ガーネット編
私の《こんなハリウッドスターがいたらすごいだろうな》を書いたものです。現実にはありえないくらい夢見がちなものだと思いますので、そのへんを踏まえて読んでいただけたら幸いです。
《パスタ》
超ビップ、超セレブが集まる街、ハリウッド。
《眠る》るという単語すら存在しないかのようにネオンが照り輝き、あちこちから雑音が鳴り響く。
ネオンと音の洪水。
豪華で盛大で何もかもが大袈裟で、観るものの目を見張る街。
そして、破廉恥でスキャンダラスな顔を併せ持つ、まさに
「眠らない街」
そんなハリウッドの夜を駆け巡るパパラッチ達。今、彼らを熱くさせ、夢中でシャッターを切らせる女優がいた。
名前は《ガイ》。《ガイ・ストラグル》。
本名は《ガイア・ストラグル》説と《カーディア・ストラグル》説とある。
が、どちらも裏付けはとれていない。
両親は不明。
幼い頃より元女優の祖母、《クローディア・ストラグル》に育てられた。
一つ、確かなことは、ガイの両親のどちらかは日本人であるということ。
というのも、ガイの喋る日本語がとても流暢で、英語では表現しづらい細かな部分まで、綺麗に使い分けができるからだ。
が、しかし。
これまた裏付けはとれていないが…。
12歳のときに学校で映画撮影があり、エキストラとして出演。
が、演技力が監督の目に留まり、そのままメインキャストの一人として出演。
唐突にスクリーンデビューを果たした。
その直後、名優、《バレット・シンク》等と共演。
映画、《ヴァンパイア・クライ》が全米でヒット。
アカデミー作品賞にノミネートされ、ガイもまた、若干12歳にて助演女優賞にノミネートされた。
惜しくも受賞は逃したものの、《ガイ・ストラグル》という名は、全米…。
否。
世界に知れ渡ることとなった…。
ハリウッドに留まらず、フランスや中国。
そして、もう一つの母国と思われる、日本。
各国の映画にも意欲的に出演したガイは、子供ながら着実にキャリアを積んでいったのだった。
最も、彼女が身につけたのは、キャリアや演技力だけでないのだけれど。
体術やマーシャルアーツ、ワイヤーアクション。
いわゆるスタントアクションの技術も、ガイは身につけていった。
その実力の程は、
「彼女にはスタントマンは必要ない」
と噂される程。
演技力、アクション。
身のこなし優雅で表情は豊か。
そして、思わず息を飲み、時間を忘れて引き付けられる、瞳の強さ。
それはまさにトップアクトレスの証。
そんなガイの噂は、それこそ星の数。砂の数。
いずれもいまいち信憑性に欠けるものばかり。
そもそもガイの場合、過去に関する事柄が少なすぎるのだ。
ほとんどの役者において、名声を得て知名度が上がれば何かしらの過去話が出てくる。
その手の話を記者やパパラッチに売れば、それなりの値が付くからだ。
それが世界が注目する大物女優の情報ともなれば、大金積んででも買いたいと思うところ。
売るほうも、それなりの金額が期待できるはずだというのに、だ。
にも関わらず、明かされた過去といえば、
「両親は不明で、元女優の祖母に育てられたということ」
「デビューするまではちゃんと学校に通う、普通の学生であったということ」
「運動神経は、学生の頃からかなりよかったということ」
くらいである。
デビューしてからの私生活は、少なからず明かされてきたが。
それでも飲酒だとか、喫煙といった、年頃の子供によくあることとか。
あとは、演技にリアリティを出すために相手を殴ったとか。
逆に自分を殴るよう、けしかけたとか。
そんな、スキャンダルとは縁遠いものばかり…。
友人、対人関係は決して少ないほうではない。
今まで喫茶店やクラブを友達と出入りしている写真も撮られたし。
共演者の悪口を言った、なんて記事も書かれた。
だけどほとんどにおいて、それらが事実であるという裏がとれていないのだ。
「火のないところから煙は上がらない」
という日本の諺があるらしいが、ガイの場合は、煙すらもなかなか上がらないのだ。
今年で19歳を迎え、年齢的にも仕事以外の話題が出ても、何ら可笑しくないというのに。
むしろ周囲は、一つ二つのスキャンダルを待ちに待っているというのに、だ。
「…あんたって、本当にスキャンダルっていうスキャンダルがないよねぇ」
喧嘩騒動ばっか。
と、ガイの目の前に座った娘は言った。
少し俗っぽい雰囲気漂うパスタ店。
見た目と違って味はかなり評判良く、実はセレブも足繁く通っている。
何て言われる程人気の、パスタ専門店である。
ブラックペッパーの効いたカルボナーラを頬張りながら、娘は小さく溜息。
ガイの艶々の黒髪ストレートだとか、金色みたいなヘーゼル色の瞳だとかをしげしげと眺めた。
「華々しくスクリーンデビューを果たして7年。なのに取り上げられる記事は色恋沙汰とは縁遠いものばかり!」
信じられない!
