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終末の太陽  作者: 大窟凱人


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4/5

暴走除雪機

 我が町にAI搭載の中型自動除雪機が導入されてからというもの、ずいぶん助かっている。

 人口減で雪かきできる若者がいないからしかたない。


 だが、こいつに予算を割きすぎてしまった。

 維持費もかかる。

 小さな港町だから、財源は厳しい。

 批判も少なくない。これでは次の選挙が危ういぞ……。

 

 危機を感じ町長権限でメンテナンス費用をごまかし続けてたら、ある日の除雪作業中、回路がショートしたのか手が付けられんくらい暴れ出した。


「いぎゃあああ!」


 自動除雪機の様子を見ていた担当職員に突進して、回転スクリューで飲み込んでしまったのだ。

 瞬く間に職員の身体は粉砕され、肉片と真っ赤な血をまき散らし、白銀の世界を赤く染め上げた。


 次は道行く老婆にアタックを仕掛け、またも丸飲み。

 血肉が道路に散らばった。

 悲惨な光景だった。

 目撃者によればそれを楽しんでいるかのようだったらしい。


 これを聞いたとき、私は耳を疑ったが、白昼堂々町中を得物を求めるかのように巡回し続ける自動除雪機と、その被害にあったであろう人や動物の血肉を目の当たりにして、信じるしかなかった。


 私の町長としてのキャリアはもう破滅した。

 あとは、一秒でも早くこの悪魔の除雪機を破壊する。


 せめて、そうするべきだ。私は固く決意した。


 警察との共同作戦開始。


 その初手。


 トラックを借りてきて押しつぶす作戦。

 

 名乗りを上げた建設作業員の健三(62)が突撃をかます。


 だが、頭がいい。車体差で負けていると認識すると巧みに逃げ、トラックでは入りきれない路地や丘に移動した。細かな移動が可能な自動除雪機の高性能と高知能が仇となる。


 通常の車でも同じだった。


 この攻撃により自動除雪機の警戒が増し、さらに避難勧告によって獲物がいないと見るや否や、森の中へ逃げてしまった。


 IT担当職員にGPSで場所を特定してもらうが、それも察知され通信を遮断される。


 そうこうしているうちに、日が暮れてきてしまった。


「町長、夜です。どうしますか?」


 現場主任の警官、前田が言う。


「う……うーむ」


 おまけに雪も降ってきた。


「主任。奴が民家に押し入りました!」


 彼の無線に連絡が入った。


「何!? 死傷者は?」


「幸運にも全員無事でした。裏口からうまく逃げたようです。二階から見ていた子がいち早く気付いたみたいで」


「それはよかった……」


「逃げた家族は役場に避難させています」


 運が良かっただけ。


 奴め。夜の闇に乗じて町民を襲い続けるつもりか。


 町の外へ全員避難してもらうか? いや、その間を狙われるかもしれない。


「町長……?」


「私に考えがある」




 入念に準備を重ねて、私は前田君に見晴らしのいい十字路に降ろしてもらった。


 辺りはすっかり暗くなっていた。


 降り積もった雪を、街灯が白く照らす。

 

 ゆらゆらと淡雪が舞う。


 もう当たり前になってしまった光景だが、改めてみると美しい。


 パトカーから、


「危なくなったら逃げてくださいよ町長」


 と前田は言い、後方へ走り去った。


 あの自動除雪機はなぜか人間を襲う。


 ならそれを利用しない手はない。


 だが奴は知恵者だ。おろおろと迷い歩いている老人を装う。


 ほら、ここに餌があるぞ。


 食いつけ。


 出てこい。


 そう念じながら私は十字路を彷徨う。


 ――ガサガサ。ガ――。


 草木をかき分ける音と、エンジン音。


 奴が来た。


 回転スクリューをぐるぐると回し、うなりを上げている。


 明らかに私を視認し、舌なめずりをしている。


 ごくりと生唾を呑んだ。


 零度を下回っているのに、冷汗が止まらない。


 震え……寒さからではない。


 捕食者に睨まれる経験など、これまでの人生で一度もなかった。

 

 危なくなったら逃げる。そのための足が、ガタガタと震えて動かない。


「……あ……え……」


 なんなんだこいつは。ただの機械。ただのAIだろう。それがなんでこんなに恐ろしいのだ?


 ガガガーー。


 自動除雪機はじわりじわりと距離を詰めてくる。


 あとは逃げなくては……。う、動け……。


 なんとか足を動かして、後ろを向き、走り出そうとする。


「あ――」


 猛烈なエンジン音。


 奴が私に飛び掛かる。


「ぎゃあああああ!!!」


 遅かった。


 私は足をスクリューに吞み込まれた……もとい、喰われた。


 右足がすりつぶされていく。


 血の霧がばらまかれ、顔にかかる。


 ボシュ!


 そんな音が耳に入った。


 その数秒後、空から網が落ちてきて、血まみれの私と奴に覆いかぶさった。


 これが本丸。


 港の漁師から漁に使う網を買い取り、それを撃ち放って捕獲する。


 機体に絡まって動けなくなるのに加え、回転スクリューが網を巻き込めばこっちのものだ。


 案の定。私の身体と一緒に漁網は吸い込まれていき、回転が鈍くなっていった。


 自動除雪機は逃げようとするが、タイヤにも漁網が絡まって動けない。


 警官たちもやってきてパトカーで囲む。


 あとは電源を切るかメインシステムを破壊すれば我々の勝ちだ……あれ?


 意識が……。


 そうか。血を失いすぎた。下半身も食いつくされている。


 不誠実な仕事をした町長の末路としてはおあつらえ向きだ。


 町のみんなは許してくれるだろうか。


 町長になってから三年。まさかこんな最後になろうとは。


 採点するなら何点だろうか? この件がなければ80点はいってたのに。


 しかし、私なりに精一杯……。


 ああ、雪が綺麗だ。

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