悪役令嬢の原点とは!?我々は謎を解き明かすべくアマゾンの奥地へ向かった!
短編です。これ書いた時、多分疲れてたんだと思います。
マール王国公共水晶板放送局に所属する第三取材班。
我々は現在、密林の中を進んでいる。
しがないADに過ぎない自分、フジョーカの前を歩くのは班長であるヘイロー・カ・ワグーチ伯爵。
元は王都第一騎士団所属していた武人にして、引退した今は騎士団のイメージ向上のため水晶板放送局の取材に協力してくれている。
筋骨隆々な容姿に見合う真面目な人柄だが、今回のような馬鹿げた企画にも付き合ってくれる好人物でもある。
…そう、今回の企画は控えめに言って不真面目である。
第一、第二取材班のどちらでもなく我々に回ってきたのがその何よりの証拠だ。
きっかけは1つのインタビュー企画であった。
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『悪役令嬢って誰が最初か知ってますか?』
それは視聴者が投稿した日常の疑問を番組スタッフがインタビューで尋ね回るという企画だった。
市井の物語で今や珍しくもない”断罪もの”なるジャンル。
皇太子だの公爵子息だの高貴な青年が平民出の娘と恋に落ち、二人の仲を邪魔する婚約者の非道な行いの数々を白日のもとに晒し、断罪を経てのハッピーエンド。
そんなよくある筋だ。
現在はむしろこれをパロディして悪役令嬢を主役に据える”悪役令嬢もの”も人気を集めている。
『悪役令嬢のオリジナルって誰か知っていますか?』
『え?あー、そういや知らないですねー』
『私、”悪役令嬢もの”ばかり読んでるから…”断罪もの”に詳しい人なら知ってるんじゃないですか?』
『うちの婆ちゃんだよ、うちの婆ちゃん!ガハハ』
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意外と好評な企画だったため、番組は取材を続けることとなった。
ちなみにこの時点ではまだ第二取材班が調べていた。
取材班は専門家に話を聞くべく、王都の最高学府であるマール魔術学院で教鞭を振るうビムーナ教授を訪ねる。
ビムーナ教授は古代魔法の権威として知られ日頃から古文書や歴史書も数多く読んでおり、歴史への造詣も深い。
「通説でその始まりと言われているのは南部大陸は古代イヂプトに伝わるアクヂョパトラとヘイミンティティの伝説ですな」
「ヘイミンティティといえば人類史三大美女の1人と数えられるあの?」
「左様。へイミンティティは元々イヂプトで奴隷の身分だったものの偶然洗い場を訪れていた王子キゾクイケーメンに見初められ、彼の寵愛を受けるようになります。ですが、既にキゾクイケーメンにはアクヂョパトラという婚約者がいました。彼女は嫉妬からヘイミンティティを謀殺しようとしますが、その企みは見破られてしまい、アクヂョパトラは断罪されたと歴史書には伝わっています。これがいわゆる悪役令嬢の原点ですな」
流石ビムーナ教授だ。
取材班がそう思ったのも束の間。
「異議ありっ」
取材中、廊下で話を聞いていたと思しき別の研究者が部屋に乱入してきた。
「ハウメロス教授。急に取材に割り込むなど失礼ではないかね」
「それについては謝罪しましょう。ですが、ビムーナ教授の見識は最新の研究に基づいているとは言えません」
ハウメロス助教は知名度こそビムーナ教授に今一つ及ばないものの、昨今それまで常識と思われていた数々の事実に対する斬新な仮説を提唱しており、研究者間では新進気鋭の人物として知られている。
若い研究者の間では人気だが、保守的な熟年層からは苦々しい目で見られているとか。
「ハウメロス教授、またですか…。あなたの想像力には目を瞠るものがありますが、研究は事実を積み重ねて初めて浮かび上がってくるものです」
ビムーナ教授の言葉の端々から、彼もハウメロス助教に少なからず世代間にありがちなライバル意識を持っていることがわかった。
「証拠が欲しいのであればお見せしましょう」
助教が懐から取り出した紙の束を我々の前に差し出す。
「こちらは最近古代イヂプトの遺跡で発掘された書簡のコピーです。送り主はキゾクイケーメンと言われています」
その内容は(色んな意味で)驚くべきものだった。
『アクヂョパトラの馬鹿、間抜け、うんち!婚約の破棄を認めないなど、まるで戦場で腹の中を蠢く(判読不可)のようだ!我が幾百幾千の説得の言葉も彼女にとっては神官の上げる経文のようにしか聞こえないらしい。まさしく悪役令嬢の如き女だ。!嗚呼、へイミンティティに会いたい。はやくあの豊かな(判読不可)に顔を(以下判読不可)』
「これがキゾクイケーメンが盟友ビュルタスに送った書簡ですか。なんというか……」
下品である。
キゾクイケーメンといえば若干二十歳で早逝した伝説の王子であり、その墓から発掘された金仮面からかなりの美男子であったと一般に知られている。古代イヂプト時代から残された僅かな歴史書も、彼の品行方正ぶりを説いている。
こんな野蛮な文章を書くとは予想外だ。
「全くこんな下品な駄文を証拠として挙げるなどけしからん!」
ビムーナ教授は怒気を孕んだ声で紙の束をテーブルに叩きつけた。
「キゾクイケーメンといえば高貴なことで知られる人物だ。こんなものは彼を貶めようとした偽書に違いない!」
「しかし筆跡も魔力の痕跡も彼のものであると証明しています!そしてここでかれは婚約者アクヂョパトラを指して”悪役令嬢の如き女”と記している。これはつまり、この頃既に”悪役令嬢”なる存在がモチーフとして確立されていたという証拠です!」
「妄想も大概にしなさい!”悪役令嬢”というのは奴隷出身であることにコンプレックスを抱いたヘイミンティティがキゾクイケーメンと婚約するにあたってキゾクイケーメンや王家が作り出した権威付けのプロパガンダに過ぎない。これが通説であり事実なのですっ」
「このキゾクイケーメンの駄文を見てまだそのようなことを仰るのですか!?彼にそんな頭はない!」
「下らんっ、君の意見こそ実に下らんっ!」
二人の議論は平行線を辿るばかり。
やむを得ず…。
*****
我々はその謎を解き明かすべく、アマゾンの奥地へ向かった!
