ファミレス塩パン交渉
この季節にファミレスは涼しくて良いな。それにメニューも多くて僕たちのような2人組の男子学生も結構居る。メニューもタブレット注文で、猫のロボットが届けてきてくれる。居心地がいい。
「ウメー、このカルボナーラ。お前は塩パンだけで良いのかよ」
向かいに座るスバル君が聞いてきた。僕はスバル君の食べっぷりを凄いなぁと思いながら、
「お腹空いてないから」
と返して小動物のように塩パンを齧る。本題は料理ではない。カルボナーラの甘ったるい匂いがこちらの鼻をつくもので、一旦咳払いをする。
スバル君は、タダ飯を餌に、僕に呼び出された側だ。何も知らない彼はホントに美味しそうにカルボナーラを啜っている。
「……スバル君はさ、不安とかない?」
「お。なんだ宗教勧誘か?」
「ちょっとスピリチュアルなやつ」
「ノストラダムス的な?」
「……かも」
僕は、心の中の不安をぶちまけた。
エネルギー外交や各国の戦争、若者の貧困、災害やこの国の行く末……。他の子に話せば『もっと勉強しなさい』とか『何もわからないのに真面目ぶって』とか、そう言われて終わる。
でも、領土問題の新書を読んで読書感想文で表彰されたスバル君なら、何か良い反応をもらえるかも知れない。そう思ったんだ。
(あ、でも。話しすぎた。離れられるかな……)
ドキドキしながら返答を待つ。ものすごい勢いでカルボナーラが吸い上げられていった。
スバル君は、紙ナプキンで口を拭くと、
「ごちそうさま」
そう言って僕の塩パンを盗ろうとしてきた。
「な、なにするんだ!」
「問題。俺はお前とこの塩パンをめぐって交渉しようとしてきています。この時、お前はどうしますか……①塩パンの権利は俺にあると認める②俺に塩パンを譲り、もう一つ塩パンを注文する③俺の苦手なアズサちゃんを呼ぶ……さ。どうする?」
こんな自分勝手な交渉、飲めるわけない。僕は必死に塩パンを両手で守った。机で仕切られているからか、スバル君は追撃してこない。
「急に理不尽なこと言わないでよ」
僕の言葉を聞いたスバル君は、
「だって、一緒だろ」
そう言って世界の問題の話をした。
「端から無かった問題をつくり出し、交渉と言って相手を攻め入る。こんな身近なトコでも、やろうと思えばできるんだよ」
「……でも、たかが塩パンじゃないか」
「それがエネルギーか領土かって話。んで、世界基準で言えば、無防備に塩パンを皿の上に乗せたまま置いておいたお前が悪いことになる」
なんて理不尽だ!
僕は怒りで何度もスバル君を睨みつけた。思いのほか怖がらせたようで、スバル君の手はひょっと引っ込んだ。
「……国際系の新書を読んでて思ったのはさ、喧嘩しない方法じゃなくて『喧嘩に発展しないギリギリの関係をいかに保つか』だってこと。それを感想として書いたら読書感想文で表彰された。多分、模範的な回答なんだろうな」
「……」
スバル君は、自分の感想文が載っている冊子を取り出して見直している。
「やっぱ。できすぎてるよなぁ……」
スバル君はどこか納得いってないようだ。
ぐううぅ。
僕は少しお腹が減ってきて追加注文するか迷っているところだ。マヨコーンピザが食べたいけれど、1枚は多い。
「ねぇ、スバル君。交渉いい?」
「お。塩パンくれんの?」
「……マヨコーンピザを半分こしない?……割り勘で」
スバル君に睨みをきかせながら、今度は大きな口で塩パンを口に運ぶ。くれてやるものか。僕の提案を聞いたスバル君は、財布の中身を確認して「ドリンクバーもイケる?」と交渉を持ちかけてきた。
僕の財布も余裕があったから、追加でドリンクバーとマヨコーンピザを頼んだ。
スバル君の例えは分かりやすかった。今度下手な真似をしたら、アズサちゃんを呼ぼう。いい抑止力になりそうだ。
おしまい




