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★☆☆ 告白名物女、卒業!

「大好きです! 結婚してく──ん? ……あれ?」


 ニア歴・三四八年、春。

 王宮メイド、マリオン・デイ・レグロス──あまり裕福ではない男爵家に生まれた、五人きょうだいの長女。婚約者、恋人ともになしの現在一八歳──は、唐突に前世の記憶を思い出した。


 あ~~~っ! もっと早く思い出したかった~~~~っ!


 想い人であるジーノ・ヴァン・アンセルドへの一〇七回目の告白の最中、マリオンは心の中で叫んだ。



 ◇



 マリオンの前世は、日本と言う島国で生まれ育った、麻里(まり)という名の女の子だった。

 もっと詳しく言うのなら、『JK』というブランドしか持ちえない、短絡的思考と超楽観主義をかかげる矮小な小娘だった。


 そんな麻里が死に、貧乏貴族のマリオンに転生した! というのが、このお話である。はい、はじまりはじまり。


 ここで補足だが、麻里はちゃあんと長生きした。九〇歳まで生きた。

 だけど、事実として長生きしたということは分かっていても、その内容は覚えていない。その代わり、JK時代までの黒歴史だけははっきり覚えているのだからもうっ。どうして忘れちゃいたい記憶を解像度高めに残して、おばあちゃんまで生きた大人として良識ある人生の記憶を消したの、神様!

 と、神に問いかけても、当然返事は返ってこない。

 まあ当たり前だろう。

 自分の都合の悪い時にだけ対話を求める存在を、神が相手にするはずなぞないのだ。とほほ。


 だとしたら、マリオンが思い出した麻里の記憶は、神が下した天誅なのだろうか……?


 おーまいごっど!


 はあ、とマリオンは溜め息を吐いて目の前で怪訝な顔をしているジーノに深々と頭を下げ、心からの謝罪の言葉を紡ぐ。


「……今まで不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。……これからは卿の視界に私が映ることはないので、お許しください……」


 そして、くるりと踵を返してその場を退散を決め込む。


「マリオン?」


 戸惑った彼の声は、きっと幻聴だろう。


 ……恋する気持ちは厄介だ。


 マリオンは思い出したばかりの記憶に顔を歪め、目的地へと急いだ。



 ◇



 麻里には孝輔(こうすけ)という幼馴染の男の子がいた。


 麻里は孝輔が好きだった。

『こーちゃん♡♡♡』と、うっとうしい呼び方をして、毎日毎日飽くことなく愛の告白をし、通っていた小・中学校では告白名物女として有名だった。

 高校に入学すると、麻里の『こーちゃん、大好き♡』は、今までよりももっともっともっともっとも~~~~~~っとパワーアップした。


 孝輔が合コンの話を持ち掛けられようものなら、瞳孔をがん開いて持ち掛けた奴を威嚇し、孝輔を狙う女子とキャットファイトを繰り広げ、所かまわず愛を叫び、抱き着き、引っ付き……エトセトラ、エトセトラ。それはもう『こーちゃん、大好き♡』を炸裂させた。


 そして、とうとう孝輔をぶち切れさせた。


 その後、麻里は孝輔に近付くことはなくなり、しょっぱい高校生活を送り、花の黄金(JK)期を棒に振った。


 え? 孝輔以外の彼氏はできたか、って?

 はんっ、んなものできるわけがない。

 なんせ麻里はちんちくりんの鼻ぺちゃ丸顔童顔女。おまけに寸胴体型で、何がとは言わないが持っているものは、ぺったんこ。

 マスコットキャラクター的な可愛さはあれど、飛び抜けた可愛さなど持ち合わせてはおらず、肝心の中身は残念無念。

 と、なれば、お分かりいただけるだろう。

 そう、モテなかったのだ、壊滅的に。

 よって、彼氏なんてできるわけがないのである。


 モテない麻里は寂しさを紛らわせる為、バイトをしまくった。おかげで高校在学中に六〇万円貯めることができたのは良い思い出だ。

 おっとっと、話が脱線した。話を戻そう。

 そんなわけで麻里と孝輔の縁は高校一年の夏、完全に切れた。


 マリオンの思い出した記憶はここまで。


 箸の使い方や電車の乗り方。時事ニュースや事件。天災、感染症、流行り病などについては覚えているのに、麻里の人生については、さっぱり思い出せない。気持ち的には『さ』と『ぱ』の間の『っ』を五〇〇〇個くらい増やしたいほどに思い出せない。


 覚えている最後の記憶は高校の卒業式、孝輔に不快な思いをさせないよう、どうにか彼の視界に入らないよう努力する哀れな自分(まり)のみ。


 あたたたた……っ! 痛いぃぃぃっ……!

 なんて、痛くて苦くてしょっぱい青春なんだーーー!

 そんな青春いらねーーーー!

 クーリングオフさせろーーーーー!


 というか、マリオンったら前世からな~んにも成長していないじゃないか!

