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さくらんぼライフ  作者: あやの
17/22

17.ウソの果てに

 練習はあたしの予想以上に良い出来だった。

 ピッチングは言わずもがな、バッティングは当たれば特大ホームラン、掠ってもホームランという有様である。


 あたしの今まで培ってきた技術+莉緒の身体能力が合わさるとこうなるのか。

 完全にソフトボールがヌルゲーと化していた。


 対照的に、あたしの身体になった莉緒はというと……。

 ピッチングは球が遅いのに加えノーコン、バッティングは当たることすらまれで、当たったところで弱々しい打球がフラフラと舞い上がっていた。


 あたしの唯一の取り柄だった守備の方も……。

 中身がド素人莉緒なので、エラーを連発していた。


 こんな状態のあたし(の身体の莉緒)にキレたのが薊である。


「ちょっと、さくら!! アンタやる気あるの!?」


 彼女は負傷しているため、練習には参加せずマネージャーのような事をしている。

 短いインターバルに入った直後、莉緒に詰め寄っていた。


「いや、今日は調子が悪くて……」


 流石の莉緒も薊の剣幕に押されていた。


「調子が悪い!? そもそも、動きが初心者のそれじゃない!! まるで別人みたいよ!?」


 さっきもそうだったけど、元に戻った時のことを考えてこういうのは放置できない。

 ……しばらくは莉緒に部活を休んでもらった方が得策かな。

 あたしはそう考え、持っていたメモ帳にある事を書いて薊に見せた。


『実はさくらんぼ、足首の骨折れているんです!』


 薊は「ん?」と目を細め、首を傾げている。


「ごめん、金子さん。字汚くて読めないから、もうちょっと丁寧に書いてくれる?」


 ……あたしは言われるがまま、もう一度書いてみせた。


「えっ!? さくらも怪我してたの!?」


 読み終えた薊は莉緒の肩を揺すっている。

 その莉緒はこっちを見つめてきたので、あたしは頷いてみせた。


「え、ええっ。そう……みたいです」


「みたい?」


 歯切れの悪い莉緒に対して、薊は怪訝そうな表情をしている。


「……でも今、普通に立っているよね……?」


 そう言われた莉緒はなるほど、美しいまでの直立不動である。

 ……いやあかんがな……。

 あたしが目で合図を送ると、莉緒はしゃがんで右足首を押さえ、わざとらしく痛がりはじめた。


「……くぅ……今の今まで堪え忍んできた痛みが今頃!? もうダメッス~!!」


 十人中十人が看破するであろう、演技力の欠片もないウソ丸出しの芝居だけど、真面目一筋薊には効果があった。


「この痛がり方、シャレにならないわ!! すみませーん、キャプテン!」


 薊はキャプテンに事情を伝え、莉緒は部活を抜けることになった。


「じゃあ、さくら。わたしが病院に付き添ってあげる♪」


 何故か若干嬉しそうな薊が莉緒にそう告げているのだけど、病院に行くとウソがバレてしまう。

 が、そこは莉緒。


「いえ、それには及びません!」


「え、何で? 早く医者に診せないと……」


 薊は本気で心配そうにしている。


「本当は既にドクターストップがかかっていたのですが、無理矢理練習に参加したんです……」


 キャプテンと薊が顔を見合わせている。

 そして、キャプテンが莉緒に訊ねた。


「……それはどうしてだ?」


 莉緒は重苦しい雰囲気を醸し出しながら、静かに口を開いた。


「……白球から……私を呼ぶ声がしたんです!!」


「星野ぉ!!」

「さくらぁ!!」


 声さえ出れば間違いなく「はあ!?」と言っていたであろうあたしの目の前で、熱いキャプテンと薊が莉緒を抱きしめていた。


 いや、ホント勘弁して欲しい。

 だってこれ、あたしが言った事になってるんだぜ?


「星野、心配するな! 怪我さえ治せば元『中学ナンバーワンセカンド』のお前はレギュラー争いにすぐ食い込める!! もちろん、練習は死ぬほどしてもらうがな!!」


「えっ、死ぬほど?」


「さくら、高校でも『鉄壁の二遊間』を二人で形成する為、まずはお互いじっくり怪我を治しましょう! 地獄のリハビリはそれからでも十分よ!!」


「地獄? ちょっ待って下さい! 私は……」


「「つべこべ言わず保健室だ!!」」


 莉緒はあたしに恨めしそうな視線を送りながら、二人に肩車されグラウンドを去って行った。

 ……しばらく元に戻りたくないな~。

 あたしは心の底からそう思うのだった……。

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