とりあえず鍛えるそうです
フェアリーと煉鬼に連れられている最中に教えてくれた、もう一つの方法。
亮太達次第だが、俺の中で最も三人を助ける事が出来る確率が高い。
出来ればこの方法が良いのだが....如何せん運任せだ。
その方法は、亮太達の職業だ。
亮太と理香と折原先生の三人が同時に、同じ高レベルの職業を持っている事が奴隷の腕輪を解除する方法だった。
勇者クラスの職業。
例えば、俺が持っているであろう魔王、それと勇者、後は神と名の付く職業がそれだ。
それらの職業を持っている人には、奴隷の腕輪による洗脳は無効化される事をフェアリーが教えてくれた。
当然それが国の者、特に魔王国に向かわせたい人に効力が発揮されていない事が分かれば、当然警戒される。
あの三人が変な事をしなければ問題ないが、その内亮太達を危険な存在として殺そうとする人も出てくるだろう。
それはフェアリーの考えた憶測ではあるが、万が一奴隷の腕輪を使うような人達なら当然、自分達に刃向う存在は排除したいはず。
それは俺も同じ意見だった。
でも、俺自身、どこまでフェアリーと煉鬼を信用して良いのか分からない。
奴隷の腕輪を本当に使う様な国があるのか?って疑問も正直ある。
だけど、不思議な事に二人が嘘を言っている感じがしない。
というより、俺がフェアリー達に自分の過去を教えている最中、二人が俺に対して悲しんでいる事が分かった時から疑問には感じていた。
だから移動中「もしかして、おれも人の考えている事が分かる様になってるのか?」っと確認すると、やはりというか、当然の様に頷いた二人。
俺も魔族ってこと?....あれ人間止めたのか?っと人間を止めた事に多少驚きと呆れを感じていた。
長い建物の廊下を進んでいくと、古めかしい扉の前について漸く二人が立ち止った。
どうやら此処が目的地のようである。
それにしてもこの建物大きいな。
此処まで5分くらいは掛かったぞ。
「さて、到着なのです。拓海さんには、魔王になる為の勉強を優先して欲しいのですが....状況が少し変わりました。一先ず、亮太さん達を救出する為の準備を優先するのです」
ふぅっと、ため息を吐いて呼吸を落ち着けていると、フェアリーが俺に向き直って告げた。
正直、凄いありがたいけど、さっき会ったばかりの俺の為に何故?
それに、亮太達も一応人間だし....勇者として召喚されたんだ。
こう言ってはあれだが、魔族にメリットが無いのでは?
疑問を浮かべている俺を見て、またしても俺の考えを察知した様子の二人は、困った表情を浮かべた。
「うーん。確かに、嫌っている人間を無償で....それもある意味魔族に対してメリットの無い行動に不審感を持つのは当然なのですよ」
「まぁそうでござるな。それに拓海も一応、元人間であったのじゃ、私達が直ぐに手の平を返した様な態度に疑惑を向けるのも当然じゃろう」
その通りなんです。
例えば虐めをしていた人が急に馴れ馴れしく接してくるみたいな。
折原先生が急に熟女好きになるとか。
そのくらい違和感がある。
黙ってるのは、単純に幼女のインパクトが強すぎるからと、悪い人に見えないからって事が理由だ。
不審に思っていた事は正直に打ち明けるべきだと思い頷くと何故かまた驚かれた。
「拓海さんは正直な人なのです」
「うむ。嘘は今の所一回も吐いておらんし」
二人で顔を見合わせて頷き合う。
嘘ってバレたら面倒だろ。
だから嘘は基本的に言わないのが俺ルールなのだが。
「こうも正直に返されると私達も嘘は言えないのです」
「うむ....そうじゃな。拓海よ正直に話すが、お主らを利用したいのでござる」
「利用?俺達を?」
確認する様に聞き返すと頷く二人。
俺達を利用って魔族にとって何か利用価値があるのか?
「はい。正直に申し上げまして、最初人間である貴方が出て来た瞬間、殺そうと思っておりました。先程も言ったように、中には魔族を家畜....等とふざけた事を言う人間もいるのですから」
「だが状況が変わったのでござるよ。私達も外の国の状況を偵察部隊に調査させていたのでヴァンキッシュ帝国が勇者召喚を行うと言った情報を入手していたのでござる」
ヴァンキッシュ帝国。
其処に今、亮太と理香達がいるのか。
煉鬼とフェアリーは知っていたのか....あ、だからそのタイミングで魔王召喚を行ったのか。
あれ、でもそうなると前の魔王は何処に?
