帝国が勇者召喚するそうです
「ここは何処だ?」
「あれ!?拓海は何処!?」
最初に辺りを見回した二人が感じた疑問はこれだった。
辺りに、見慣れた同級生と教師が居る事と、良く分からない豪華な装飾がされた広い空間。
そして、周りにいる重そうな鎧と短剣を装備した兵士の様な人達が居る事から、異世界に呼ばれたのであろう事は、亮太と理香には簡単に想像出来た。
そして、周りに拓海が居ない事から、拓海だけ違う場所に飛ばされた可能性が高い事も亮太は感じて分析する、
「ねぇ?やっぱり拓海は....」
「多分そうじゃないか?でも....拓海にはきっと会えるだろうし、今は自分達の状況を把握するのが先だと思うぞ」
不安そうな理香を落ち着かせると、亮太は周りを見回し、目当ての人を見つけると理香を連れて近寄る。
ボサボサの手入れをしていない髪に白衣を着た如何にもダメ親父の象徴の様な先生。
「折原先生!」
近寄って声を掛けると、振り返って「おぉ。亮太君と理香ちゃんか!」と嬉しそうに折原先生が言って亮太に近寄る。
「君達も変な光に巻き込まれたのか....それにしても此処は何処だ?それに拓海君は?」
「此処は分かりません。それに拓海も私達と同じように飛ばされたと思うんですけど見当たらなくて」
一通り、折原先生に理香が、あの時の状況を説明すると「そうか、もしかしたら拓海君は違う場所にいる可能性が高いな」と拓海と同じ様な考えを言った。
やっぱ、折原先生もそう思うのか。
それにしても何で、こんなにも大量の人を呼び出したのだろう?
それに此処は何処だ?っと亮太が疑問に思っていると、一際高い位置に座る如何にも偉い人と言った豪華な鎧を纏った金髪の整った顔立ちをした男性がユッタリと椅子から立ち上がり辺りを見回す。
「ようこそ勇者諸君!戸惑っているとは思うが、話しを聞いてほしい!」
大きな声で男性が叫ぶと、戸惑っていた生徒や教師陣が一斉に男性の方を向いて不安そうに見つめる。
亮太達もその男性を見るが、他の生徒よりは落ち着いていた。
「君達は選ばれし勇者達だ!君達を召喚したのは他でもない!憎き家畜である魔族と魔王を倒してもらいたいのだ!」
そう言うと、男性は亮太達に召喚した経緯を説明した。
魔族は非道で残忍だと。
人間を殺し、悪の化身であると。
最近、新たな魔王を召喚した情報を手に入れたと。
この国は、魔王を討伐する為に勇者召喚を行い、亮太達を召喚したと説明した。
「ちょっと待てよ!俺達にその魔族って奴を倒せって事か!?」
ザワザワと生徒達が戸惑いを隠せない様子でいると、一人の生徒が男性に向かって叫んだ。
それに対して、当然と言った様子で頷く男性に生徒達の中には、恐怖で泣く者も現れる。
「おかしいだろ!俺達はあんたらと違って一般人だぞ!戦うなんて無理に決まってるだろ!?」
一人の生徒の叫びに同調するかのように、彼方此方から叫び声が上がる。
亮太達もその一人だ。
「亮太!!ど、どうなってるのこれ!?」
「どうやら、拓海が言っていた通り勇者召喚ってやつだろうな」
「あぁ。だが気になる発言もあった」
魔王召喚。
この世界に呼ばれたであろう親友である拓海がこの場に居ない事と何か関係があるだろう。
尚も戸惑っている生徒達を気にする雰囲気も無い男性は、辺りを見回すと、パンッと大きく両手を叩き再度注目を浴びる。
「諸君らの戸惑いも分かる。だが安心しろ、我がカリア・ドラゴ・ヴァンキッシュが治めるヴァンキッシュ帝国には、諸君らを鍛える設備や教育機関も充実している。更に、勇者として召喚された者には代々優秀な力が備わると伝えられている。だからこそ、諸君らの活躍を期待しているぞ!詳しい説明は後ほど兵士たちから説明されるであろうが、先ずは我が帝国屈指の食事を持て成すので存分に楽しむがいい」
カリアと言った男性が生徒達に説明すると、直ぐにメイド服を着た女性と、執事服を纏った男性が、数々の料理や飲み物を一斉に運んできた。カリアはそれをチラッと横目で見ると、クルッと後ろを向いてその場を後にする。
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数々の料理を見て、最初は怪しいと思い誰も口にしなかったが、意を決して一人の生徒が食べた。