テーブル越しに詰め寄り、ガイの顔を覗き込みながら娘は再び溜息。
この、先程からガイに難癖付けている娘。
名前を《ピジョン・ブラッド》という。
勿論、芸名である。
本名は《ルビー》
姓は分かってない。
そしてこちらも、両親は不明とされている。
ハリウッドスターの過去というのは、以外と暴かれないものなのかもしれない。
ガイと違って、ルビーはスキャンダルの女王の名をほしいままにしている。
内容は、
「大物プロデューサーと夜中に密会」とか。
「人気絶頂のユニットとバリ島まで豪華バカンス」とか。
「ビップシンガーに宣戦布告!」とか。
「曲を出すたびに代わる恋人達!」
などなど…。
最も、こちらもどこまでが本当で、どこまでが本当じゃないのか。
真相は、はっきりとされてはいないのだけれど。
しかし、こちらもこれまた世界が注目するトップシンガー。
《今世紀最後の歌神
「ディーバ」》
という称賛まで挙げられるほどの実力者。
どんな中傷記事が流れようと、ファンが自分から離れて行くはずがない。
そんな確固たる自信と、何よりそんな現実が、彼女にはあった。
ガイやルビーにとって、中傷記事、ゴシップ記事、それこそありもしないデタラメも。
あくびが出るくらいどうでもいいことなのだ。
彼女達にとって、それは牛や馬の尻尾にたかる蝿程度のもの。
さして気に留めるまでもないもの。
このルビーなどは、その中傷記事やゴシップ記事を、むしろ楽しんでいる節さえあるのだから。
ましてや心を傷めることなど…。
外にたむろしているであろう、パパラッチ達を想像して、ルビーは更にガイに顔を近付け、続けた。
「色恋沙汰に興味ないとはいえ、ハリウッドでは色事があってなんぼ。
大体、顔は可愛いし、ナイスバディなのに男が寄ってこないなんて!
こんなおかしな話があるかって感じ?!
《トレジャー・ハンター》ではその豊満な胸をゆっさゆっささせながら全力疾走してたのに!!」
興奮気味に語るルビー。
まるで自分のことのように怒っている。
とうのガイは、別に男が寄ってこなくても気にしないというのに、だ。
そこらへんは、ガイとルビーの価値観の違いなのだろうけれど。
頬杖をつき、パスタの端に添えてあるクレソンをつつくルビー。
八つ当りのように、そのつつき方には力が込められていた。
実は同い年の二人。
なのに、かたや男に興味なく、自身のキャリアと演技力を磨き上げる仕事人。
かたや自らのスキャンダルも楽しむ、恋多きギャル風小娘。
なのに相当仲が良かったり気が合ったり。
それは、もしかしたら二人の秘密がそうさせているのかもしれないけど…。
誰も知らない《秘密》。
二人だけの《秘密》。
だけど紛れようもない《真実》。
そして《現実》。
その《秘密》が世界に明かされるのは、もう少し先の話…。
国外に出たことのない作者が贈る、ハリウッドが舞台のお話。「無理だろう?」「ありえないだろう?」「こんなのハリウッドじゃない!」は百も承知。それでも精一杯にしていきたいと思います。少しでも気に入っていただけたら幸いです。