この世界のリアルを知るそうです‐続
メッセージを送った事で幾らか落ち着く。
フレンドに居るって事は生きているし、メッセージも無事に飛ばせたようだ。
なら後やるべきことは自分のレベルアップだろう。
ある意味釈然としないが....この世界から元の世界に戻るには必要だ。
メッセージを飛ばした後、メニュー画面を閉じてもう一度書庫を発動したらちゃんとメニュー画面も開けたし、三人以外の物が止まる事も実証出来た。
具体的には、俺がさっき拭いていた布を高く放り投げて地面に着く前にメニュー画面を開くという簡単な実験だったのだが、案の定空中で止まった布切れは時が止まっている事を実証出来るには十分な判断材料だ。
もう一つ分かった事は、止まった世界では物を動かしたり人や生物を傷つける事は出来ない。
試しに、布を持ち上げようとしたが全く動かなかった。
俺や、煉鬼に、フェアリーも切ったり持ち上げたりしてみたが全く変化しなかった事から、止まった世界では止まった物に干渉する事は出来ないと判断した。
だが、これを例えば外で発動すれば時間上は一瞬で長距離を移動出来る。
まぁ実際どの程度効果があるか分からないので何とも言えないが....。
「拓海にフェアリーよ。思ったのだが、その力を使い三人を帝国から救出する事も可能なのでは?止まった時の中であれば帝国に潜入も容易でござろう?」
煉鬼の言った言葉に「確かにそうかも知れないけど無理だろ」っと結論を告げるとムッとした様子の煉鬼と、肯定する様に頷くフェアリー。
やっぱフェアリーは気付いてるか....この出鱈目な力の弱点に。
「拓海さんの言う通りです。現実的に考えて無理でしょう....この力は有能ではありません。確かに屋外や、戦闘では”そこそこ”通用するでしょう。ですが、止まった世界に干渉出来ないのであれば帝国に潜入等不可能です」
「何故じゃ?止まって居るのであれば攻撃されそうになっても直ぐにスキルを発動すれば問題なかろう?」
「いや、確かにそうかも知れないが、そもそも帝国ってくらいだから城の周りの警護も万全だろうし....何より屋内に居るであろう三人を救出するのは厳しい....それに」
険しい表情を浮かべる俺を見てクスッと小さく微笑んだフェアリーも「えぇ。”敵が強ければ意味が無いのですよ”」っと簡潔にこの作戦の無意味さを告げた。
「その通り。例えば煉鬼、もし君が俺を本気で殺そうとした場合。俺の実力が分からない状況でも、いきなり”目の前に移動したりする敵”が現れたらどう考える?」
「むー。もしそんな敵が居たら”全方位攻撃をするか”相手が”何かする前に攻撃する”....ましてやスキルの可能性もあるであろうから....それが理由でござるな」
自分で攻略法を考えて直ぐに結論に導いたよ。
いや、寧ろそこまで分かるなら答えに直ぐに辿りついても良いと思うんだけど....。
「そういう事。俺自身はそこまで強くない。それこそフェアリーとか煉鬼の様な実力者に遠く及ばない....多分帝国にもそう言った強者はいるだろう?スキルを発動する前に攻撃されたら一撃死もあり得る」
そもそもゴブリンは低級魔物だし、そんなのフェアリーや煉鬼位になれば簡単に倒せるだろ。
ステータスを見ればそれ位の差は分かる。
「だからこそ”危険な状況に変わりないのです”自殺まがいの特攻隊など誰でも出来るのですよ。ですが、拓海さんには魔王で居て貰いたい。そんな暴挙を見過ごすわけないのです」
納得した様子の煉鬼に頷くと俺は、フェアリーを見つめる。
此処まで理解しているなら俺の考えも分かる筈。
そういう意味を込めて見ると頷く。
まぁ、魔族特有の感情が読み取れる能力があれば当然か。
「となれば、直ぐにでも訓練を再開した方が良いでござるな。....まぁ拓海が何か”伝えていない”事があるようだが、それはこの際聞かない事にしておくでござる」
そうして貰えると助かる。
やっぱ良い人達だよ煉鬼とフェアリー。
「それでは早速訓練を再開するのですよ」
刀を拾い上げて柄をしっかりと握り直す。
そうだ。まだやれる事は沢山ある。
気合を入れ直して煉鬼とフェアリーから離れると集中力を高めていく。
「では遅くなりましたが、先ほどの動きを見てそろそろ次のステップに進もうと思うのですよ」
次のステップ?
