表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さくらんぼライフ  作者: あやの
15/22

15.莉緒のろくでもない策略

 部屋に入ると布団がベッドの上で、ムガムガ言いながらモゾモゾしていた。

 あたしが布団の紐を解くと、中から涙目の薊が姿を現した。

 彼女はあたしを怒りを込めて一瞥すると、そのままトイレに駆け込んでいた。


 やはり限界だったらしい。

 それはともかく、今はあたしが莉緒だ。

 薊がトイレから戻ってきたら、怒られるのはあたしである。


 ……はぁ……、嫌だなぁ……。


 薊、怒ると怖いんだよな……。

 そんな憂鬱なあたしとは裏腹に、あたしと姿が入れ替わっている莉緒は、息も絶え絶えの状態である。

 ……あたしの体って体力ないな~……。

 莉緒の体があり過ぎるってのもあるけど。



 予想通り薊にたっぷり怒られた後、学校に戻ることになった。

 サボる事を良しとしない薊らしい。

 ただし莉緒はかなり渋っていた。


「ええ~、また戻るんですか~?」


 その発言を聞いた薊が不思議そうな顔をしている。


「あれ? さくらの口調、いつもと違わない?」


 高校になってからのクラスメイトならともかく、幼少時から一緒だった薊に今のは失言である。

 莉緒にはちゃんとあたしになりきってもらわないと!

 あたしはそんな意図を込めて莉緒を睨み付ける。


「……え、え~っと……ああ、そうそう。莉緒ならこんな言い方するんだろうな~と思って!」


 ……何を言ってるんだ、莉緒の奴?


「はあ!? 何でこんな奴の口調をマネする訳!?」


 薊はあたしを指さしながら、莉緒に疑問をぶつける。


「それは、その……」


 乙女顔をした莉緒がわざとらしく言い淀んでいる。

 ……もう悪い予感しかしない。


「……実は私、初めて莉緒を見た時からドキドキが止まらなくて……」


 ウソ臭く顔を赤く染めた莉緒がろくでもない事をほざいている。


「……昨日、両思いかもって知ってからいても立ってもいられなくなって……」


 あたしはこれっぽっちも好きじゃないけど!?


「……夕べ、一線を越えてからもう虜♪」


 それを聞いた瞬間、薊はあたしに振り返り、


「アンタ、わたしのさくらに何したの!?」


 はい、ビンタいただきました!!



「ちょっと私だけの莉緒に何するんですか!?」


 あたしが薊に頬を叩かれたのを見て、莉緒が薊の肩を掴む。


「私だけ? さくら、目を覚ましなさい! この女に騙されているのよ!!」


 薊は莉緒の両肩を掴み、強く揺さぶっている。


「騙されてなんかいませんよ!! 莉緒は私の運命の人なんです!!」


 ――コイツ、マジぶん殴りたい!!


 ただそんな事をしても、この場は収拾しないんだよなぁ……。

 一発でこの妙な修羅場を収める方法はないだろうか?


 ――莉緒の発言を肯定しつつ、好意を否定するような――


『さくらんぼ、ごめん……』


 あたしはスケッチブックを二人に見せた。


「何です? 私は大丈夫ですよ! その……初めてであんなに気持ち良くしてもらえたのですから!!」


 ……莉緒、後で覚えてろ……。


「さくら……。本当に……?」


 薊はさっきまでとは打って変わり、悲しそうで今にも泣きそうだ。

 ……これ以上、大親友のこんな顔見ていたくはない!


『夕べのアレ……ほんの遊びだったの、ごめんなさい……』


 あたしは恭しく莉緒に頭を下げる。


「遊びって……あれだけ情熱的に私を攻め立てておいて……?」


 ……コイツだけは絶対に後悔させてやる……


「……すん……すん……」


 薊はとうとう鼻を啜りはじめた。


 ――大丈夫、悪夢はもうすぐ終わる!


『……ホント、ごめん。さくらんぼがあんなに【耳はむはむ】に弱いなんて知らなかったから……』


「「耳はむはむ!?」」


 二人がキレイにハモっていた。


「ちょっと待っ……」


 必死にあたしの言葉を否定しようとする莉緒。


「な~んだ、そんな程度の事だったの? さくら、それって完全に遊びじゃん」


 さっきまでのお通夜な雰囲気から一変、復活した薊。

 ただ莉緒、あんたはこのままでは済まさん!


『……それに私、彼氏いるんです!!』


「はあ!?」


 くっくっく、立場逆転!

 莉緒はかなり焦りまくっていた。


「そんなバカな、私には……」


「さくら!! ……【耳はむはむ】程度わたしが、……いえわたしなら【耳の穴の奥まで舐め回す】から金子さんの恋の邪魔しちゃダメよ!」


 薊に諭され、莉緒は言葉が紡げなかった。

 あたしに【耳が性感帯】というしょうもない属性がついてしまったが、仕方が無い。

 見事なまでに策略が失敗し、茫然自失した莉緒を薊と二人して抱え、あたし達は再び学校へ向かって走って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