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さくらんぼライフ  作者: あやの
3/22

3.莉緒の秘密

 散々あたしを冷やかし、ようやくクラスメイトのほとんどが帰った後、一つため息をつきつつ家に帰ろうとすると、莉緒がふんわり微笑みながらスケッチブックを見せてきた。


『今日、暇ですか?』


 部活に仮入部できるのは明日からだから、今日は暇といえば暇だけど……。

 素直にそう伝えるとこの娘、まとわりついてきそう。

 どうにかして撒けないかな……。


「ゴメンね、今日はグローブを見に行くから……」


 これはウソではなく本当。

 内野手と投手では使用するグローブが微妙に違う。

 別に替えなくても良かったんだけど、高校生になったので気持ちも新たにという事で買った。


 ……うん、もう買ってるんだ。春休みに大親友と……。

 今日はただのウィンドウショッピングのつもり。


『なら丁度いいですね。私高校からソフトボールを始めたくて、グローブを買いたかったんです!』


 ……どうも選択肢をミスったみたい。

 嬉しそうにピョンピョン跳ねる莉緒を拒む訳にもいかず、一緒にスポーツ用品店に赴くことになった。



 街中にある大型スポーツ用品店へ行く道中、莉緒がやたらと話しかけてきた(実際にはスケッチブックを見せてきた)。

 どうもこの娘は、あたしの趣味趣向を知りたいっぽい。


 あたしも彼女に聞きたい事があったんだけど、次々質問されるので言い出せなかった。

 スポーツ用品店に着き、グローブの置いてあるところに足を運ぶ。


「莉緒の利き腕はどっち?」


 莉緒は右手を軽く挙げた。

 右利きか、それなら選び放題で羨ましい。

 左利きのあたしは、気に入ったものがあってもレフティーモデルが無かったりするし。


「それと莉緒はどこのポジションがやりたいってある?」


 やりたいポジションがあるのなら、それに応じたグローブを買った方がいい。

 練習では、全体練習の他にポジションごとの練習もあるし。


『いえ、特に無いです』


 それなら、オールラウンドに使えるグローブの方がいいかな。

 練習しながら、適性を見定めるっていうのもアリだ。


「ふむ……」


 あたしは値段がちょっと高めのグローブを莉緒に手渡してみた。


「コレなんかどう? ちょっとはめてみて」


『フフッ、言い回しが少しイヤラシイですね!』


 「どこがやねん!?」と心の中だけでツッコミを入れつつ、グローブをはめる莉緒を漠然と見ていた。

 あたしにはクラスメイトとはいえ、今日が初対面の人にいくら持っているか聞く度胸はない。

 なのであえて高めのものを選んでみた。


 それとあたしには道具選びに一家言ある。

 あたしは私服には興味がないからお金をかけないけれど、ソフトボールで使うものに関してはいい物を使うようにしている。

 莉緒は目をキラキラさせながら、首を縦に振った。


『最高です!! もうこれしか有り得ません!! 若干サイズが小さいですが、今すぐ有り金全部はたいて買ってきます!!』


 あたしはレジに並んでいる人の最後尾に、嬉々として飛び込んで行こうとする莉緒の腕を慌てて掴み、その場に留めた。


「ちょっ、ちょっと待って!! 有り金全部!? しかもサイズの合ってないのを!? あたしは候補の一つとして渡しただけだから、もうちょっと他のを探そ?」


 あたしは悲しそうな顔でグローブを棚に戻している莉緒を横目で見つつ、他のグローブを探した。



 グローブはさっき選んだものより安めのものを買い、そろそろ帰ろうと莉緒に伝えると、彼女が今日のお礼をしたいと返してきた。


「お礼なんていいよ。ついでだったし」


『そうはいきません。思いのほかお金も余った事ですし、夕ご飯を奢らせて下さい!』


 結局彼女の勢いに押されて、夕ご飯をごちそうされる羽目になった。

 まあ、家に帰ったところで誰もいないし、一人寂しくコンビニ飯よりマシか。

 一食分食費も浮くし、今回は好意に甘えておこう。


 そう思いつつ、少し先を歩く莉緒についていくのだが……行き先がおかしい。

 ことごとく飲食店は通り過ぎ、彼女が吸い込まれるように入ったのは、これから目一杯お世話になるであろうコンビニである。

 彼女に続いて来店し、店員の死んだ声での「らっしゃいませぇ……」を聞き流していると、莉緒がスケッチブックをあたしの眼前に見せてきた。


『折角なので、二人別々の物を買って食べ比べしませんか?』


 会計が済めば、解散する気満々だったあたしの想いを打ち砕く提案が書かれてた。

 こうなったら仕方ない、乗りかかった船だ。

 今日はとことん付き合ってやろうじゃないか。


 莉緒が選んだのとは違う物を莉緒の持っているカゴに入れた。

 明日の朝の分も買っておこうと思い、別のカゴを取りに行こうとすると莉緒が、


『朝食の分ですね? こっちに入れて下さい!』


 と伝えてきたので、会計を分けてもらおうとしていたのだが、結局全て莉緒が支払っていた。

 会計後、コンビニから出たところで買い物袋を莉緒からふんだくると、彼女は泣きそうな顔をしている。


「コレ持ってると、書けないでしょ?」


 あたしがスケッチブックを指さすと、莉緒はようやく得心がいった表情になった。


「ねぇ、莉緒の家ってここから近いの?」


 近いのなら、莉緒の家で食事しようと思っていたのだが、彼女は首を傾げていた。


『ここからなら、さくらんぼのマンションの方が近いので、そっちに行きましょう!』


 ……あたし達初対面のはずなのに、何故マンションの場所を知ってるのだろう?

 あたしの名前を知っていたのもそうだ。

 マンションに戻ったら、とことん聞いてみるか……。

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