第2話 剣と魔法の異世界へ
『悪魔?なんだってんだよ…。ってか、夢!?』
思えば周りは薄暗い霧に包まれている。
先程まで居た四畳半の汚い洋間では、ない。
服装もランニングシャツと半ズボンではなくて…全裸だ!
『おうよ。ほんとにここまで誘導するのにここまで苦労させるとは。お前はどうなってんだニンゲン』
『白昼夢とは珍しい体験だなあ。だけどお前、悪魔とか言っちゃってさ、恥ずかしい夢だ』
『俺は夢じゃねえ!恥ずかしくもねえ!…はあ、こりゃ難航しそうだな。…ふんっ!』
僕がキョロキョロしながら夢の悪魔(笑)と対話してると悪魔が気合いを込め出した。
次の瞬間…!
ーーー
「はっ!夢…」
僕は四畳半の真ん中から起き上がった。
夢から覚めたらしい。
しかし、白昼夢だったので現実との区別がまだついていない。
「いやぁ、リアルな夢だった。まだ頭痛いよ…、って、左手!」
バッと左手を見る。
そこには普通の左手とブレスレットがあるだけだった。
「ふぅ。なんか謂れのある腕輪なのかな…?明日また行って聞いてみよ」
やれやれと、その左手でスマホを持ち、電源を入れる。
げ。メッセージアプリにバイト先から鬼のように返信来てる。
なんとも嫌な気持ちになりながらメッセージを読んでいく。
今日は特に忙しかったようだ。バイト先の居酒屋に、全国ツアー中の超有名バンドがふらっと来店、野次馬がそのまま客となったそう。へー。
食以外はピンと来ない性格の僕。
厨房担当ということもあり、注文多くて大変だったことが想像できる。
時計を見るとまだバイト先は営業中だ。今からでも行くか…。
と、出かけようと準備しかけたがお腹空いてることに気づいた。
「今日はバイトリーダーに任せて、腹ごしらえでもするか」
食に煩い僕は、食欲も人より深いのだ。
「うーんどうしようかな〜。ナポリタンもいいな〜」
冷蔵庫の中身を物色しながら考えるはスパゲッティ。
うーん。
左手をソーセージの袋に伸ばした、その時…
「なっ、左手が!」
ブレスレットが紫に眩く光り、あのモワモワが一瞬だけ現れる。
鋭い頭痛がしたかと思えば…
『これで信じるか?』
と、声が脳裏に響く。
そして、モワモワがブレスレットから吹き出し、僕の身体を包んでいく。
「え」
次の瞬間には昆虫の外骨格のような鎧で全身が包まれていた。
「な…、なにが…」
その鎧はどす黒い紫色の金属のような有機質のような、よくわからない物質でできていた。
肌に吸い付くような感触…、というか肌と一体化している。
頭は複眼なのかあらゆる方向が見えている。不思議な感覚だ。
手はふた回りも大きく、爪が鋭くなっている。
素足だったのがドラゴンの脚のように足の指も鋭くなっている。
『なんでだよ!干渉できると思ったのに外面だけじゃねぇか!思考も支配できねぇしよ!』
な、なんだ…?頭痛とともに声が聞こえ続ける。
「さっきの悪魔(笑)だな!ちゃんと説明しろ!」
『あ?ああ、じゃあ手短に説明するわ!俺はベルゼブブ。大悪魔だがこのブレスレット、正確に言うと意匠の部分に封じられているんだ。本来なら身に付けたニンゲンを支配できるんだがお前は無理だった。なぜかな。さっき、その冷たい魔法の箱を触ったときに干渉できそうだったからしてみたらこのザマさ。この鎧は俺様さ。だが中身はお前さ』
「…まだ夢ん中か?」
だが、ここは現実だ。
『だーかーら!夢じゃねえって…』
「ん?」
いつの間にか床に魔法陣?らしきものが光っている。
「これ、お前やったの?」
『俺じゃねえ。これは…世界を渡る力だな』
世界?渡る?
「ど、どういう…って、どんどん眩しくなってる!動けない!止めろよ!」
『無理だ。これは避けられねぇ。世界の外からの干渉だからな』
「なに今更冷静なんだよ!」
そこで変身が解ける。
そして、段々と強くなる眩い光が落ち着くと、そこはひんやりとした薄暗い石造りの空間だった。
辺りにはローブ姿の集団が取り囲んでおり、それとは別口であろう5人が僕を含めて座り込んでいる。
ローブ男たちをかき分けて出てきたのは、お姫さま?
「我々の呼びかけに、よくぞ応じてくださいました、勇者様方」