岸壁が遠ざかる
フェリーターミナルの待合室。
ベンチがいくつも列をなして鎮座している。
私は、窓際の席に腰を下ろした。
窓からは海が見える。
その海は、私がこれから旅する海。
穏やかではあるが、砂浜ではない。
鮮やかではないが、化学コンビナートでもない。
そんなフェリーターミナル特有の海だ。
蟻が巣に戻るように、フェリーへ列をなしてトラックが入り込んでいく。
ランプウェイを踏むたび、列車の走る音のようにガタンゴトンと重い音を鳴らしていた。
時間が流れ、次は私が乗船する番になる。
乗船口へ行き切符を見せ、屋根のある少し長い桟橋を渡る。
私の乗るフェリーは、大きい。
甲板は鋼鉄でできているのか、歩くとコツコツと硬い音が鳴る。
ロビーは広く、エレベーターもある。私は6階の部屋だ。
このフェリーは4階まで車が乗り込む。そんな大型船。
程なくして、宿であり乗り物でもある部屋に入る。
私の部屋は、雑魚寝をする大部屋だ。
同じようにフェリーで移動する人たちと共同で利用する。
ベッドもなく、薄いシーツのような敷布団があるだけ。
そんな安価な部屋が、これからの旅のワクワク感を湧き立たせてくれる。
身支度をいくらか済ませ、再度甲板に戻った。
フェリーは出発するらしく、汽車とは相容れない低い汽笛を鳴らす。
タグボートが集まり、次第に岸壁から離れていく。
私のいた地面は、私の動かぬところで離れていく。
船の大きなエンジンがうねりを上げる。
その振動は、甲板から足へ、足から体全体へと伝わってくる。
フェリーは、波をかき分けながら進むのだった。




