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計算された接近 (改稿)

ミナ

「誰のつもりよ、私に脅迫なんてして!」


セン

「ここから出るのを手伝え…そうしたらお前のネックレスを返す。」


ミナは瞬きし、突然動揺する。


ミナ

「出たいの…?…なんで?」


センは答えず、無表情で彼女を見つめる。説明など一切不要だと言わんばかりだ。ミナは立ち上がり、悔しそうに顔をしかめる。


ミナ

「もういいわ!自分で何とかして!手伝わないから。」


セン

「わかった。じゃあ、これは俺のものだ。」


ためらうことなく、センは落ち着いた、ほとんど優雅な仕草で窓を閉める…しかし、それがひどくイライラさせる。


ミナ(叫びながら)

「ねぇ!!戻って!開けて!返してよ、今すぐに!!」


彼女は窓を叩き、割ろうとするかのように枠を揺らし、歯の間で小さく悪態をつく。

その瞬間、混乱に呼ばれたかのように、信夫が文字通りどこからともなく現れる。


信夫

「日野!またお前か?!何してるんだ!」


ミナは立ちすくみ、まだセンの窓に手をつけたまま。

一瞬の静寂。

そして彼女はパニックになり、そのまま茂みの向こうに消えていく。その速度は驚異的だ。

信夫はため息をつき、すでに疲労困憊の様子。



***

原さんは自分の机から、校庭を駆ける小さな姿のミナをじっと見つめる。

校長室は広く、整然と片付けられ、ほとんど静まり返っている。

巨大な窓から差し込む温かい光が、床にくっきりとした影を描く。壁には絵も植物もなく、空間を和らげるものは何もない。

あるのは古い本棚と、机の上に置かれた小さな写真立てだけ――笑顔の女性の写真で、フレームには子どもが描いたような不器用な落書き、星やハート、アンバランスな太陽が添えられている。

部屋の中で唯一の色彩だ。

軽くノックの音がする。


原さん

「どうぞ。」


扉がわずかに開き、日野先生が姿を見せる。緊張で押しつぶされそうな様子だ。


日野先生

「お呼びですか?」


そっと中に入り、扉を慎重に閉める。まるで爆発しそうな勢いで。

原はすぐには振り返らず、外の様子を観察する。行き交う生徒たち、校庭での動き。


原さん

「ミナについて、話したいことがある。」


日野先生は袖を握り、緊張でこわばる。


原は深く息を吸い、言葉を慎重に選ぶように沈黙する。

声は落ち着いているが、普段にはない迷いが微かに混じる。


原さん

「新入生だ。酒井。

(間)

