第9話
そんな話をしていると慌てたような足音が聞こえてくる。
扉を開けられてその音に釣られて視線をむけると、ショートの青みがかった黒髪で澄んだ黒い瞳。
細身でありながら中はがっしりとした肉体を持つ男子生徒。
「うおおおお!残り54秒ギリギリセーフ!」
という声をあげつつ、額の汗をぬぐう男子生徒。
「おいおい……セーフちゃあセーフだけどよ。 秋斗、また寝坊したのか」
「あ、秋斗くん、大丈夫れひゅか?」
「秋くん、やっぱり私がおこしにいった方がいいんじゃないかな」
「いや、それだと余計起きれないだろ」
息をきらせている男子生徒に向けて呆れたように言う秀久。
そんな彼に近寄りながら声をかけるみなもとつぐみ。
会話の内容を聞いた当夜はぽつりとつぶやく。
「秋斗も同じクラスか、これは楽しくなりそうだな」
「…………(そうだね、りゅうくん♪)」
龍星と芹香はにこにこと笑いながら頷き合う。
「知り合いなのか?」
「ああ、こいつは工藤秋斗っていって」
「わ、わたしたちの中学時代の同級生なんです」
光一の問いかけに秀久は笑いながら紹介し、みなもも説明する。
「そういえば、知らないのは夜瀬兄妹だけか?」
「わっちは当夜つながりで情報をえとるから、勝手に知ってるくらいやけどな」
「私も兄さんも深紅つながりで知ってるくらいだよ」
「うん、僕も彼のことは彼女からしか教えてもらってないかな」
綾香が言うと深紅は苦笑しながら答え、レイナも苦笑を浮かべている。
澪次も深紅からの得た情報で知っているだけのようだ。
「工藤くん、大丈夫かい?」
「う、うん……なんとか」
「大丈夫ならいいけど、そんなに無理して走ってきたら駄目だよ?」
鷹久は息を整えている秋斗に声をかけると苦笑しながら頷いた。
ひばりはそんな彼に腰に手をあてつつ注意する。
「うん、気をつけるよ」
「本当に気をつけろよ? つぐみもだけど俺達も心配するからな」
苦笑しながら言う秋斗に富士也が言った。
そう、秋斗のことを心配しないつぐみ達ではないからこその言葉である。
「ふむ……これで全員というわけか?」
後から扉をあけて入ってきた男子生徒がつぶやく。
左目に眼帯、髪は一房だけ背中半ばまで伸ばしている男子生徒。
彼の名前は防人裕也といって、誰からも好かれているという特徴がある。
たぶん、彼の空気によるものが原因なのかもしれない。
「多分、これで全員だと思うよ?」
「やっとついた。 これで何度目かわからんな」
裕也の後から続いて入ってきたのは男子生徒と女子生徒である。
女子生徒はローズピンクの長い髪をポニーテールにしており、美人だ。
もうひとりは色い瞳、無造作な黒髪、襟足は長く鋭い目つきに凛々しい顔立ちのイケメン。
秀久と違って細身ではないが、大男なイメージもなくそれでも筋力は軽く車を引っ張れるレベルだ。
女子生徒の名前は九条院響で男子生徒の方は秋獅子流牙という。
秀久とは犬猿のようなライバルのようなそんな関係で、よく争いを起こしていたりして教師から目をつけられている。
まあ、それでも富士也にくらべればマシな方だと思えるが。
「全員揃ったところで、席についてね」
という声が聞こえてきたので振り向くと女性教諭が立っていた。
背中にかかるくらいの金色の髪の女性はキッチリとしたスーツ姿で笑っている。
それに気づいて全員は慌てて用意された席に着席した。