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勇者殺しの平民は、世界をやり直す ~平穏を目指す彼女のリスタート~  作者: 白い彗星


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第27話 最初で最後



「はい、戻りましょう」


 てっきり、このままどこかに誘われるのかと思っていた。「最後に寄りたい場所があるんだ」みたいな感じで。

 でも、先に戻ろうと言ってきたのは、予想外にも勇者だった。


 ならば私に、それを断る理由はない。

 私からもう戻ろうなどと言っては、なんか警戒されてしまうかもしれない。だから、勇者から言ってくれるのは願ったりだった。


 勇者もうなずき、私たちは揃って歩き出す。

 私はできれば、勇者と並んで歩きたくはないのだけれど……勇者が、私の歩幅に合わせて、歩いてくるのだ。


(女慣れ、している……)


 あるいは、王女と過ごすうちにマナーでも叩き込まれたのだろうか?

 ま、どっちでもいいことだ。勇者が隣に合わせてくるせいで、並んでしまうのは変えようがないし。


「なあ、リィン」


「なんでしょう?」


 会話が、ない……かと思ったけど、勇者の方から話しかけてきた。

 まあ、この外出中、私から話しかけたことは一度もなかった。気がする。


 なので、途切れた会話を復活させるのは、勇者の役目だ。

 さて、適当に世間話でもして、さっさと話を切り上げられればいいのだけど。あ、それじゃだめか。


 城に着くまで、それなりに話を続けないと、しつこく話しかけてきそうだし……


「リィンはさ、俺のこと嫌い?」


「え……」


 ……それは、思ってもいなかった質問。

 いや、思っていないなんてことはない。ただ、勇者が自らこんなことを聞いてくるとは、思っていなかっただけだ。


 そういう意味では、思いもよらない質問。それを受けて、私は幾分かの空白を開けて、言葉を返す。


「なぜ、そのようにお思いに?」


「だって、今日俺からばっか話しかけてたし……答えてくれても、素っ気ない対応で。心なしか、距離も感じる。避けられてる、って言うのかな」


「……」


 まあ、気付くよな……むしろ、私の態度を平然と受け取ってなにも気づいてなかったら、こいつ大丈夫かと思ってしまう。

 ただ、気付いても勇者はその理由を、私に聞いてこないんじゃないかと……そう、思っていた。


 彼の言うように、私は間違いなく彼を避けている。


「この世界に来てから、みんなちやほやしてくれるから……余計に、そういうことがわかるんだ」


 なるほどね。異世界からの勇者、世界を救う存在……その彼に、王女も国王も、国民も。みんな、良くしていた。人気者だ。

 昼間、人々に囲まれていたのが、その証拠だ。


 だからこそ、"そうではない"人間の感情が、よくわかってしまうのだろう。


「俺、もしかして知らないうちに、リィンを怒らせるようなこと、してたかな。もしそうなら、謝るから……ちゃんと、リィンと話がしたいんだ」


「……」


 いつの間にか足を止め、私と勇者は向かい合っていた。

 その表情は、うつむいているのと帽子のつばとで、よく見えない。


 ……怒らせるようなことをしてたかな、か。

 うん、そうだよって……答えれば、勇者はどんな顔をするだろう。


「別に、避けているつもりはありませんよ。憧れの勇者様を前にして、緊張してしまっているだけです」


 前の時間軸の私なら間違いなく本心で、今の私なら心にもない言葉。

 それを勇者に、ぶつけた。これが、きれいに物事を収められる言葉だろう。


 勇者は、みんなから尊敬される存在だ。それを自分でもわかっているのなら、その言葉が嘘だとは、思わないはずだ。


「尊敬すべき勇者様を避けるなんて、とても」


「じゃあ、俺のこと嫌いとかじゃ……」


「ご心配しているようなことは、なにもありませんよ」


 怒らせるようなことをしてたか。確かに、今のあなたは私に対して、怒らせるどころか、とても良くしてくれている。

 もしなにも知らなければ、またころっと騙されてしまいそうだ。


 今のあなたは、なにもしていない。だからもしかしたら、今のあなたに負の感情を抱くのは、間違いなのかもしれない。

 それでも……彼の、いや人間の本質は、変わらない。


 勇者が、嫌がる私を無理やり組み伏せて……

 その前科がある限り、彼の本性はそれなのだ。今なにもしてなくても、今そうするかもしれないという不安は、拭いきれない。


 ここはよく似た別の世界ではなく、過去なのだから。人間の本質は、変わらない。


「そっか、よかったぁ」


 勇者は、私の言葉を信じたようで、ほっとした表情を浮かべている。

 私に嫌われていなくて、やりやすくなったと思っているんだろう。嫌がっても関係ないくせに。


 今の私は、体は汚れていない。でも、心には刻まれてしまっている。

 あのときの恐怖を。痛みを。めちゃくちゃにされたあの、屈辱を……覚えている。


「俺のことを嫌いなら、どうしようかと思った。今回誘ったのも、できるだけリィンと仲良くなっておきたかったからさ」


「……なか、よく?」


「あぁ。明日にはリミャ……王女も帰ってくるだろ? そんで、王女が帰ってきたら、他の勇者パーティーメンバーも到着するって話だ」


 話す勇者の言葉の内容に、私は耳を傾けていた。

 王女が帰ってきて、そしたらすぐに勇者パーティーの他のメンバーが集まるのか。知らなかった。


 王女が帰ってくる頃、私は勇者に汚された悲しみや憎しみで、それどころじゃなかった。

 その後勇者を殺して牢屋に入れられそうになったが、それは回避。

 しかし、他のことに気をやる余裕なんてなかったため……その間のことは、外の状況はまったくわからない。


 もしかしたら、事前にそういう話をされていたのかもしれない。

 でも前の時間軸の私は勇者と二人きりになることに浮かれていたし、今の私は勇者を警戒しててそれどころじゃなかった。


「だから、リィンと二人で話せたり一緒に遊べるのは、これが最初で最後かなって、思ってたんだ」


「……」


 勇者が、私を執拗に誘った理由……それは、私との時間を、純粋に楽しみたかったから……?

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