18話 味噌汁の具は何を入れますか?
目を覚ますとそこには解体されかけているノリコの姿があった。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うるさいわぁッ!!」
老人の声が聞こえ、全力で頭を叩かれた。
確かにうるさかったかもしれないが、頭を叩く事はないだろ。
ていうかここどこ?
あなた誰?
なんでノリコは解体されてるの?
「聞きたい事は色々あると思うが今日は休め。ロボットの整備はワシに任せておけ。お前を助けるために無茶したようじゃからな」
私を助けるため?
全然状況が把握できないぞ。
「いいから休めと言ったら休め!このバカ者!」
何だか知らないがこのおじいさんに逆らうと嫌な予感がするのでそのままお言葉に甘えて寝るとしよう。
ノリコの整備をしてくれると言ったが、この世界にもロボットを理解している人間がいたのか。
それとも…いや…考えると寝れなくなるし考えるのはやめよう。
今は寝る事に集中だ。
ーーー寝ている間に夢を見た。
とても懐かしい夢だった。
まだノリコが完成したばかりの時の記憶。
イマイチ歩くのに慣れていなかったノリコはハイハイ歩きをしていた。
体は大人なのにハイハイ歩きをしているノリコに私はクスリと笑ってしまった。
あの頃は特に頭を抱える事は少なかったが、今となってはノリコをサポートするのに苦労している。
だが、ノリコがいなかったら私はどうなっていたのだろう。
今の私は存在していたのだろうか。
そんな気持ちになる夢だった。
「起きんかバカ者!!」
再び頭を叩かれた。
二度目ともなると慣れているのか痛みは感じなかった。
気付けば数時間が経過していた。
ノリコの体は元通りに整備し直されている。
「やっと起きたか。このロボットの整備は終わったぞ」
この人がノリコを整備してくれたのか。
色々と聞きたい事はあるし、尋ねてみよう。
「あなたは?」
「テンマじゃ。この国で鍛冶屋を営んでおるわ。まさかロボットなんて珍しい物と出会うとはな」
テンマさんは声は老人だが、声に反して体はガッチリと筋肉がついていた。
やっぱりこの世界じゃロボットは珍しいものに分類されるのか。
「なぜここに?」
「ワシが聞きたいわ。いきなり屋根を突き破ってお前さん達が落ちてきたんじゃ。じゃが、そのロボットがお前さんを庇って下敷きになってくれたおかげで怪我はしとらんみたいじゃな」
気を失う前に見た顔はノリコの顔だったのか。
おそらく空に飛ばされた時にノリコはジャンプして私の体を庇って地面に落ちたのだろう。
つまりベートルがノリコを傷付けたのか…なるほど…
とりあえずノリコが起きたら感謝しよう。
「どうやってノリコの整備を?」
「この世界で知らん事はない。ロボットは確かに珍しいが過去に出会った経験があるから整備ぐらいできるわ。ここまで複雑で精密なロボットは久しぶりに見たがの」
このおじいさん只者ではないという事か。
とりあえずこのおじいさんのおかげで私達はここにいる。
一言感謝をしなければならない。
「感謝はいらん。そのロボットが起きたら出て行ってもらうぞ。騎士団の連中に自宅を荒らされるかもしれんからな」
「ーーーならば、1つ聞いてもよろしいですか?」
「なんじゃ?」
「ベートルとはどんな奴なのですか?」
「…………」
私の一言でテンマは黙ってしまった。
表情は先ほどより険しくなっている。
「悪魔じゃ。それ以外の何者でもない。騎士団の連中もあの悪魔を使い始めてから調子に乗って悪魔狩りを始めおったからな」
ベートルは騎士団の一員で悪魔狩りの中心を担っているらしい。
テンマはどこかベートルに憎しみ?か何かを抱いているのも感じられた。
過去に何かあったのかもしれないな。
「早く出て行け。ワシの気が変わらんうちに」
「まだ、私にはやる事が残っています」
「いいから早く…」
「ベートルにリベンジをしなければ気が済まないのです」
「!」
私の一言にテンマはビックリしていた。
私だけが傷付いたなら私は特に何も考えずにここを出ていただろう。
しかし、ノリコも傷付けたのであれば話は別だ。
傷付けてくれた借りはしっかりと返さないと…な。
「ーーーバカ者が。勝てるはずなどなかろう」
「私達だけじゃ勝てないかもしれませんね。そうでしょテンマさん」
「…………」
「あなたのそのロボット整備はこの世界の住人の手つきではなかった。まるで現世にいたかのような手つきに見えました」
「…………」
「あなたは一体…」
「ーーー好きな味噌汁の具はなんじゃ?」
突然テンマは味噌汁の具を聞いてきた。
なぜ味噌汁なんだ?
というよりテンマの口から味噌汁の言葉が出てきたという事はやはり現世にいた可能性が非常に高くなっていた。
「ワカメ…ですかね」
「なるほど…実はな、ワシのこの技術力は違う世界から来た男に教わったのじゃ」
テンマの口から予想外の発言が飛び出していた。
味噌汁関係ないじゃん。
それより違う世界…だと?
それはもしかしたら…
私達がいた世界なのかもしれない。