もしかすると…彼女を近づけるのも、悪くないかもしれない。」


日野先生の表情が変わる。


日野先生

「それは良い考えだとは思えません。ミナを巻き込みたくありません。」


原さんはすぐには返答せず、机の上の色鮮やかな写真立てを見つめる。

視線が少し硬くなる。


原さん

「試してみるべきだ。やりすぎずに。

接近は…有益かもしれない。」


重い沈黙が流れる。

日野先生はかすかにため息をつき、動揺を隠せない。


日野先生

「わかりました、彼女に話しておきます…。」


頭を下げ、ほとんど駆け出すようにして去る。

原さんは広い部屋に一人残り、色鮮やかな写真を見つめ続ける。



***

夜だ。

ミナの部屋は半暗闇に包まれ、カーテン越しに差し込む月の冷たい光だけがわずかに照らしている。

ミナは仰向けに寝たり、横向きになったり、また反対向きになったりする。

うなり声をあげ、布団を押しのけ、引き寄せ、また押しのける。


顔を枕に埋め、三秒ほど動かずにいる…そして突然、身を起こし座り上げる。髪は乱れている。

枕を掴み、まるで絞めつけるかのように力を入れるが、すぐに諦めて手を離す。

長いため息が彼女の口から漏れる。



***

暗い自室で、センは赤い鞄を自分の方へ引き寄せる。

その鞄に、先ほどアキ、彼の運転手が倒れかかったのだ。


ファスナーがきしみながら下ろされる。

中を見ると、胸が一瞬止まる。


自分が彫った小さな木の彫刻――丁寧に、執拗に作ったもの――が散乱している。

割れたものもあれば。


センはより早く探す。

手はわずかに震えているが、気に留めない。

目はほとんど狂気とも言える集中で鞄の中身をなぞる。


ひとつを探している。

たったひとつ。


――どこにある…? かすれた声で呟く。


ひとつの木片をどけ、またひとつをどける。

呼吸は速まり、静かだが緊張している。


ついに、探していたものに指が触れる。

小さな彫刻を手に取る。


小さなツバメだ。

右の翼が折れている。


すべてが止まる。

周囲の静寂が重く、息苦しいほどに凝縮される。

胸の奥で何かが固く結ばれ――息を忘れるほどの激しい痛み。


そして、それが訪れる。

フラッシュ、速く、激しく。

炎。

息を詰まらせる熱。

手を伸ばす影。

自分の叫び声、幼い声で:「ユウト!!」


フラッシュはやがて、来たときと同じ速さで消える。

センは悪夢から覚めたかのように飛び起きる。

ツバメを見つめ、瞳孔は縮み、呼吸は荒い。


やがて、パニックは怒りに変わる。

冷たく。

激しい。


鞄を全力で壁に投げつける。

彫刻は飛び、転がり、部屋の中で跳ね返る。


突然、頭上で大きな音が鳴る――上の階の部屋で家具が引きずられたり倒れたりした音だ。

音は大きすぎ、唐突すぎる。


センは少し丸まり、両手を耳に当て、目をきつく閉じる。

すべてが、一気に近くに迫ってきたかのように感じられる。



***

翌朝。

校庭は活気に満ち、太陽の光が木々の葉や濡れた石畳を輝かせている。

センは頭を下げ、周囲の生徒たちの群れに気にも留めず、正面の校舎へ真っすぐ歩く。

彼はこっそりヒナの首飾りを見つめ、ポケットにしまう。


突然、聞き覚えのある声が彼の視線を引き上げさせる。


雄輝(叫ぶように、興奮して)

「おい! 酒井!」


雄輝はセンのところまで駆け寄り、ヒラキがその後ろから、大きな悪戯っぽい笑みを浮かべてついてくる。


雄輝

「もし時間あったら、今日の昼、一緒に食べない?」


ヒラキ(得意げに)

「絶対後悔させないぜ:今日は特製メニューだ。インスタント麺なんてなし、約束する!」


セン

「いや…いい。腹減ってない。」


雄輝とヒラキは立ち止まり、衝撃を受けたように呆然とする。まるで足元の地面が消えたかのように。


雄輝どもりながら

「え…でも、昼の話だったよ…今じゃないってば!」


ヒラキ(センを見つめ、真剣だが楽しげに)

「おい、本当に逃すのか?後で後悔するぞ。俺のカレーは伝説だからな。」


センは肩を軽くすくめ、無表情のまま歩き続け、雄輝とヒラキを呆然と立たせる。


雄輝(ヒラキに小声で)

「この人、マジで…変わってるな。」


ヒラキ(笑いながら)

