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男女比1:10の世界で配信はじめました  作者: らいじんぐ


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4/14

第4話 AI疑惑で、少し伸びた

 二回目の配信は、一回目より少しだけ緊張する。


 初回は勢いがあった。事故で顔も出たし、何も分からないまま始まって、そのまま終わった。変に考える暇がなかったとも言える。


 でも二回目は違う。


 前回の記録が残っている。コメントも残っている。同時視聴も十人前後いた。ゼロじゃなかった。そこが逆に少しだけ重い。誰も来ないかもしれない場所ではなく、前に来た人がまた来るかもしれない場所になってしまったからだ。


 ノートPCを開きながら、前回のアーカイブ画面をもう一度見た。


 視聴数。コメント。開始時刻と終了時刻。数字として見ると本当に小さい。大げさに言うようなものじゃない。でも、だからこそ妙に現実感がある。たまたま押して終わったボタンじゃなくて、ちゃんと人がいた痕跡に見える。


「二回目の方が緊張するって、どういうことだよ」


 自分で言って、少し笑う。


 顔出しをどうするかも少し迷った。


 前回は事故だ。声だけのつもりで始めたのに、会議アプリみたいな感覚で設定をいじって、そのままカメラまでオンにしていた。あれは完全に予定外だった。


 今日こそ声だけに戻すか、とも思う。


 でも、前回のコメント欄を見返すと、別に嫌がられた感じでもなかった。むしろ「そのままでもよくない?」くらいの空気だった。男の顔出しが珍しい世界なんだろうなとは思うが、だからといって大騒ぎにもなっていない。


「……まあ、隠すほどでもないか」


 そう言ってから、自分の判断の雑さに少し苦笑した。


 慣れてきたわけでもないのに、急に適当だ。


 いや、適当というより、たぶん面倒なのだ。設定をあれこれ触って、また余計なところでミスするくらいなら、そのまま始めた方がまだ気が楽な気がした。


 タイトルを入れる。前回よりさらにひねりがない。二回目の雑談、そんな感じの薄い文面だ。


 深呼吸する。


 開始ボタンを見る。


 一回目と同じ場所にある。見た目は同じなのに、少しだけ押しづらい。


「よし」


 押した。


 配信が始まる。


 画面が切り替わって、コメント欄が出る。前回より早かった。もう数人いる。開始直後なのに視聴者数が前より上にある。


 それだけで、ほんの少しだけ胸が軽くなった。


「こんばんは。二回目です」


【きた】

【二回目だ】

【また来た】

【今日は最初から映ってる】


「そこは言わなくていいだろ」


 言いながら、前回よりずっと話しやすいことに気づく。


 誰もいないかもしれない場所に向かって喋るのと、すでに文字が返ってきている場所で喋るのでは全然違う。たった数人でも、向こうに誰かいるだけで部屋の空気が変わる。


【今日は事故じゃない?】

「今日は、たぶん大丈夫です。たぶん」

【たぶんで草】

【まだ信用ならない】

【その感じで二回目なのいいな】


「信用がないな……」


 でも嫌な感じはしなかった。


 むしろ、一回目の続きをちゃんとやれている感じがある。常連と言うには早いが、前回の続きを共有している人が少しだけいる。その事実が妙にうれしい。


 視聴者数がまた一つ増えた。


 そのあと、コメント欄に一つ流れた言葉で空気が変わった。


【なんかAIっぽい】


「は?」


 思わず素で返した。


【分かる】

【ちょっと合成っぽい】

【顔が若いのに喋り落ち着きすぎ】

【声と顔と雰囲気が噛み合ってない】


「待ってくれ。今けっこう失礼なこと言われてないか?」


【褒めてる】

【褒めてはないかも】

【でもなんか分かる】

【人間っぽくないって意味じゃなくて、不思議って意味】


「いや、フォローの言葉としてはだいぶ弱いな」


 コメントが流れる。


【話し方が静かすぎる】

【若いのにテンションが落ち着きすぎ】

【見た目だけ切り抜いたみたい】

【喋ると急に年季出る】


「最後のやつ、まあまあ傷つくぞ」


 言いながら、自分でも少し分かる気がした。


 見た目は二十歳だ。そこはもうどう見ても二十歳だと思う。けれど中身は昨日まで三十五歳会社員だった俺のままなので、反応や言い回しまで綺麗に若返るわけではない。ズレがある。そのズレが、たぶん変に見えるのだろう。


「そんなにAIっぽいか?」


【ぽい】

【なんか不思議】

【質問には答えるのにテンションが一定】

【表情の割に返しが疲れてる】


「疲れてるは、まあ否定しにくいな……」


【認めるんだ】

【そこ素直なんだ】

【その受け流し方がじわじわ面白い】


 そのコメントで、少しだけ肩の力が抜けた。


 ああ、ここで否定しきらなくてもいいのかと思う。


 AIっぽいと言われたら、人間ですとムキになって否定した方がいいのかと思っていた。でも別に、そこを真面目に戦わなくても会話にはなるらしい。


「でも、合成はひどくないか?」


【そこはちょっとごめん】

【顔が綺麗すぎるのが悪い】

【褒めになってきた】

【喋りがくたびれてるから余計にズレる】


「くたびれてるって表現、気に入って使ってるだろ」


 笑いながら返す。


 コメント欄も流れる。


 不思議なもので、いじられているのに空気は悪くない。悪意がないのが大きいのだと思う。単に「なんか変だな」「でもちょっと気になるな」と思われている。そのくらいの軽さだった。


