19.突撃! 莉緒の自宅
家の周りを一周し、一階の窓のどこもかしこもしっかり施錠されているのを確認した。
よっしゃ、こうなったら仕方が無い!
あたしはありったけの勇気を振り絞り……開いているかどうか分からないけど、その可能性を信じて二階の窓からの侵入を試みることにした。
考えてみれば今のあたしは莉緒なのだ。
仮に誰かに見られて通報されても、自分の家に入ろうとしているだけである。
警察に通報されても「【ごっこ遊び】でした♪」とでも言えば許してもらえる気がする。
そう自分に言い聞かせ、登りやすそうな出っ張りに手を伸ばしたところで、玄関がガチャっと開いた。
中から出てきたのは、まるで変質者を見るかのような目をした幼子である。
「…………さっきからなにやってるの? おねぇちゃん…………?」
その子から放たれた声は、それはもう冷め切っていた。
だがしかし、あたしにはこの状況を打破する魔法のような一言があるのだ!
『ただの【ごっこあそび】でした♪』
サッとスケッチブックに書いたこの一言を見て、眼前の子はこう言いました。
「……くらくてなにをかいてあるのかよめないし、はやくおうちにはいれば? おねぇちゃん……」
…………そっスね…………。
外観が普通だったので、家の中は何かしらサプライズが……との願いは儚く散った。
普通も普通、超普通である。
必死で違いを見つけようとしていると、多分妹ちゃん?が声を掛けてきた。
「……おねぇちゃん、ごはんまだなの? なんのれんらくもなかったからいちおうつくってあるけど……?」
……そう言われてみれば、お腹はメチャクチャ減ってるなぁ……。
お昼にご飯を食べてから、かれこれ半日以上たってるし当然か。
『いただこうかな』
それを見た妹ちゃんは「じゃああたためるからすこしまってて」と言い、台所に消えていった。
しっかりした、いい子だなあ。
小学生くらいかな、今何年生だろ?
ホッコリしつつも、ふと気になることがある。
どうもこの家、妹ちゃん以外の人の気配がないのだ。
親御さん、いないのかな?
食事の時、上手いこと聞き出せないだろうか……。
妹ちゃんに呼ばれ、台所へ向かうとテーブルの上に料理が並んでいた。
それはいいんだけど……多くね?
山の幸から海の幸、大地の恵みまであるぞ?
この後寝るだけの身としては、カロリー取り過ぎな気がする。
『あの……ちょっとおおい?』
あたしは妹ちゃんをなるたけ傷つけないよう、やんわりと聞いてみた。
「? いつもおねぇちゃん、これぐらいのりょうペロッといっちゃうけど、どうしたの? たいちょうわるい?」
そう言って心配そうにあたしの顔を覗き込む妹ちゃん。
初めてまともに見た妹ちゃんの顔はどう表現したらいいのだろう。
今のあたしをもうちょっと丸顔にして、幼くした感じ……かなぁ。
つまりまあ何というか……かなり可愛いといっても差し支えない。
何が言いたいのかというと、そんな子を前に『食べきれない!』というのは女が廃るというか……。
もっと言えば、カッコ悪いところは見せたくないのだ!
『だいじょうぶだよ、リトルハニー! いまのはちょっとしたかくにんさ!!』
「ハニー?」
……どうもさっきからあたし自身がおかしい。
思うにお腹が減りすぎて、脳に血が巡っていないのだろう。
怪訝そうに首を傾げる妹ちゃんの前で、あたしは料理をかっ込んでいく。
ちょっと甘いけど、嫌いな味ではない。
みるみる料理が減っていく。
が、あたしはあえてペースを落とした。
妹ちゃんに聞かなくてはいけない事があるのを思い出したのだ。
『パパとママってどうしてるんだっけ?』
……結局言い聞き出し方が思い浮かばず、ストレート勝負になってしまった。
普段、妹ちゃんが親御さんをどう呼んでいるかも分からないから、年齢から察して一番無難なとこを突いたつもりだけど、どうだろ?
「パパ? ママ? どうしたの、そのよびかた……?」
ヤバ、外したっぽい……?
「もうダメだよ! ふたりから【セイントナイト】と【ホーリーエンジェル】ってよぶよう、きつくいわれてるじゃない!!」
分かるかい! そんな事!!
莉緒の両親、そんなにイタい人だったの!?
中二病爆発してんじゃん!!
「その……なんとかナイトとなんちゃってエンジェルはおしごとがデスマーチにはいったから、しばらくかいしゃにとまりこむっていってた」
妹ちゃん、呼び方覚えきれてない……。
なんちゃってって……。
「あと、もしかしたらかぞくふえるかもって……」
それ妹ちゃんに絶対言ったらダメなやつだぞ!?
何考えてるんだ、莉緒の両親……。
さすが莉緒の親って感じがしないでもないけどさ。