「そのうち慣れるさ。焦るな、雄輝。」



***

朝は涼しく、明るい。

にぎやかな廊下で、生徒たちは教室へ急ぎ、声が入り交じり、床に反響する足音が響く。


ミナは教室から出て、視線を落とし、思考に没頭している。

彼女は群衆の中を進み、交差するカバンや足をかろうじて避けながら歩く。


突然、誰かにぶつかる。


原さん

「日野…私と一緒に歩きなさい。」


ミナは目を上げ、静かにうなずく。

彼女は校長の隣に滑り込み、原さんは背筋を伸ばし、手を背中に組んで歩く。


原さん

「酒井のこと、どう思う?」


ミナは目を瞬かせ、質問に驚く。


ミナ

「酒井…えっと…うーん、よくわからないです…」


彼女は少し肩をすくめ、ためらうように答える。


原さん

「彼のことをよく知るようにしてほしい。」


ミナは眉をひそめ、興味深そうに見つめる。


ミナ

「どうして…?」


原さん

「ただ、彼が信頼できる人物かどうか知りたいだけだ。」


静かな沈黙が訪れ、周囲を通り過ぎる生徒たちの絶え間ない流れだけがその空間を乱す。

ミナは言葉をかみしめ、頭の中で考えを巡らせる。


廊下の少し先で、日野先生が自分の教室から出て、二人を目にする。

眉をひそめ、警戒しながらも干渉せずに見守る。


原さん

「あとでまた話そう。今は行ってよい。」


ミナは最後にもう一度うなずき、考え込むように歩き去る。

校長は混雑した朝の中、静かに、背筋を伸ばして歩き続ける。



***

センは教室に入り、自分の席に座る。目は窓の外に向けられ、朝の光が彼の無表情な顔を照らす。


あやめ

「ねぇ…酒井君。」


センはゆっくりと顔を向ける。水野はいつも通り輝いており、髪は完璧に整えられ、計算されたが魅力的な笑みを浮かべている。


あやめ

「ほら…欠席した授業の復習用のプリントを作ってきたの。よければ、放課後に会って教えてあげるわ。」


彼女は最高の笑顔を見せる。センは一瞬、無表情でそれを見つめる。


その時、ミナが教室に入り、日野先生が続く。


日野先生

「みんな、席についてください。」


生徒たちは自分の席に戻る。しかしセンはミナから目を離さない。

ミナが座ると、ギシッという鈍い音が響く――椅子が壊れたのだ。


あやめ、ジュン、ミユのグループから小さな笑い声が漏れる。


ジュン(小声で、からかうように)

「日野、昨日食べすぎたんじゃない?」


日野先生

「日野、大丈夫?」


ミナは平然を装い、強引な笑顔を作る。


ミナ

「うん…大丈夫。」


日野先生

「じゃあ、別の椅子を取ってきてくれるかしら?」


その時、原さんが教室に入る。鋭い目で教室全体を見渡す。


原さん

「ここで何が起きている?」


日野先生は緊張して体をこわばらせる。


日野先生

「原さん!」


ミナ

「すみません、原さん…椅子を壊しちゃっただけです…」


センは思わず気づく。あやめ、ジュン、ミユはまだ小さく笑い、場面を楽しんでいる。


原さん(落ち着いているが厳格に)

「酒井、日野を手伝って別の椅子を取らせなさい。」


センは大きくため息をつき、驚いた表情でミナを見る。


日野先生ためらいながら

「原さん…椅子はそんなに重くないんですけど…」


原さんは黒い視線を送り、日野を震え上がらせる。

日野はすぐに頭を下げ、黙る。


センはゆっくり立ち上がり、ミナの後をつける。

振り返り、目に入るのはあやめ、ジュン、ミユがまだ楽しそうにしている姿。

センは軽くため息をつき、わずかな苛立ちを見せる。



***

廊下を歩きながら、センはミナの後ろについていく。重い沈黙が二人の間に流れる。


セン

「お前さ…室内でもずっと手袋してるのか?」


返事はない。


セン

「なんだ、病気か?」


ミナは沈黙を貫いたまま。

センは小さくため息をつく。


セン

「で…やっぱり“ダメ”ってこと?」


ミナは何も言わず、ただうつむいたまま疲れたような顔をしている。

センの眉がわずかに寄る。


セン

「お前の部屋の前の段ボール。さっきの椅子。それに、その隠してる手……

 もう分かってるから。」


ミナはピタッと立ち止まる。

勢いよく振り返り、目を大きく見開いてセンを見る。

その声はかすれていて、必死さが滲んでいた。


ミナ

「絶対、誰にも言っちゃダメ。…絶対に。

 約束して。」


セン

「……なんで?」


ミナの表情が強ばる。

震える指でセンを指しながら、絞り出すように言う。


ミナ

「約束しなきゃ……寝てる間に殺すから。」


怒りではない。

むしろ、必死で隠そうとする心の傷がそのまま声に滲んでいた。

センは一瞬固まる。

その迫力に戸惑いながらも、両手を軽く上げる。


セン

「わかった、わかったって…落ち着けよ。

 言わねぇよ。

(少し間)

