9.仮入部
翌朝、目を覚ますと莉緒の顔が目の前にあった。
「うわ~~~!!!!!?」
『朝から失礼ですよ!!」
寝てる人の顔を覗き込む方が失礼だと思うんだけど……。
こたつで寝た為か、少し体が気だるい。
今度からこたつで寝るのは自重しようと胸に秘めつつ、朝ご飯を食べた。
二人して身支度を素早く整え、学校へ登校すると教室の前で大親友に声をかけられた。
ちなみに莉緒はもう教室の中に入っている。
「おはよう、さくら!」
妙に威勢がいいな……。
「おはよう……、でさ、昨日の事なんだけど……」
「昨日? はて……? そんなことより、今日からソフト部に仮入部するでしょ?」
どうやら、彼女の中で昨日の事は無かったことにしたいらしい。
あたし的にもその方がいろいろ面倒くさくないので、全力で乗っかることにした。
「うん、そうするつもり」
「じゃあ、放課後ね」
そう言って、大親友と別れた。
教室の中に入ると、莉緒が恨めしそうにあたしを睨んでいた……。
放課後になり、莉緒とソフト部の部室に向かった。
あたしは大親友とも一緒が良かったのだけど、莉緒が強硬に嫌がったので仕方ない。
部室で体操着に着替えていると、大親友がやってきた。
「さくら、早いじゃない。気合い入ってるわね」
「そんなことないんだけど……」
あたしと大親友が話していると、横から莉緒が割り込んできた。
『お二方、私を無視しないで下さい!』
「えっ? スケッチブック?」
大親友は急に目の前にスケッチブックが現れて、ビックリしている。
「ああ……、この子声が出せないの……」
「ああ、それで……。わたし、小川薊。よろしくね」
『私は金子莉緒です! さくらんぼの【マジタレ】やってます! よろしくお願いしますね!!』
「「は!?」」
あたしと薊が呆気にとられていると、莉緒は笑顔で大親友に握手を求めていた。
『……よろしくお願いしますね……』
莉緒は笑顔だが、目が笑っていない。
「……へぇ……、よろしく……」
薊も笑顔で握手に応じていた。
例によって目は笑っていない。
「ところで【マジタレ】ってどういう意味?」
短い握手が終わり、薊が莉緒に尋ねた。
『? そのままの意味ですよ! 昨日もさくらんぼの部屋に泊まりましたし!』
薊があたしをもの凄い目で睨んできた。
「さくら! どういうこと!!」
あたしはビビりつつも、昨日の事をかいつまんで話した。
「ちょっと待って。ってことは昨日あの時も一緒にいたの?」
『あれれ? 昨日、さくらんぼのマンションにいらっしゃったんですか~?』
莉緒は皮肉たっぷりに聞き返していた。
教室前でのやりとり聞いていたのかな。
朝は無かったことにしようとしてたけど、薊どうする気だろう。
「ぐっ、それは、その……。……それより金子さん、声が出せないそうなんだけど、ソフト部には選手として入部するの?」
薊は先程までとは打って変わって、心配そうに莉緒に聞いていた。
その話の切り返し方、強引過ぎやしないだろうか。
『ええ、もちろんです! その為に鍛え上げましたから!!』
莉緒は胸を張って答えていた。
まあ、グローブを一緒に買いに行ったのだから、その答えは想定内だ。
「でも…………」
薊が何か言おうと口を開きかけたその時、部室のドアが大きな音を立てて開いた。
「おう、仮入部の人グラウンドに集まってくれ」
グラウンドに出ると、ユニフォームを着た先輩達が集まっていた。
その中の一人が声を上げた。
「えぇ~、私がキャプテンの権田原だ!! それでは仮入部の諸君、一人ずつ自己紹介してくれ!!」
あたしと薊含む新部員が自己紹介を終え、莉緒の出番になった。
スケッチブックに名前とクラス、ソフトボール未経験と声が出ない旨を書き込んでいた。
先輩達や、他の新部員達が少しざわついている。
「ふむ、キミは声が出ないのか……。まぁ、気をつけていれば問題あるまい」
権田原さんはそう言うと、あたし達新部員を見回した。
「一年はちょうど9人か……。よし、今日は実力を見るため練習試合を行う!!」
さっそく、あたしの実力が試されようとしていた。
今回入部した一年生の中に、運良くピッチャーをしたことがある人がいなかったので、あたしはピッチャーをすることが出来た。
打順もみんな遠慮してか、四番を打ちたい人がいなかったので、あたしがすることになった。
莉緒は未経験と言うこともありライトで9番、大親友こと薊はキャッチャーに収まっている。
本来薊はショートなんだけど、彼女はあたしがピッチャーをするなら、自分がキャッチャーをすると言ってきかなかった。