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ヨリコとみちよの非日常的日常

ヨリコとみちよの非日常的日常3 「折り紙の夢」

作者: 野々村竈猫

  目の前が、突然白くなった。

 人間の平衡感覚が視覚に頼っているということを思い知らされる。

 私は思わずしゃがみ込み、両手で地面の位置を確かめた。


 ふと、手に何かが触る。

 と、その手の辺りから視界が開けてきた。それは数枚の折り紙だった。

 一陣の風。


 日曜日。みちよと映画に行く約束で待ち合わせた公園。その入り口でのことである。


 しげしげと折り紙を見ていると、トコトコと小さな少年が散らばった折り紙を拾いながらこちらに向かってきた。

 あたしは数枚拾い集め、彼に手渡す。


 「どうもありがとう」


 年の頃は小学校前だろうか。少年はうれしそうにお礼を言って、近くのベンチへ戻って行く。

 みちよがくるまでには少し時間がある。

 わたしは彼の隣に腰掛けた。


 「折り紙、するんだ」

 「うん。ママのお見舞いに千羽鶴を折っているところなんです。あと18羽で完成です」

 「ママ、どうしたの?」

 「ボクが信号無視したトラックにはねられそうなところを助けて、足の骨を折っちゃって。これからおばさんとお見舞


いに行くところなんです。それまでに完成させようと思って」

 「手伝おうか?わたしもしも折り紙得意だよ」

 「本当?、ありがとう!」


 少年は折り紙を数枚手渡してくれた。


 わたしは手先だけは器用なので、小さい頃から折り紙は得意。結構高等なものも折れる。

 「へえ、お姉ちゃん、上手だね」

 「ところでママの具合はどうなの?」

 「うん、いつも『大丈夫、へーきへーき』って言うけれど、ちょっとまだ痛いみたい」


 少年はちょっとうつむいた。

 「ほら、千羽鶴完成!」

 「やった!ありがとう」

 少年がうれしげに笑う。

 彼の顔を見ていると、なぜか、初めて会ったような気がしない。

 どこかで会ったことがあっただろうか。


 風が吹く。

 「?」

 少年が不思議そうな顔をする。

 「何だろう、おねえちゃん、ママのにおいがするよ?」

 と、その時、みちよの声がした。公園入り口からこちらへ歩いてくる。

 「あ、おばさん!」

 (えっ?おばさんって…)

 そのときまた、突然、また「白」がきた、あわてて振り向くと少年がいない。

 

「ヨリちゃんどうしたの?」


 彼女の声に視界が開けた。

 「え、あの、何だ…」

 「ヨリちゃん大丈夫?」

 「う、うん。大丈夫、へーきへーき。ちょっと夢を見てたみたい」

 「こんなところで昼寝してたら風邪くよ」

 「あ、うん…。」

 「あれ?」


 みちよが何かを拾い上げる。


 「ヨリちゃん折り紙してたんだ。」

 彼女の手にはピンク折り紙でできた鶴があった。

 わたしはうろたえた。

 今、少年と一緒に折り紙をしていたのは本当に夢だったんだろうか。


 「とりあえず、映画観にいこ。」

 「あ、うん」

 「あ、そうだ、忘れてた」

 突然、みちよが声を上げた。

 「どしたの?」

 「あのな、今日、留学してたお兄ちゃんが戻ってくるねん。ヨリちゃんに会わせようと思てたん」

 彼女のお父さんは外資系の会社の偉い人で、みちよのお兄さんも一緒にアメリカに行っていたのだ。

 小学校の頃、1度だけ会ったことがあるけど、すっかり忘れて覚えていない。


 「でも、わたし、男の人苦手だからいいよー。」

 「そな事言わんと、会うてよ。お兄ちゃんにヨリちゃんのい事、いろいろ話してるから、会うの楽しみにしてるねん」

 「んー…(汗)」

 

 頭の中で、今起きた、数分の出来事の整理がつかないまま、わたしたちは、映画館に向かった。

 一つだけわかったこと。

 (交通事故には気をつけよう)ということだった。

 少年はママに千羽鶴を渡せたろうか。


     お し ま い


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