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無題シリーズ

無題7

作者: 中原恵一
掲載日:2013/03/01

 ある偏屈な男が、壁に家を作って住み始めた。


 街の近くにある大きな地割れだ。

 何キロも続いている大地溝で、深さは何百メートルあるかしれない。

 そんな崖伝いに、いつ落ちるとも分からない家を建てた。


 友が言う。

「そんな、地球の重力に逆らう真似をしてどうするんだい」

 男は答える。

「知らんよ」


 その家は、崖にへばりついていることを除けば普通だった。

 家は直方体を二つくっつけたような二階立てだ。

 割としっかりしていて、ベランダもあるし暖炉もある。

 水は雨水を(かめ)にためて使っているが、食料ばかりは備蓄もあるにしろ買っているらしい。

 

 二階には窓もある。

 四角い、ガラスの天窓だ。

 この家にはこの窓しか光をとる場所がない。


 警官が言う。

「建築基準法に違反してないか」

 男は応じる。

「かもな」


 男は帽子をかぶっていて、表情が窺えない。

 いつも不機嫌そうで、一人たまにふらっと街へやってきたかと思うと、すぐ崖にある自宅へとかえっていく。


 老婆が言う。

「あんなとこに一人に住んで怖くないのかい?」

 男が呟く。

「怖いさ」


 男はあくまで頑固に、その家に住み続けた。

 雨の日も風の日も、自分で作った小さな家に無理に住み続けた。

 ある日、嵐が来た。

 男の家は落ちてきた岩に押し潰されそうになった。

 幸い家の一部が壊れただけですんだが、村人たちは彼を迷惑に思った。

 一応、死んだら困るのだ。


 誰かが言う。

「やめろよ、こんなところに住むの」



 この日、男は何も言わなかった。



 次の日、男が目覚めると、遠くで何かが砕ける音を聞いた。

 何やらすごく大きな音がする。

 

 そして気がつくと、男は家の壁に寝ていたのだった。

 本来床のある位置が壁になり、崖側に張り付いた壁が床になり、天窓は普通の窓になっていた。

 男は何気なく、窓から外を覗き込んだ。


 そこには――


 街の家が、バラバラと砕け散って飛んでいくのが見えた。

 ついでに人も下へ下へと向かって飛ばされていく、いや、落ちていくのが見えた。

 人々の暮らしが流されていく。

 とめどない重力が全てを打ち壊した。


 そして、崖に住んでいた男だけが助かった。


 男はこの時だけ笑った。


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