13.入れ替わり前夜
彼女達から数十分遅れてマンションに帰ってきた。
コンビニに寄って三人分のお弁当を持っている為、走るわけにも行かず、かなり時間がかかってしまった。
マンションの前には、やたら絵になる二人がやや距離を開け、無言で佇んでいる。
心なしか、通行人が彼女達を見ている気がした。
「さくら、遅い!」
『遅かったではないですか! おかげでえらく殺伐とした時間を過ごす羽目になりましたよ!?』
「ごめん、ごめん。お弁当買ってたら遅くなっちゃって……」
あたしを見た時の二人の表情がホッとしたものだったので、思わず謝ってしまった。
「ああ、そうか。晩ご飯の事忘れてた……」
『流石ですね! それ、お持ちしますよ!』
莉緒があたしからコンビニ袋をひったくる。
『さぁ中に入りましょう!』
莉緒と薊がどっちが先に入るか揉めつつ、部屋に入ってきた。
「へぇ、結構いいとこじゃない」
『あれ? 昨日も来てませんでした?』
「うっさいわね。昨日はちゃんと見れなかったのよ!」
薊はバツが悪そうに頭を掻いている。
ほとんど会話のない夕食が終わり、お風呂に入ろうということになった。
一応お客さんだし、薊達に先に入ってもらう方がいいのだろうか。
でも、莉緒ってお風呂長いんだよな……。
「……お風呂、誰から入る?」
あたしは二人に聞いてみた。
「えっ? そ、そうね……」
『そうですね……』
薊がチラチラあたしを見てるけど、何だろ?
「ひ、久し振りに二人で入ろうか?」
「へっ?」
『むむっ!? そんな事させませんよ! お風呂は一人ずつ入るものです!』
「「………………」」
あたしと薊は顔を見合わせ、首を傾げた。
昨日もそうだったけど、莉緒ってキャラ的にこういうの一緒に入ろうとするものじゃないのだろうか。
別に一緒に入りたいわけじゃないけど、裸に何かコンプレックスでもあるのかな。
あたしに人の嫌がる事をする趣味はないし、まぁほっとくんだけど。
「じゃあ、薊が一番先に入る?」
「じゃあの意味が分からない!? 一緒に入ろって誘ってるのに!」
「だって、莉緒が嫌がってるじゃん」
『そうですよ、小川さん! アナタは一人寂しくお風呂に行けばいいのです! 後がつかえているのですから、早くして下さい!!』
「尚更、二人で入った方が早く済むじゃない! それにわたし負傷してるのよ! 一人でなんて入れないわ!!」
段々薊も意地になってきたのか、怪我の事を持ち出してきたな。
これは長引くかも……。
『はぁ、仕方ないですね……』
莉緒はため息交じりに立ち上がり、薊の目の前に立った。
「な、何よ……」
『ちょいとごめん!!』
そう書くと莉緒は薊の首筋に手刀を落とした。
「なぁ…………」
そう言い残した薊の体が崩れ落ちる。
床に倒れこむ前に莉緒が薊を抱えた。
そのまま莉緒は、あたしの部屋の布団で薊を包み、紐で厳重に巻き付けると、ベッドに転がした。
『さぁ悪は消え去りました! ではお風呂へどうぞ!!』
一番の悪が何か言ってるな……。
ともかく今のうちにお風呂へ入ろう。
お風呂から出たら、解放して謝っておこうか……。
あたしの後、莉緒もお風呂に入った。
薊を解放しようと言ったあたしの意見は却下され、そんなことよりそろそろ寝ようということになった。
や、そんなことって……。
『解放したら、必ず厄介な事になりますよ! ここは起こさないが最善です!』
その意見にはかなりの説得力があったので、あたしも強く反対できなかった。
『ただ困りましたね~! 小川さんがベッドを占領しているため、私達にはコタツ布団しか残されていません!!』
全く困っていない、むしろ嬉しそうな莉緒がそんなことを書いて見せてきた。
コイツ、ここまで計算していたのではなかろうか……。
『……桜桃がどうしても嫌なら、私はトイレで寝ますが?』
そっちの方が嫌だ!
はぁ、今日も莉緒と一緒に寝るのか……。
何されるか分かったものじゃないので、なるべく眠りを浅くしたいけど、妙に眠いんだよな……。
「分かった、コタツでいいよ……」
『桜桃の温情に感謝します! なぁに、目的は昨日済ませておきましたし、今日はしこたま眠いんで何もしませんよ、多分!!』
多分じゃダメだろ!
それよかやっぱり昨日何かされてたのか。
気になるけど、ダメだ……。
フラフラしてきた……。
もう眠ってしまおう……。
あたしは向かいの莉緒が既に眠っているのに呆れつつ、睡魔に身を委ねていった……。




