とりあえず鍛えるそうです‐続3
スキルの発動方法は理解できた。
後は設定調整と書庫が発動出来れば良いんだけど。
どうするか....。
「取り合えず....″設定調整″」
先ずは、声に出して発動してみる。
発動した場合の結果が分からなければどうしようもない。
そう考えて発動するが、何も変化がない。
俺の考えが間違っていたのか?
鑑定のスキルを発動して見れば結果が分かるか。
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斎藤拓海 男 16歳 Lv1
HP 150
MP 200
パワー 120
スピード 250
ディフェンス 500
種族 魔族(人間)
職業 魔王 (復讐者) (魔導士) (高校生)
スキル 単騎無双Lv1 設定調整Lv1 無限成長Lv1
鑑定Lv1 書庫Lv1 ボックスLv1
装備 学生靴 学生服 トランクス ボロボロのワイシャツ
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職業と種族が変わっている。
これでこのスキルの発動方法が分かった。
恐らく変更したいスキルや職業をイメージしながら設定調整を発動すればスキルが発動するんだ。
納得したように頷くと、二人が不思議に思ったのだろう、俺の鑑定で出したステータス画面を覗き込んできた。
「え!?、職業が魔王になっているのですよ!?」
「どう言うことでござるか?」
驚きを隠せない様子の二人がグイッと詰め寄る。
それを何とかなだめると、俺の設定調整のスキルについて説明した。
俺の説明を聞いた二人は、ようやく俺が言っていた職業についての謎が解けたのか納得したように頷く。
「ふむ。そう言うことだったのでごさるな....だが」
「えぇ。何か変なのですよ....いえ、違和感と言うべきなのでしょう」
二人が悩んでいる様子を見ながら違和感について考える。
と言っても、違和感の正体は俺は既に理解している。
この設定調整、正直に言ってあんまり意味がない。
なんせ、()内の職業を変更しても他のステータスは変化しない。
何か新しいスキルが出てくるのかも....と思っていたが変化がなかった。
それに。
魔族特有の相手の感情が分かるって特殊な力が種族が人間だったのに発動していた....どうしてだ?
「二人に聞きたいんだけど、スキルや種族ってどんなメリットとデメリットがあるんだ?」
今更ながら、スキルと職業について詳しく聞くべきだと感じた。
そこに何かヒントがあると思う。
「確かに詳しく知っておいて損は無いですからね。少しだけ長くなりますが構わないでしょうか?」
フェアリーの問いかけに頷くと、一から説明してくれた。
長い説明だったのだが、面倒な筈のそれを丁寧に説明してくれるフェアリー達に好感が持てる。
聞いた話を纏めるとこんな感じだ。
スキルとはその者が持つ特技の様なモノだと言うこと。
地球の中で例えるなら、運動神経がいい人でもサッカーは得意だけど野球は苦手とか、漫画を書く才能はあってもファンタジー物が得意でそれ以外は苦手とか、これはステータス画面にある職業についても同じことが言えるのだが。
それと、レアスキルとかは持っている人が少ない事を表しているそうだ。そこら辺はどうやって調べているのかは解明されていないようだが....後、オリジナルスキルは持っている人が居ない固有のスキルって事らしい。
そして、肝心な事だがレア度が上がれば上がるほどスキルの性能は特殊で強い事がわかっている。となれば、設定調整はまだ別の使い方があることが分かる。
職業に関してだが、突き詰めると職業以外の武器や行動をすると何故か分かっていないが、ステータスが異常に下がるようだ。
商人系のスキルは例外だそうだが、物を冒険者や一般の人に売る際には国に届けを出さないと行けない。その際に職業鑑定を行い、仮に職業が戦士だった場合許可が出ないそうだ。
ただ、戦士の職業に就いている人が金を稼ぐのに物を売れないのでは生活が出来ないのでは?と考えたのだが、モンスターの剥ぎ取り等で手に入れた素材に関しては専用の買い取り所でのみ取引できるそう。
そうなると色々矛盾点が出てきそうな気がするのだが、今の所そこまで深刻な問題は無いそうだ。
そこまで聞いて、幾つか疑問の余地が残るが一先ず納得する。
その内分かるだろうし。
ただ、設定調整については未だに謎だ。
恐らく設定を変更しても今の所ステータス画面の内容が変更されるだけで、実際に影響するものは何もないのだ。
だから職業が高校生で、種族が人間でも魔族と同じく人の感情を読み取れる。
恐らく、職業以外の武器を使用....正確に言えば俺の()内の職業が使う武器の使用に対するステータス低下のペナルティも無いと俺は考えている。
「何となく理解できたよ。まぁ幾つか疑問に思った所はあるけど....それで、職業魔王って一体どんな装備が出来るんだ?」
「魔王に就いている者はこの世界で殆ど誰も扱うことが出来ない二刀流を使うことが可能なのですよ」
二刀流って何かカッコいい。
カッコいい
カッコいいんだけど.....。
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「これムリゲーだろ」
「先程から言っているのです。拓海さん、手で振るから腰が引けてヘンテコな弱い攻撃になるのです」
「その刀は魔王国でも一番軽く、初心者向けの刀でござる。その程度を軽く振れないようではサクッと殺されるでござるよ」
なんでこういう時だけ現実っぽいんだよ。
そうなのだ、職業とかステータスとかゲーム風な世界だから失念していたのだが。
あくまで、此処は異世界であり現実なのだ。
どうやら魔王という職業であっても、剣を扱う事に関しては基本的に現実と同じである。
だからこそ、二人の指導の下、剣術を学んでいるのだが......。
俺は元々剣道も理香に付き合わされて数回だけ竹刀を握った事があるだけなのだ。
それに、地球では剣や武器を持った時点で警察に捕まるし、なにより人を傷つけることに抵抗がある。
この世界で生きて行くなら仕方ない事なのだが....。
拙い剣捌きを二人に披露しながら必死に練習する。
割り切らなければ行けないけど....これが当たったら死ぬんだよな。
背筋が寒くなるのを感じて首を大きく横に振る。
ダメだ今は、亮太達を助ける事に集中しなければ。
必死にフェアリー達の言っていた剣の振り方を頭の中でイメージしながら刀を振る。
手で振るんじゃなくて、足腰を使って....特に二刀流なのだから手だけを使う事は厳禁だっけ?