でもさ……あいつらにいじめられてんなら、黙ってる必要ねぇだろ。」


ミナは何も言わず、視線をそらしてまた歩き出す。

センは彼女の後ろ姿を見送りながら、小さくつぶやく。


セン(独り言)

「ほんっと、変なやつだな……。」



***

突然、学校のチャイムが鳴り響く。

金属的な余韻が静かな廊下を駆け抜ける。

その音は壁や大きな窓に反響し、ささやき声や急ぎ足、カバンの擦れる音を伴って、後ろに残していく。



***

廊下に日野先生が駆け込む。磨かれた床に足音が響き、息は荒く、顔は慌てて赤くなっている。


日野先生

「原さん!原さん!」


少し先で、原さんは手を背中に組み、落ち着いた様子で立ち止まる。日野が近づいても、その堂々たる佇まいは揺らがない。

日野先生はついに彼の前で立ち止まり、息を整えながら膝に手を置く。


日野先生

「今、話を…しなければなりません。」


原さんはしばらく沈黙しながら見つめる。日野の声の切迫感と、原の冷静で鋭い視線との対比が際立つ。



***

原さんはゆっくりと自分の執務室の扉を閉める。静寂が戻り、重くのしかかる。


日野先生

「よく考えました… ミナをこの件に巻き込むのは断ります。」


原さん

「日野…」


日野先生

(口を挟んで)

「違います…約束したんです。」


原さん

「俺がしなかったとでも思っているのか…?」


重苦しい沈黙が続く。

そのとき、扉に小さくも鋭い音が響く。


原さん

「入れ。」


扉がわずかに開き、慎ましげに頭を覗かせる信夫。


信夫

「アヤが到着しました。」


原さんはわずかにうなずき、整然とした執務室に一瞬の緊張を漂わせる。



***

ミナは玄関ホールを横切る。光り輝く床には、朝の日差しが反射している。彼女の足音が広々とした空間に軽く響く。壁は明るく、ショーケースがきらめいている。

柱の陰を回ると、小林アヤの姿が目に入る。黒く長い髪を持つ、すらりとした女性。優雅な立ち姿と神秘的な眼差しが、ほとんど磁力のような存在感を放っている。ミナは少し眉をひそめる。


アヤ

「ミナ? よね?」


ミナは慎重に近づく。驚きと好奇心が入り混じった表情で。


ミナ

「はい…」


アヤ

「まあ…久しぶりね! 前に会った時よりずいぶん大きくなったわね…」


ミナは興味深げに身をすくめる。


アヤ

「私のこと、覚えてる?」


ミナはうなずく。


ミナ

「ここで何をされているんですか?」


信夫が近づき、状況に注意を払っている。


信夫

「アヤ…」


アヤは軽く彼の方に顔を向け、謎めいた微笑を浮かべると、再び歩き始める。まるで床の上を滑るかのように。


アヤ

「じゃあ、またね、可愛いミナ!」


ミナはしばらく動けず、目で遠ざかるその姿を追う。


ミナ

「また…」


彼女は目を瞬きし、小林アヤの神秘的なオーラに心を奪われながらも、再び歩き出す。頭の中は疑問でいっぱいだ。



***

センは共用スペースに入る。空気は暖かく、料理の香りと生徒たちのささやき声で満ちている。火のそばで作業している者もいれば、ソファにだらりと座り、談笑したり笑い声をあげたりしている。大きな窓から光が差し込み、本でいっぱいの棚を照らしている。


あやめ

「酒井君!早く来て!復習、用意してあるの!」


センは立ち止まり、戸惑う。答える間もなく、あやめは勢いよく前に進み、彼の腕をつかんでほぼ無理やり引っ張る。


二人は小さなテーブルに向かい合って座る。あやめは話し続け、目は輝き、熱意にあふれている。しかしセンの視線は別の場所にあり、部屋の中の生徒や物の動きを分析している。