 視聴者数は前回より少し多いまま落ち着いていた。


 前よりコメントも早い。ひっきりなしではないが、止まりきらない程度に続く。その感じがちょうどよかった。


【何歳だっけ】

「二十歳です」

【声が二十歳じゃない】

【落ち着きすぎなんだよな】

【若いのに若く見えないっていうか】


「見た目は若いだろ」


【見た目だけなら】

【そこなんだよ】

【中身がたぶん三十五】


「妙に具体的だな」


 自分で言って、少しだけ止まる。


 三十五。


 ずいぶん嫌なところを刺された気がした。もちろん向こうはただ適当に言っているだけだろうし、まさか当てているはずもない。ないのだが、偶然にしては変な数字だ。


【なんで三十五で止まったの】

【今の間あやしい】

【あるだろ】

【社会人感はある】


「いや、ないない」


 笑って流す。


 流しながらも、自分の口ぶりや間の取り方が、そんなに年上っぽく見えるのかと少し考える。見た目と中身の差を埋める方法は、たぶんない。なら、開き直るしかないのかもしれない。


 コメント欄はそのまま次の話題へ移った。


【仕事は?】

「してないです」

【学生?】

「それも違うです」

【違うです】

【急に崩れた】

【今のちょっと好き】


「言い直すほどでもないかと思って……」


【そういうとこだよ】

【なんか記憶に残る】

【会話が自然にズレる】

【AIっていうか、変に完成してない感じがいい】


「完成してないのは、まあそうだろうな」


 このあたりから、だんだん自分でも分かってきた。


 たぶん今の配信の面白さは、俺がうまく喋れていることじゃない。むしろ逆だ。若い顔で映っているのに、返しが妙に古い。初配信二回目のくせにテンションが変に一定で、ちょっとだけ疲れていて、でもムキにもならない。そのズレが、コメントしやすいのかもしれない。


 意識して作ったものではないので、分かると少し複雑だった。


【趣味は?】

「趣味……まあ、動画は見ます。ゲームも前はやってました」

【前は】

【言い方がおっさん】

【若いのに昔話が多い】


「昔話が多いのは、たぶん良くないな」


【でも嫌いじゃない】

【なんか落ち着く】

【うるさくないから聞きやすい】

【作ってない感じある】


 その言い方は少し残った。


 作ってない感じ。


 たしかに、何も作れてはいない。配信者っぽいテンションも、面白い企画も、気の利いた話題もない。あるのは、画面の前に座ってコメントを読む俺だけだ。


 それでも見てもらえているなら、今はそれで十分なのかもしれなかった。


 時間を見る。前回より長い。前回より自然に話せている。しかも体感では、前回より早い。


 気づけば、一時間近く経っていた。


「……そろそろ終わります」


【おつ】

【今日もよかった】

【AI疑惑は晴れてない】

【でもまた来る】

【なんか気になるんだよな】


「疑惑を残したまま終わるのか」


【そこがいい】

【また次回】

【次も配信して】


「まあ、たぶんやります」


 前回より自然にその言葉が出た。


 終了ボタンを押す。


 画面が静かになる。


 部屋も、また静かになる。


 でも一回目のあととは少し違っていた。今日はコメントの流れも、いじられ方も、笑い方も、少しだけ配信っぽかった気がする。


 アプリで記録を確認する。


 前回より、少しだけ人が増えていた。


「ほんとに、ちょっとだけだな」


 でも、それで十分だった。


 SNSも少しだけ見る。大きく広がっているわけではない。切り抜きが回るほどでもない。けれど、いくつか短い感想が残っていた。


【なんかAIっぽい男】

【合成みたいなのに返しが地味でおもろい】

【静かなのに記憶に残る】

【あの男ちょっと気になる】


「……何なんだよ、それ」


 苦笑する。


 褒められているのかは分からない。でも、完全に流されてもいないらしい。


 机にもたれながら、配信画面をもう一度見る。


 まだ何かを掴んだわけじゃない。バズったわけでもない。ファンがついたとまでは言えない。そこまで都合よくはない。


 ただ、前回より確実に外へ出た感じはある。


 画面の向こうで、少しだけ引っかかっている。


 それだけでも、今の俺には十分大きかった。


「……まあ、悪くないか」


 部屋は相変わらず静かだった。


 でも前みたいな、ただ静かなだけの部屋ではない。


 次もまたやれば、あのコメント欄に誰か来るかもしれない。

 そう思えるくらいには、自分の配信に小さな手応えが残っていた。


たくさんの評価、ブックマーク本当にありがとうございます。


皆様のおかげでモチベーションがとてもあがります!!!

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