どうやら魔王になったようです
魔王召喚?
へ?そんな馬鹿な事あるのか?
目を点にして、二人を交互に見るがどうやら冗談を言っている感じがしない。
「嘘だろっ!!」っと叫んで頭を抱え、ガックリと膝から崩れ落ちる。それを二人は冷たい表情で見つめていた。
止めてくれよ!そんな危ない奴を見る目で俺を見るな!
俺は今魔王として召喚されたんだぞ!
魔王って言えば人間全員から攻撃される対象じゃねーか!
うーっと唸りながらゴロゴロとその場で転がりながら必至に今後の行動を考えるが何も思い付かない。
に、逃げるか。
そう思って二人をチラッと横目で見る。
一人は刀を出して何時でも切る構えになっているし.....もう一人は翼が生えてる事から逃げても直ぐに追い付かれるだろう。
それに魔王国って位だから他にも魔族がいるだろうし....逃げたら死ぬ。
いや逃げなくても死ぬんじゃないか?
あれ?これバットエンドじゃないか?
「フェアリーよ。こいつ殺すか?」
幼女が死刑宣告をして近付こうとするが、それを何故かフェアリーと呼ばれた女性が手で制する。
「まだ殺さなくて良いのですよぉ。少なくともこの男が魔族に対してどう考えているかわかるまでは」
「しかし....」
ヤバイ二人ともなんか殺す気だ。
マジでヤバイんじゃ.....。
真っ青になった俺に近付いてくるフェアリーに逃げても無駄だと悟った俺は大人しくその場に正座した。
あー理香と亮太に会えなくなったな。
まぁ俺は所詮その程度の運しか無かったのかもな....。
「人間、いくつか質問したいのですよ。正直に答えてください」
「あー、うん。もう何でも聞いてくれ....」
投げやりな口調でフェアリーを見ながら言うと大きく頷いたフェアリーは、俺と目線を合わせる為か、目の前でしゃがんで俺の目をジッと見つめる。
正直、女の子に見つめられた事って殆どないからドキドキすると思ったのだが、如何せん今この状況では違う意味でドキドキだ。
「先ず....貴方はこの世界の人間では無いのですか?もし、違う世界の人間なら、その世界には魔族はいましたか?」
先程より、優しい口調の彼女に多少緊張が緩んだ俺は「少なくとも俺は、魔族のいる世界には住んでない」と端的に述べた。
翼生やした人がいれば、普通に考えて大ニュースだろ。
それに幼女が刀を持っていたら即警察に捕まるだろうし.....。
俺の言葉に多少反応したフェアリーは考え込むように手を口に当てて小さく「そうですか....」と言った。
「では....貴方にとって人間とはなんでしょうか?」
人間とは何か?
俺も前に折原先生に聞いた事がある。
折原先生が言った。
人間とはロリコンであると。
俺が真面目に聞いたのにあの先生、意味が分からない事を言って亮太達にドン引きされてたっけ。
昔の事を思い出して懐かしく思いながらその時自分がたどり着いた考えを伝えた。
「分からない。俺はそこまで長く生きていないし、そもそも人間について語る事なんて出来ない。ただ、人には平気で暴力を与える人も居れば優しい奴もいる。色んな奴がいるけど大半の人は流されて生きている.....って、これじゃ質問の答えになってないか?」
そう告げるとフェアリーと幼女が困った様子で俺を見ながら「いいえ、続けてください」と俺に話の続きを促した。
「続けるって言ってもな....と言うよりこの質問に意味があるのか?」
「えぇ意味はあるのです。....そうですね、では質問を変えましょう、私達の姿を見てどう思いました?貴方にとって私達は悪でしょうか?」
何て言う厨二?
言い方がファンタジー過ぎてあれだけど、二人にしてみれば真面目な質問なのだろうと思ってじっくり考えた。
「うーん。姿.....から見たら綺麗な人?それ以外の感想は無いけど」
「ですが、先程私達に対して怖れていた様子ですが?」
「え?あー、そりゃいきなり刀出して殺すなんて言われたら怖いだろ」
思った事をそのまま言ったのだが、二人は驚いた様子でジッと俺を見ている。
何か俺、変な事を言っていたのか?