「あぁそうでござるな。ゴブリンとはいえ、低級魔物十体を相手にあれだけ動けるのであれば、そろそろ中級魔物と戦っても良いでござる」
そういう事か。
中級魔物....まぁこの二人がそう呼んでいるだけであって実際は少し違うようだが。
無言で後ろを振り返って頷く。
もたもたしてられない。
強くならないと....。
「あくまで無茶は禁物ですよ?またさっきみたいな事をしたらお仕置きするのです。次はゴブリンナイトです....力は飛躍的に上がります気を付けるのですよ」
ゴブリンナイト...”ランクで言えば”ゴブリンと三つ違い
どの程度上がるのか分からないが絶対に勝つ。
死にたくないから。
グッと足に力を込めて刀を構えると、目の前に何時もと少しだけ違うゴブリンが現れた。
見た目はゴブリンだが、銀色の薄汚れた鎧を纏い、手には棍棒では無く片手用の剣を装備していた。
もう一方の手には盾も装備している所をみると、普通に冒険者の様な恰好だ。
一つ違うのはコイツが魔物であり、人を襲う化け物ってところだけど。
「グギギギッ!」
「相変わらず意味わかんない笑い声上げんな...よっ!」
笑い声を上げるゴブリンナイトに向かって行く。
先程のゴブリン達を相手にした時よりも遅い。
多分これが、単騎無双のスキルの欠点かも知れない。
それでもこれで戦えなければ意味が無い。
俺は自分の間合いに詰め寄ると、六割くらいの力で右手の刀を振り下ろす。
それをゴブリンナイトは易々と盾で受け止めると、体制を崩そうと押し返した。
ガンッ!っと鈍い音を立てて受け止められた事に多少の驚きはあった。
今迄、こんな簡単に受け止められたゴブリンは居なかったから。
押し返され、よろめいた俺に構わず剣を振り下ろしてくるゴブリンナイト。
当然速さも通常のゴブリンよりも早く、何とか受け止める。
「くそ!....意外と力強い....ぐへっ!」
ドンッと吹き飛ばされてカッコ悪い声を出して吹っ飛ばされる。
まさか、盾でも攻撃してくるなんてアリかよ!
剣で切られたら下手したら一撃で殺されるかも知れないと剣にだけ集中していたが、これは厄介かもしれないな。
首や、心臓を切り裂かれれば死ぬ。
それは体力があろうと当たり前の事だが....ランクが三つ上がっただけでこれって....。
魔物強すぎだろ!
「....ふぅ。こりゃキツイな」
体制を直ぐに立て直して向かってくるゴブリンナイトに刀を向ける。
素早さを上げていても避けるのは厳しいだろう。
どうする。
こういう場合無理に強力な攻撃をしなくても良いんじゃないだろうか。
例えばこんな感じに...。
目の間に来たゴブリンナイトは力任せに剣を俺に向けて振るってくる。
それを十分見極めて片方の刀で剣の腹を叩いて弾く。
さっきも、今も六割の力で振るっている。
それならここで....。
今度は八割くらいのスピードでもう一方の刀をゴブリンナイトに向けて突き刺す。
今迄よりも早い攻撃に慌てて盾を構えて防御するゴブリンナイトだったが、本命は違う。
ニヤッと笑いながら俺は、すぐさま先程弾いた方の刀でゴブリンナイトの剣を持っている方の腕を狙って下から全力のスピードで振り切る。
グシャっと嫌な音を立てて相手の腕を切り落とすと余裕の無くなったゴブリンナイトは「ギャギャァァ!」っと狂った声をあげて俺から離れようとするが、そうはさせない。
グッと足に力を込めて近づくと集中力の切れたゴブリンナイトに足払いを掛けて体制を完全に崩す。
よろめいて倒れ込んだゴブリンナイトの頭部と腹の下部に目がけて同時に刀を付き下ろす。
こうすればどちらかを盾で防ぐしか方法が無い。
当然頭を守ろうと盾を構える。
ガンっと頭に振り下ろした刀は防がれるが、またしても嫌な音を響かせて腹から血を吹きだすゴブリンナイトは、叫ぶ気力も無くなった様子でぐったりと盾も離してしまう。
そりゃ此処まで深く刺されれば当然だろう。
最後に止めに首に刀を突き立てると息をしない屍へと変化した。
「はぁ....こりゃしんどいな。まだこの上が居るってのに....ソロプレイ不可能レベルだぞこの糞ゲー」
毒ついていると、俺の前に布を差し出すフェアリーにお礼を告げて受け取る。
それで、身体に付着した血と汗を拭う。
「中級魔物でも大丈夫だと思っていましたが想定通りなのですよ。お疲れ様です拓海さん」
「まぁ....けっこうシンドイけどな」
しんどかったおかげでレベルがまた上がったし暫くは、このシンドイ戦闘を続けた方が良いだろうな。
それと....明日か明後日にでも一回外の世界に行かないと。
目的の為に手段は選べなくなってるしな。