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さくらんぼライフ  作者: あやの
8/22

8.ある人物の痴態

 お風呂から上がってきた莉緒が髪を乾かしている傍らで、わたしは二人の寝る場所を考えていた。

 完全に招かざる客であっても、一応お客さんなので彼女にベッドを譲るべきなのだろうか。


 そうなるとわたしはコタツで寝る羽目になる。

 疲れている時、コタツで休んでいると気を失うように寝てしまう事はあっても、初めから寝るつもりで使った事は無い。


 コタツで寝ても大丈夫だろうか。

 次の日、喉とか体を痛めたらどうしよう。


 明日はソフト部に入部するつもりなのに……。

 莉緒に聞いてから決めようか。


「ねぇ莉緒、ベッドとコタツ、どっちで寝たい?」


 髪を乾かし終えた莉緒がこちらに振り返ってきた。


『さくらんぼはどっちがいいですか?』


 ここは素直に答えよう。


「わたしはベッドの方が……」


『じゃあ私もベッドです!』


「えっ?」


『えっ?』


 何を言ってるんだ、この娘は……?


「いや、お風呂は別々だったじゃん? なら寝るのも当然別だよね?」


『すみません、私は裸には自信が無いんです……。でも寝るのは一緒です!』


 彼女はスケッチブック片手に、顔を寄せてきた。

 近い近い、いい匂いがする!


 ……はぁ……、謝られた意味が分からないけど、女の子同士だしいいか。

 けど一応念の為。


「……変な事しないでね?」


『はい、善処します!!』


 ……絶対何かしてきそう……。



 二人でベッドに入り、電気を消すと時計の針の音だけになった。

 莉緒は話す事ができない。


 暗くすると会話する手段が無くなってしまう。

 彼女はもう寝たのだろうか?


 ……こちらに寝返りを打つたび、わたしの胸に手をおいてくるのは仕様なのだろうか?

 揉まれてはないから、多分癖か何かかな。


 毎回やんわりと手を退けるのだけど、五分おきぐらいに仕掛けてくる。

 それが気になって眠れやしない。


 そういえば、誰かと一緒に寝るのはいつ以来だろう。

 誰かといっても大親友しかいないんだけど。


 ……あっ、しまった。

 その大親友に一人暮らしは危険だから、毎日電話するよう言われてたんだった。


 かなり過保護な気もしないではないけど、大親友にはいつもお世話になっているから無碍にできない。

 主に勉学で。


 中学時代、何度テスト前の一夜漬けで助けてもらったか。

 大親友、ソフト部のくせに成績はいつもトップだった。


 部活終わりに家で勉強してたんだろうな。

 ……今もしてるんだろうか?


 もう日が変わりそうな時間だけど、電話しとこうか。

 電話に出なくても、着信があれば約束は守った事になるだろうし。


 わたしはベッドから出て、キッチンに向かい、大親友に電話した。

 何度かコールした後、大親友が電話に出た。


『……もしもし……』


 声が小さいな……、やばい寝てたのかも……。


「遅くなってごめん、寝てた?」


『えっ? いや、その……』


 何か歯切れが悪いな。

 それに電話越しに車の走る音がしている。

 大親友は外にいるのだろうか?


「……ねぇ、今どこにいるの? 外にいるでしょ?」


『………………』


 返答がない。

 もしかしたら彼氏と一緒なのだろうか?

 今までそんな話聞いた事なかったけど。


 まさか抜け駆けしやがったのか?

 こうなったらとことん追求してやる!


「……男と一緒?」


『そんな訳無いでしょ!?』


 めちゃくちゃ大きな声で否定してきた。

 ……不思議な事に、電話口からだけではなく、部屋の外からも聞こえてきた気がする。


「……勘違いだったら謝るけど、今わたしのマンションにいない?」


『………………ねぇ、さくら。例えばよ、「毎日電話してね」と伝えておいた大事な人から一向に連絡がなく、いても立ってもいられなくなってその人の住む家に向かったりした人の事、引く?』


「うん引く!」


『うわ~ん!!』


 泣き声と共に電話が切れた。

 わたしはすぐさま玄関のドアを開くと、走り去っていく見慣れた後ろ姿が確認できた。


 わたしの大親友、何やってんだか過保護過ぎでしょう。

 この時間にここまでくるだなんて。


 もう終電もないだろうし、どうやって帰るのやら。

 わたしが呆れかえりながら、玄関のドアを閉め、部屋に戻ろうと振り返ると、長い黒髪で顔が隠れた女性が揺れながら立っていた。


「うわ~~~っ!?!?!?」


『近所迷惑ですよ、こんな時間に大声は! それに私に対して失礼です!!』


 だったら髪で顔を隠すなよ。

 明らかに驚かす気だったくせに。


 顔にかかっていた髪を払って、顔を見せた莉緒は分かりやすく怒っていた。

 頬を膨らませ、わたしを上目づかいに睨んでいる。


『で、誰で何の用だったんですか!?』


 まさかわたしが心配で、様子を見に来ただけとは答えにくい。


「わたしの大親友よ。忘れ物を届けに来てくれたの」


 わたしは咄嗟にウソをついた。


『何も受け取ってないようですが!?』


 莉緒は全く納得していない。

 こうなったら……。


「ちゃんと受け取ったよ。あの子の笑顔♪」


 ああ……我ながら何て気持ち悪いコメントだ、こんなん完全にレズじゃん。


 わたしがギャグのつもりで言った言葉に、莉緒は意外な反応を示した。

 これでもかっというほど、驚いた顔をしている。


『……まさかそこまで関係が進んでいるとは! ぬかりましたね……テスト前に利用するためだけの女だと思っていたのですが……』


 【利用するためだけの女】って表現はやめて!

 それにそれは心の中で思っていてよ!

 いちいちスケッチブックに書かないで!!


 そもそも莉緒、わたしの大親友の事、何で知ってるの?

 いろいろ怪しいな、この娘。

 ちょっと探りを入れてみよう。


「……それよかそろそろ寝ない? 別々に」


『そうですね寝ましょうか、一緒に!』


「もう一緒は嫌よ……、だって莉緒ってば、寝返りのたびにわたしの胸、揉みしだいてくるじゃん!」


『揉みしだいてませんよ! 触れてるだけです、今回は!!』


 やっぱり起きてた!

 しかも【今回】ってことは次からエスカレートする可能性大じゃん!!


「……今日はもう、わたしはコタツで寝るからね」


 わたしの部屋のコタツは小さく、横に並んで寝ることはできない。


 莉緒はションボリしながら、コタツに入ってきた。

 ……この娘どんだけわたしと一緒に寝たいんだろ?


『……今日は諦めますが、次回はこうはいきませんからね!』

 次はもう無いよ!

 二度とこの部屋に入れないから!!



 ――そう誓ったのに結局わたしは、次の日も彼女を部屋に入れる羽目になった。想定外のあの出来事のせいで――

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