 いや、思い出したのは、ジーノがぶち切れる前なのは僥倖か?


 …………うん、そうだ。前向きに考えよう。


 というか今なら、『顔も見たくない女』ではなく、『ウザい女』程度の認識にとどめられるのではないか?


 ピコーン!──この時、マリオンには閃きの音が聞こえた。


 そうだそうだ、きっとそう。

 そうに違いない。

 そうったら、そう!


「そうと決まれば……!」


 よしっ! と、気合を入れたマリオンはメイド長室の扉の前で深呼吸をしてからノックをした。



 マリオンの良いところは、前向きに物事を考えることができるところである。

 そこに、『思い立ったら即実行する』も付け加えよう。


 時としてそれは、マリオンではない誰かにとっては青天の霹靂になったりするかも知れないが、そんなことはマリオンの知ったことではなかったりするのである。




 ◇◇◇




 そんなこんなでマリオンが前世を思い出してから三か月経った。


 現在、マリオンは王宮メイドを辞し、実家であるレグロス領に帰ってきている。


 思い出してすぐ行動した結果がこれである。


 今後、王都で暮らすことは二度とないだろう。



 ◇



 マリオンの父は存在感は薄いが、頭に『ド』が付くほど善良な人間で、心根が優しく、困っている人間を見捨てられないという人種だ。その為にレグロス家の家計はいつも火の車。

 しかし、家族仲は良く、いつも笑顔の絶えない明るく愛ある家庭。

 マリオンはそんな家庭環境で育ったおかげで、意地の悪さなど持ちえない少女としてすくすく育った。

 だから、家族の為に働きに出ようと思うのは至極当然の結果だった。

 そして、マリオンは王宮メイドとして働くことが決まった。

 採用試験に受かったのだ。

 倍率二〇倍だったので、採用通達を受け取った時は本当に嬉しかった。母も一五歳から一八歳まで働いていたと聞いていたので、喜びは一入だった。


 で、だ。

 城に上がってみれば、同期は半分が王宮で役職持ちの未婚イケメン男子に見初められたいと野望を持っている狩人系女子達だった。

 もう半分はマリオンのように純粋にお金を稼ぎたいと思っている子達で……待て、訂正しよう。

 マリオンは最初の半年で、後者の考えから前者の考えにシフトチェンジした。

 いや、これもちょっと違う。婿に来てほしい男を口説く側に配置していたというのが正しい。

 この『婿に来てほしい男』こそ、マリオンの想い人であるジーノ・ヴァン・アンセルドである。


 王宮仕えの騎士隊に所属しているジーノとマリオンは王宮の東棟の回廊の隅っこで出会った。


 家族が恋しくてホームシックにかかり、田舎にいる両親と、可愛い弟妹達──ピーター、ディラン、ダニエル、セディに思いを馳せながら、大べそをかいていたところをジーノに発見された。

