねえねえ。これからは一緒にいてくれる?」


「お前さんが悪さしなければな…まずはお前の体を壊さねばならない…悪いウィルスが広がってきているからな。だが…必ず直してやる。記憶部分はまだ悪いウィルスに侵されていない。そしてまた暮らそう。いっぱい遊ぼう。また服を買いに行こう」


「うん!」


「痛いかもしれないからな…泣くなよ」


「ロボットだから痛くないよ。でも泣くかも」


「そうだったな…じゃあいくぞ。また直してやるからな」


「はーい!」


 しばらくして遠くから機械の壊れる音が聞こえてきた。


 今日の天気は曇りのち晴れ。

 現在空は曇り空がなくなり、晴れています。

 ノリコの天気予報ではここ1週間は晴れ空が続くそうです。

 たとえ雨が降っても、いつかは晴れるでしょう。

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