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さくらんぼライフ  作者: あやの
2/22

2.自己紹介はかくも難しき

 自分に何の落ち度もないのに、自己紹介で大爆死するという奇跡を見せたあたしがヘコんでいる内に、全員の紹介が終わった。

 担任教師が明日以降のスケジュールを伝え終わると、本日は下校となった。


 彼女は立ち去り際に、あたしの事を恨めしそうに睨んでいた。

 あたしがこれからの学校生活に不安を感じていると、隣の席の子が帰り際に、


「バイバイ、また明日ね。え~っと……おっぱいさん!」


 とやたら良い顔で挨拶してくるのを、生返事と引きつった笑顔で返しつつ、鞄から取り出したスマホがブルッたのでメールの確認をした。


 この学校にはあたしの幼なじみがいる。

 その子もソフトボールをしていて、中学ではあたしと鉄壁の二遊間を形成していた。


 あたしが進学先で悩んでいた時、相談したのも彼女である。

 彼女の「やりたい事をやるべき!」という後押しで、あたしはこの高校に決めた。


 彼女は頭が良くて、もっと偏差値のいい進学校に行けたにも関わらず、一緒にこの高校に進学してきた。

 俗にいう腐れ縁というやつだ。


 ……いや違った、大がつく程の親友である。

 その大親友からはメールで、


『部活の仮入部は明日からだって。今日どうしよっか?』


 と送られてきた。


『それなら相談に乗ってくれる?』


『相談? なになに?』


『【クラスメイトに名字を覚えてもらう方法】教えて。明日までに頼んだ!』


『どういう事? 自己紹介無かったの?』


 と返事が来たが、返答する気の無かったあたしがスマホを鞄にしまっていると、目の前に人が立っていた。

 スラッとした美脚の、黒髪美人。名前は確か……、


「え~っと……」


 やばい、どうしよう。全然出てこない。

 困っていると、黒板にはまだ彼女の書いた文字が残っていた。助かった!


「あの……金子さん?」


『私の事は【りお】でいいですよ☆』


 彼女は手に持っていたスケッチブックに、綺麗な読みやすい字で書いて、あたしに見せてきた。

 初対面の人に対して名前呼びって、あたしには難易度高いんだよな……。


「いや、あの、金子……」


『【りお】です☆』


「かね……」


『【り・お】!』


 はぁ……、本人がどうしてもって言うのならしょうがない……。


「リオ……」


 あたしの言葉を聞いた彼女は、これでもかっという程嬉しそうな顔をした。


 ――何この娘可愛い――


 まだ帰らずにあたし達の成り行きを見守っていたクラスメイト達も、彼女の笑顔でホッコリしている。

 だがそこは素直でない事には定評があるあたしである。


「……デ・ジャネイロってブラジルの首都だっけ?」


 この一言で雰囲気が一変した。

 笑顔だった彼女は泣き顔になり、目から大粒の涙が流れてきたのだ。


「うわっ……あのおっぱいサイッテ~……」


「テメェ、おっぱいコラッ!!」


 すっかり名前が【おっぱい】に確定してしまっているあたしの周りを、クラスメイト達が取り囲んできた。

 女子は心底呆れかえった顔で、男子に至っては今にも襲いかかってきそうな様相である。


 ――マズい、このままでは――


 早くなんとかしなくては花の高校生活、マイナスからのスタートである。

 それどころかイジメの対象待った無しだ。

 ソフトボールで【本当はピッチャーやりたい】とか言ってる場合じゃない!


 これからの未来を想像し、青ざめたあたしはスカートのポケットの中を必死でまさぐった。

 彼女の涙を拭くつもりだったのだが、目当ての物は見つからなかった。

 ……こんな時にハンカチを忘れるだなんて、今日は厄日なのだろうか。


 朝の占いはどうだったっけ?

 あ、いやそれは今いい。マジどうしよう。


 ――高校生活初日早々汚したく無かったけど……えぇい、ままよ!――


 あたしはポロポロ涙を流す彼女を抱き寄せ、顔を自分の胸に押し当てつつ、手で頭を撫でる。

 そうしながらも、彼女に優しく囁きかける。


「ごめんね、莉緒……。莉緒がいつもあまりに可愛いからイジワルしたくなっちゃった☆」


 【実は二人は前からの知り合い作戦】である。

 件のやり取りはクラスメイトに送る、軽いドッキリでっせというものだ。

 さっきまで赤の他人だったのだから無理矢理感ハンパないけど、こんなんしか思い浮かばなかったんだ!


 ……彼女はゆっくりあたしから離れると、スケッチブックに何やら書き始めた。


『もう、いつも冗談キツいんだから☆』


 どうやら彼女にあたしの意図が伝わってたっぽい。

 それを見たクラスメイト達の態度が軟化した。


「な~んだ、本当にただの冗談だったんだ」


「内容はクソつまんねぇけどな」


 クラスメイトは三々五々に散っていく。


「おっぱいちゃんとは前から知り合いだったんだ?」


 そんな最中、一人の女子が莉緒に話しかけていた。

 ちょっと勘弁してくれ、もうこれ以上は……。


『それより彼女の名前は【さくらんぼ】ですよ!』


「ブッ!?」


「「「「「「「「「「さくらんぼ!?」」」」」」」」」」


 せめてクラスでの立ち位置が決まってから知られたかった名前が盛大に暴露され、あたしの高校生活逆境スタートが確定した……。

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