表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

硝子の欠片に、映るものは。

作者: 沙玖羅

僕は、君を奪ったあいつを、絶対に許さないから――


「逃がさない……」


 悲劇の後、舞台の真ん中。


 一人になった僕は、顔を上げ静かに、しかし熱の(こも)った声で呟く。


 そう、あいつを、やすやすと逃がすわけにはいかないのだ。


「待ってて。僕が君の為に――」


 ――あいつを、殺してきてあげる。


 そうして立ち去る僕を、そこに残るもう一人の僕は、泣きそうな顔で見ていた。





 そして現在(いま)、僕は探していた人物と対峙していた。


 男を見つけたのは、とある荒れた山の奥。周りには何もない。そのため人の気配も、自分達のものを除けば皆無だ。


 うっそうと茂る木々の、葉擦れの音くらいしかしない空間。


 助けは、呼べない。僕も、相手も。


 でも僕は、引き下がるつもりなんて無い。


「お前だけは赦さない……」


『へぇ?追いかけて来たんだな。でも俺はお前に殺されるつもりなんてないぜ』


「お前は死ぬべきなんだ……お前が僕たちから奪ったものは、かえってこないんだから‼」


 急に感情を爆発させた僕に、少しだけ目を見開いた男は、しかし真面目に取り合ってくれる様子は無い。


『仕方ねぇって、割り切れよ。人間なんて、脆いもんだろ?死に急がなくったって、お前もすぐに壊れるぜ?』


 すべて分かっていると言わんばかりに笑みながら、僕を見下ろして言う男に、僕はもう我慢できなかった。


「黙れ……!」


 僕は手にしたナイフを振りかざして、男に飛び掛かった。


 自分と男の体の大きさを見れば、自分が圧倒的に不利なことは分かる。でも……


『はっ……必死だな』


 一撃だけでもいい。あいつに血を流させて、少しでも痛みを与えることが出来たら。


 僕のナイフを軽い動きでことごとく避ける男は、僕を冷めた目で見ていた。それがまた僕の感情を刺激した。


「ふざけるな!」


 僕は小さい体を活かして男の足元に滑り込むと、全体重を掛けて足を掬った。


『っ!?』


 男は、相手がたかが逆上した子供一人だと思って油断していたのか、後ろに少しバランスを崩した。


 僕はそのチャンスを逃さずにさらに正面から男に詰め寄り、完全にバランスを失った男を地面に仰向けに倒すと、その体に馬乗りになって、ナイフを喉元に突き付けて叫んだ。


「半分を失ったらっ、僕はどうやって生きていけばいいんだっ!」


 こいつが、僕の半分を、何よりも大切な存在を、奪わなければ――!


『俺を殺すのか?』


 そう言われて……頷けないことに気付いて、僕は愕然とした。


「僕、は……」


 そこで理解した、僕の本当の気持ちを。


 僕が置き去りにしたもう一人の僕が、泣きそうな顔をしていた理由も。


「僕は……お前に、殺されたい――」


零れ落ちたのは、紛うことなき僕の心。


『は?』


 僕の言葉に、男は面食らったような声をあげた。


『何言ってんだ?お前、俺を殺す気満々だったじゃねぇかよ』


 そうだ……でもそれは、強がってただけで……。自分をごまかしていただけで……。


「僕を、殺して……」


 お前が殺した、もう一人のように。僕は、あの子の所にいきたい。


 泣きそうだったもう一人の僕は、僕の本心に気付いていたんだろう。だから、強がっている僕を見て、あんな顔をしていたんだ。


 男に突き付けたナイフを引いて、男の上から退く。


 そして上体を起こす男の傍らに座り込んで、僕はナイフを男の手に握らせた。


「僕は…………僕らは……二人で一人だったんだ。だから――」


 “ぼくも殺して……?”


 ここはとても静かだ。


 僕は目を閉じた。


 僕が最後に見たのは、憐みの表情を浮かべた、憎い憎い一人の男の顔――



いかがだったでしょうか?


結末を確定しなかったのは、わざとです。


皆様のご想像にお任せする形です、はい。


単発ものなので、続かないと思いますー。


読んでいただいて、ありがとうございましたo(_ _)o ペコリ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