気になったが、一先ず後回しと決めた。
その内分かるだろう。今は三人の救出が先だ。
「そこで私達も魔王召喚を行い、貴方が来たのです。貴方の情報を鑑みて、貴方に魔王をやって貰った方が良いと判断したのです。それに、勇者として呼ばれた者が何人もいるのでしょう?ならば、亮太さんと理香さんと折原さんには魔族の味方で居て貰ったほうが良いのです」
「勇者として召喚されたと言う戦闘力を利用したいのだ」
それって、三人と俺を戦争に参加させるって事か。
少し嫌だけど....俺は三人が助かるならそれで良い。
それに戦争しなくても大丈夫な方法もあるだろう。
申し訳なさそうにしたフェアリーをなだめる。
「わかった。まぁ、魔王になった以上、魔族を守る義務はあるだろうし、なにより三人を助けたいからその話、俺は乗らせてもらうよ」
そう言って笑顔を向けると安心した様子で頷く二人は、漸く目の前の扉を開けた。
扉の中は何故か何も無く、広い真っ黒な壁に覆われた空間が広がっている。
「ありがとうなのです。では、時間もありませんし、一旦話は終わりにして戦闘訓練を行いましょう」
「戦闘訓練!?」
「そうでござる。見た目が魔族でない拓海であれば、帝国にも容易に忍び込めるであろうが、私達はその限りではないでござる。護衛として一緒に向かう事が出来る魔族は残念ながら現状はいないのでな。申し訳ないが私達が拓海を鍛え、そして拓海だけで救出するしか方法が無いでござる。」
「勿論、私達もなるべく手助けは行いますが....実行は単独行動になるのです」
まぁ、そうだろうとは思っていた。
なんせ、魔族が嫌われていて、尚且つ敵国に潜入するってのに、態々魔族が向かえば直ぐに殺されるだろう。俺も一応魔族って扱いだが、見た目は普通の人だから潜入もしやすい。
「当然だろうな。それで、此処で訓練するって先ず何をするんだ?」
「当然って...まぁそう言ってもらえると助かるのです。それで、先に鑑定を行う必要があるのです」
先にステータスを確認するって事か。
何故か、関心した様な、呆れたような表情をしているフェアリーと煉鬼を見ながらステータスに関して思い浮かべる。
ステータスを確認しなければ今後の対策も練れないし、重要な事柄だ。
「わかった。でも、鑑定って道具か、鑑定スキルっての持って無いと出来ないんだろ?二人は鑑定スキル持ってるのか?」
「いいえ。持っていません、ですからこの場所に来たのです。」
「この場所は先代の魔王が作った部屋で、一種の収納庫になっているのでござるよ」
収納庫?
それにしては何も無いし空っぽなのだが。
首を傾げて不思議そうに部屋を見渡すが何も無い。
「見えなくて当然なのです。この部屋は空間魔法によって制御されているのですから。見ていてください」
そう言ってフェアリーが手を前に出して目を瞑ると「サーチストーン」っと言った。
すると、突然フェアリーの手の平が光り、そこ等辺に転がってそうな大きめの石が手の平に現れる。
流石ファンタジー。
これじゃあ何でも有りだな。
あれか、もしかしてこの収納庫には、魔剣が有ったりするのか?
「....と、この様に、部屋の中に収められている物等は念じれば何時でも取り出せるのです。さて、このストーンを手に持って見てください」
差し出された石を見て、これがもしかして鑑定する為の道具なのか?っと疑問に思いながら、わかったと告げて、フェアリーの手からサーチストーンと呼ばれる石を持った。
......。
何も起きない。
「あれ?これでどうすれば良いんだ?」
「え?....あ、そうなのです。拓海さんは知らないのですよね。それを持って”サーチ”と言って見てください」
持っただけじゃ意味ないのか!
それなら早く言ってくれよ。
「えぇと”サーチ”?」
パッと石が輝くと、石からデジタルなウインドウが表示された。
一体どうなってんだよこの世界。
ゲームみたいなこの異世界に若干呆れながらステータスを確認した。
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斎藤拓海 男 16歳 Lv1
HP 150
MP 200
パワー 120
スピード 250
ディフェンス 500
種族 人間(魔族)
職業 高校生 (魔王) (復讐者) (魔導士)
スキル 単騎無双Lv1 設定調整Lv1 無限成長Lv1
鑑定Lv1 書庫Lv1 ボックスLv1
装備 学生靴 学生服 トランクス ボロボロのワイシャツ