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さくらんぼライフ  作者: あやの
19/22

19.突撃! 莉緒の自宅

 家の周りを一周し、一階の窓のどこもかしこもしっかり施錠されているのを確認した。

 よっしゃ、こうなったら仕方が無い!

 あたしはありったけの勇気を振り絞り……開いているかどうか分からないけど、その可能性を信じて二階の窓からの侵入を試みることにした。


 考えてみれば今のあたしは莉緒なのだ。

 仮に誰かに見られて通報されても、自分の家に入ろうとしているだけである。

 警察に通報されても「【ごっこ遊び】でした♪」とでも言えば許してもらえる気がする。


 そう自分に言い聞かせ、登りやすそうな出っ張りに手を伸ばしたところで、玄関がガチャっと開いた。

 中から出てきたのは、まるで変質者を見るかのような目をした幼子である。


「…………さっきからなにやってるの? おねぇちゃん…………?」


 その子から放たれた声は、それはもう冷め切っていた。

 だがしかし、あたしにはこの状況を打破する魔法のような一言があるのだ!


『ただの【ごっこあそび】でした♪』


 サッとスケッチブックに書いたこの一言を見て、眼前の子はこう言いました。


「……くらくてなにをかいてあるのかよめないし、はやくおうちにはいれば? おねぇちゃん……」


 …………そっスね…………。



 外観が普通だったので、家の中は何かしらサプライズが……との願いは儚く散った。

 普通も普通、超普通である。

 必死で違いを見つけようとしていると、多分妹ちゃん?が声を掛けてきた。


「……おねぇちゃん、ごはんまだなの? なんのれんらくもなかったからいちおうつくってあるけど……?」


 ……そう言われてみれば、お腹はメチャクチャ減ってるなぁ……。

 お昼にご飯を食べてから、かれこれ半日以上たってるし当然か。


『いただこうかな』


 それを見た妹ちゃんは「じゃああたためるからすこしまってて」と言い、台所に消えていった。

 しっかりした、いい子だなあ。

 小学生くらいかな、今何年生だろ?


 ホッコリしつつも、ふと気になることがある。

 どうもこの家、妹ちゃん以外の人の気配がないのだ。


 親御さん、いないのかな?

 食事の時、上手いこと聞き出せないだろうか……。



 妹ちゃんに呼ばれ、台所へ向かうとテーブルの上に料理が並んでいた。


 それはいいんだけど……多くね?

 山の幸から海の幸、大地の恵みまであるぞ?

 この後寝るだけの身としては、カロリー取り過ぎな気がする。


『あの……ちょっとおおい?』


 あたしは妹ちゃんをなるたけ傷つけないよう、やんわりと聞いてみた。


「? いつもおねぇちゃん、これぐらいのりょうペロッといっちゃうけど、どうしたの? たいちょうわるい?」


 そう言って心配そうにあたしの顔を覗き込む妹ちゃん。

 初めてまともに見た妹ちゃんの顔はどう表現したらいいのだろう。


 今のあたしをもうちょっと丸顔にして、幼くした感じ……かなぁ。

 つまりまあ何というか……かなり可愛いといっても差し支えない。


 何が言いたいのかというと、そんな子を前に『食べきれない!』というのは女が廃るというか……。

 もっと言えば、カッコ悪いところは見せたくないのだ!


『だいじょうぶだよ、リトルハニー! いまのはちょっとしたかくにんさ!!』


「ハニー?」


 ……どうもさっきからあたし自身がおかしい。

 思うにお腹が減りすぎて、脳に血が巡っていないのだろう。


 怪訝そうに首を傾げる妹ちゃんの前で、あたしは料理をかっ込んでいく。

 ちょっと甘いけど、嫌いな味ではない。

 みるみる料理が減っていく。


 が、あたしはあえてペースを落とした。

 妹ちゃんに聞かなくてはいけない事があるのを思い出したのだ。


『パパとママってどうしてるんだっけ?』


 ……結局言い聞き出し方が思い浮かばず、ストレート勝負になってしまった。

 普段、妹ちゃんが親御さんをどう呼んでいるかも分からないから、年齢から察して一番無難なとこを突いたつもりだけど、どうだろ?


「パパ? ママ? どうしたの、そのよびかた……?」


 ヤバ、外したっぽい……?


「もうダメだよ! ふたりから【セイントナイト】と【ホーリーエンジェル】ってよぶよう、きつくいわれてるじゃない!!」


 分かるかい! そんな事!!

 莉緒の両親、そんなにイタい人だったの!?

 中二病爆発してんじゃん!!


「その……なんとかナイトとなんちゃってエンジェルはおしごとがデスマーチにはいったから、しばらくかいしゃにとまりこむっていってた」


 妹ちゃん、呼び方覚えきれてない……。

 なんちゃってって……。


「あと、もしかしたらかぞくふえるかもって……」


 それ妹ちゃんに絶対言ったらダメなやつだぞ!?

 何考えてるんだ、莉緒の両親……。

 さすが莉緒の親って感じがしないでもないけどさ。

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