 三つ年上のジーノは、当時今よりも拳二個分ほど身長の低かったマリオンを吃驚するほど若く見積もり、それはもう一生懸命慰めて……否、あやして泣き止ませた。

 後に聞けば、一〇歳程度だと思っていたらしいので、彼の対応は間違っていな……いや、間違っているやも? なんせ王宮勤めは一四歳以上と決まっているので。


 しかし、そんなのは些末事! そう断言してもいいほどに、彼との出会いは素敵で運命的なものだった。


 と、恋に恋する一五歳になったばかりの純情少女は思い込んでいた。


 その後、ジーノはマリオンと行き会う度に声をかけてくれた。挨拶代わりに頭ぽんぽんは当たり前。少しかがんで目を合わせ、お菓子を与え、にっこり笑う。

 こんなことをされれば、田舎娘のマリオンなんてイチコロである。


 そして、告白をし、彼の誤解を知った。


 まさか、一〇歳(こども)と間違えられるとは……。

 そりゃあ、頭ぽんぽんしますよねー……。


 マリオンは落ち込んだ。


 しかし、それも三日程度。

 三日も経てばマリオンは失意の沼の底から這い出し、『大好きです! 結婚してください、ジーノ様!』を繰り出した。


 すごいポジティブさだと思うだろう。そうだろう、そう思うだろう。

 マリオンもそう思う。

 そして、当時のマリオンはそれが己の長所であると思っていた。あいたたた。

 一度の目の告白の返事は『ごめんな』だった。二度目と三度目も、そんな感じだった。

 だけど、告白の回数が両手両足の指の数を超した頃から、ジーノの態度は変わった。

 丁寧な返事から、あしらうような適当な返事になったのである。

 だが、これをマリオンは自分が子供扱いをされなくなったのだ、と都合よく解釈した。

 結果、マリオンの告白はもっともっともっともっとも~~~~~~っとパワーアップした。


 からの、冒頭の『思い出した』である──一人大反省会開催決定。


「──どの面下げて会えるってのよ」

「おねえさま? どうしたの?」


 マリオンの呟きに、レグロス家の末っ子(おひめさま)であるセディが、母から受け継いだけぶるような長い睫毛をしばたたかせて首を傾げる。

 平凡なおっとり顔の父に似ているマリオンと違い、セディはすこぶる可愛い。

 ……姉の欲目ではない。本当に可愛いのだ。

 ※マリオンはシスコンではない(ちょっとしか)←当社比。


 ふと。ここでもう何回目か分からない疑問が、マリオンに生まれる。

 どうして、傾国並みに美しい母が父を選んだのか、と。

 これはレグロス家、最大の謎である。

 いや、父を貶しているわけではない。断じてないのだが……母が娘時代の王弟殿下、隣国の第二王子、公爵家子息。それから、百年に一人と言われる逸材である大臣の息子に、麗しの神官長。それからそれから、当時から才覚を見せていた白騎士団団長という名だたる地位を持つ美男子を袖にして、父を選んだ理由が分からない。

 しかも、母からの猛アピールで、既成事実を作って……という力業。

 ちなみにこの既成事実によりできちゃったのが、父似のマリオンである(なんかごめん)。


 そんな逸話を持つ、傾国しかけた母に瓜二つのぱっちりできらきらお目目の妹の頭をマリオンは撫でながら、「んーん、何でもないよ」と返す。


 家族は、戻ってきたマリオンに何も言わず、優しく迎えてくれた。

 特に七歳になったばかりのセディはマリオンにべったりで、朝から晩まで後ろをピョコピョコと生まれたての雛のように付いてくる。

 まったく、可愛いが過ぎる。『可愛い妹・世界大会』なるものがあれば妹は優勝していることだろう。

 そうだろう、そうに違いない。だって、マリオンの妹は世界一可愛いもの。


 セディにとってのマリオンは、ずっと兄達と過ごしていた為の物珍しさからかも知れないけれど、こんな風に懐かれるとここに帰ってきてよかったと思える。

 まだジーノのことを考えると胸がじくじく痛むし、黒歴史に、んぎゃー! と叫びだしたくなるが……ああ、また思い出してきた。


 んぎゃーーー! 早く忘れたいぃぃ……!


 こういう時は、作品作りに没頭だ!!!


 マリオンは麻里同様、平平凡凡な見た目と残念な中身だが、特技があった。

 もったいぶっても、いいことはないので言うが、それは手芸だ。縫物は早くて綺麗で、刺繍は王宮メイドの中で断トツ。王都で一番人気の針子女史には弟子にしてほしいとまで言わせたレベルのマリオンである。

 そんな名人なマリオンったら、前世を思い出したことにより、SNSでバズった商品のデザインや構図まで思い出しちゃったものだから、これまた最強。

 まずは、麻里が小学校時代に大好きな祖母から作ってもらったうさぎの編みぐるみをセディに。綿を詰めて立体刺繍にした薔薇のハンカチを母に作って贈ったところ、ものすっごい喜ばれた。


 この時、マリオンにはいつかのように閃きの音が聞こえた──ピコーン!


 手芸を領民達に広め、レグロス領の特産にしよう!


 なんせ、弟妹達は、まだまだお金がかかる年頃で、食べ盛りの育ち盛り。

 長男のピーターは、一一歳。

 次男のディランと三男のダニエルは双子で、九歳。

 末っ子で次女のセディは、七歳。


 ピーターは言わないが、彼が王都の学園に入りたいことをマリオンは知っている。

 ディランとダニエルは騎士になりたくて騎士学校に入りたいということも。

 そして、セディには甘いお菓子を食べさせてあげたいし、流行りのドレスを買ってあげたい。


 可愛い弟妹の為なら、火の中水の中、どこへでも飛び込んでいっちゃえるマリオンである。


「おねえさま、おねえさま、次は何を作るの?」


 マリオンは、心を燃やしながら可愛いセディに言葉を返す。「この前セディに作ったうさぎちゃんのお友達のくまさんだよ」


「くまさん!」

「作ったらセディにプレゼントするね」

「ありがとう! おねえさま! 大好き!」


 きゅーーーん! ぎゃわいい!!!


「お姉様も、セディが大好きだよ!」


 ぎゅっと抱き着く妹を抱き締め返し、マリオンはメラメラ燃えている心の炎を更に大きくする。


 手堅い王宮メイドを辞めたのは、『彼に合わせる顔がない』という理由以外に、前世を思い出したことにより、所謂『転生チート』で儲けられるのでは? という狙いもある。


 え? 卑怯? 意地汚い?

 はんっ、何とでも言いやがれ。使えるものを使って何が悪い。

 いや、悪くない。悪くないぞ。

 だって犯罪をするわけではないのだもの。

 成果を出し、領を盛り上げ、マリオンが嫁がなくてもいい環境を作る!

 いや、作ってみせる! 絶対にー!


「セディ。お姉様、頑張るからね!」


 強い決意の色を含むマリオンに、セディは「がんばって!」と言うのであった。

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