その生徒に釣られる様に他の生徒や、教師たちが食べ始めて、最終的には全員が並べられた食事をおいしそうに食べていた。
亮太や理香、それと折原先生も同じように他の生徒や教師達と同じ様に食べていたが他の人達と違い、警戒は緩めていなかった。
「このエビチリ上手いね!ねぇ亮太もそう思うでしょ?」
「え?うん、てかこれエビチリなの?」
「どうだろうな?見た目と味は同じだが....それよりも」
辺りを見回しながら警戒を緩めない折原先生を見た亮太と理香も深刻そうに辺りを見回す。
変だと思っているのは三人だけだろう。現に、他の生徒や教師たちはお祭り騒ぎで、最初の警戒心は全く持ち合わせていない。
「変だよね....だって私達よりどう考えたって辺りに居る鎧着た兵隊さんの方が強そうだし」
「うん。それに勇者召喚をして、こんな大人数で魔王討伐ってのも気になる」
「流石、拓海君の親友だな。冷静に判断できている....それと気付いたかい?」
そう言って折原先生が顎で指す方向を亮太と理香が見ると、奥の方で、兵士達が何やら腕輪を生徒と教師に着けているのが見て取れた。それを、訝しげに見る二人だったが、折原先生はもっと別のモノに注意を向けている。
「あの腕輪何かゴツゴツしてて気持ち悪いね。なんだろう?」
「うん。それに何であんな物を付けさせるんだ?」
不思議そうに二人が眺めるが首を傾げるばかりでサッパリ分からない様子だ。
それに対して、折原先生はジッと何かを確認すると、普段のダメ親父とは違って眉間に皺を寄せて険しい顔をする。
「二人共、気を付けろ。このペースだと、そろそろ俺達にもあの腕輪を付けさせる筈だ。付けた後、お互いの態度に違和感があれば気を付けた方が良いだろう」
目線を変えずに亮太達に忠告する折原先生に意味が分からない様子の二人だったが頷く。
一体どういう事だろうか?と疑問に思ったが、直ぐに自分達の所に鎧を纏った兵士が近寄って来たので一旦話を止めた。
「勇者殿。この度召喚された皆さんに我が国の帝王であるヴァンキッシュ様よりこの腕輪を送るようにとの事ですので、どうぞ着けて頂きたい」
そう言って、鎧を纏った男性が三人分の腕輪をそれぞれに渡す。
それは、他の生徒達に着けていた物と同じタイプで、ゴツゴツとした腕輪だった。
理香は、見た目が気に入らないのか嫌そうな顔をして受け取るが、腕には着けずに持ったままで「ありがとうございます」と棒読みでお礼を告げた。
亮太と折原先生も嫌そうな顔をしながらも受け取るが、一向に付ける気配が無い。
兵士は、少しだけムッとした表情を浮かべたが直ぐに元の表情に戻ってワザとらしく咳払いをすると、腕輪に着いて説明し始めた。
「見た目はあまり良い物ではございませんが、それは我が国でも貴重な腕輪です。その腕輪は、付けた者のステータスを上昇させる特殊な力を持った腕輪ですので、ぜひ着けて頂きたい」
「ステータス?なんだそれは?」
「ステータスとは、その者の力や生命力を表すモノです。それについての説明は、この食事会の後に説明いたしますので、とにかく着けて頂きたい。盗まれてしまえば、一大事ですので」
なんでこの兵士はそこまで強く腕輪を付ける事にこだわるんだ?と亮太と理香は疑惑を向けるが、このままでは兵士が離れて行かないので、仕方なく付けると満足した様に頷いて「それは、肌身離さず常に着けてくださいね」と念押しして離れていく。
「なんだ一体?」
ポツリと小さく呟く亮太に同意する様に頷く理香の二人を見る折原先生は、ジッと二人を見つめていた。それに気付いた二人が不思議そうに折原先生を見ると、尚更目を鋭くする折原先生。
「二人とも何か違和感があるか?」
「違和感?」
「え?何ですか急に?違和感なんて無いですけど?まぁこの腕輪が気持ち悪すぎて、そう言う意味では違和感がありますけど」
亮太と理香の発言に、ふむっと口に手を当てて考え込む折原先生に疑問を浮かべる二人。
一体どうしたのだろうか?と首を傾げて見るが折原先生は他の生徒達を確認している。
「えっと。何かあったんですか?」
「いや....今現在、生徒と教師の複数人の雰囲気が違うんだ....この腕輪もしかした危険な物かもしれない」