「…いや、なしてさ」
「まあまあ」
思わずひとりごちてしまうADの私にワグーチ伯爵が慰めの声をかける。
数日前に第二からウチへ企画が回ってきたかと思えばパスポートを持参して転移場へ来いと上司から連絡を受けた。
私は何も知らずにアマゾンへ転移させられ、ワグーチ伯爵ら他のメンバーと合流させられたのである。
「神秘を解明する鍵はいつだってアマゾンの奥地にあるものさ。ツチノコもチュパカブラもエルフの隠れ里も全てアマゾンの奥地にあったじゃないか」
「いや、そうですが…」
そもそもそれが謎なのだ。
謎なのだが。
納得し難いがUFOも古代神の亡骸も異世界への扉も、確かにアマゾンの奥地でばかり見つかる。
だが悪役令嬢のオリジナルなど見つかる筈もない。
そもそもどこの誰かもわかっていないのだ。
生きている筈もなければ、その誰かさんがこんな場所にいるとも思えない。
「はあ…」
私は溜め息を吐きながら、足元の草木を踏みしめた。
*****
我々がアマゾンの密林に足を踏み入れてからそろそろ一週間が経とうとしていた。
その間、フライングモスマンもビッグフットも伝説の古代竜も見たが、やはり”始まりの悪役令嬢”だけは見つからない。
最初は半信半疑だったが、これだけ得体の知れないものを立て続けに発見してしまうと、もしや我々の探し求める悪役令嬢のオリジナル…今や取材班の間では”始まりの悪役令嬢”と呼ばれていた彼女も見つかるのではないかと信じ始めていた。
疲れていたのだろう。
だがこの時は割と真面目だった。
「やはり悪役令嬢は存在しないんですかね…」
思わず弱音を吐く私にワグーチ男爵が励ましの声をかける。
「らしくないぞ、君。魔王も異世界転移者もいたんだ。悪役令嬢だってきっと…」
すると、その時である。
前方の茂みからがささっと音がした。
「今のは!?」
「人だ!」
流石は元王都第一騎士団の騎士。
人の気配を察知したワグーチ男爵が飛び出し、我々も後に続いた。
「待て!」
逃げ足が素早い。
中々尻尾を掴ませない。
そして人を罠に嵌めるのが上手。
今思えば、既にヒントは出ていたのだろう。
茂みを抜けたと思った次の瞬間、我々の足元から地面の感触が消えた。
崖から飛び出してしまったのだ。
「わあああ!」
「皆、案ずるな!」
ワグーチ伯爵が叫ぶ。
「今、重力魔法を…!」
滝壺へ真っ逆さまに堕ちる中、私は確かに見た。
「オホホホ、愚か者が身の程を弁えず私の後を付け狙うからそうなるのですよっ」
瀟洒な衣装に身を包んだ1人の淑女が高笑いしながら、落下していく我々を崖上から見下ろしていた。
それはまさしく”悪役令嬢”と呼ぶにふさわしい人物であった。
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その後、我々は男爵の重力魔法により一命をとりとめ、祖国へ帰還した。
あの時、私が目にしたのは果たして”始まりの悪役令嬢”だったのか。
ただその場に居合わせただけの狂女だったのか。
それともただの幻覚だったのか。
残念ながら撮影用の水晶は彼女の姿を捉えられなかった。
取材班は今後も彼女の存在を追い続ける所存である。
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「馬鹿な都市伝説番組だと思ってたのになあ…」
私は呆然と空を見上げながら呟いた。
「いやあ、流石は”始まりの悪役令嬢”だ。あっぱれだよ」
隣のワグーチ伯爵も同意した。
王都の上空に超巨大な浮遊島が鎮座していた。
3000年前に追放された悪役令嬢。
後に続く全ての悪役令嬢の原点として名も無き神話と化していた彼女は、しかしアマゾンの奥地で不老不死を得て、今日攻め込んできたのである。
その瀟洒な姿は、まさしく私があの時見た姿その者であった。
彼女こそが”始まりの悪役令嬢”だったのだ。
やっぱアマゾンの奥地って何でもあるんだなあ…。
この手のわけわかんねえのもう一本あります。