でも、どうやっても上手く行かない。
俺って運動神経悪くないのにな。
必死に刀を振るうがどうしても振ってない方の刀が気になって腰が引けてしまう。
先程、右手で刀を振るった時に左手に構えていたもう一本の刀の存在を忘れていて自分の足を少し切ってしまった。
正直、めっちゃ痛かった。
痛すぎて思わず叫んだのだが、フェアリー達は気にする様子も無くて恥ずかしくなったのだが。
理香が此処にいれば何かコツを教えてくれるのに.....。
いや、二人が教えるのが下手とかではないのだけれど。
相変わらず腰が引けている俺を見て何とも言えない表情をする二人。
いや、いきなり二刀流とかムリゲーだから!
「なぁ?取りあえず片手で扱う練習からやった方が良いんじゃないか?」
「ダメでござる。片手に慣れた所で意味ない、それにステータスが下がれば拓海はその刀を持つことも出来なくなるぞ」
首を横に振って俺の提案を拒否する煉鬼にうーっと唸りながら、渋々練習を続ける。
こんなんで亮太達を救えるのか?俺が二刀流をマスターしても、その時に亮太達が死んでたら意味が無い。
いや危険に晒される前に助けたいのに、これじゃ....。
「うーん、困ったのです。これでは時間が掛かるでしょうし、何より次の段階にも進めないのですよ。」
「そうじゃな。そう言えば理香と言ったか?その女性は剣を扱えると聞いたが、その者から何かコツを聞いた事は無いのか?」
困った表情を浮かべていたフェアリー達だったが、煉鬼が不意に問いかける。
そうなんだよな。
どうせなら色々聞いておけば良かった。
今更後悔しながら首を横に振って「聞いてたら実践してる」と事実を告げる。
いや、正確に言えば聞いた事はある。
そもそも試合は別にして、練習中だけ理香は竹刀を二本握ってたし。
それ何か意味有るのか?って思ったし、理香ってゴリラみたいな馬鹿力持ってるよなって言った覚えがある。
当然その後、叩かれたけど。
たしかその時言ってたのは”二本の竹刀を持つのに力は多少必要だけどそれより竹刀の重心が大事、それと足の運び方が重要で、別に私はゴリラじゃないんだからね!”と言っていた。
正直、それを聞いた時は意味が分からなかったし、理香は脳筋ゴリラじゃないんだ~くらいにしか思ってなかったからな。
足の運び方と竹刀の重心だったか?
でも竹刀二本持って振り回してる時点で力使うだろ。
でも、ある意味的を得ているかも知れない。
今考えてみれば、重心って重要だ。
理香の練習中によく見ていた構えを真似して刀をクロスさせるように構える。
少しきついけど慣れるしかない。
後は重心。
確か....理香は回転させるイメージって言ってたよな?
なら理に適ってるだろう。
今のゆっくりした速度の振りの意味も何となく理解できる。
後は理香の動きを思い出しながら....。
集中力を高めて刀の重心を意識して大きく一歩を踏み出し、大振りでは無く、刀の重さと重心を意識して振るう。
スッと今までと違いスムーズに振れた俺は、内心ホッとした様に大きくため息を吐く。
「うむ。先程の構えと振りはバッチリじゃな。及第点でござるよ」
「えぇ。今まで見た事無い構えですが十分でしょう」
二人の合格判定に若干嬉しくなって顔が綻ぶ。
こりゃ、理香のお蔭だな。助けたら何か奢ってやろう。
いや、まずはゴリラって言った事を謝ろうかな。