味
狭い個室に、茶色い山ができている。段ボール箱の山である。
ちょっと都会がうらやましくなってここへ越してきた。
お金はがんばって仕事やバイトをこなし、親戚からの助けもありなんとかこの中古マンションを借りることになった。
とりあえず片づけていく。後回しにしたって疲れるだけだし・・・・・・。
そろそろ髪でも切ろうかって思う。あっついし、髪もだんだんのびてきたみたいだし。
「あっ・・・・・・これ・・・・・・・」
懐かしいふっかふかの感触、そして上の方のもわもわ・・・・・・。
ちょっとすすけて砂だらけだけどまだあの桃色はわかる。
そう、それはあの日惨い姿のまま土に返してあげたあのぬいぐるみである。
もちろん、あの日のまま。頭部がバラバラのまま。
「縫ってあげなきゃ」
もうちょっと落ち着いたらさっそくこの子のオペを始めようと思う。
まだ薄暗い部屋にひとりでちょうど心細かった所。
物音ひとつしないと部屋がどんなに熱くても冷え切ってる気がする。
ちょっと痛々しいけど、きみは私の部屋となるベッドルームにしばらくこのままいてもらうことにしよう。
荷物をよけながらようやくたどり着いた部屋。
こちらも暗がりの世界かと思っていたけど、あんがいリビングより日当たりがいいみたい。
白いひかりがやんわりとわたしたちを歓迎している。
さぁ、うさちゃん。あなたは今日からちょっとの間、その首と体を並べておくよ。
何年間もそうして別々でいたのだから、数日間ぐらい我慢してくれるよね・・・?
なんとなくあの人違う顔のように感じた。汚い桃色のうさぎの顔が。
数日後、やっと荷物が片付いたのであの例のうさぎをなおしてあげようと思う。
お裁縫箱は片付けずに出しておいた。もう使う事などあまりないと思うけど。
右手に裁縫箱、左手にはさみを装備してベッドルームへと足を踏み入れた。
相変わらず明るい日差しが薄いカーテンごしにも伝わっている。
さて、うさぎうさぎ・・・・・・
「あらっ・・・・・・?」
私は朝、まったく気付かなかった。
よくみたらうさぎさんの右の後ろ脚がもげている。
やっぱり古かったから色々ほころびていたのだと思う。
首と足がとれてうさちゃんも気持ち悪かっただろう。いますぐ私が直してあげる。
「あとでお洗濯しなきゃねぇ・・・・・・」
できあがった。きっと買った時よりも不格好で哀れなものになってしまったと思う。
元から私はそんなに器用でもなかったし、くっついただけマシだと思ってね。
「お気に入りだったのもなっとくかも・・・・・・」
なんだかうさぎの目はまるで生きているかのようで、「ありがとう」と小さな声で呟いているように見えた。
人形とアイコンタクトをとれるまでになったのかな。なんてね
でも見つめるうちに洗脳でもされたのか、汚れたうさぎがとても可愛く見えてきた。
すっごく味があって・・・どうしてあの時おいてきたのかがわからない。
本当にごめんよ、ごめん・・・。
「さぁーて、風呂風呂っ」
後から湯船から跳ね上がり、ドタバタドタバタとベッドルームへ戻った。
なんとなく、あのぬいぐるみがきになって・・・・・・つい、風呂に入れてみた。
最初はそのまま普通の人形として主人公にはぬいぐるみを置いててほしかったのですが、今PCのとなりにあのうさぎの色と同じようなあわいピンクのブタさんがおりまして、私は凄くその子が大好きで毎日添い寝してます。
もうかれこれ6年目の付き合いになる彼女ですが、色がうすくなってます。
もう妹的存在ですね。いつも玄関に置いて帰りを出迎えてくれるわけですが・・・・・・。
可愛いです。ずっと一緒です。
彼女がきっと一番私といて辛いと思う時間は豚肉の出るゆうげの時でしょう。