数分が過ぎ、センはどうやってあやめから逃れようか考えあぐねている。すると—


あやめ

「本を忘れた!すぐ戻る!」


彼女は立ち上がり、少し離れたところに置かれたカバンに向かう。センはその隙に立ち上がり、キッチンに滑り込む。そこにはすでに雄輝とヒラキが動き回っている。


セン

「やあ…」


ヒラキ

「酒井!一緒に食べるか?」


センは火にかけられた鍋を見つめる。


セン

「これ何?」


ヒラキ

「野菜スープだ。」


センはわずかに顔をしかめ、納得していない様子。


雄輝

「ヒラキの母フランス人だからね…」


ヒラキ

「雄輝…」


雄輝

「何?ちょっと言っただけじゃん…」

(センに向かって)

「彼、個人的なこと話されるの嫌いなんだよ…」


センはあやめに目をやる。彼女は手を振って、まだ自分のテーブルに戻るように促している。


あやめ

「酒井君!来るの?」


その瞬間、ミナが共用スペースに入ってくる。センは立ち止まり、しばらく様子を観察する。目は生徒、キッチン、そして最後にあやめに向けられる。彼女はまだテーブルで彼を待っている。


軽い沈黙がセンの心に訪れる。まるで次に何をするかを考えているかのようだ。



***

センはスープの入ったボウルを手に、あやめの方へ歩いていく。ミナの前を通り過ぎるが、一言も発さない。


あやめに近づいたその瞬間、センの足がカーペットの端に引っかかる。

ボウルがふわりと宙に浮き、野菜スープがありえない軌道を描き——


――あやめの髪と服に、真上からぶちまけられる。


共用スペースが凍りつく。

あやめは微動だにせず、完璧に整えられた髪や肩にスープがだらだらと流れ落ちていく。


そして——一斉に笑いが弾ける。

キッチンの周りやソファ付近の生徒たちが、こらえきれずに爆笑する。


あやめは鋭い悲鳴を上げ、勢いよく立ち上がると、そのままスープの滴る跡を残しながら駆け出していく。


雄輝(爆笑しながら)

「……あやめ、ゲロでもかけたみたいになってるぞ!」


ヒラキは別の反応を見せる。

引きつった笑みを無理やり作り、状況への居心地の悪さを隠そうとしている。


ヒラキ(気まずそうに)

「……まあ、そんな感じだよな……」


まだ気恥ずかしさが残るのか、彼はすぐに視線をそらし、静かに鍋へ戻っていく。


センはゆっくりと体を起こし、逃げていくあやめを見送りながらミナへと視線を移す。


ミナは一瞬だけ彼を見つめ、戸惑ったようにまばたきをする。だが何も言わず、そのまま部屋へ続く廊下へと姿を消す。



***

センはベッドに座り、オピネルナイフを手に小さな木片を黙々と削っている。

刃が木を削る規則的なリズムは——上の部屋からの大きなきしみ音で、突然途切れる。

まただ…今度は一体何をしているんだ?


長い沈黙が続く。

すると、コッ、コッ、コッという音がして、さらにズズッ…キィッと何かを引きずるような音が鳴り、センは肩を跳ねさせる。


センはうんざりしたように深いため息をつく。


静寂が戻る。

数秒後、また別のきしみ音——まるでわざと彼を苛立たせるかのように家具が動く。


センは天井を仰ぐ。


セン

「…マジかよ。」


そして、ゆっくりと立ち上がる。



***

センはミナの部屋の前に立ち、軽くノックするが、苛立ちを隠せない。


セン

「ねえ、日野、今の家具やめてくれない?」


ミナ

「ほっといて。」


センは口をとがらせ、プライドを傷つけられたように目を見開く。苛立ちと信じられない気持ちが混ざる。


セン

「えっ?!マジで?さっき水野のことで手伝ったのに、これが感謝のしるし?」


ミナ

「わざとやったの?」


セン

(少し誇らしげに)

「ちょっとだけ…」


ミナ

(鋭く)

「じゃあ、あんたも大して変わらないね。」


センは言葉を失い、六尺の頭のように呆然と立つ。


セン

(怒って)

「ふざけてるのか、マジで?!」


ミナ

「出て行って。」


センは少し躊躇し、声を少し落とす、ほとんど照れくさいくらいに。


セン

「…大丈夫?顔色が良くないみたいだけど。」


ミナは黙っている。


セン

「聞いて…さっきは悪かった。助けようと思っただけなんだ、ごめん。」


センが振り向き、扉を離れようとすると、ミナの声が彼を止める。


ミナ

「恨んでない。ただ…たまに、助けるつもりの人が逆に余計なことをするって思うことがあるの。」


センは動きを止め、軽い沈黙が流れる。


セン

(小さな声で)

