11話 魔女とビースト
大男は私の目の前でりんごっぽいのを齧っている。
そして目線は間違いなく私を見ている。
お前らもこうなるんだと言わんばかりの齧りっぷりだ。
「あのー…」
「職業が勇者であれば殺しますが職業をお伺いしてもよろしいですか…?」
丁寧語なのに内容が恐ろしい。
ここで勇者ですと答えるバカはいないだろう。
しかし、ここでウソをついた者はおそらく骸骨になっているはず…
正直に答えるのが良いものか…
「む…?ちょっとよろしいか?…後ろに背負っているのは…」
大男は私の背中にいるマリアを気にしているようだ。
そうか。
マリアを連れて来たといえば警戒は解けるはずだ。
正直に事情を話して中に入れてもらおう。
「魔王様からマリアをアイザークの村へと連れて行く任務を受けたのです。ホームシックになってしまったようなので…」
「なんだとぉ!!!」
大男の声は大きな鳥が逃げていくような大声だった。
私はその場から動く事ができず、ノリコは全身の鎧に振動が伝わり震えていた。
「マリアが……帰って来たのか…」
そう言うと大男は私に近付き、顔を私の前に近づけて来た。
大男の息が顔にかかっている。
臭そうなイメージがあるかもしれないが、息はどこかミントの香りがする。
こう見えて口臭とか気にしてるんだな…
「ついて来な…」
先ほどまでの丁寧な口調が嘘のように怖い口調になった。
私達は断る権利なんて持ち合わせていなかったので大男の後ろを着いていく事にした。
マリアは相変わらず目を覚まさないが、さっきから寝相が悪いせいか蹴りを入れてくる。
しばらく歩くと霧が出て来た。
私達は必死に大男の背中を目を離さないように追いかける。
周りはうっすらとしか見えないが足がビチャビチャする事から沼地のような気配がする…少しでも足を踏み外せば底なし沼の可能性も……
「ここで待っていろ…」
大男はそのまま霧の中へと消えていってしまった。
こんな霧の中で待たされるとは思わなかったので周りをオドオドと見渡してしまう。
何分が経ったのだろうか…
大男はまだ帰ってこない。
さすがに我慢の限界だ。
探索に出かけ……
「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!」
年寄りの笑い声が響き渡った。
まるで…魔女のような笑い声だった。
ダメだ…怖さで足が動かなくなってしまった。
早く逃げないと……
「逃げちゃダメよ……ほらほら…もっと近づいて…」
霧で気づかなかったが、よく見ると私はサキュバス達に周りを囲まれていた。
サキュバス達の格好はもうそれはとてもセクシーで弾けんばかりのたわわである。
そこに顔を埋めようものなら欲が爆発してしまう事だろう。
それが私の周りを囲んでいるのだ。
普通であれば幸せであるが、現在私は死を感じていた。
「ほらほら…もっとこちらへ……」
このままサキュバスの欲を吸い取られ死んでしまうんだ。
そう悟った私は目を瞑り、サキュバス達に身を委ねた。
「ようこそ!!よくぞアイザークの村へお越しくださいましたデュラハン様!!!」
魔女がそう言うと突然霧が晴れ、はっきりと光景が確認できた。
周りにはサキュバス達と魔法使いの格好をした女性、そして先ほどの大男が私達を中心に取り囲んでいる。
「脅かして悪かったなあんたら!マリアを連れて帰ってくれて感謝するぜ!」
大男が笑顔で私の背中を叩いて来た。
「オレの名はロンドベル。アイザークの村の番人をしてる。あんたを見た瞬間一発でデュラハン様だとわかったぜ」
そりゃあ首がないのに歩いてたらこの世界の住人はデュラハンの類だと勘違いするだろう。
ロンドベルはマリアをそのまま抱き抱えると、魔女の方へとマリアを連れていった。
「こりゃあ相当極上の欲を吸い取ったんだねぇ〜。まだマリアには刺激が強すぎたようだ」
魔女はそう言うと私達の方に近づいて杖を立てた。
近づいてくると分かるが、魔女の姿はザ・魔女と思えるぐらい魔女の理想像そのもの。
老婆でいかにも何か練ってそうな見た目だ。
するといきなり魔女は自分に対して魔法をかけた。
魔女の周りをキラキラした物が通過すると、なんといきなり魔女が美女へと変身をしてしまった!
「デュラハン様!!驚きましたー?これがアイザークの村のもてなし方でございますー!」
若返った魔女の声はどこか聞き覚えがあった。
ここ最近よく聞いた女の子の声だ。
それも昨夜ぐらいに聞いたような声だ。
「デュラハン様!約束通り…守ってましたからね!」
魔女が指差した先には、ノリコの頭が神々しい光に包まれて神棚に飾られていた。
なるほど。
いたって普通の女の子に見えるリリースちゃんですが、ただ1つ衝撃の事実があります。
リリースちゃんは魔女だったのです。