「貴方は魔族が怖いのでは?」
「いや....魔族自体は怖くないけど。まぁ殺すって言っていたその幼女は違う意味で怖いけど....現状俺に何もしてないだろ」
当然の様に言ったのだが益々目を丸くして二人はお互いの顔を見つめて頷く。
「質問は一旦終わりにしましょう。それと貴方を殺す魔族は今のところ誰もいないので安心するのですよぉ。楝鬼も刀を納めるのです」
フェアリーはそう言うと「わかったでござる」と楝鬼と呼ばれた幼女は出していた刀をしまって近付いてきた。
へ?殺さないの?
さっきまで殺す気だったのに??
意味が分からなくて頭に大量のハテナマークが浮かんだが、取り合えず殺されない事が分かっただけ安心か。
「えーと、状況が分からないんだけど....取り合えず殺されないってことだよね?」
「えぇ。今の所はですが....先ず貴方の名前を教えて頂けますかぁ?」
「俺?えーと、姓は斉藤で名は拓海です」
魔族に自己紹介ってなんてファンタジーだよ。
レア過ぎると思いながら二人に名前を教える。
「わかりました。では拓海さん、貴方の今まで....ここに来るまでの経緯を教えて下さい」
そういって二人が俺の前に座ったので、自分の今の状況を知るのに重要だと思い、彼女達に俺の今までの事を教えた。
生まれて間もなく、親父が借金に追われて自殺した事。
母が借金を肩代わりしてボロボロになりながらも働いて返していたこと。
小学生の時に仲良くなった今も親友である亮太と理香の事。
高校に入って直ぐに学校中の生徒達から暴力を受けたこと。
折原先生の事。
そして、いきなりこの場所に飛ばされたこと。
勿論、俺の元々居た地球の事も教えた。
話を聞いている最中二人はずっと黙っていたが、フェアリーと楝鬼は悲しそうに俺を見ていて、この人達は少なくとも亮太達の様に優しい人なのだろうと感じた。それこそペラッペラな同情等ではなく、心から俺の事を悲しんでいる事が伝わったので二人には詳しく俺の今までを伝えた。
「辛いことを聞いてしまったでござるな。すまないのじゃ」
「えぇ。申し訳ないのですよ」
そう言うと二人が俺に頭を下げて来たので、慌てて「大丈夫ですから頭をあげてください」と言って二人に向き直る。
「見ず知らずの他人の過去です。あまり気にしないでください」
「たしかにそうですが、私達魔族には人の感情がわかるのですよ。だから貴方が、今とても苦しい気持ちなのはわかるのです」
人の感情が分かるって、流石異世界ファンタジーだな。
あれ?それじゃ嘘とか分かるってことか?
そう思っても口には出さない。
なんかめんどくさいし。
「凄いね。人の感情が分かるって....ってそれより聞きたいんだけど、この世界ってどんな感じなんだ?それと亮太と理香達のことも何か分からない?」
この世界に飛ばされたであろう理香と亮太それから折原先生について二人に聞くと、何故か困った様子で互いに目を合わせるフェアリーと楝鬼。
何か言いたくない事なのか?
嫌な予感がするが、それでも気になるものは気になる。
それに、異世界に来たとは言え、正直元の世界に戻りたい気持ちがある。当然そのときに、亮太達と合流しておきたい。
そう思って二人をジッと見ていると、諦めた様子で俺を見た二人は、意を決した様子で何故か嫌な予感がした。
「大変言いにくいのですが....」
「亮太さんと理香さん達は.....死んでしまった可能性が高いのですよ」
「もしくは....もう昔の三人では無い可能性もあるのじゃ」
週一投稿の予定でしたがページのストックが大分溜まってしまいました。
このまま週一で行くと来年の一月分は余裕で持つ計算になってしまったので不定期ですが追加更新します。
暫くは、毎週日曜日一回更新と不定期での更新をしていきますのでよろしくお願いします。
ブクマ登録ありがとうございます!
今後ともよろしくお願いします。