「…なるほど。

(一呼吸置いて)

俺、あんまり得意じゃないかもな。」


ミナ

(興味深げに)

「どういう意味?」


センはため息をつき、扉のそばの壁にもたれる。


セン

「まあ…基本的に他人から距離を置こうとしてるんだ。」


沈黙。


ミナ

「なんで?」


センは軽く笑う。


セン

「今、記者気取り?」


ミナ

「そんなこと言うなんて…面白いわね、母が記者だったの。」


センは壁に座り込むようにしてもたれる。


セン

「へえ?今は引退してるの?」


ミナは数秒間黙る。


ミナ

「質問に答えてないよ。」


セン

「君も…」


ミナ

「まず私の質問。」


セン

(軽いため息)

「わかった…えっと…たまに、みんな俺をどこかに押しやろうとしてる気がする。まるで、俺は誰かのために役立たなきゃいけないみたいに。たとえば、誰かが助けてくれるとき、それが結局その人のためで、俺のためじゃないって気づくんだ。」


壁の向こうで、ミナは扉のそばに座って、真剣に話を聞く。


ミナ

「…なるほど…」


その瞬間 —


雄輝

「酒井!」


センは一気に立ち上がり、顔が真っ赤になる。反射的にミナの扉から離れ、逃げ道を探す。


廊下で、雄輝とヒラキが大きな悪戯っぽい笑顔で見つめる。


ヒラキ

「何してるの?」


セン

「何も!全然何も…」


雄輝

「いいね…」

(一呼吸置いて)

「ちょっと提案があるんだ…」


センは興味津々で様子を見る。



***

センはヒラキの部屋のベッドに座る。壁には驚くほど美味しそうな料理のポスターが貼られ、机の上には料理本の山があふれている。甘い香辛料の匂いがまだ空気に漂っている。最近の料理実験の名残だ。


セン

「知識コンテスト?」


雄輝(驚いて)

「コンテストのこと、聞いたことないのか?」


ヒラキ

「優勝したら80万円もらえるんだぜ!」


センは少し体を起こし、目を大きく見開く。


セン

「80万!?」


雄輝

「ああ…学校がそんな金額を出せるくらい裕福ってことだな…まあ、とにかく、あと二日ある。」


ヒラキ

「だから絶対に問題を先に手に入れなきゃ…勝てる保証はないけど、かなり有利になるんだ。想像してみろよ、あの金額で何ができるか!」


センは目を細め、考え込むように、指でベッドの縁を軽く叩く。


セン(心の中で)

「このお金、ここを出るときに役立つかもしれない…」


そして彼は二人に向き直り、冷静だが決意を込めて言う。


セン

「わかった…ただし条件がある。コンテストに勝ったら、お金は全部俺のものだ。」


雄輝は驚きの声を上げる。


雄輝

「何だって!?」


ヒラキ

「約束だ。」


雄輝(呆然として)

「約束だって!?」


ヒラキ

「問題を先に手に入れても、勝つ確率は120分の1だ…」


雄輝

「う…うん…約束だ…」


センはわずかに満足そうに微笑む。ヒラキはすでに興奮して、問題を手に入れる計画を説明し始める。雄輝は頭を振り、まだ自分が承諾したことを信じられないでいる。



***

センは床に座り、部屋のベッドにもたれかかりながら、小さなナイフを手にしている。器用な指先でゆっくりと小さな木片を彫り、ひとつひとつの動きで自分の苛立ちや思考を吐き出すかのようだ。部屋の空気は静かで、ナイフに触れる木のわずかな軋み音だけが響く。


もたれかかるベッドはまだシーツが敷かれておらず、きれいに畳まれたシーツが机の上に置かれている。閉じたままのスーツケースが床に散らばり、ここに落ち着くつもりがないことを知らせている。ナイトテーブルの上では、翼の折れたツバメが静かに彼を見つめている。


突然、窓に打ち付ける鋭い音がして、センは飛び上がる。



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